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ようこそ幻想都市塔京へ   作者: 竜馬光司
25/43

第4話 その2

「勝太郎、勝太郎」

(またこの夢か……)

勝太郎は夢を見ていた。

それもとびきりの悪夢である。

何故これが悪夢と分かるのかと言うと、もう昔から何十回も見ているからだ。

だが悪夢だと知っていても彼は目覚めようとはしない。

何故なら幸せな頃の両親と、ほんの一時でも再開できるからだ。

「勝太郎。ほら起きなさい」

「うーん」

夢の中の幼い勝太郎が目を覚ます。

「あっ起きた。おはよう勝太郎」

「……おはよう母さん」

瞼を開けると目の前に、銀のロングヘアとルビーの瞳を持つ大好きな母ルミニスの美しい顔があった。

「ふふっ、おはよう寝坊助さん」

幼い勝太郎はルミニスの膝枕から頭を起こす。

「遊び疲れちゃったのね。お昼食べたらすぐ寝ちゃったのよ」

彼女の優しい声が彼の鼓膜を心地よく震わせた。

「まだ寝てる?」

ルミニスは自分の膝をポンポンと叩く。

「ううん、もう眠くないから大丈夫」

幼い勝太郎は膝枕の誘惑を振り切って立ち上がる。

ここは幼い時に勝太郎が両親とピクニックに来た公園である。

空は雲ひとつなく晴れ渡り、気持ち良いそよ風が吹いていた。

「そう。じゃあ遊んでらっしゃい」

「うん!」

幼い勝太郎は何もない広い原っぱを走り回る。

走っているのは自分しかいなかったが、彼はそれでもとても楽しかった。

それに振り向けば優しく彼を見守る両親と目が合う。

こちらに気づいたルミニスが幼い勝太郎に手を振る。

彼も手を振り返し再び走りだす。

幸せな、とても幸せなひと時だった。

(……でもここまでだ)

