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第9話 魔改造計画

□猫の休息所 クランホーム クロウ・ホーク


「よ」


「あら、来たわね」


「あ、クロウ! ど、どどどどうしよう! まだ私1020位ぐらいなんだけど!? 全体で見たら7000位だよ!? 500位以内なんてやっぱ無理なのかなあああ!」


(すごい慌てようね……)


 情報を集めながら俺達は予定通りりんご飴の元へ来た。

 そこには、落ち着き払ったメリナと慌てふためいた様子のりんご飴がいた。


「落ち着け、そんなすぐに大勢は決まらんから。俺とか全体で見れば3万位以下だぞ。ほら、慌ててるように見えるか?」


「あら、少しは慌てた方がいいんじゃないかしら?」


「メリナ、お前はわかってるだろ……。まずは、とりあえず俺の集めた情報を共有するけど、モンスターハントだけで稼いで上位に入れるのはごく一部だろうな」


 メリナもある程度調べていたのだろう。

 その顔は当然とでもいうような感じだ。


「計算したところ、既に一部はマイナス補正のあおりを受けて勢いが落ちはじめてる」


 最初の集計から都度4回。

 上位を独占していた一部のプレイヤーのランキングが少しずつ落ち始めているのは確認している。


「モンスターを倒し続けられる汎用性に加えて戦闘能力の高い一部はこのままコンスタントに稼ぎ続けるだろうけど、同じモンスターとか、一定以上の強さのモンスターを狩れないような連中はスタートダッシュブーストで終わりだな。たぶんこのまま落ち続けるから今の順位は気にしないでいい」


「な、なるほどぉ……」


 りんご飴はメニューでランキングを確認しているようだ。


「だとしたら尚更すごいね。もう800ポイント近く稼いでるよ。ルクレシア王国の討伐ランキング1位ってことは全部モンスターを倒して稼いでるんだ。すごいなぁ……アブソリュートエターナルカタストロフィ・彗星さん、かぁ」


「そうだね。すごいね」


 一体誰なんだろうなぁ……


 事実ブルーやT&Tも上位に居すわっている。

 というか本気でダンジョンに潜ってるなあいつら。

 階層更新とかしてそうな勢いだ。


「メリナが今全体で3208位、りんご飴が7093位、これは正直言ってかなり調子がいい」


「え、そうなのかい?」


「そうよ、りんごちゃんはイベントを開始してから何かしたかしら?」


「えーと、焦っても仕方がないってメリナに宥められて……トレードアイテムボックスの中身を確認してアイテムが売れてたから都度補充したぐらいかな?」


「ね?」


「アイテム売買のポイントは高く設定されているってことかい?」


「おそらく半分正解だな、新しい人物との取引が高く設定されているんだろう。あとは需要に対して供給できたかとかな」


 俺も適当に露店で買い物をしてみたが、あまり欲しくないものを買ってもポイントの上昇は少なく、欲しいと思っている物を買った時はほんの少し多かった。

 影響を与えるというのは、ここまでを見るに実際はかなりわかりやすいものだ。


「アイテムが売れるっていうのは、欲しい人の手元に欲しい物が渡るという意味だ。モンスターを狩り続けるよりも、同じアイテムを大量に用意して色んな人と取引をする方が取得ポイントの効率は一定を維持できる」


「それだけじゃないわ。トレードアイテムボックスで稼げるってことはね、その間自分の肉体は空いているということよ。他のクエストを受けたり並行してポイント稼ぎができるということね。これがわかっただけで収穫よ」


 トレードアイテムボックスを設置できる場所があるかどうかで確実に効率に差が生まれる。

 競合としてはすでにクランホームがある一部のクランか、店を開くに至っているプレイヤー、もしくはイデアと仲を深めて仮置きさせてもらってるプレイヤーになるだろうな。


「まとめると、今のりんご飴はポイントを稼げる下地が既に整っている状態だ。商品さえあれば、おそらくログアウト中にポイントを稼ぐことすらも可能になる。これは一つの武器だな」


 商業ギルドはトレードアイテムボックスのレンタル権でうはうはになるだろうな

 他の商売を中心にしているプレイヤーもそろそろ気づく頃だろう。

 だが、この一歩の差で俺たちは準備を終わらせる。


「いいか。俺が手伝う以上、上位500位以内に入れるための最低限の戦略は練るつもりだ。なにより、どこかの悪女が調整してくれたおかげで別方面のアプローチもできるみたいだしな」


「ふふ、一体どこの誰かしらね……今夜は協力してくれた商業ギルドの人たちやプレイヤーを呼んでパーティを開くのよね。とても、とても素敵なことができると思わないかしら?」


