第18話 外れたるは一つ目の『枷』
□月光の樹海 6F クロウ・ホーク
《呪物操作》消費MP1以上
所持権を有する任意の呪物を自由に操作することが可能になる。
クールタイム:15秒
「消費MPが1以上、か……」
新しく覚えたスキルは《呪物操作》。
レイラーが呪いの藁人形を動かすときに使用していたスキルだ。
考えられるのは固定値ではなく操作時間や実際に動かす量に依存する。
もしくは込められている呪いの量に応じて変わるとかか?
レイラーが人形を動かしていたのを見るに、自由度は高そうではあるんだよな。
「ま、物は試しだな」
早速<呪われた片手剣>を取り出した。
「《呪物操作》」
すると、<呪われた片手剣>と自分の中に存在する何かとパスがつながった感覚がした。
「……」
そのまま剣を動かすイメージをすることで<呪われた片手剣>はひとりでに宙に浮き……
「動いたわね」
「……いや、なんだこれ?」
「うん、なにかあったのかしら?」
おかしい。
いや、おかしくはない。
ただ、この感覚を俺は知っている。
同じではない。
まるっきり別物だ。
ただ明らかに、己の中に流れる何かを操作する感覚を知っている。
「《呪爆》のキャンセルはほぼ無意識だったな。《呪縛》は殺傷した対象に込められた呪いの痕跡を起点としてて。スキルを唱えたら勝手に発動してくれるから……いや、これは気づかないとダメだろ」
俺は大きな見落としをしていた可能性がある。
仕様として処理していたそれを、再度整理する。
「すぅーー……、ふぅーー……」
いつぶりだろうか。
呼吸を整え瞑想する。
自分の中にある”何か”を認識するために深く、潜る。
「……」
──それは冷たく暗かった。
《呪物操作》で繋がった感覚はあったのに、いざ意識しようとすると全くと言っていいほど、静かで認識ができな……うん、見つけた。
「ははっ」
こんな簡単なことに気づけないなんて、俺も浮かれすぎではないだろうか。
「新しい感覚器官が生えるというか、要は認識できる対象が増えるイメージではあったが。MP、魔力、いやこの場合呪力か? あいつ風に言うなら色が違うってやつなんだろうな……」
俺は、魔法が大好きで大好きで仕方がない知り合いを思い出す。
彼女であれば、この世界にログインしジョブに就いた瞬間に気づいていたことだろう。
そしていつも通り「こんなこともすぐにわからないの? だからクロウは私に勝てないのよ!」と自信満々に煽ってくるはずだ。
……想像の中ですら煽ってくるのか。
そういえば彼女は、あの愉快な連中は元気にしているだろうか?
久しぶりに顔を出してみてもいいかもしれない。
そして、魔力器官が用意されているであろうゲームを見つけたと情報共有ぐらいはしていいだろう。
【呪術師】にこれがあるなら、他の魔法職にも用意されていると見ていいはずだ。
「ラグマジの時もそうだったけど、魔法系と相性悪いのかもな……」
ラグマジはたしか、一週間ぐらい毎日瞑想してたな。
他の連中に魔力を掴む感覚を先越されるたびに煽られたっけか?
今ではいい思い出……いや、そんなことはないな。苦い思い出だ。
その後連中をボコして数百倍にして煽り返したのはいい思い出だな!
そうだ。
これであるならば。
全ての前提条件がひっくり返る。
「ユティナ」
「なにかしら?」
「たぶん、手数の課題は解決した」
──《気配感知》に反応有り。
「ブブブ」
「シギャオオオッ!」
空中から複数体の蜂が、頭上から光り輝く蛇が襲いかかってくる。
ここまでがダンジョンのチュートリアル。
初心者用の狩場。
そしてここからは、初心者を抜けた者たちを殺すための世界。
<カイゼン樹林>のように中級者を殺す世界だ。
だが。
「クロウ! って、……え?」
<月鳴りの剣>を振るい。
宙に浮いた<呪われた片手剣>を操作し。
そのすべてを弾き、斬り払った。
「気づいた情報を共有するぞ。俺も少し整理するから、独り言みたいになるかもしれん」
「え、ええ。わかったわ!」
月鳴りの剣で斬った<ムーンビー>は相応にダメージを負っているが、《呪物操作》で弾いた蛇や蜂は怯んだだけで傷という傷がついていない。
ダメージは与えているが微々たる物だ。
「消費MPは予想通り操作対象に込められた呪いの量依存だろうな。強力な呪物を操作するには使用MPが上昇すると。使い勝手は良さそうだ。ダメージとしては俺のステータスではなく操作対象の所有攻撃力に依存……いや、どっかのステータスが追加で参照されてるか? 仕様的にINTかDEXあたりだろうな。物理演算も適用されるから全くダメージが出ないというわけではないと」
ただ、この世界ではある程度のレベルを超えると10メートルぐらいの高さから落下するよりもレベル50の戦士が適当に剣で攻撃した方がダメージがでるからな。
