第14話 真贋の仮面
□猫の休息所 クランホーム クロウ・ホーク
「クロウ! 売れるアイテムを見つけたよ!」
りんご飴はクランホームに来た俺を見るやそう報告してきた。
ルクレシア王国の商売部門のランキングを見れば上位300位というところまで来ている。
どうやら、彼女にとっての武器を見つけたらしい。
彼女が取り出したのは一つの仮面だ。
「それは?」
猫型のお面といえばいいのか。
口元が見えるタイプだ。
縁日で見たことあるな。
りんご飴も斜めに掛けている。
「【仮面作成師】で作れる仮面の一つだよ。猫型なのは私が自分で作ったからかな?」
【仮面作成師】か。
「試しに5個作って置いておいたんだけど、全部売れたんだ。レシピ生成もしておいたよ!」
そこだけ聞くとかなり調子がよさそうに見える。
「それはすごいな。どんな効果だったんだ?」
「見てみるかい? どうぞ!」
そしてりんご飴から渡された装備を見てみる。
***
猫仮面
装備可能条件:レベル1以上
耐久値:222/222
装備補正:DEX+100、《鑑定眼》+1
装備スキル:《真贋の眼》
【嘘】・【偽装】を見破りやすくなる。
***
「このお面はもとは<真贋の仮面>っていうんだけどね、装備補正に《鑑定眼》+1がついてるから、それで売れたんだと思う。あと、耐久値がにゃーにゃーにゃーだからかな?」
「なん……だと!?」
《鑑定眼》付きの特殊装備だと!?
いや、待て。
「レベル1じゃなくて、プラス1?」
「うん、そうだね」
しかも装備可能条件がとてつもなく緩い。
「……ちなみに、作成条件は?」
「えーと、待ってね。メモを残して置いてあるから……【仮面作成師】の全てのスキルレベルが最大で手動で77種類以上の仮面の作成を成功させた後、自分の手で作成した感じかな。素材も作り方もわかってたんだけど、条件がわからなくてね。前から結構素材を無駄にしちゃってたんだよね」
そう言って<真贋の仮面>の失敗品を見せてくる。
【盲目】のマイナス効果が付いた装備だ。
作成するには特定の条件の達成とジョブの補正が必要なタイプの装備か。
さすがにマイナーなジョブの、さらに特定条件達成が必要とはいえこれは……
「値段設定は?」
「素材が珍しくて数を用意できなかったから3000スピルぐらいに……」
俺は切れるぜ。
値段設定についてもう少し話しておくべきだったか。
「しようと思ったんだけど、メリナに相談したら10000スピルでも安いぐらいだって言われたから30000スピルにしたよ」
「当然よね」
と思ったが、それは杞憂だったらしい。
それにしても。
「これで15万スピルの儲けか……」
ある種の特需みたいなものだな。
これでりんご飴は俺が数日ダンジョンにこもりっきりで稼ぐような額を、運が良ければ1日で稼げるようになった。
これは、【仮面作成師】のいわゆる奥義のようなものなのだろう。
鑑定眼のスキルレベルが+1。
つまり、スキルレベルが最大の《鑑定眼》Lv5があれば、《鑑定眼》Lv6になるはずだ。
偽装スキルのようにステータスやアイテム情報を偽装する方法は一部存在している。
そういうのを見破るには合計レベルが高いか、スキルレベルが高いかが必要だ。
《気配感知》と《気配遮断》の関係のように。
《鑑定眼》をもっていなければそのまま《鑑定眼》Lv1を覚えられるのか?
