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タイラント狩り

「何言ってるのよ、いつだったか最初の頃バタドリの群れに遭ったじゃない。

 あの時突っ込んできた群れをイブちゃんがめちゃくちゃに弾いて、そこら中に撒き散らしたじゃないの!」


 言われて思い出したのは首の折れたバタドリや、脚が折れてそこに別のが腹から落ちて突き刺さったりの悲惨な光景だった。


 あいつらはまだ小型の部類だったが、今日のくらいデカくても同じなのか!


 黙々と解体作業は続いているんだが、何だよこの量は?

 そもそもは、ブルータイラント釣りの餌を狩りに来たんじゃなかったっけ?


 案の定と言うか集まった肉や皮は荷車に到底積み切れず、大穴を掘って冷蔵保存に。

 日はもうじき中天に達しようと言うところだ。


「寒い時期やから数日は問題あらへんなあ」

 と、メグの暢気な声が言う。

 

「今日の午前中に冒険者ギルドへ行くんじゃなかったの?」


「あ!そうだった!

 メグ、タケオ、直ぐに出発するよ!」


 あーあ、朝は掻き込みだったし、まだ昼飯も食ってねえんだが。


   ・   ・   ・


「領主様のご都合により、急ではございますが本日の午後3時に、商業ギルド会議室での会合、とのことです。

 あまり時間がありませんが、商業ギルドには早めに移動下さい」


 時刻は午後2時を回ったくらい。

 昼も食わずにここまで来たが、流石にみんな腹ペコだ。


 バタバタと屋台、露店を回り手早く摘めるものを調達すると、俺の運転で商業ギルドを目指す。

 メグとクレアが領主対応、その間に俺が肉と爪牙の売却を受け持つことになった。


 なので後でも食う時間が取れる俺が運転、他の者は皆、屋台飯を齧っているわけだが。

 俺だけ何も食えんってのも、なんか腑に落ちないものはあるな。


「タケオさん、一口齧る?」

 そんな中でもメアリが優しい。

 串焼きの肉を一つ口に放り込んでくれた。


 時間はないが、場所はそれほど離れてもいない。

 時間前に無事商業ギルドへ到着できた。


 クレアはまだまだ食べたそうにしていたが、メグに引き摺られ会議室へと連行されて行った。


 さてギルドカードの久々の出番だ。


 買取倉庫に荷車を曳いたまま進入し、肉のカウンター。


「イブちゃんタクシーのタケオですが、肉の買取をお願いします」


「はい、どのような品でしょう?」


 メアリ達がクサミケシに包まれた肉塊を、次々とカウンターに並べて行く。

 今回の解体のほとんどを手にかけているので、どれが何の肉かは1番よく分かっている。

 ブッシュバックとネッドベアは半身枝肉での納品だ。

 買取の種類、量、等級を伝票に書いてもらい、爪、牙、ツノと買取カウンターを順に回る。


 なんだかんだで1時間はたっぷりかかった。


「やっと来よった。

 ずいぶん掛かりよったなあ?」


 10数分程も受付前の待合で待っていたらしい。

 伝票はクレアが窓口へ持って行く。

 その間に俺はメグから話を聞いた。


「用件は言うたら、湖沼地帯の地図の上にやな、被害のあった農地を書き込んだんをくれたんや。

 結構広い範囲で被害が出とるよって、地図に纏めんやったら、どこから(てえ)付けよか悩むとこや」


「あとね、ラトラまでの高架橋についても聞かれたわ。

 侯爵もテオドラ帝国との交易には期待してるんですって。

 魔石の調達に協力してくれるって言ってた」


 広げた地図は実に大雑把な代物だが、右上方面が湖沼、下側が農地となっていて、農地には点々と赤い×印が書き込まれていた。


 その中で近くに印が幾つも集まっている場所が幾つかある。


「ここと、ここは優先して見に行かんとあかんやろなあ。

 それで当たりが引けよったらええんやけど、あとは虱潰しに行くよりあらへんで」


 農地を管理しているスッパルク村はここから東へ行った所。

 馬車で5時間と言うから、今からなら着いたら野営ってところか。


「そない無理せんかてここで一泊したらええんや。

 クレアもその方が喜ぶで?」


「それもそうだね」


 日暮まではまだ少し時間がある。

 すっかり宿探しの気分でいるとメアリが

「あのお。

 まだ氷穴にお肉と毛皮がいっぱいあるんですけど……」


 あちゃあ!

 メグと2人で顔を見合わせた。


   ・   ・   ・


 朝から荷車山盛りの3往復で肉と毛皮は運び切った。

 魔石は1センチ、2センチが24、3センチが4、うち2個が持ちがいいと定評のオーガと言う戦績。

 素材の買取は21万ギルに達し、今回も金貨2枚を超えている。


 もちろん、自家用の分と餌にする肉は200kg程確保してある。

 てか、狩り過ぎもいいところだ。


 生鮮野菜、調味料を買い込んで一路スッパルクへ。

 村で荷車を外し、先ずは腹ごしらえだ。


 昨日は遅い昼飯でひもじい思いをしたからな、しっかり食っておかないと。



 腹がくちくなるまでは食えなかった。


「あんまり食べ過ぎると動きが鈍くなるからね」

 と、俺の倍は食べたクレアに言われる。


 全く納得がいかねえ。


 金属ロープの片側に肉を括るのはなかなか大変だった。

 それでクレアにアイを作ってもらったんだ。


 アイって何だって?

