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アップデートとホログラム

ブックマーク、誤字報告、感想を下さった皆様。

本当にありがとうございます。

こちらのアクセスは不定期気味なんで返信、対応が遅れることも多いかと思いますが、頑張りますのでお付き合いください。

「しっかしどないなっとんのやろな。

 タケオ、すっかり子供やんか。

 イブちゃんに揺られて、ちょこちょこ寝落ちしとったで」


 タケオとは別に借りた宿の1室。

 メグがベッドの一つに腰掛けて言う。


「背は元と変わらないくらい、手足は細いまんまだけど、()けてたほっぺなんかまんまるだし、目元だってプックラしてて可愛いいわ!」


 革鎧を脱ぎながらクレアが返す。

 タクシーで(イブちゃんの)移動中でも、何が出て来て突然戦闘になるか分からない。

 パーティ唯一の戦闘職、前衛槍使いのクレアはそう言って汗臭いと溢しながらも、滅多に革鎧を脱がない。


「せやなあ、ほっぺが可愛いんは認めるわ。

 けど、タケオ(あのボン)、なんであんなに痩せとんのやろか。

 ポコっと出とった下っ腹も引っ込んどったで、クレアも見たやろ」


「体質じゃないの?

 でもこれからどうするのよ。

 前のことは何にも覚えてないみたいだし、まるっきり子供なんだよ?

 タケオって頭の悪い人じゃないから、教えれば色々覚えて行くだろうけど」


 クレアは編み上げ靴の紐を緩め始めた。

 今日はもうすっかり寛ぐつもりらしい。


「クレアはやっぱり、お母はんの育った場所を探すんか?」


「できればね。

 タケオが旅暮らしを嫌がらなければ、ってとこかな。

 そう言うメグはどうなのよ」


「せやなあ。ウチは別に目的なんかあらへんよって、クレアに付き合うで?

 まあだ新し杖、どないしたらええんか分かっとらんし、ボチボチ、ゼニ貯めて、やなあ」


「ふうん。

 じゃあこれまで通り、移動はタケオ次第、かな?」


 ピロリン、と部屋に聞きなれない音が響く。

 電話ともメッセージの着信とも違う、高めの音だ。

 だが音色はスマホやガラケーが鳴る音に似ていた。


 メグは腰のポーチを、クレアは床に置いた革鎧の首のところに手を入れ、隠しを探る。


 メグがガラケーの画面を覗き込んで

「なんか、出とるなあ?

 アップデート中ってなんや?」

 

「こっちにも同じのが出てる。

 だいぶ前にマップのアップデートってのがあって、見える範囲は地図に書き込んでくれるようになったよ?

 それじゃないの?」


「なんで今なん?」


「さあね?」


 しばらくすると、オレンジぽかったメッセージアプリのマークの柄が、青色に変わった。


「またなんか出よった。

 動画配信?何やこれ?」


「そっちも?

 あたしの方で押してみるね」


 ガラケーは何でもメニューから辿る。

 アプリのマークが見えていても、開くとなると慣れないうちは結構面倒なのだ。

 だからワンポチで開けるクレアが起動する。


 ブウゥン。

 低い音がスマホから鳴って部屋の空気が揺らぐ。

 クレアとメグの間に何かが現れようとしている。

 メグが慌てて杖を探り、クレアもスマホをテーブルに放り出し、革鎧を引き寄せた。

 短剣を引き抜いて、そこでクレアが気づく。


「メグ、変だよ?

 気配がない」


 スマホからはカチカチキイギイと雑音が漏れ、部屋の中央に何か見えて来る。

 それは次第にはっきりとして人型から男、そして一瞬ブレた後、ついにタケオの姿になった。

 それも一緒に旅をした爺さんのタケオだ。

 その口が何か喋るように動くが相変わらずキイギイと雑音が混じる。


「何でここにタケオが居るん?

