385話目
話が進まないので、まだ肌寒い時期なのです。
このままだと真冬に夏の話を書く事になりそうです。
「……それで?」
俺が羞恥からの現実逃避を終えて顔を上げると、主様がフシロ団長へ簡潔な問いを口にする。
今度はちゃんとお口チャックで主様とフシロ団長のやり取りを見守ることを内心で誓う俺。
「ちゃっ」
便乗して肩の上で片手をバシッと上げて宣言するノワ。
ちょっと口から駄々洩れていたようだ。
フシロ団長からはぽふぽふと頭を撫でられ、ムッとした表情になった主様からはぎゅっと抱きしめられる。
たぶん、フシロ団長のぽふぽふが、主様的には叩いたように見えたんだろう。
ちなみに三人の子持ちなフシロ団長の力加減はバッチリで、痛くも痒くもないぽふぽふ具合だったんだけどな。
まぁフシロ団長は気にしてない様子で苦笑いしていたが、笑顔を消すとコホンと咳払いをして俺をじっと見つめて口を開いた。
「実はな、カイハク達がすぐ近くまで帰ってきている」
「へ?」
言われた内容が予想外だったのと、その内容が不可思議過ぎて俺の口から洩れたのはその一音だけ。
でも、それも仕方ないよな。
カイハクさん達と聖獣の森で別れてからまだ数日しか経っていない。
どう考えてもこんなに早くカイハクさん達が王都近くまで帰って来られる訳が無い。
唯一、俺のように転移陣を使えば可能だろうが、聖獣の森に作られた転移陣は主様にしか起動させられないらしいし、転移陣の使用はあり得ない。
俺の表情で言いたいことを理解してくれたらしく、フシロ団長は苦笑いのまま大きく頷いた。
「ジルヴァラの言いたい事はわかる。普通に帰ってきたなら、こんな短期間に王都へたどり着く訳が無い。ジルヴァラのように転移陣でも使わない限りは」
我が意を得たりと頷いて返すと、フシロ団長はふぅと息を吐いて気持ちを落ち着けるような仕草の後、窓の方を指差して見せる。
「カイハク達は、空を飛んで帰ってきたんだよ」
確かに空を飛べば最短距離で王都へ帰って来られるなと一瞬納得してしまったが、すぐに、ん? となってフシロ団長が指差している外を見てみる。
良い天気で青空が広がっている。
「カイハクさん、空飛べたんだ」
思わずそんな感想を洩らすと、脱力したような表情になったフシロ団長が大きく首を横に振る。
「……さすがに飛べないからな? 全員揃って、ロック鳥に乗せられて帰ってきた」
「ロック鳥!? じゃあ、さっき遠くから鳴き声聞こえたの、気のせいじゃなかったのか?」
乗ってじゃなくて、乗せられてという言い回しは気になったが、あのロック鳥に乗ってきたならもう近くまで来ていてもおかしくはない。
俺が納得してうんうんと頷いているど、フシロ団長からぐりぐりと頭を撫でられる。
「耳が良いな。今は、王都近くの草原に待機させているんだが……」
「なんで……って、そっか、あのロック鳥大きいから、王都まで来ちゃったら大変だよな」
フシロ団長の言葉に問い返しかけた俺だったが、すぐにあのロック鳥の巨大さを思い出して納得してしまう。
あのロック鳥が普通サイズだと思っていたから、王都の森にいるロック鳥に初めて会った時は、まだ子供なのかと思ってしまったほど聖獣の森のロック鳥は大きめだ。
体ば大きいけど性格は温厚で、俺はよく卵と一緒にあたためてもらっていた。
「その通りだ。だから、王都へ入る前に待機させているんだが、問題はそれだけじゃない」
重々しく首を横に振ったフシロ団長の言葉に、俺は目を見張って何となく窓の方を見る。
あのロック鳥が大きくてもさすがにここからは見えないのはわかっていても、つい何となく視線を送りながらフシロ団長をチラ見する。
「まだ何かあるのか? ケレンとカナフまで付いてきたとか?」
あの二頭も飛べるし、あり得ない話ではないだろうと思って口に出したのだが、フシロ団長はまた首を横に振る。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「ついてきているのは、真白い巨大な狼。──聖獣様だ」
「……マジかぁ」
予想外過ぎて思わず天を仰いだら、俺を見下ろしていた主様と目が合う。
フシロ団長が俺に力を借りに来た理由は理解出来てしまった。
犬がそんな馬鹿なことをするとは思えないが、人間の方が手を出してしまうかもしれない。
その前に俺が犬と接触して、余計な摩擦が起きないように話をして欲しいってことであろう。
「主様、俺フシロ団長のお願いを聞きたいんだけど……」
「駄目です、ロコが狙われます」
恐る恐る頼んでみたが、わざとらしくふいっと顔をそらされて主様と目が合わない。
俺が狙われるって、会いに行くのは犬と聖獣の森のロック鳥なんだけどと疑問に思ったのが顔に出たのか、ちらりとこちらを見た主様からぎゅうぎゅうと抱き締められる。
「聖獣様と仲の良いところなんて見られたら、色々な所から狙われる可能性があるということだ。それに関しては一応人払いをしてある。念の為、ジルヴァラに変装もしてもらう。近寄る時は俺が抱いていこう。……お前が抱いていると、正体がバレバレだからな?」
俺の表情を見たフシロ団長が、困り顔で微笑んで説明と、ついでに俺を離す気配もない主様へ釘を刺してくれた。
無言のまま、なんですと!? という表情をした主様だったが、すぐに何かを思いついた様子で虚空へ手を滑らすような動作をしたかと思うと、その手に白っぽいもこもこした布の塊を握っていた。
なんとなく嫌な予感を覚えた俺は、誤魔化すようにへらっと笑って主様を見上げたが、抱き上げられているので逃げられる訳もなく。
数分後には白っぽいもこもこに包まれてほぼ白熊の小熊となって煤けた俺と、やりきった感で満足そうにドヤッとしている主様の姿があり、それをフシロ団長が苦笑いで見つめるという光景が出来上がるのだった。
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