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第1話 サンドヴェール撃滅戦

第11章開始

□交易都市サンドヴェール ブランケット商会本館


「にゃにゃ! いっ、いったいぼくちんの街で何が起こってるんだにー!? なんで結界が解かれるんだ!? 地下室はどうなってる!」


 交易都市サンドヴェールが代表、ブランケット商会会長のブランは窓の外から見える景色を見て悲鳴を上げる。


「……おそらくやられてますわ。連絡がつきません。商業ギルド並びに各種ギルドからの通信も途絶してます。傭兵ギルドとも連絡が取れねえときた」


「ま、まさか全部同時にやられたっての!? 各ギルド長は!?」


「安否不明です。まー、期待しない方が良さそうですねぇ」


 ガスラディンは冷静に戦況をブランに告げる。

 各種ギルドに設置された起点全てが破壊されたことによって既に結界の効果が切れていることを。


「くそぉ、一体どこのどいつだ! ぼくちんを敵に回して生きて帰れると……」


 憎らしげに表情を歪ませたブランはすぐに顔を青ざめさせた。


「ま、ま、ままままずいいいい! ヴァルドラーテからの客人に何かあったら、ぼくちんの地位が!? これまで築き上げてきた全部が終わっちゃう〜!」


 冷静に商人としての頭脳が告げる。

 襲撃を受けて対処に遅れた。まだなんとかなる。

 市民にも被害が出た。まだやれる。

 少なくとも、10大都市を治める影響力は()()()()()で揺らぐことはない。

 だが、竜人国からの使節団に何かあるというのは駄目だ。


「いや、大丈夫だ。なんせ一騎当千の戦士長がいる。竜人国の兵士は精鋭揃い。それに、こういった時のためにホテルには護衛も配置しておいたんだ。大丈夫に決まって……」


「ホテルにいるはずの傭兵団との連絡もつきませんね。さっき確認した時は無事でしたので……おそらく、この数分の間に全滅させられてます。まー、間違いなく襲われてますわ」


 あ、終わった。

 少なくとも国際問題確定だこれ。

 もう無理諦めよ。

 ブランの脳内はいかにこの後の敗戦処理のダメージを小さくするかにリソースが割かれ始めた。


「ガスラディン! ぼくちんが許可する! 一刻も早くヴァルドラーテの皆様方を救助してここに戻ってくるんだ!」


「いいんですかい?」


「どうせ、ここでしくったら僕の首は飛ぶんだ! 王族2人だぞ!? 絶対守れ! すぐ守れ!」


 ブランは考える。

 確かに、一部急いたために守りが薄くなっていた箇所はあっただろう。

 だが、これほどまでのことを為せる戦力を見逃がすような甘い防衛網を立てたつもりもなかった。


(カラブ帝国はありえない。大規模な軍事侵攻でもにゃい。哨戒任務も出しまくったし、周囲で活動が確認されてた盗賊団はほとんど潰した。一部には逃げられたって連絡はあったけど。周辺の街や村で被害が出たという連絡もなければ不審な一団がいるという報告もなかった。いったい誰が……)