物理演算にステータスという係数をかけることが重要だ。
故に、レイラーの呪いの藁人形のように追加アタッチメントを加えた呪物を用意し運用するのが主流なのだろう。
前衛を呪いの盾に任せ、呪術師は後方から呪物の投擲や《呪弾》のような攻撃手段で負荷をかけ続ける。
直接武器を操作するよりも隙は少なくなるし、中後衛の立ち回り的にその方が理にかなっているな。
このまま運用するなら呪物の品質を上げる必要がある。
それに比例して《呪物操作》の消費MPが増えるのは避けられなくなってしまう。
しかし。
「これで、手数は増えた」
そして。
「《反転する天秤》」
俺の手元に剣を寄せ、スキルを発動させる。
呪いの武器の所有攻撃力は基本マイナスになるが。
そのまま再度操作し蛇に向けて勢いよく突き刺す。
「シギャアアア!?」
その一撃は蛇の目から脳にかけて突き刺さる。
頭部を破壊し、蛇はそのままポリゴンとなって砕け散った。
「これで最低限の火力は確保した」
次だ。
「【可変詠唱】はあくまで、NPCが魔力を操作する感覚を疑似的に再現できる技術だ。極論を言えば【可変詠唱】でできることは【魔力操作】でもできる。違う。順番が逆だ。【魔力操作】を真似できる隠し要素が【可変詠唱】だ」
魔力とはMPであり。
MPとは呪力であるのだろう。
「俺は知っている。レイラーは《呪弾》の威力を抑えたと。呪力の操作も体系的に組み込まれていると。つまり、当然【可変詠唱】でできることは【呪力操作】でできるわけだ」
己の内側に眠る冷たいそれをひねり出し、分割し……放出。
「《呪縛》」
《呪縛》を発動させ、【可変詠唱】せずに蜂を複数体同時に拘束した。
「消費MPは対象が増えたことで指定対象数分増加。クールタイムは変化なし。《呪言》無しでの強化はできない、制限されたな。状態異常の付与だから攻撃とは処理系が異なると。クールタイムっていうのはスキルを発動させたときに穴が塞がるだけで、出力する穴の数は……いや上限はあるな。システムかアバターか、レベルを上げる必要はありそうだ」
最後に。
そのまま<呪われた片手剣>を目の前に移動させ、空中に固定。
<ムーンビー>と表示されているモンスターに向けて。
「《インパクト》」
月鳴りの剣の柄で、<呪われた片手剣>の柄の部分を殴りつけ衝撃を与える。
その衝撃を逃がさないよう《呪物操作》で整形し勢いを殺さず……射出。
「ギギ!?」
その一撃は、俺の投擲によって行われた一撃は、的確に<ムーンビー>の胴体を貫き。
「《呪爆》」
身体の内部から爆発させ、<ムーンビー>はポリゴンとなって砕け散った。
「投擲判定は据え置き、と。悪くない」
いや。
「なんなら良すぎるぐらいだ」
環境を、スキルという力を、己の存在を。
この世界を再定義する。
「スキルの説明に書かれているのはあくまで定性的に担保された情報だけだ。基礎値であったり最低出力値であったり。スキルを唱えたら、何もしなければシステム上それだけ消費されますよというだけの情報だ」
米印でわざわざ注意書きがしてあるスキルは、誤解が生まれないようにするためのものだろう。
スキルの発動自体は全プレイヤーに担保されている。
【可変詠唱】による拡張性も担保されている。
ならば、それ以上は?
「魔力操作などは単純にプレイヤースキル。いや、才能の有無こそあれ技術としてこの世界では体系的に組み込まれていて、誰でもそれをできるようにしたのが【可変詠唱】などの隠し仕様である、と。当然だけど因果関係が逆だな」
【可変詠唱】があるから魔力操作があるのではない。
一部のNPCは【可変詠唱】などなくとも自らの魔力を、魔法をコントロールしている。
情報として知っていながらも俺は、この事実を本当の意味で理解できていなかった。
なんたる体たらくか。
「そう考えると《詠唱》の存在理由は威力の底上げよりもどちらかというと言霊の要素のほうか? 言葉として紡ぐことにより、魔法に変化を加える文字通りの《詠唱》。そうなるとだ」
確か《詠唱置換》だったか?
「【魔力操作】で整形して、可変詠唱による言霊によって意味を与え、魔法スキルの発動詠唱を《詠唱置換》し自分の好きな魔法名で唱えれば……」
疑似的なオリジナル魔法の発動もできるのではないだろうか?
いや、できてもおかしくないだろう。
なにせこの世界は。
「仮想現実、か……」
もしかしたらだ。
ようやく俺は、この世界に生まれ落ちることができたのかもしれない。
心踊る冒険がしたい。
自分の好きなように魔法を操りたい。
剣を、魔法を、五感の限りを尽くして楽しみたい。
そんなことを考えたことはないだろうか?
俺は、ある。
「ひひッ」
さぁ、レベル上げを開始しよう。




