第3話 その7
「頑張れミスティ」
キルダンジョンで練習を続ける事一時間。
徐々に周りにも探索者達が集まってきた。
「そろそろ、場所開けてくれないかな?」
バルイールに声をかけてきたのは、彼女と同年代の男性だ。
「…………」
彼女はそれを無視する。
「おい。聞いてんのかよ? こっちは素人の練習に付き合ってやるほど、ヒマじゃないんだ!」
男性が声を荒げるが、バルイールは相手にしない。
「あいつ馬鹿だな」
「どうなっても知らないぞ」
「先に医務室に伝えておこう」
ギャラリー、主におっさんの探索者達から、バルイールではなく、男性を同情する声が聞こえてくる。
彼は、相変わらず無視するバルイールの肩を掴んだ。
「おい。無視してんじゃ……がっ」
無理やりバルイールを振り向かせた時、股間に激痛が走る。
「うるせえ。邪魔するな」
バルイールはミスフォルラに聞こえないように、無線のスイッチを切って、男性の股間にショートブーツのつま先をめり込ませていた。
男性は白眼を向いて仰向けに倒れる。
ギャラリーの中から二人のおっさんが現れる。
「あ〜あ。全く」
「ケンカを売る相手を間違えたな。若いの」
そう話しながら気絶している男性を担ぐ。
「可哀想に。こいつ起きたら自分の股間見てまた倒れちまうぞ」
「大丈夫。寸前で止めといたから潰れてないよ……多分」
バルイールは気絶している男性を睨みつけていた。
「お〜怖い怖い」
そう言いながら二人は男性を医務室に連れて行った。
「ふんっ、アタシに喧嘩売るからだ」
「バルイール、何かあったの?」
ミスフォルラが出口から出てきて、様子のおかしいバルイールの元に近づく。
「なんか怖いよ。いきなり無線も切れちゃったけど……」
「あっミスティ。お帰り」
振り向いた彼女はいつものバルイールだった。
「ごめんね。無線の調子が悪くなっちゃって。今は直ったから大丈夫」
「なら良かった」
「そんな事よりも、さっきよりタイム縮まったじゃん」
二人でタイマーを見ると、一分二秒で止まっていた。
「うん。もう少しで一分切れそう」
見ると、ミスフォルラはかなり疲れているのがバルイールにも見て取れた。
「そろそろお昼だし、一回休憩しようか?」
「待って。あと一回だけやらして。次で一分切れそうなのお願い!」
ミスフォルラの真剣な眼差しにバルイールは負けた。
「じゃあ、あと一回ね。そしたら休憩。分かった?」
「ありがとうバルイール!」
「おおっ!」
ミスフォルラは彼女に抱きついていた。
「行ってくるね!」
「いってらっしゃーい」
(クフフ。まったくミスティったら、大胆なんだから)
バルイールは嬉しすぎて、先程の出来事は完全に忘れる。
興奮で鼻血が一筋垂れている事に気づかないまま、ミスフォルラに手を振り続けているのだった。
二人が訓練するキルダンジョンには先程の騒動の所為か、それともハーフエルフの少女の頑張る姿を見に来たのか、ギャラリーのおっさん達が集まる。
もちろん誰もがバルイールからは距離を取っていた。
「バルイール。こっちの準備はいいよ」
三十回目になる午前中最後の訓練が始まろうとしていた。
『ミスティ頑張ってね』
「うん」
『レディ、ゴー!』
合図と共に、ミスフォルラはセレクターをフルオートにセットして、キルダンジョンに突入する。
少しでもタイムを縮めるために、的が出てくる直前まで全速力で通路を走る。
第一の的が現れると同時に、MP5を構え急所目掛けて撃つ。
六発撃って的がひっくり返った。
後二十四発。
角を曲がり、三発ずつ撃って二つの的をひっくり返す。
後十八発。
(これならいける!)
ミスフォルラはそう思いながら、左の部屋に入る。
同時に現れた三つの的にBB弾をフルオートで撃ち込む。
二つの的は三発ずつ撃って、六発で仕留めたが、三個目の的だけ六発使ってしまった。
「まだ六発あるから全然問題な……きゃん!」
すぐに部屋を出ようとして、勢い余って出入り口横の壁に思いっきりぶつかってしまう。
可愛らしい悲鳴を上げながら、顔を思いっきり強打して仰向けに倒れ後頭部と床がぶつかった。
『ミスティ! 大丈夫?」
「だ、大丈夫!」
彼女はガバッと起き上がると何事もなかったかのように走り出す。
「まだ間に合う!」
彼女の鼻のあたりは真っ赤になっていたが、気にせず走り、出口を目指す。
最後の角を曲がったところで、出口を塞ぐ的が現れた。
「あれで最後!」
ミスフォルラはMP5のアイアンサイトで、的のセンサーに狙いをつけて引き金を引く。
一発目が外れた。
(まだ五発ある!)
そう思いながら引き金を引き続けるが、何故か弾が出ない。
「えっ? うそ、マガジンが無い!」
銃をよく見るとマガジンが外れていた。
さっき壁にぶつかった時に、マガジンが外れていたらしく、ミスフォルラは全く気づいてなかったのだ。
(早く新しいマガジンを……)
ミスフォルラはマガジンポーチから新しいマガジンを取ろうとしてその手を止める。
彼女はバルイールがやっていた事を思い出したのだ。
「たあああああああっ!」
いきなり叫びながら走り出す。
『ちょっとミスティ、どうしたの? マガジン無くなってるよ』
バルイールの呼びかけも無視してミスフォルラは走る。
ミスフォルラは全速力で走って、的との距離を詰める。
「このおおおおおっ!」
雄叫びをあげながら、身体ごと的にぶち当たる。
的を体当たりで仕留めたミスフォルラは、バランスを崩して、そのまま出口から転がるように出てきた。
「ミスティ!」
心配したバルイールが慌てて駆け寄る。
「ってて、大丈夫」
ミスフォルラは目を回しながらバルイールに答えた。
「まさか体当たりするなんてビックリしたよ」
「えへへ。さっきのバルイールの見事な蹴りを参考にしたの」
「それは嬉しいけど。もう、怪我するよ。無事でよかった」
バルイールはミスフォルラが怪我をしてないことを確認して、胸をなで下ろす。
「バルイール、そういえばタイムは?」
「あっ、アタシも見てなかった。どれどれ……」
二人でタイマーを見る。
二人とも声が出なかった。
何故ならタイマーは、五十八秒と表示されていたからだ。
「「やったー!」」
ミスフォルラとバルイールは抱き合って喜ぶ。
周りのギャラリーからも、ミスフォルラの頑張りを見て拍手が沸き起こるのだった。




