表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/72

ナレスカ

2話目でーす♪

 冒険者の朝は早い。


 夜明けと同時に探索に出る者が半数、その波が引いた後の出掛ける者、さらに遅れて動く者。

 それらに対応するギルド職員は2交代で動く。


 だが組織の長ともなれば、緊急の案件でもなければそこまでのことはない。

 ないのだが。


 ナレスカは夜明け前に起き出し、ギルドの裏の広い空き地、鍛錬場で槍を扱く。


 現役時代はA級パーティの槍士で鳴らした。

 引退したとは言え緊急時には戦闘員の一角として前に出ることもある。

 鍛錬は疎かにはできないのだ。


 1ハワ程も汗を流し、ギルドのシャワー施設で着替えて執務室へ向かう。

 それが日課だった。


「ギルドマスター。これ、昨日の業務日誌と決裁書類です」


 席に着いて間も無くバサバサッと執務机の右端に、15セロトほどもある書類束を置くのは受付を仕切るベティだ。


 その顔が引き攣ったように見えたのは、まだ10セロト近い昨日以前の未決束を見たからか。


 だがあたしの決裁というのは、それなりにあれこれ他への影響が多い。

 影響の少ないものはすぐにサインもできるが、調査待ち案件、証人の出頭待ち、果ては領主の面会申し込みをしてその返事待ちなんてのもある。


 そう簡単に片付くものでもない。

 古い書類は机の上で移動を繰り返し、どうかすると1月を超えているのもあるかもしれない。


 ナレスカは手早く片付きそうなものから見て行く。


 東の森でファブリザードか?

 これは珍しいな、他にもオークが出ている。


 東の森の討伐傾向を調べようと、右袖の引き出しから綴じた紙束を取り出す。

 ここ10年程の出現魔物と個体数、討伐数が場所も含め詳細に記されたものだ。

 このところ、増える傾向が見られるのは過去にどう推移したのか、見ておかねばならない。


 紙束を引き上げると、カランと乾いた音が響いた。

 何だろうと見るとそれはE級冒険者のギルド証だった。


 2年以上も過去に不祥事で剥奪した物、何でこんなところに紛れ込んだのか。


 ああ、そう言えば。


 ギルド証を抹消するとかおかしな通達があって、クレアのギルド証を預かってもう1月ほども経ったのか。

 冒険者どもに囲まれ、後始末に追われているといつの間にか日が過ぎて行くのだ。


 書類を上から順に確認し決裁できるものは片付けて行く。


 30数件にサインを入れて、保留は3件。

 また未決の束が増えてしまったか。


 ギルドマスター、ナレスカはふっと溜息を吐いた。


 昼飯を頼みに階下へ降りる。

 併設の酒場兼食堂で注文を入れ、ベティの受付へ回る。


「デマホーの事は何か聞いているか?」


 ギルドの内輪の情報は受付嬢が早い。

 行き来のある冒険者が有る事無い事、噂話を持ち込んでは受付嬢の気を引こうとするのだ。


 それはナレスカの現役時代と全く変わらない。


「デマホーですか?

 魔法職の指導員になったって聞きましたよ?

 何でって思ったんでちょっと調べてみたんですよ。

 はっきりしないんですけど、魔導具ギルドと癒着があったような話があるみたいです」


「ふうん?」


 ような話か。

 方面支部は余程隠したいらしい。

 ゴブリン集落の件もある。

 内部の綱紀粛正はするだろうが、それを隠すか。


   ・   ・   ・


 駆け出し4人で始まったクリムゾンブレイド。

 クリムゾンの由来はリーダーで剣士の二スターの大剣だ。

 体格に似合わない大剣使いだが、その剣の柄元に薄っすら緋色が見えていて、それが二スターの自慢だった。


 大剣使い二スターに盾使いガッツォ、あたしナレスカが槍、これで前衛が3人。

 それに弓使いの薬師エスランで4人のパーティはそりゃあもう、要らない苦労を山ほどしたものさ。


 使える魔法は小魔法がせいぜい、それでも普段使いには充分で野営なんかでは多少楽ができたっけ。


 そこに魔法職デマホーが加わったのは、Dランクに上がってからだった。


 最初はあれもショボくて、威力は低いは数撃ちは利かないは。


 依頼のランクを多少落としても魔法使いは育てないと!