 隣で寝とるはずやろ?」


「メグ、これ、タケオじゃないよ。

 多分そう見えるだけ。

 だってほら!」


 言うなりクレアが目の前のタケオの腕を掴む。

 その手は何も掴むことなく握り締められた。


「そうだ。わたしはタケオの姿を借りてここに居る。

 お前たちに見せると魔物と間違われるからな。

 わたしはナイケックト。

 今いる場所はテルクレフト山の山頂だ。

 タケオの状態について説明するため、通信機器のアップデートを行なった」


 軋みの混じるやや高い声が部屋に響く。

 突然のことに目を白黒させ、何とか言葉の意味を掴もうとするメグとクレア。


 タケオにしか見えないナイケックトの、魔物と間違うと言う姿がどんなものなのか?

 テルクラフトと言えば、誰も登った事がない、伝説の龍が住むとお伽話に出て来る王国内随一の高山だ。

 そんな場所に何かがいると言うのがまた信じ難い。


 それにもましてスマホとガラケーのアップデート?

 コレって誰かの都合で弄れたりするものなのか?


 だがこうして姿と声を送って来ている相手なのだ。クレアは気圧された。


 だがメグの立ち直りは早い。


「ウチはメグ、こっちはクレア言いますねん。

 ほんでわざわざ手間かけてもろて、ナイケックトはん、何の用でっしゃろか?」


「では本題だ。

 先日の襲撃の際、タケオは背骨に負傷を負った。

 観測によると馬車から放り出された時に打ち所が悪かったためと思われる」


「何やて!」

「あいつら!

 戻ってボコボコにしてやろうかしら!」

「全員まとめて吹き飛ばしたる!

 もう加減なんかせえへんで!」


 タケオの負傷と聞いて、さっきまでの畏怖やらは何処かへ行ってしまい、途端に物騒な反応をするメグとクレア。

 だがそれが色々ガス抜きになったんだろう、顔を見合わせプッと吹き出す。


 そこからナイケックトと名乗るタケオの妙にリアルな幻が語った事の中で、メグとクレアに理解できたことは半分にも満たない。


 聞き返してもナイケックトはそれを噛み砕くだけの現地語の語彙がない。


 行きつ戻りつ、迷走する説明と質問は夕方まで続いた。

 それでも負傷と言うのが命の危機であったこと、その治療の副作用で子供に返ってしまったことは何とかわかった。


 ナイケックトと名乗るタケオの姿の幻影を相手に、情報を得ようと奮闘したメグとクレアは、お腹の音でハッと気がつく。


「メグ、タケオ起こしてご飯食べさせないと!」


「せやな……」

 メグは疲れた顔で応じた。

 もう4ハワ(時間)もこうして、幻影相手にやり取りを続けて来たのだ。

 それはクレアも同じ。


 だがまずタケオに食事を摂らせないと!

 ここは美味しい食事よ!

 それに大きな木ジョッキのエールがあたしを待っている!


「自分、欲望ダダ漏れやで?」


「あはは!

 タケオんとこ行って来る!」


 クレアが部屋着のまま隣の扉を預かった鍵で開けると、掛けておいた毛布を全部はだけた少年が仰向け、大の字で眠っていた。


「タケオ、晩ご飯行くよ。

 起きて」


 むにゃむにゃ口を動かすタケオは顔色が良くなったように見える。

 ツルッとした若いハリのある皮膚の手足は、相変わらず細い。

 普通の子供の成長よりは速いだろうと、ナイケックトは言っていた。

 それがどのくらいなのかは、あたしたちに理解できなかったけど、タケオが元気に大きくなれるんならそれでいい、とクレアは考える。


「ほら、起きて。

 ご飯いくよ」


 目を開けたので引き起こす。

 手早く服を着せ、履き物も履かせてやる。

 手を繋ぐとクレアは食堂へ続く木製の階段を降りて行った。


 宿の女将からは聞いていたが、まだ早い時間というのに結構混んでいて、宿泊者用のテーブルが辛うじて空いているだけの店内は、酔っ払い共の声で賑やかだった。


 メグがその空きテーブルで手を振る。


「海鳥のお宿、大繁盛やな。

 シーオクトパスの足肉が人気らしいで?

 なんせこの店が元祖やからなあ」


 その足を持ち込んだのは自分たちイブちゃんタクシーだ。けど味付けや調理方法はこの店の工夫。

 今ではヤイズル湊のあちこちで出される足肉だけど、この宿のが一番、それこそ一日の長ってものだよね。


 もう料理は最高ー。

 エールも美味い!

