耳が少し良い探偵の話
初投稿です。アンチ、誤字脱字訂正、批判、その他諸々大歓迎です!不定期投稿です。ご愛顧のほどよろしくお願いします。
寒い。もう5月だというのに。
それは自分が寒がりだからだろうか。いや、そうではない。周りもそう感じているようだ。いや、確実に感じている。浅尾仁紀には周りの心の声が聞こえていた。仁紀は背負っていたカバンを背負い直した。そしてターゲットの男を尾行し続ける。仁紀はこの浮気調査が1番嫌いだった。ターゲットの後ろを気付かれないように尾行しながらいつ会うかも分からない浮気相手を待たなければならないからだ。が、今回の男は楽そうだ。さっきから心の声がダダ漏れだ。これなら先回りしても大丈夫そうだ。仁紀は聞こえてきた待ち合わせ場所に向けて足を速めようとした。
その時、体に軽い衝撃が走った。誰かとぶつかったようだ。足元を見ると1人女性が倒れていた。
「すみません。大丈夫ですか?」
仁紀が声をかける。
「あぁ、大丈夫です…」
その女性が仁紀を見上げる。特徴的な混じり気のない真っ黒な髪に、それに負けないくらいに真っ黒な瞳に見つめられて仁紀は少したじろいだ。しかしどう見ても大丈夫には見えない。その女性はどことなく負のオーラを纏っている。
「あの、どこか怪我でもされましたか?」
「いや、本当に平気ですから、気にしないで下さい。」
そういうと、女性は立ち上がって足早に去っていった。
残された仁紀は誰にも聞こえないような声でつぶやいた。
「聞こえない。」
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