最後まで。
「良也ー。できたよー」
由美の呼びかけで目が覚めた。
慌てて周囲を見渡す。
桜庭家。そのリビング。
目前のテーブルにはいくつもの料理が並べられている。卵焼き、鮭、きんぴらごぼう。
――そうか。
こっちの世界に戻ってきたのか。
「すまんすまん。ありがとな」
礼を述べながら、さっきの不可解な現象について考える。
秋頃の三者面談。
謝る香苗。
別の道を勧めてくる先生。
それを頑なに拒もうとする俺。
たしかに12年前に起きた出来事だ。母が人前で涙を見せたのだから、いまでも記憶に色濃く残っている。
――だが、どうしてあんなものが今更。
「良也? 大丈夫?」
ひとりで考え込んでいたからだろう。由美が下から覗き込んできた。
「あ、いや。なんでもない」
いまは考えても詮無いことだな。
たぶんどう考えてもわからない。
「ん? 由美。それは……」
「あ♪ 気づいてくれたね!」
由美は誇らしげにニンマリ笑うと、右手の薬指をドンと見せびらかしてきた。
「昨日飯島さんからもらった指輪! 可愛いからつけちゃった!」
「お、おう……」
たしかに似合ってはいる。
稲荷塚古墳を模している指輪だし、縁起もよさそうだからな。
俺のそんな微妙な反応をどう捉えたものか、由美がちょっと眉を垂らす。
「あれ? 似合ってない……?」
「いやいや。そんなことない。似合ってると思うぞ」
「えへへ。やった♪」
いかんいかん。
俺は女性との会話がいまいち苦手だからな。
彼女の事故を防ごうとしているのに、別れたせいで助けられなかったのでは話にならない。
「じゃあ、由美。いただいてもいいか?」
「うん! どうぞ!」
俺たちは二人して手を合わせ、朝食を口にするのだった。
★
そこから先は怒濤の日々だった。
受験勉強。
チラシ配り。
里親を希望する人への連絡。
学校へ通いながら、それらのタスクを確実にこなしていく。
言うまでもなく相当にきつい。
特に平日は学校だけで一日の半分を取られるからな。
下校後、さらに受験勉強と里親募集をするのは大変だった。
それでも、いまの俺たちには協力者が大勢いた。
浩二や須賀はもちろん、香苗、渡辺ら陽キャメンバー。
そしてなんと、今井先生が新聞部を引き連れて手伝ってくれる一幕もあった。
だから俺や由美が毎日動かなくても、他の人がやってくれる。受験勉強も大事なことだからな。
だが、やはり現実は厳しいもので。
レオを引き取ってくれる人は、なかなか見つけることができなかった。
やはり老犬であることがネックらしい。これから新しく犬を招こうとするのに、わざわざ先の長くない犬を選ぶ人はそういない。
調べてみたところ、保健所においても多くの動物が悲惨な最期を辿っている。心身ともに傷つけられた犬も多く、やはり簡単には里親が見つからないらしい。
それなのにレオだけが助かるなんて、そんな都合の良い話はない。
多くの人は、可愛い動物との華のある生活を求めている。
そのニーズに応えることができない以上、ボランティア精神に富んだ人を見つけるしか手はない。
だが時間は待ってくれない。
刻一刻と期限が近寄ってくる。
それでも最後まで諦めない。
残り一週間、残り5日、残り3日……どんなに日数が少なくても懸命に動き続ける。
これまでの間、チラシ配りはもちろん、里親を希望する人の家に何度もお邪魔した。
だが結果には繋がらなかった。
レオは人見知りな性格をしているようで、他人の家に上がったときも、ずっと俺たちのそばで縮こまっていた。
そんな様子を見て、やっぱり断りたいと言い出す家族もいた。
こればっかりはもう、どうしようもあるまい。
そして――ついに引っ越しの当日がやってきた。
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