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ブルータイラント

 今日はゼレンシアの冒険者ギルドを訪ねた。


 魔石の持ち込みは何と言っても冒険者からが多い。

 双璧とも言える商業ギルドは一昨日に、ワーム皮を売った時に在庫を聞いて、さほどの量もないことはわかっている。


 メアリ、ステスもこの街育ちなのに行った事がないと、昨晩から楽しみにしていた。


 どこの町の冒険者ギルドも建物はでかい。

 ここも例外ではなく、正面にちょっとした広場と、裏手に解体倉庫を構える石造りの建物だった。


 メアリたちはタクシーに残して3人で中へ入る。

 ここのホールもだだっ広く見えるのは、朝の依頼争奪戦が一段落付いていたからだろう。


 俺たちの中で冒険者タグを持つのはメグただ一人、しかもBランクでパーティリーダーだ。

 討伐数から行けばAでも通りそうな魔法職なのだが、売却値が商業ギルドの方が高いため、メグはそちらを優先している。


 受付でメグは銀のタグを見せて、魔石の在庫を尋ねる。

 大小とり混ぜておおよそ2000個相当の在庫だと言うのは、政務庁で聞いた通りだ。


「メグクワイアさん。

 シーサウスト、ヤイズルでご活躍ですね、ソロなんですよね?

 それでこの討伐規模は……

 あ、パーティを組まれている。

 『イブちゃんタクシー』…変わったお名ま……、あ…、いえ、今緊急でちょっと厄介な案件がございまして。

 こちらなんですけど、お願い出来ないでしょうか?」


 商業ギルドでの取引額も承知しているらしく、メグにブルータイラント討伐の依頼を出してきた。


 依頼票によるとブルータイラントは大型のワニ似の魔獣で、体長10数メートル、重さで10トン以上もあるバケモノだ。

 長い大顎は人間くらい、すっぽり中に収まってしまいそうな長さだ。

 その噛みつきと強力な尾の打撃力、何より水辺に棲んで獲物を水中に引き摺り込んでの窒息狙い。

 そして全身を鎧う分厚い皮は、生なかな刃物など受付ない。


 確認されたのは1頭だが、ただの1頭だけの筈はない。


 Bランク冒険者で実質Aランクのメグは、運搬手段も実績があって、この依頼は冒険者ギルドにとっては願ってもない物だったろう。


「依頼票での指定は1頭ですが、数が増えても同じ条件で支払います。

 実を言いますとAランクパーティが他の依頼で出払ってまして」

 と説明があったように、上手くやれれば割と太っ腹、しかし危険モリモリな依頼だった。


 生息地は南東の湖沼地帯。

 大小の水たまりが多く散在する湿地帯だ。


 依頼票をじっと読み込んでいくメグ。

 顔を挙げ俺たちに向き直る。


「どうします?

 結構厄介そうな話ですが」


「攻撃をどうするかだよね。

 雷が効いてくれたらいいんだけど、皮が厚いってのがどれほどなのか、よ」


「水辺に居るんなら電気はよく流れるんじゃないのか?」


 俺が聞くとメグは小声で言った。

「デンキ?雷のこと言うとる?

 相手によるんや。

 皮が厚いんやと雷の効けへん奴もおる。

 濡れとってもや」


 そう言うやつに遭ったことがあるらしい。


「そんなのがいるのか。

 じゃあ口の中ならどうだ?」


 そこでメグが人のいない一画を指して移動する。


「そんな都合よく上を向いて口なんか開けないわよ」

 クレアが言う。


「それもあるんやけど、問題はタイミングや。丁度よう落とせるもんでもあらへんで。

 アレで誘導はしたるけど、そない細かくは、なあ?」


 塩の溶けた水で誘導する話だな。


 だが俺には一つ案があった。

 二人の説得には少し時間がかかったが、話し合いはこれで一段落。


 メグが受付へと戻ると

「さっきの依頼を受けようと思います。

 相手が相手ですので準備に1日2日使いますが、それでもいいでしょうか?」


「受けてくださるんですか?

