第4話 その1
六月の月曜日。
早朝五時半。
ジリリリとスマホのアラームが鳴り響く。
「ふぁ〜い。いま起きますよ〜」
そう可愛らしく返事をしながら毛布からモゾモゾと手が現れアラームを止める。
「ふぁあああ、ねむっ」
欠伸をしながら布団から現れたのは、ピンクのパジャマを着たミスフォルラだ。
彼女は名残惜しそうにフカフカの枕から頭を上げると、思いっきり伸びをして眠気を吹き飛ばす。
「おはよう。パパ、ママ」
そしてミスフォルラは、笑顔で写る両親の写真に朝の挨拶をする。
それは彼女の住んでいた家にあったものだ。
ミスフォルラの部屋には昨日持ってきた自分の私物が置かれている。
今着ているパジャマも毛布も枕も、全て昨日家から持ってきたものだった。
家に行くのは、どうしても父を亡くした事を思い出し嫌だったが、バルイールに付き添ってもらって荷物を取り、新しい住処になる雑居ビルに運び込んだのだ。
「おっと、のんびりしている場合じゃない。朝ご飯の用意しないと!」
ミスフォルラは心地よいベッドから脱出すると、手早くパジャマを脱いで、いつもの制服に袖を通し細い黒革ベルトのシックな腕時計をつける。
この腕時計は昨日メルヒェンがくれた物だった。
「準備よし……二人共、行ってきます」
ミスフォルラは支度を終えると、そう両親に挨拶して部屋を出るのだった。
ミスフォルラが部屋を降りて二階のキッチンに向かう。
そこにはメルヒェンがいつものメイド服姿で朝食を作っていた。
「おはようメルヒェン」
「お早う御座います。姉さま」
メルヒェンはミスフォルラの方を向くと、両手を前に組んで深くお辞儀をする。
「メルヒェンは早いね」
「私はアンドロイドなので寝なくても活動に支障はありません」
「あっ、そっか。メルヒェンがアンドロイドって事忘れてたよ。私まだ寝ぼけてるみたい」
「姉さま。まだ眠ければ寝ていても大丈夫ですよ。ちゃんと起こしますから」
「大丈夫。もう目は覚めてるよ」
そう言いながら、家から持ってきたエプロンに袖を通す。
「何手伝ったらいい?」
長い黒髪をポニーテールにまとめながらメルヒェンに尋ねる。
「そうですね。じゃあ目玉焼き作って貰ってもいいですか?」
メルヒェンは鍋の中の味噌汁を味見しながら答える。
「任せて。卵は冷蔵庫の中だね」
「はい」
「あれ? そう言えば一つ聞いてもいい?」
ミスフォルラは卵を四つ取り出して、ふとある疑問が湧いた。
「如何しました?」
「変な事を聞くけど……メルヒェンはご飯食べられるの?」
「問題ありません。食べる事は可能です。味覚機能も備わっていますから味もわかります」
「そっか、料理作るんだから味とか分からないと作れないか」
ミスフォルラはさっき味噌汁の味見をしていたメルヒェンの姿を思い出す。
「ごめんね。変な事聞いて」
ミスフォルラは両手を合わせて頭を下げた。
「いいんですよ。気にしてません。姉さま、美味しい目玉焼きお願いします。そろそろ、あの二人もお腹を空かせるでしょうから」
「もうそんな時間!分かった。とびきり美味しいの作るからね!」
「期待しています」
ミスフォルラは先ずフライパンに少量の油と塩コショウをする。
火は弱火にセットし卵を投入。
しばらく経ってから、白身の周りに水を掛けてじっくり蒸し焼きにした。
「完成!」
完成した目玉焼きは黄身が半熟で白身はプルプルでとても美味しそうだ。
「姉さま。上手ですね」
「ふふっ、ありがとう」
ミスフォルラはメルヒェンに笑顔を見せながら、人数分の目玉焼きを作っていくのだった。
「みんなの分出来たよ!」
「とっても美味しそうです。姉さま」
二人で応接間に完成した料理を並べていく。
今日の献立は炊きたてご飯に味噌汁。そしてミスフォルラが作った目玉焼きと、こんがりと焼けた二本のソーセージだ。
くぅ〜とそれを見ていたミスフォルラのお腹が可愛く鳴った。
「……見てたらお腹すいてきちゃった」
「健康な証拠です」
「ま、まだみんな起きないのかな? 私、起こしてこようか?」
恥ずかしさを紛らわせるように、ミスフォルラがそう提案する。
チラリとメルヒェンは壁の時計を一瞥する。
時刻はそろそろ七時になろうとしていた。
「大丈夫そろそろ皆、起きてきますよ」
メルヒェンがそう言った直後、応接間のドアが開いた。
「……おはっよ〜。今日のご飯は何かな〜。お腹ペコペコだよ」
眠気まなこを擦りながら現れたのは、ジャージを着たバルイールだった。
「バルイール、おはよう」
「お早う御座います。マム」
「二人共おはよう。はぁー朝から美少女が二人も、メルヒェンのメイド服も鉄板だけど、ミスティのエプロン姿もたまらん! いやあ眼福眼福」
そう感嘆の溜息をついたバルイールは、おじさんみたいな事を言いながら、テーブルに近づく。
「……あははは。ほら朝ごはん出来てるよバルイール」
苦笑するミスフォルラ。
「今日の朝ごはんは、なになに?」
「ご飯と味噌汁。それと目玉焼きとソーセージです」
メルヒェンが朝食の献立を説明していく
「目玉焼きは私が作ったんだよ」
バルイールがソファに座り込み、マジマジとテーブルの上のご飯を見つめる。
「この目玉焼きミスティが作ったの! スゴイ美味そうじゃん。早く食べようよ!」
バルイールは今にも飛びつきそうだった。
「待って下さい。まだマスターが来ていません」
メルヒェンが再び時計を見る。
とっくに勝太郎が起きてきてもおかしくない時間だ。
「ショータローまだ? 早くしないとご飯が冷めちゃうじゃん」
バルイールは口を尖らせてブーブー言う。
「じゃあ私起こしてくるよ」
「姉さま。私が行きます」
「大丈夫。二人は座って待ってて」
ミスフォルラはエプロンを着けたまま、応接間を出て、勝太郎の部屋に向かうのだった。