 今日という日のために不確定要素に成りうるものは全て取り除いた。

 多くの傭兵や冒険者と契約を交わし雇い入れ、合計レベルが高い者がいれば軽く事情聴取を行う。

 《鑑定眼》と《嘘感知》の魔道具を用いることによって、不審な人物はすぐに弾くことが可能だ。

 つまり、ありとあらゆるスキルや魔道具による検査を潜り抜け、事前にかつ計画的に同時に結界の魔道具の起点を潰せるように人員を潜ませなければ出来ないはずで。


「でも、ここから動いたら、ブラン様死にますよ」


「…………へ?」


「ほら来た」


 直後、()()()()()()()そのままブランの頭蓋へと迫る。

 それを察知していたガスラディンは素手で受け止めた。


「ね?」


「は、わはわわわわわわわ!?」


 受け止めた衝撃で室内の書類が一斉に吹き飛ぶ。

 ガスラディンが防がなければそれだけでブランは頭蓋を貫かれ即死していたことだろう。


「非生物に対する透過を付与する【透過の加護】ですねぇ。しかも、この威力となると……」


 【透過の加護】。

 手で触れた対象に数秒間全ての非生物を透過する特性を持たせるという世界からの祝福の名だ。

 建物の壁は当然のこと、ありとあらゆる結界、魔法的防御、果てには剣や盾といった装備類まで。

 それを付与された矢はありとあらゆる守りをすり抜け肉体だけを穿つ一撃となる。


「相手は【透明射手(インビジブル)】ダケッドで間違いないでしょう。有名な殺し屋ですよ」



「あらら、受け止められちゃった」


 ブランケット商会の商館近く。

 街の中央付近にある建物の()()で少年が残念そうに息を吐く。


「さすがにばれたかなー。でもガスラディンはこれで動けないねー」


 少年は周囲の建物から飛び出した傭兵や冒険者が近づいて来る気配を捉えた。

 ブランケット商会目掛け放たれた矢から位置を逆算しおおよその居場所を割り出した者達だ。

 このままではすぐに包囲網が縮まり居場所を割り出されることだろう。


「わー、凄い数。僕人気者じゃん」


 しかし、焦ることなくその手に持った矢に自らが有する祝福を分け与える。


「《追跡付与(チェイス・エンハンス)》」


 【弓術士】が有する誘導効果を付与するスキルによって矢を強化。

 少年は再度、弓に矢をつがえる。


「ゲギョギョ!」


「ちょっと静かに……ね!」


 【透過の加護】は非生物に対する透過効果が付与されるため、本来であれば弓につがえるようなことはできないはずで……しかし、その弓は生きていた。

 【魔弓】<デスポロイ>。

 肉体を持つ怨霊系のモンスターであり、ダケッドが使役する従魔だ。


「《千矢(サウザンドアロー)》!」


 そのまま空に目掛け矢が射出される。

 放たれるは【弓術士】の純上級職【狙撃弓手】が有する奥義。

 天高く上がったそれはスキル効果のままに無数の矢に分裂し……


「死んじゃえ!」


 周囲一帯に死の雨が降り注いだ。

 【透過の加護】により、ありとあらゆる防御手段を貫通。

 追跡特性が付与された誘導弾幕によって、多くの人影に矢が突き刺さる。

 悲鳴が響き渡り、多くが赤いポリゴンをまき散らしながら砕け散っていく。

 殺し慣れている少年からすれば市民を巻き込むことに躊躇するわけが無い。


「おっと。やるぅ!」


 ダケッドは急ぎ窓から身体を乗り出し飛び降りた。

 瞬間、先程まで彼がいた建物へ多くの魔法や遠距離攻撃が殺到し爆発した。

 先程の死の雨を潜り抜け、もしくは被弾してでも放たれた多くのスキル。

 しかし、距離があるがために余裕をもって躱された形だ。

 そのまま空中で再度矢をつがえ、横にある壁目掛け射出する。

 透過の加護により建物を丸ごと通り抜けながらその矢はブランケット商会の会長室へと一直線に放たれた。


「はいざんねーん。かくれんぼしよっか! あっはっはっはっは!」


 そのまま少年は蔑笑を浮かべながら周囲の建物に身を隠した。



「襲撃犯は【盗み屋】の一味ですね」


 ガスラディンは再度ブランへ放たれた死の一撃をその手で防いだ。

 先程までとは角度も距離も異なっている。

 【透明射手】はありとあらゆる障害物も意味をなさないままに目標の急所を仕留める殺し屋だ。

