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第1話 二人の少女1

「お姉様って相変わらず本好きなのね。また、読んでる。いいなあ。私は話している言葉とか簡単な文字なら、分かるんだけど。そんな難しそうなのは無理。チートだわ」


「チートの権化の如きあなたには言われたくなくてよ」


「ねえ。面白いの?」


「とても面白いし、何より興味深いわ。これをちゃんと読み込めば、真理に至れるかもしれない」


「ねえねえ。どんなことが書いてあるの?」


「そうね。例えば、こんなのはどうかしら?

『元気、楽しめば、すなわち、大いなる昌(=盛:さか)んを生じ

 自然、楽しめば、すなわち、物強く、

 天、楽しめば、すなわち、三光(太陽・月・星)は明るく、

 地、楽しめば、すなわち、常有りと成り、

 五行、楽しめば、すなわち、あい傷つけず、

 四時(四季)、楽しめば、すなわち、王を生むところとなる、

 王者、楽しめば、すなわち、天下にやまい無く、

 万物、楽しめば、すなわち、その常を守る、

 人、楽しめば、すなわち、うれわず、心腸(=こころ)はやすく、

 鬼神、楽しめば、すなわち、帝に利あり、

 故に、楽しむは天地の善なり』

 どう?」


「私にも何となく分かる」


「うん。その何となく、というのが大事なのよ。一度に全部分かる必要はないの。少しずつだね。まさにそれも、また、楽しみつつ」


「うんうん。楽しむって大事だよね。他になんて書いてあるの?」


「今、天地と陰陽は内に独りことごとくその所を失い、

 故に、万物は病害し、

 帝王のその治は和せず、

 水旱(洪水と日照り)は常無く(=天候不順)、

 盗賊はしきりに起き、

 かえって急にその刑罰をえるならば、

 或いは、之(=盗賊)を増やし、重ねて益すます紛々(乱れ起き)、連結して解けず、

 民は皆な上に天を呼べども、

 県の官の治は乱に乗じて節を失いつね無く、万物は失われ傷つく、

 蒼天の三光(太陽・月・星)は勃乱・多変し、

 星の並びは乱行す、

 故に至道と共に之を救う者を以てすべし、

 吾は天意を知り、子を欺かざるなり」


「世は乱れてということ?」


「そうね」


われっていうのは?」


「多分、救いに来るのね。この教えをたずさえて。ねえ。あなた、やってみない?」そう言われた妹がまったく要領を得ないという顔つきで小首をかしげてみせた。「そうね、人助けをしてみないと言った方がいいかしら」


 お姉様と呼ばれた方は、黒ずくめの洋装のロングドレス。ウエストから足下へと垂れ下がる、ゆったりと波打つドレープが大人びた印象を彼女に与えていた。かてて加えて、髪も黒ければ、瞳も黒い。肌も小麦色である。


 妹の方はおそろいの色違いという如くの純白のドレスを身にまとうも、丈は短めで膝小僧が見えており、その裾を可愛らしいフリルが飾る。髪は白く、肌は抜けるように白い。ただし、瞳は赤く、あきらかにアルビノであった。


「どこから手に入れたの?」


「あの人たちよ」


 彼女たちは小高い山の岩の上に二人並んで座っておった。眼下にては二つの軍が戦っておった。


「ふーん。どっち側なのかしら」


「ほら、攻め込まれている方よ」


「さっき言ってた『助ける』って、そういうこと?」


「さすがは我が妹ね。皆まで言う必要はない」


「それをもらったから?」


「そうではないわ。負けているときに助けられたら、ありがたいと想うでしょう?」


「恩を売るんだね」


「その言い方はあまり好きではないわ。やっぱり、書のお礼ということにしといて」


「そういえば、書の名前って聞いてなかった」


「太平清領書というのよ」


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