 アイってのはそうだな、ワイヤーの端に輪っかがあって、そこに通した同じワイヤーのもう一方の端を引くと、大きな輪っかが引き絞りになるだろ?

 引くにしたって細いワイヤーの棒の端みたいなのはやり難い。


 クレーンのフックってのは実は酷くでかいものだ。

 端にそこに掛かるほどの大きさの輪っかがあれば、引いたり吊ったりは簡単だと思わないか?


 そう言うワイヤー両端に作った輪っかをアイって言うんだ。

 俺は伊達にジジイをやってたわけじゃねえ。


「何変な顔しとるねん?

 タケオの言うアイやら、もうすっかり出来(でけ)とるで。

 早よイブちゃん、動かさんかい」


 うおっと、メグに突っ込まれた?


「タケオさん、やや右に進んでしばらく真っ直ぐです」


 メアリがあの地図とカーナビの画面を見比べながら、方向を指示してくる。


 って、よく分かるな。

 一体何を目印に?

 そう思ってカーナビを覗き込むと、前方に赤い光点が一つ。

 結構大きそうだ。これを見て言ってるのか?

 まあ、いいや。


 周囲の風景は樹木が減って、背の高い葦のような草に囲まれたものになる。

 地面がジュクジュク湿地っぽく、径を大きくしたタイヤが滑り始める。


 タイヤの回転中にうにゅっとした感触があって、一瞬車が左右に振れたり速度が鈍るのがその感覚だ。


 俺はハンドルに付いたフセーチマークのスイッチを入れる。


 こんなの前はなかったような?

 ラクでいいけどよ。


 両側でムクムクと、黒い風船がデカくなるのがサイドミラーに映って、視界が開けたのは車高が80cmほども上がったから。


 それからはしばらく静かな時間が続いて

「んー、なんか来る?」とクレア。


 何が来るんだ?

 そう聞こうとしたところで、草が一気に周囲10メートルで、ベタっと押し広げられるように地面に倒れた。


 ブウンと羽音がして、それにバチバチと何かが弾ける音。

 それはわずか数秒のことだった。


 思い出すのはチョワードの…

「何や今の。クイツクシムシかと思たで」


「あはは。あれが出るんならあたしにも分かるよ」


 魔石が採れたのか見たいところだが、ここは湿地。

 地面に降りて歩けるかわからないので、ここは放置かな。

 最悪はボンネット伝いに上から前へ出るしかない。


 しかし、結界が発動すると、周囲が広くなっていいな!


 そんな俺の気持ちを察したのか、結界は萎まずそのままに進んでいく。


 が、丈の高い草はすぐに終わり、本格的な沼地だろうか、短い枯れススキが水面にポヤポヤみたいな光景が現れた。


「赤い点はこの先です。

 あ、移動してる……」


 右奥の沼地水面が気のせいか少し盛り上がってるような……


「あれがそうみたい。メグ、雷準備!

 ステス、お肉のワイヤーを一つちょうだい!」


 水面の盛り上がりがこちらへ近づいてくる。

 もう見間違いなんかじゃない。


 そして盛り上がる波の先端に何か丸いボールが2つ。

 ‼︎ 目か!?


 大きな顎門(あぎと)タクシー(イブちゃん)を襲う。

 立ち上がり長い上顎(うわあご)にズラリと並ぶ鋭い歯列。

 クレアがワイヤー付きの肉塊を窓から投げる。

 窓の開口が狭いのでうまく口には届かず、水面を叩く。

 肉は盛り上がる水面を滑るように後方へ流されて行った。


 そして訪れる重い衝撃、イブちゃんは上下に激しく揺すぶられ、ドンと爆発音のような音がした。


「うお、でかいやんか!」


「あれ、10メルキ()どころじゃないね。

 あ、まだ生きてる。当たりが弱かったのかな?」


 ザバアッと泥水を跳ね上げ身を翻すブルータイラント。

 背の鱗様の模様が泥水の流れる中、浮き彫りに見える。

 鼻面が真っ直ぐ俺たちを指す。


「次来るでえ。用意や!」


 が、ブルータイラントは動かない。


「何や?」


 沼地を覆うような黒雲を抑えてメグが言う。


 タイラントの鼻がふいと後方に逸れ、泥水面に背のギザギザを見せて泳ぎ出す。


「阿呆が。さっきの肉を(ねろ)とる……」


 メグが左の窓から上体を捩じ込むように出して箱座り、ハンガーに左手で掴まって右手には杖。


(めえ)瞑っとき!」


 そりゃそうだ。

 獲物が釣り餌を食おうと言うんだ、釣り竿にも力が入るってもの。


 ザバアと大きな水音は肉に噛みついたのか?


「いくで!」


 閃光がイブちゃんを襲い、グワンとばかりに衝撃がやって来る。


 しばらくは白く音のない世界が続く。


 そして周囲の泥を被った緑と、波が弾ける音が戻って来た。

 サイドミラーに映るのは泥水の湖面に、青い腹を見せ波に揺られて浮く、長い長い影。


 メグが帽子の鍔を捲るように持ち上げ、眉尻を下げて言った。


「あれ、どないして解体したらええ思う?」

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