「……悪人面二人組がまた悪い顔をしてるわね。りんご飴、気をつけなさい」


 ユティナよ、なんてことを言うんだ。

 PK撲滅作戦だって結果国のために繋がったのだ。

 俺たちは正義の旅人である。


「あはは。す、凄い頼もしいね! なんか私でも上位に入れそうな気がしてくるよ!」


 そんな言葉とは裏腹に、りんご飴は少し視線を落とす。


「でも、それっていいのかな。私だけなんかずるをしているみたいで……いや、2人が協力してくれるのは嬉しいんだよ! 心強いっていうのも本当さ! だけど……」


 自分で言うのもなんだが、メリナと俺はおそらくことこういう分野の立ち回りに関しては他のプレイヤーよりも感覚自体は優れている。

 そう言えるだけの自負がある。


 そして、その2人が自分のことを上位に入れるために最大限の協力をしてくれているという状況が、りんご飴にとっては他のプレイヤーに対する負い目になっているのだろう。


 しかし、それは違う。


「いい、りんごちゃん。それは違うわ」


(へぇ……)


 メリナはりんご飴に優しく話しかけた。

 正直、少し以外だと感じたのは内緒だ。


「コネもツテも生かしてなんぼと考えなさい。他の誰かに遠慮する必要なんてないわ。これはね、あなたが自らの意思で勝ち取ったものよ」


 あの日、あの時、冒険者ギルドでりんご飴が俺に話しかけなかったら。

 あの作戦会議の日、彼女が自らの意思でPKに立ち向かうと決意を固めていなければ。

 PKクラン戦のために全力で生産に取り組んでいなければ今日はなかったはずだ。


「私とクロウがあなたを手伝っているのは、あなたがりんご飴だからよ。りんご飴が勝ちたいと言ったから手伝っているの。他の誰にも文句は言わせないわ」


 そしてメリナは。


「自由にやりましょう。……だって私たちは共犯者、でしょ?」


 りんご飴を仲間だと、そう言った。


「……っ、う、うん! ありがとうメリナ! クロウ! ユティナ!」


 りんご飴は少し照れくさそうに、しかしはっきりと俺達のことを見た。

 そうだ、それでいい、そうでなくちゃ困る。


 それに、彼女は一つ勘違いをしている。


「そうだぞりんご飴。あと……俺たちがそんな生温いことを考えるような存在に見えるか?」


「……え?」


 まったくその調子では先が思いやられるな。


「勝ちに行く以上、俺たちの要望に応えるのはりんご飴の仕事だぞ」


「……え?」


「ええ。方針の提示は出来るし、いろいろサポートはするけれどポイントを稼ぐのはあくまで行動を起こしたプレイヤ―よ。私たちがあーだこーだ口に出したところで、それにりんごちゃんがついてこれなければ始まらないわ」


「…………え?」


 さぁ、時間はない。

 こういうのは動き出しが肝心だ。


「早速作戦を提示しよう。俺ができるのは露店面、この場合トレードアイテムボックスを用いた立ち回りだ。需要の高いものはすぐに飽和するが、逆に言えば一定数常に売れ続ける商品だ。そういう商品は少し割高でもいいから在庫を切らさないようにトレードアイテムボックスに置いておくことが大事だ。客寄せになる」


 どうせ売れるからな。

 グランドクエストが発行された以上、メジャーなアイテムは常に売れ続ける状態になると見ていい。

 競合も多いがそれ以上に需要が上回るはずだ。


「重要なのはその次、需要はあるけれど他のプレイヤーが目をつけていない、もしくは見つけ出せていないアイテムのブランド化だ。サポートし過ぎると俺にポイントが入る可能性があるから、最初は手伝うが最終的には需要の調査含めて一人で回せるようになるんだ」


「私が支援するのは、交渉面ね。とりあえず今夜のパーティでここにくるイデアとプレイヤーの情報を共有するわ。グランドクエストの話題と並行して、新しい事業を始めれるチャンスよ。心配はいらないわ。この後みっちりしこんであげるもの」


「え、ええと……お、お手柔らかにお願いします」


「ああ、安心してくれ」


「ええ、安心しなさい」


 その通り、ぜひとも安心して欲しい。






「りんご飴のことを立派な生産廃人に鍛え上げてやろう」


「りんごちゃんのことを立派な交渉人に鍛え上げてあげるわ」


「ひぃっ!?」


 りんご飴は何か怖いものを見たかのように小さく悲鳴を上げた。





 りんご飴魔改造計画、スタートだ。

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― 新着の感想 ―
1番恐ろしいのは戦闘職ではなく生産職なんだよねぇ
[良い点] 一口にりんご飴といってもシンプルに水飴だけだったり、シナモンをかけたり、ココアをかけたり、種類がありますからね。アレンジし放題です。そういうことではない? とぼけるのはここまでとして、いや…
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