 二スターのその言葉が全てだったさ。

 その甲斐あってか、ぐんぐんとデマホーは伸びた。

 あたしらもそれに引っ張られるように腕を上げた。


 それにエスランは回復魔法も使えるようになった。

 あれは大きいね。支援魔法まで手が回るってのはありがたいってもんさ。


 そうしてAランクまで登り詰めたクリムゾンブレイド。

 ある時レッサードラゴン討伐の依頼を受けた。


 仮にもAランクパーティだからね、ギルドから指名を受けてしまえばよほどの事情が無ければ断れない。


 襲われたのは平地の村でも、討伐に赴くのは人なんか立ち入ることもない山の中だ。


 あいつらは一っ飛び、こっちは藪を掻き分け谷を渡り山を越え、崖だってあるし登れなければ回り込む。


 とにかく20日もかけてやっとの事で奴らの巣にまで辿り着いた。


 子連れのレッサードラゴンなんて最悪の相手だよ、オスとの死闘は2時間に及んだ。


 それでもデマホーは要所を締めて、回復薬にも余裕があった。

 全くよくそこまで育ったもんさ。



「デマホー。翼に攻撃を集中してくれ!」   

 二スターの指示で上級魔法サイクルフレイムソードをデマホーが使った。


 もちろんあたしたちが詠唱の時間を稼いだからだけど、タイミングをみてレッサードラゴンの顎を上げるのにあたしら前衛が成功した。

 その魔法の効果は劇的だったよ。


 傷を入れるのがせいぜいだった2枚の翼が、細切れに吹き飛んだんだから。


 飛べなくなった上に、背の傷でさらに動きの鈍ったレッサードラゴンは、程なく動きを止めた。


 止めを刺す前に(つがい)の残りが巣から出て向かって来た。

 巣には人より大きな雛が2頭残ってるのが見えた。


 そして元気なおかわり(メス)を迎えてさらに1ハワの戦闘だ。


 巣からも見える場所での(オス)との戦い、それを当然メスも見ていたようだ。


 有効な攻撃が何であったか理解しているようで、こちらの動きになかなか乗って来ない。

 

 そうやって消耗戦を続けガッツォ(盾士)がシールドバッシュ、浮いた体にあたしが腹への貫岩突き(ロックスケア)を決める。


 絶叫を上げ上空に距離を取ろうと羽ばたく2枚の羽、その真上にデマホーの上級魔法サイクルフレームソードが放たれた。


 あたしの槍はレッサードラゴンの腹に締め付けられて抜けず、一緒に地面から浮き上がる。


 そのうちにバラバラと翼の細切れが周りに降ってくる。


 あたしはこりゃやばい、押しつぶされる、と咄嗟に槍から手を離し地面を転がる。

 どっちへ逃げれば、下敷きにならずに済むのかなんて解りゃしないさ。

 あたしが転がり逃げるすぐ傍を、レッサードラゴンの尾が叩きつけあたしはそれを躱すことができた。


 そしてあたしの槍は地面に落ちたメスの腹深くに突き入り、それが止めになったのさ。


   ・   ・   ・


 エスラン(回復士)が何か大きな声を出していた。


 どうやらデマホーが倒れたらしい。

 無尽蔵とも見えたあいつの魔力もついに枯渇したか?

 1日も眠れば移動に差し支えはないだろう。


 そう思っていたがエスランの慌て様は尋常じゃない。

 あたしたちは重い体を押して、横たわるデマホーとそれを揺するエスランの元へ集まった。


「レッサードラゴンがパワーブレスを最後に吐いたんです!

 それがデマホーの胸に!」


「当たったのか!」

「二スター、それって!」

「いや、まだ分からん。

 魔力も尽きかけてたはずだ。

 エスランはこのまま動かさずここでデマホーを見ててくれ。

 俺たちは残りを始末する」


 オスはピクリとも動かないがまだ生きていた。

 眼窩に二スターがガッツォと2人がかりで大剣を押し込む。


 あたしは槍がメスの下敷き。

 短剣を持って雛2体を殺しに向かう。


 まだ鱗も発達しておらず、それでもオーガ並みの硬度の皮膚は刺しにくかったが、ヨタヨタと逃げ回るばかりの雛だ。

 すぐに始末はついた。


 次は素材回収。

 白金貨2枚で買ったマジックバッグだが、オスは大き過ぎて入らなかった。


 メスと雛2体、あとはオスの魔石、飛び散った翼を拾い集め、隙間にオスの爪、鱗革と肉を詰め込めるだけ詰め込んだ。



 翌朝、付近の木で簡易の担架を作りデマホーを乗せる。

 担架に張る布地はデマホーのマントだ。

 こんな大きな布をヒラヒラと邪魔くさい、何の意味があるんだ?

 そう思っていたのはあたしだけじゃなかった。


「なるほどー。デマホーって用意がいいねー、こうやって使うために、ずっと背中でヒラヒラさせてたんだねー」


 このエスランの言葉にみんなで笑い転げたのはいい思い出だよ。

 クリムゾンブレイド始まって以来の死闘を、デマホーの負傷だけで曲がりなりにも生き残ったんだから。


 痩せぎすのデマホーとは言え大の男。

 軽いと言いながらも二スターとガッツォで前後を固め、あたしとエスランで警戒しつつ道なき道を引き返す。


 途中、デスグリズリーと遭遇してまた荷物が増えて。


 目印を辿るので往路とほぼ同じ道だが、20日では村まで戻れなかった。




 そうやって連れ帰ったデマホーだが、胸を強打したせいで魔力の喪失があり、魔法職を辞することになってしまった。


 あまり人好きの良い男ではなかったが、10年余りの付き合いだ。


 魔道具への思い入れもわかる。

 エンスロー方面支部の内情も聞き及んでいたが、まさか魔道具ギルドの汚職に絡んでいたとはなあ。


 サブマスまで登ったとは言え、こうなってはもう出世の目はあるまい。

 新人の魔法指導に残れただけでも御の字だろう。


    ・    ・    ・


 夕方、ふと思いついてベティにクレアの情報がないか聞いてみた。


「クレアとタケオさんは、南へ向かったって聞いてますけど?

 またなんか格上を狩ったらしいです」


「格上か。

 あの時はファットリザードにオークだったか。

 駆け出しの手に負えるようなものじゃないんだが、無事に帰って来たからなあ」


 あたし緩む口元を隠し家路に就いた。

ブクマ、評価、よろしくですー

また来週お目にかかりましょう!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