 結界の魔道具によるダメージ減衰効果があるならばともかく、合計レベル550の少年から放たれる矢の威力は通常攻撃であろうともそこらの非戦闘職は一撃で即死である。


「先日、カラブ帝国で【分身】の異能が盗まれたと連絡が来てましたしね。おおかた、分身を潜ませておいて同時に結界の起点を潰したんでしょう」


 魔道具による感知もスキルによる索敵もいくらでも潜り抜けることができるスキルやステータスという制約に縛られない存在。

 それが異能狩りと呼ばれた男だ。


「少なくとも、ブラン様から俺は離れられないですね。どこからでもダケッドに狙われる上、結界の起点を破壊した【盗み屋】の分身が建物の中に隠れ潜んでる可能性が高い」


 既に離脱していようとも、可能性があるだけで身動きを取れなくされた。

 冷静に傭兵としての勘がこれはほぼ詰みだと判断を下す。


「とりあえず、俺の部下は向かわせましたが……」


 【盗み屋】に対抗できる戦力もいるが、己のように既に手を回されていると見ていた。

 少なくとも、ヴァルドラーテ使節団の救援に向かわせられるような状況ではないことは明白。

 急ぎ連絡の取れた部下には向かわせたが【盗み屋】相手にどこまで時間稼ぎができるかは怪しいところだ。


(こうなるのを危惧してたんだよなァ。【分身】とかなんだか知らねえが、なんてもん盗まれてやがる)


 国際指名手配犯【盗み屋】。

 ひたすらに成長を重ねる存在は、ついには10大都市の1つに対し正面から喧嘩を売るまでに至った。


(あの時仕留められてれば……いや、せんなきことか。ヴィルガイアさん含めて俺らの全兵力を費やしても逃げられた以上どうしようもなかった。ただ、ラトゥーニルビア商会はまた面倒なことになりそうだねぇ)


 ちらりとガスラディンは自らの雇い主を見た。

 このまま終わればおそらくブランは失脚する。

 流石にブランケット商会がそのまま潰れるようなことにはならないが、少なくとも会長から引きずり降ろされることは必至。


 ()()()()()()()()、だ。


「ガスラディン! 街の拡声器に繋がる魔道具を寄越せ!」


「下手なことを言えば余計に詰みますよ」


 そう言いながらも、どこか楽しそうな表情で手元にある連絡用の魔道具をブランの元へと持っていく。

 緊急時に使われる《拡声》の魔道具であり、これはその特別製。

 街の各所に設置してある拡声器から声を届けるためのものだ。


「舐めるなよ。ぼくちんを誰だと思っている! ブランケット商会会長だぞ! 10大都市を治める大商人様だ!」


 それを乱暴に掴み上げブランは叫んだ。


『こちら! ブランケット商会会長ブラン! 手短に状況を説明する!』


 それすなわち……



『現在街を襲撃しているのは【盗み屋】とその一味であることが確認された!』


「【盗み屋】って誰だ?」


「あれですよ、国際指名手配犯ってやつです?」


「あー、なんか聞いたことあるような気がするな」


「襲撃イベントキタコレー!」


 状況を把握しきれていない者達はそれにより現状を認識する。

 中でも竜人族を一目見ようと集まっていた旅人は、()()()()()()に巻き込まれたと理解した。



『結界の魔道具が機能を停止していることから特例条項を発令! 街中での戦闘行為には一切の責を問わないものとする!』


「おーほっほっほ! ようやく来ましたわね! ずばり、『事件の場に居合わせ、それを解決に導いた謎の超絶美女』作戦開始ですわ!」


 扇子を取り出した旅人は意気揚々と戦闘音が鳴り響く方へと歩き出した。

 自らの渇望を満たすために。

 長年抱えた憧憬を叶えるために。


「セバス! 行きますわよ!」


「はっ! すべてはお嬢様の御心のままに」


 従者はそれに付き従うのみ。



『まずは人命が最優先だ! 建物も、アイテムも、装備もいくらでもぼくちんが補填してやる!』


「NPCがNPCを襲撃するのか」


 放送を聞いた青年は眼鏡の位置を整え1人自問する。


「これまで何度も話には聞いていたが興味深い限りだよ。味覚の完全再現を始め、明らかに技術的特異点(シンギュラリティ)に到達している。なぜ、たかがゲームにこれだけの技術が費やされているのか……君もだ」