 タケオが居るんでクレアはガッツリと飲めなかった。


 眠そうなタケオを2人で部屋まで送って、服脱がせて。

 そしたらすぐに寝ちゃうの。

 寝顔がめちゃくちゃ可愛い!


 外から鍵掛けて、また話の続き。

 でもちょっと疲れちゃったから、その日は早めに寝た。


 翌日も眠そうなタケオを起こして朝食に連れて行く。


 食欲はあるみたいだけどすぐに眠くなるみたい。

 お湯桶を宿に貰って体を拭いてやって。


 おチンチンが可愛いったらないの!


 と。まあそれはいいか。


 夕方近くまで寝かせて早めの夕食。

 寝かせたらあたしはエールの時間!


 クレアは相変わらずだった。


 そうやってトイレに行く以外、寝てばかり居るタケオの世話をしながら、2日も一行の宿暮らしが続いたんだ。


   ・   ・   ・


 命の危機やったとナイケックトとやらが言いよったんは、どうやらホンマやったらしい。

 もう3日もタケオは宿で寝たり食ったり、普通やないもんなあ。


 よっぽど身体に負担がかかっとったんやろ。

 それでももう4日目の朝や。


 今日はどないやろか。

 元気になっとったらええなあ、とクレアと部屋に行く。


 タケオはもう(めえ)覚ましとって、ちょこんと寝台に上体を起こし座とった。


「何や、もう起きたったんか。

 調子はどうや?」

「ずいぶん顔色もいいみたいね?」


「うん。目が覚めちゃった。

 今日はお出かけ、できる?」


 遠慮がちに聞いて来る、その声音は庇護欲を唆る。


「そうね、元気そうだし、ちょっと出てみようか?」


「ええな。朝ごはん食べたらヤイズルの街歩いてみよか」

 元気なら、ウチも賛成やった。


   ・   ・   ・


「うわー!

 舟がいっぱい!

 これって海?

 海だよね!?」


 はしゃぎ回る駆けタケオ少年。

 子供やからあれで当たり前なんやろけど、前の爺さんの頃と比べたらえらい違いやで。


 けど、よう見とかんと病み上がりみたいなもんやからなあ。

 いつどうなるか分からへんで。


「あんまりはしゃぎ過ぎなや?

 しばらくぶりの外歩きや。

 疲れたらすぐに言うんやで?」


 それでも元気いっぱいのタケオ少年を追って、倉庫街の路地。


 大きな扉が開いとって中から数人の話し声がしとる。

 何やろかと思てるうちに、止める(まあ)もなくタケオが飛び込んでもうた。


「お?何処の坊主だ、勝手に入っちゃいかんぞ?

 ここは荷物の積み下ろし場だから、いろいろ危ないんだ。

 外に出てくれんか」


「どうもすみません。

 止める暇もなくって。

 ご迷惑でしたでしょう?」


「あっれー?

 メグさんだ!

 ほら、樽やらゴザ材の荷運びで」


「ああ、あん時の兄ちゃんやんか、うちの子がスンマヘンなあ!」


「えッ!メグさん、子供いたんすか!?」


「せやない、せやない。

 内輪の(こお)や、預かっとるみたいなもんや」


 あっぶなー! 子持ち、思われるとこやったで!

 18でこないな大っきい(こお)がおるわけあらへんやん。


 この倉庫は今入港しとる船に積み込む商品があるんやて。


 それから道具屋やら武器屋やら、タケオが興味持ちそうなもん探してあちこち行った。

 かなり歩くよって(ねえ)上げるかと思たけど、病み上がりと思えへんほどしゃんしゃん歩きよる。

 子供の喜びそうなものは案外ないもんや。

 けどそんな中、短剣やナイフを欲しがるんはやっぱり、男の子やなあ。

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― 新着の感想 ―
イブちゃん魔法ではなくバッタ星人の緊急介入でしたか。 放り出された衝撃で背骨損傷…。地味ながら主人公死亡の危機だったとは。やはり、あの賊どもを生かしておいたらダメなのでは。 モリモリ食べて寝てすれ…
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