 準備の期間についてはそれで大丈夫です。

 依頼主がネドクラスト侯爵、ここゼレンシアの領主様になりますので、ご挨拶に伺ってください。

 明日の午前中には時間の指定があると思いますので、こちらへ寄って頂けますか?」


 領主、侯爵と聞いて、クレアの頬がちょっと引き攣ったのは気のせいじゃない。

 メグもそうだが俺たちは貴族連中と、なるべく係わりは持ちたくないんだ。

 理由はそれぞれのようだが。


 ともかくメグが了承し、魔道具屋の場所を聞いている。

 俺たちは冒険者ギルドを出た。


 準備のためにやる事は3つ。

 一つは魔道具屋へ行って買い物だ。

 次はいつもの魔石狩り。

 小物で良いが肉が欲しい。

 そして3つ目が領主への挨拶。


 領主はこのゼレンシアに、数日の予定で滞在中だと言う。

 ブルータイラント間引き依頼の件で、領都からわざわざ出張って来ているらしい。


「さあて、魔道具屋やな」


 銀線、銅線の在庫は多少持っているが、俺の案に沿うなら量が足りない。


「そうだね、グレンズールーの洞窟は、ここまで来ちゃうとちょっと遠いし、買うしかないかなあ」


 あそこまで行けば只で(ロハで)手に入る素材だが、飛ばしても片道7、8時間は掛かる。

 それに鉄線や鋼鉄線を混ぜないと強度が足りない。

 魔道具屋で必要量が手に入れば良いんだが。


 メグがギルドで聞いた魔道具屋は3軒。

 全て回って在庫を総浚いに買い込んだ。

 幸い高架道路建設で、手持ち金だけは余裕がある。


 一旦郊外まで人目を避けるため移動する。


 何でって「何してるの?」とか聞かれても面倒だろ。


「それでタケオ。

 これ、どないするんや?」


「束にして捻って金属のロープにするんだ。

 1本5メルキ()か、もう少し要るかな?」


「ロープ?

 あれってどんなふうに撚ってたっけ?」


「メアリ、ステス。

 荷車のロープ、一本持って来てんか?」


 持って来てくれたロープをクレアがじっと見る。

 何をする気だ?


 端の方を10cmほど切り取って、(ほど)いて撚り合わせを見ている。


 あのロープは3本の撚り糸の束から出来ている。

 一本一本の(ひね)りを強めるようにさらに(ねじ)り、始点を固定した3本の束を並べてやると、強い捻りを戻そうと互いに沿うように絡んでいく。

 そうやって1本のロープになるのだ。

 他にも7本撚りなどのものもあったはずだ。

 3本撚りは作るのが簡単だ。

 それに適度に撚りのでこぼこがあって握りが逃げにくいのだが、今回の用途にはあまり関係はない。


 あれをまさか土魔法でやろうって言うのか?

 俺はどうにか手作業で再現できないかと思っていたんだが。


 クレアはバラした3本の束を元通りに巻き直し首を傾げた。

 1本1本の捻りが抜けてしまったので太さが元に戻らないんだろうと、俺には予想がついた。


「メアリ、ステス、ちょっと手伝って」


 メアリとステスに小束の先を持たせ捻る方向を教える。

 クレアにはロープの根元を固定してもらう。

 俺たち3人が一斉に小束を捻ると、クレアの手にロープの回転となって力が伝わる。


「クレア、逆らわずにロープをゆっくり回してくれ」


 クレアがロープを回すに連れて、俺たちが捻る小束が互いに巻き付くように、ロープの形を取り戻して行った。


「へえ!こんなことになってたんだ!」

 互いにしっかり密着した撚り糸の束を見てクレアが言った。


 ずいぶん昔に見たロープの撚り方だが、こんなところで役に立った、かな?

 

 材料だが、買って来たのは太さがほぼ同じに加工された素線、輪に巻いた針金だ。


 それを21巻、全部真っ直ぐに伸ばす。

 種類は鉄線、鋼鉄線、銅線だ。

 針金は伸ばしてみると結構長くて、どれも10メートル以上あった。

 一番短いのに合わせて切り揃えておく。


 ところで荷を吊り上げるために使うワイヤーは、ほぼ鋼鉄線で出来ている。

 今回作ろうと言う導線とはよく似た物だが。

 あれでも良いんだが鉄は電気の伝導率があまり良くない。

 電気を流すとかなりの熱が発生するんで、焼け切れるとか獲物を傷めるとか、そんな心配があるんで銅線をいくらか混ぜてみる。


 銅線を芯材にして6本の鉄線で囲むように束を作る。

 50cmおきに布を裂いた紐でくくっておけばばらけない。

 それを3本、クレアが土魔法で始点を固定した。

 右腕の腕環を掲げ、目を半眼にして10数メートル先の針金束先端を見据える。


 1分近くもそうしていただろうか。

 突然細い針金束が生き物のように地面を叩き、周囲の草を散らしてのた打った。

 回転するように暴れ回る針金束が、クレアの側から1本に纏まって行って、波が走るように終端まで伝わると、そこには1本の金属ロープが草地に横たわっていた。


 手に取ってメグが

「ほう、すごいもんやな。

 タケオ、太さはどないや?

 これで行けるやろか?」


 俺も手に載せてみたが太さ5、6mm、2分ワイヤーってところだ。


「ちょっと頼りないかもだね。

 もう3本で撚ってみる?」


「いいよ。材料はまだたっぷりあったよね?」

 クレアの言葉にチビ達も一斉に動き出す。

 もうありったけの針金を伸ばす勢いだ。


 一回り太くなった金属ロープ。

 ブルータイラントの牙にどれだけ耐えられるかが成否を分ける。


 夕方まで掛けて6セットを用意した。

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