 青年は手元に抱えた小さな正方体に視線を送る。

 まるでキューブのようなそれこそが青年の<アルカナ>だ。


「そういえば、こういった催しに参加するのは初めてだね。あまり荒事は得意ではないんだけど」


 合図を送ると同時にその正方体は細かく分離し膨張。

 鳥、蜘蛛、ネズミといった多種多様な動物の形へと変形していく。


「情報収集といこうか」


 機械の肉体を有した動物兵器たちは、光学迷彩によってその姿を消し街の各地へと散らばっていった。



『街の各所にいる冒険者、傭兵並びに旅人に緊急依頼を発行!』


 旅人よ。

 世界を謳歌する異邦人よ。


『【盗み屋】討伐に貢献した者には、()()()()()()()()()()()()()()()()! 金で手に入るものならなんでも好きなものをくれてやる!』


 武器を取れ。

 己を鼓舞せよ。

 守りたいものを守るために。

 己が欲望を満たすために。


『金と名誉が欲しい者は、これが! 我らが連盟にとっての仇敵を討つ機会だと肝に銘じよ!』


 故に。


『ぼくちんが許可する! 【盗み屋】を! 討てえい!』




【グランドクエスト】難易度10【サンドヴェール撃滅戦】

場所:交易都市サンドヴェール

依頼者:ブランケット商会会長【大商人】ブラン

目的:国際指名手配犯【盗み屋】とその一味から街を防衛・【盗み屋】の一味の撃滅

報酬:経験値(達成度に応じ変化)+???




 10大都市を治める大商人が一角の名の下にグランドクエストは発行された。


……………………


………………


…………






「一体何が起こっていやがるんですかね?」


 周囲が騒がしくなったのを見て耐熱用の飴を噛み砕いた少女は仲間達に問いかける。


「さあ、お祭りじゃね?」


「ふっ。狂乱の宴」


「興味ないね」


「いや、どこをどう聞いても襲撃されてるだろーが。何言ってるんだおみゃーら」


 あまりの緊張感の無さに一匹の猫が思わずといった様子で突っ込んだ。


「うるせーです。生意気でいやがります。素材が欲しいんでいやがるんでしょう? いいんですか、そんな反抗的な態度で」


「うにゃー、使い魔ハラスメントだにゃー……」


 黒猫は箒に乗っていた少女に頬を包まれた。

 そのままぐにぐにと顔を変形させられたので抗議の声を上げる。


「とりあえず、【盗み屋】とその一味とやらを倒せば報酬が貰えるみたいだな。いっちょやりますか?」


「……おみゃーら、敵味方を分別できるかにゃ?」


 やる気を出した面々に対し冷や汗を垂らしながら黒猫は確認を取る。

 彼らの表情が正義感に満ちたものではなく、街中で存分に暴れられるという大義名分を得た愉悦の笑みだったからだ。


「暴れてる連中全員潰せば解決でいやがりますよね?」


「自明の理」


「興味ないね」


 結果、当然というべきか。

 提案されたのはあまりにも力技過ぎる解決方法だった。


「待って! とりあえず、敵の姿が確認できるまでおとなしくして! アタシが探ってくっから! わかった? ふりじゃないからね! アタシが許可を出すまで絶対に暴れないでよね!」


「えー……」


「ぶーぶー!」


「百の顔を持つ者よ。それはあまりにも退屈な提案だ」


「興味ないね」


「えーじゃないし! ブーイングもするなし! 全く……」


 黒猫はまるで無形物のように形が歪み始める。

 そして小鳥の姿となり、そのまま空へと飛び立っていった。


「ふっ。さて、実際どうする?」


「まー確かに無差別爆撃しそうな奴もいるからなぁ。その責任の所在を求められても面倒だ」


「おい、一体誰のことを見て言っていやがりますかね? 詳しく話を聞いてやりますよ」


「興味ないね」


 この場に残された旅人一行は仕方がないと、言われた通りひとまずは周囲の流れに身を任せることにした。




 ──サンドヴェール撃滅戦、開戦。

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― 新着の感想 ―
あ、更新ありがとうございます
本章も感想返しありがとうございます。 魔域の浄化の時もそうでしたが、今まで出た(もしくは存在が匂わされてた)人物視点での進行はテンション上がります!浄化作戦の時は誰が参加するっていう情報があったので、…
きた!ついに新章きた!待ってました!! イデアルマジックの面々に加えて、眼鏡の青年はもしや… 人外達がどのように立ち回るのか凄い楽しみ!
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