「ちょっと装備してみてもいいか?」
「うん、いいよ」
試しに装備してみる……。
そしてステータスを見ると、あった。
《鑑定眼》だ。
「ありがとう、返すぞ」
「うん、別にいいのに……」
いや、さすがに30000スピルで売れるアイテムを貰うのは気が引ける。
それにしても、これはなかなか"持ってる"な。
少なくとも【仮面作成師】のスキルレベル上げをしているプレイヤーは今の環境ほぼいないとみていいだろう。
サービス初期組のりんご飴より先に仕上げれたプレイヤーは少数派のはずだ。
最初に選べる下級職は300種類以上あって、そのうちの多くは趣味ジョブや非戦闘系のジョブだ。
さらにその中で、NPCにも資料がほとんど残っていないジョブ。
いわゆるマイナーよりのジョブの一つが【仮面作成師】だ。
サービス開始から地道にスキルレベル上げを繰り返してきたりんご飴の努力が実った形である。
「値段設定を30000スピルにしたのは?」
「えーと、素材の供給量が足りないからだね。売れるなら少し高めに設定してでも需要とのバランスを取りたいし、ほら」
そして、りんご飴は。
「もしかしたら私の後にもスキルレベル上げが追いついて販売する人もいるかもしれないよね。その時に私のせいで値崩れしてたら申し訳ないなって」
──完璧だ。
「もう、俺が教えられることは何もない……」
「うわ、急にどうしたの!?」
生産人たるもの、常に後続のことを考えられるようにならなければならない。
なぜなら、彼らも将来的には良き商売相手となるからだ。
ある程度の余裕、自分の商品に絶対的な自信があるならば、これまでの積み重ねがあるならば、自分より安く販売するものがいても問題ないという心の余裕が必要なのだ。
その余裕こそが次を見つける力となる。
「負けたよ、りんご飴」
彼女には拍手を送ろう。
フォーエバー、りんご飴。
「え!? ちょっと怖いんだけど! いつもみたいにしててよ」
「猫型っていう形でオリジナル性を出したのは考えたな。そういう観点でも値段を高く設定するのは間違ってないぞ。あとは色違いとか模様違いを作れるなら作ってみてもいいかもな」
「そうそう、それがクロウだよね……」
俺のイメージについていつかりんご飴とは話し合う必要がありそうだな。
(妥当な評価だと思うわよ)
そこ、ククルと遊びながら毒を飛ばすんじゃありません。
☆
おおよその内容は理解した。
「それで、素材がないのが問題なんだな?」
「うん、他の素材は市場にあるんだけどマライト鉱石がなくてね」
「鉱石となると、西の方の鉱脈の採取アイテムか?」
ルクレシア王国西部のゴズ山道のさらに奥にあったはずだが。
「ううん、中級相当以上の岩石系のモンスターとかからドロップするんだってさ。あとは下級モンスターのレアドロップみたいだね。いつもお世話になってるところで買ってたんだけど、品切れになっててね」
他にも使い道が豊富な人気のアイテムらしい。
「中級モンスターの素材が市場に当然のように並ぶのはもう少し先になるでしょうね」
メリナは補足するように続けた。
おそらく、旅人の平均レベルや討伐実績の情報などから考えた結果だろう。
中級モンスターと呼ばれる存在と戦う時は少しの油断で普通に死ぬからな。
「なら、納品依頼だな。ギルドの仲介料込だと少し高くなるが、売り上げの一部を次に繋げるコストにしてしまうのも1つの方法だ」
「最初に言ってたやつだね! それじゃギルドに行ってくるよ。……うん、私も生産職の立ち回りがなんとなくわかってきたかな? クロウ、ありがとね!」
そして、りんご飴はクランホームから飛び出していった。
ギルドに依頼を出しに向かったのだろう。
「さーて、俺もそろそろお役御免だな」
「あら、もう手助けはしてあげないの?」
「正直、俺が教えられることは一通り教え終わったからな。平日にもつれ込む可能性も考慮してたが今日ここまで成功したなら余裕で間に合うだろ」
俺が教えられるのはあくまで立ち回りとか心得とか、そういうところだった。
もともとりんご飴は生産職としてこの世界のプレイヤーでは上位層に位置している。
逆に俺は、売れることのない呪いの装備を生み出すエセ生産職だ。
だから、本来であれば俺が教えられることはないはずだった。
たまたま、りんご飴の経験がなかった箇所があったので今までの経験から俺もサポートすることができただけだ。
