第3話 その6
「バルイール。ここが訓練所?」
「そう、ここが、新人の探索者が訓練するところだよ」
二人が今いるのは探索者が訓練をする施設。訓練所である。
それは二つあり、どちらもカマボコ型の建物で元々は倉庫だったものを改装していた。
因みに隣には探索者ギルドの本部がある。
塔の探索のためとはいえ、銃器で武装した探索者を野放しにするわけにもいかず、それを一つにまとめ管理する組合。
それがギルドである。
ギルドには様々な企業が参入している。
銃器、装備、食料品、医薬品等、その全ては探索者にとって必要不可欠なものだ。
その企業がひとつになりギルドを作って、探索者達を管理していた。
「バルイール。私、探索者じゃないんだけど、入って大丈夫?」
「ん、大丈夫。探索者志望なら、現役の探索者と一緒に入れば問題ないよ。行こう」
ミスフォルラは先を歩くバルイールの後を追って訓練所の中に入る。
倉庫を改装したので、天井は鉄骨むき出しで無骨な印象だが、煌々と灯された明かりのおかげで狭苦しさは感じない。
「すいませーん。装備二人分貸してもらいたいんですけど。あっ、彼女は探索者志望です」
受付の女性に探索者許可証を見せながら、バルイールは二人分の装備を借りてきた。
「ミスティ。はい、これ着けて」
「ありがとうございます。バルイール」
ミスフォルラはバルイールが持ってきた装備を身につけていく。
両手足の関節を保護するパッドを付け、マガジンポーチが付いたタクティカルベストを制服の上から着る。
最後に目を保護するゴーグルを掛けて準備完了だ。
「準備できた?」
同じく準備を終えたバルイールが声を掛けてくる。
「はい。出来ました」
「じゃあ次は銃を借りに行こう」
「ここでは実銃で訓練するの?」
「ううん。隣の倉庫は防弾防音加工施されてるんだけど、こっちはまだその改装はされてないんだ。だからアレを使うよ」
そう言ってバルイールが持ってきたのは、二丁のMP5だった。
「あれ? 銃は使えないんじゃ……」
「うん。実弾を放つ銃は使えないよ。だからここではコレを使います」
バルイールは透明なプラスチックボトルを取り出す。
中には白い球が沢山入っていた。
「? それは何?」
「あれ、知らない? BB弾」
ミスフォルラは「知りません」と言って首を横に振る。
「そっか。こういうの訓練でしか使わないか……取り敢えずこれを使って訓練するよ」
バルイールはMP5とマガジン三つをミスフォルラに渡す。
「そのマガジンに、こうやって弾を三十発入れて」
バルイールがお手本で弾の詰め方を見せる。
「実弾より小さいですけど、こっちの方が力いらない分楽ですね」
ミスフォルラは三つのマガジンにBB弾を詰め、ベストのマガジンポーチに差し込む。
「ちょっと試射してみようか」
バルイールに言われて、ミスフォルラは近くにあった試射用の的に狙いをつけMP5を撃つ。
「うん。ちゃんと的に当たってるね」
「はい。あと、反動が軽いですね。本物と比べると、あまり撃ってるって感じがしないですね」
実銃と違い反動があまり感じられず、ミスフォルラはちょっと拍子抜けだった。
「まあ、訓練には丁度いいんだ。よし。じゃあ、こっちだよ」
ミスフォルラが連れてこられたのは、壁で仕切られた場所だった。
そこはまるで迷路のように複雑に入り組んでいる。
「これは迷路ですか?」
「惜しい。これは迷路じゃなくてキルダンジョン、アイン。ダンジョンを模したものだよ」
「これが、キルダンジョン」
バルイールが言うように、それは迷路ではなかった。
塔にあるダンジョンの構造を模したもので、その中には身を隠す遮蔽物や、モンスターを模した的などがある。
因みにキルダンジョンの名前は室内戦闘の訓練場だったキルハウスからとられている。
この倉庫にはキルダンジョンが三箇所あり、その名はアイン、ツヴァイ、ドライと名付けられていた。
他の二箇所からは、探索者達が使っているのか、電動ガンの発射音が聞こえてくる。
バルイールはその中の誰も使っていないキルダンジョンの一つアインを使うことにした。
「集中して訓練するためにも、邪魔が入らない方がいいでしょ?」
「はい。その方がいいですね」
ミスフォルラはバルイールの心遣いに感謝する。
「まず、アタシが先にやって見せるから、ミスティはそこのモニター見てて。あ、あとこれ無線」
バルイールは彼女から受け取った無線を装着する。
モニターは各所に取り付けられたカメラの画像を映していた。