勝太郎がそう思った直後、いきなりあたりが闇に包まれた。

「な、なにこれ? か、母さん達は?」

幼い勝太郎は周りを見回し、背後の両親の事が気になり振り向く。

振り向いた先は激しい炎で包まれ、両親の姿はその炎に呑まれ見えない。

「母さん! 嫌だ母さん!」

幼い勝太郎は炎からルミニスを助けようと近づくが炎の勢いが強くとても近づけない。

「うわああああん。母さん。嫌だよ。いなくなっちゃ嫌だよ!」

勝太郎は炎に向かって泣き叫ぶが、何の意味もなかった。

気づくと完全武装した父、秀俊の姿が目に入った。

「お父さん?」

「すまん。勝太郎」

それだけ言うと、秀俊は炎の中に入っていく。

「父さん待って。僕も行くよ。置いてかないで!」

秀俊は幼い勝太郎の叫びを無視して炎の中に消えていった。

「うわああああああああっ!」

幼い勝太郎は叫ぶ。

声が枯れるのも構わず叫び続けた。

いつの間にか炎は消えて闇に包まれていた。

それでも勝太郎は無駄だとわかっていても叫び続けるのだった。


「……くん。海崎くん……勝太郎起きなさい!」

「はっ、母さん!」

「きゃっ!」

ゴチンという鈍い音が辺りに響く。

跳ね起きた勝太郎とミスフォルラの頭がぶつかった音だった。

「「いっ…………!」」

二人共、頭を押さえてうずくまる。

声も出ないほど痛かった。

「いたた、ごめんね海崎くん。大丈夫?」

ミスフォルラが額をさすりながら同じく額をさする勝太郎に声を掛ける。

「……大丈夫だ。ところで何でミスフォルラがここに?」

「ああ、時間過ぎても起きてこないから、心配になって、それで部屋の前まで来たら海崎くん。なんかうなされていたみたいだから……」

「鍵掛かってなかったか?」

「うん。開いてたよ。あっ、勝手に入っちゃってごめん」

ミスフォルラは自分のした事を謝る。

「そんなしょげるな。鍵を掛け忘れたのは俺が悪い。それに起こしてくれたんだ。礼を言うのはこっちの方さ。ありがとうな」

勝太郎はペコリと頭を下げる。

「なら良かった。もうご飯出来てるよ。早く食べよう」

「分かった。用意していくから、先に行ってくれ」

「あっごめん着替えるもんね。じゃあ下で待ってるよ!」

ミスフォルラは慌ただしく部屋を出て行った。

「やれやれ。騒がしいな」

それを見送ってから、勝太郎は身支度を始めるのだった。


制服姿の勝太郎が応接間に入ると、二人が挨拶してきた。

「おっ、おはようショータロー。待ちくたびれたぞ」

「お早う御座います。マスター」

バルイールは早く食べたくてウズウズしているのか右手に箸を持ったままで、メルヒェンは礼儀正しく深々と頭を下げる。

「おう、おはよう」

挨拶を交わしながら、勝太郎はソファに座る。

座ると目の前のテーブルに置かれた朝食から、美味しそうな匂いが漂ってきて、勝太郎の胃を刺激する。

「じゃあ全員揃ったから食べるとするか」

「はい」

勝太郎の言葉に返事をして、メルヒェンもバルイールの隣にある自分の朝食の前に腰を下ろす。

「ヤッホー。やっと食べられる」

バルイールは箸を持ったま両手を上げる。

「マム。お行儀が悪いですよ」

「……すいません」

それを見たメルヒェンに窘められていた。

「どうした? 座らないのか?」

なかなか座らないミスフォルラに勝太郎が声を掛ける。

「ミスティ。ほら座って座って」

「今座る。ごめんね」

バルイールにも促され、彼女は急いで勝太郎の隣に座った。

「「「「いただきます!」」」」

四人は一斉に朝食を食べ始める。

「ミスティの作った目玉焼き、いただきまーす!」

バルイールが大きな口を開けてそれを頬張る。

メルヒェンと勝太郎も目玉焼きを口に運んだ。

「ど、どうかな?」

ミスフォルラは三人の感想を待った。

「美味い。ミスティ。この目玉焼き美味しいよ!」

「はい。とっても美味しいです」

「……うまいな」

テンションの高いバルイールと対照的に冷静なメルヒェン。そして小声ではあったが勝太郎の感想を聞いてミスフォルラはホッとした。

「良かった上手く出来て!」

安心したミスフォルラも自分の目玉焼きに箸をつける。

黄身に箸をさすと、トロットロの黄身が溢れる。

それを蒸し焼きにしてプルプルの白身に絡め口に入れる。

口の中で、黄身の濃厚な味と、塩コショウの効いた白身が混ざり合い、自分で作った物だが、自然とこんな感想が口から出てしまう。

「美味しい〜!」

四人は舌鼓を打ちながら、ご飯も味噌汁も残さず全て平らげるのであった。


「じゃあ行ってくる」

「行ってきます」

朝食を終え、シャツの上にベスト下は紺のズボンの夏服の制服姿の勝太郎が、通学カバンを持って階段を降りていく。

同じく夏服姿のミスフォルラも一緒だ。

彼女の格好は、上はシャツでチェックのスカート履き、その下にはスパッツを着用していた。

二人の通う高校の夏服にはベストがある。

だがほとんどの生徒が熱くなる季節にベストなど着けるものは殆どいなかった。

ミスフォルラもその一人だ。

しかし勝太郎は腰の銃が目立たないように、ベストを着用していた。

「マム、姉さま。いってらっしゃい」

メルヒェンの声を背に受けて、二人は歩く。

バルイールはというと、二度寝する為に朝食を食べてすぐ自分の部屋に戻ってしまったのだ。

二人が一緒に歩いて駅に向かうと、ミスフォルラの親友が駅前で待っていた。

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