逆に言えば、それしかできなかったともいえる。
「りんご飴が上位500位以内に入れるかは、あとはメリナ次第だな。俺ができることはもうほとんど終わりだ。クエスト部門はべっこう飴に頼むつもりなんだろ?」
そうすれば3方面からのアプローチが可能になる。
「ふふ、プレッシャーをかけてくれるわね。それで、どこにいくのかしら?」
そんなの決まっている。
「暇になりそうだし、ちょっくらレベリングを、な」
そろそろイベント交換用のポイントを本格的に集めたいと思っていたのだ。
「あら、そうなのね。それで、レベル上げはどこへ?」
「今まで一回も向かってない狩場にでも行ってポイントでも稼ごうかなと。西の山岳エリアとかな」
ゴズ山道のさらに先のエリアを散策するとしよう。
「そう。それならついでに冒険者ギルドで岩石系のモンスターの討伐依頼を合わせて受けたらどうかしら?」
メリナは親切にもそんなことを提案してくる。
「それはいい、メリナのアドバイスの通りギルドで岩石系の、そうだな。せっかくだし中級モンスター相当の討伐依頼を受けてこよう。ついでに納品依頼も併せて受けてこようかな。いい依頼があればいいんだが……」
できれば報酬が高めのやつがいいな。
「ちなみに、クエストの発行でもポイントは稼げるみたいよ」
「同時にギルドに依頼できる数には限りがあるみたいだけど、まぁクエスト部門って言うぐらいなんだし当然じゃないか? 補足すると、意図したクエストの達成はポイントはマイナス補正がかかるだけで、ちゃんと達成すればゼロにはなることはないらしいぞ」
だから、俺が誰が出したか知っているクエストを意図的にクリアしてもちゃんとポイントは双方に振り込まれるわけだ。
「……ふふ、茶番ね。それがかっこいいと思っているのかしら?」
「手が空いてるのもポイントを稼いでおきたいのも本当だからな。それに、初心者支援と辻ヒールはMMOの華だぞ? メリナが困ってたら一一で貸してやるよ」
支援に変に気を使わせるやつは三流だ。
そういうのはバレないようにするか、こちらにも利点があることを提示して気を負わせないようにアフターフォローまでするものである。
「あら怖い……クロウ。受け取りなさい」
「ん?」
トレード申請がきた。
ということは。
「ご期待に添えたようでなにより」
「ええ、護衛の依頼もしっかりこなしてくれたおかげで、私としても立ち回りしやすくなったもの。先に報酬は渡してもいいと判断したわ」
どうやらまだあるらしい。
「俺に頼らずとも、メリナならりんご飴に教えることはできたんじゃないか?」
「私の身体は一つしかないもの。それに、さすがに何でも知っているわけではないわ。生産職というよりは、競合相手の心理状態を考慮しながらの立ち回りとかになるでしょうね。クロウの言っていた思惑を張り巡らせる側になってしまうわ」
「あー、だろうな」
純粋に生産職としての立ち回りを教える姿が想像つかん。
そんなことをするなら市場の操作をした方が速いとか言い出しそうだ。
「そういう時は専門家に頼むのが一番よね」
「さいですか」
俺はメリナから<魔銀>なるアイテムを貰ったのでプレビュー表示で確認をする。
「これが魔銀か」
「たまたま手元に流れてきたのよね。5万スピル相当量の魔銀よ。武器に使うもよし、装飾品に使用するもよしの生産用アイテムよ。好きにしなさいな」
銀鉱石を加工して魔力を浸透させた特殊な銀だ。
用途は多くあるのだが、ルクレシア王国ではなかなか手に入らない品でもあるらしい。
魔導王国エルダンからの輸入品の一つとのことだ。
所属する国が違えばものの価値も変わる。
「そんじゃありがたく……りんご飴にはよろしく伝えといてくれ」
「ええ、薄情な男がりんごちゃんのことを放ってレベル上げに向かったと伝えておいてあげるわ」
「ありがとよ」
「……クロウもメリナも、本当は仲良いわよね」
何を言ってるんだユティナは。
「全然、まったく、これっぽちも」
「私はクロウよりもユティナちゃんと仲良くしたいわ。どう? 今夜私と美味しいご飯でも」
「え、遠慮させてもらうわね……く、クロウ! 早く行きましょ!」
「そう? 残念だわ」
メリナは本当に残念そうにクランホームから出ていく俺たちのことを見送った。
何がとは言わないが、そのあとめちゃくちゃ納品した。
金欠の俺たちには美味しいクエストだったとだけ言っておこう。