『じゃあ、始めるよ』
「はい」
ミスフォルラは食い入るように見つめながら頷く。
『まず、入り口から入ってまっすぐ進むと、壁からターゲットが出てくる』
突き当たりの壁からモンスターの形をしたターゲットが現れ、バルイールはMP5の引き金を引く。
弾が当たり、的がひっくり返った。
『次に左に曲がると、的が二つあるからそれを撃つ。そしたら左の部屋へ』
通路の二つの的を撃ち、部屋に踏み込む。
『部屋には的が三つあるから、それを撃って部屋の外に』
部屋を出たバルイールは左に曲がり通路を進む。
『あとは左に曲がって、出口の前に的が現れるから……』
バルイールの言うように出口を塞ぐように的が現れる。
彼女はそれを撃たずに走って距離を詰める。
『最後の的は、こう!』
「ええっ!」
ミスフォルラはその光景を見て驚いて声を出してしまった。
モニターの中で、バルイールは走った勢いを殺さず、そのまま体当たりするかのように蹴飛ばしたからだ。
モンスターが描かれた的は、ガキョンと大きな音を立てて、壊れてもおかしくない速度で引っ込んだ。
「はい。これでおしまい」
的を蹴っ飛ばしたバルイールがキルダンジョンから出てきた。
「どう、ミスティにも出来そうでしょ?」
「はあ、バルイール一つ聞いてもいい?」
「ん。何でも聞いて」
「最後のは何で蹴飛ばしたの?」
「あれはね。あっちの方が早くゴールに着くからだよ」
バルイールは「ほらあれ」と言ってある場所を指差す。
そこにはデジタルタイマーがあり、四十五秒で止まっていた。
「ここ、タイムアタックができるんだ。慣れたらミスティもやってみるといいよ」
「バルイールはいつもこれくらいのタイムなの?」
「ううん。今は説明しながらやってたから、ちょっと遅いな。早いと三十秒くらいかな。もっと早い人は早いけどね」
「そ、そうなんですか」
ミスフォルラが見ていた限り、少なくともモニターの中のバルイールはとんでもなく素早く狙い撃ちながら動いていた。
「大丈夫。ミスティならすぐに慣れるよ。とりあえず一分以内を目標に頑張ろう」
「はい。やってみます」
(最後の的はちゃんと撃とう)
そう思いながらミスフォルラは立ち上がり、入り口の前に立つと、電動ガンのMP5にマガジンを装填し、初弾を送り込む。
『準備はいい?』
右耳に付けたイヤホンから、バルイールの声が聞こえてくる。
「いつでもどうぞ」
『じゃあレディ……ゴー!」
合図と共にキルダンジョンに突入する。
通路を半分ほど進むと、突き当たりから、モンスターが描かれた的が現れた。
ミスフォルラは歩きながら、銃を構え引き金を引いた。
「あれ?」
歩きながら撃つと、予想以上に銃がブレる。
銃がブレるということは、弾も狙ったところに飛んでいかない。
何とか的に当てるが、的は引っくり返らずそのままだ。
『あっ、ごめんミスティ、言うの忘れてた。的には急所の部分しかセンサーがないんだ。だからちゃんと当てないと、倒したことにはならないよ』
「分かりました」
(なるほど。そういう事か)
バルイールに言われてあることに気づく。
的には二箇所光ってる部分があった。
一つは頭部。もう一つは胸部中心にそれはあった。
ミスフォルラは歩きながら、その二箇所を狙って撃つ。
だが、なかなか当たらない。
しょうがないので、ミスフォルラは立ち止まって的を撃つ。
今度は上手く当たって的はひっくり返った。
「やった!」
『いいよミスティ、その調子でドンドン行こう!』
ミスフォルラは左の角を曲がり、現れた二つの的を撃ち、部屋の中へ入る。
三つの的が現れ、狙いをつけてMP5の引き金を引くが、的はひっくり返らない。
『ミスティ。それ弾切れだよ』
「えっ、うそ!」
弾が切れてもトリガーを引くと、ずっとモータの駆動音がしていたので一瞬弾切れに気づかなかったのだ。
ミスフォルラは大慌てで、弾切れになったマガジンを落とし、新しいマガジンを装填して的を撃った。
三つとも当たったがタイムロスは免れなかった。
部屋を出て出口前の最後の的を撃ち、キルダンジョンから出る。
「お帰り。最初にしちゃ上出来だよ」
「ハァハァ……あのタイムは?」
タイマーは一分三十秒で止まっていた。
「全然ですね」
「何言ってるの。最初はみんなこんなものだよ。さあ、練習練習」
「はい」
ミスフォルラは再び入り口に立つ。
「レディ、ゴー」
バルイールのスタートの合図と共にキルダンジョンに突入するのだった。




