第3話 その5
バルイールとミスフォルラがウミボウズに乗り、訓練所に目指して走っている時だった。
バルイールのスマホが着信を告げる。
「あっ、電話だ。ミスティちょっと確認してもらってもいい?」
さすがに運転しながら電話に出ると色々とマズイので、右手でハンドルを操作し左手でスマホをミスティに渡す。
「はい。あっ、クニェツさんからですね」
画面に表示されている名前はガンショップ、ボウビーチの店長だった。
「げっ、おっさんかー。昨日の請求の催促かな」
二人が話している間も電話は鳴り続ける。
「出た方がいいんじゃないんですか?」
「う〜ん。ミスティ出てもらっていい?」
「えっ、私ですか」
ミスフォルラは自分を指差す。
「お願い! アタシ運転中で出れないからさ」
その間も着信音が早く出ろと催促してくる。
「分かりました……もしもし」
(怒られませんように)
そう思いながら電話に出た。
『クニェツだ。バルイールか? それにしちゃ声が違うような……間違えたかな?』
「あっ、私ミスフォルラです。彼女の電話で間違ってませんよクニェツさん」
『おお、ミスフォルラか、すまんすまん。あの壊し屋バルイールより可愛い声だったんで、最初誰か分からなかったよ』
「あのオヤジ……」
バルイールは電話から漏れる声を聞いて、ハンドルを思いっきり握りしめる。
「ははは……それでクニェツさん。御用は何ですか? バルイールは運転中で出れないんで私が代わりに聞きます」
『丁度よかった。ミスフォルラあんたに用があったんだ。今から店に寄れるかな?』
「そちらのお店にですか?」
『大事な話があるんだ。どうだい来れそうか?』
「ちょっと待ってください……バルイール。クニェツさんがお店に来て欲しいって」
「え〜、行きたくないな。忙しいからまた今度って……」
『今日来れたら、昨日の弾代安くしてもいいぞってバルイールに伝えてくれ』
「……だそうですよ」
「なに! ミスティ。ちょっと電話こっちに向けて」
「は、はい。どうぞ」
「クニェツ。今行くからちょっと待っててね。すぐ向かうから!」
『おう、待ってるぞ』
バルイールはアクセルを踏み込み、法定速度ギリギリを守って、クニェツの店に向かうのだった。
「こんにちは。クニェツさん来ましたよ」
「……どうもー」
ミスフォルラが先に扉を開け、その後ろから背中に隠れるようにバルイールが続く。
「おう来たな。二人共」
クニェツは前日と同じく、煙草をふかして新聞を読んでいた。
「今日はどんな用ですか?」
「それを言う前に、バルイール後ろで隠れてないでプレートをひっくり返してくれ。今日はもう店じまいだ」
「はーい」
クニェツに言われ、バルイールはオープンと書かれたプレートをひっくり返してクローズにする。
「じゃあ、お二人さん。付いてきてくれ」
「どこ行くんですか?」
「地下一階。儂の工房だよ」
それ以上は何も言わないクニェツの後を二人はついていく。
三人でエレベーターに乗って地下一階に到着する。
扉が開いて部屋の光景が目にはいった。
「うわぁ」
部屋を見たミスフォルラが感嘆の声をもらしてしまう。
そこには一階にあったボロボロの銃とは違い、ピカピカに磨かれた銃たちが飾られていたからだ。
クニェツは「全部儂が作ったもんだよ」と言いながらカウンターに向かう。
「よいしょっと、こっちだミスフォルラ、バルイール」
クニェツはカウンターのテーブルにつくと、二人を手招きする。
「オ二人共、イラッシャイマセ」
カウンターの中にはセブの姿もあった。
「ミスフォルラ。あんた探索者目指してんだろ?」
「はい」
「じゃあ、銃が必要だよな」
「確かにそうですね。私、一丁も持ってません」
「なら、あんたの銃を儂が作ってやるよ」
「いいんですか?」
「ああ、昨日の訓練の成績はかなり良かったそうじゃないか。セブから聞いてるぞ。そんなあんたに儂からのプレゼントだよ」
「ありがとうございます! でも私、今お金持ってなくて……」
「気にするな。最初の一丁はサービスしておくよ」
そう言うと、クニェツはカウンターの下から、一冊のファイルを取り出す。
「最初の一丁はピストルがいいだろう。ここから選ぶといいぞ」
ファイルをめくると、そこには古今東西さまざまな、拳銃が載っていた。
「こ、こんなにいっぱい。ここから選んでいいんですか?」
「おう、好きなの選びな」
ファイルのカタログには、オートマチックやリボルバーはもちろんの事、古い銃だと西部劇に出てくるような銃もある。
ミスフォルラは真剣な眼差しで、自分の相棒となる銃を探していく。
工房には、彼女がファイルをめくる音だけが響いていた。
「これ……」
ミスフォルラがあるページを指差す。
「ん、どれどれ……これがいいのかい?」
「ミスティどれにしたの?」
クニェツとバルイールが、彼女が指差したページを覗き込む。
その銃はジェリコ941だった。
口径は九ミリ。マガジンに十五発装填でき、デコッキング機能が付いていた。
デコッキングとは、起きたハンマーを安全な位置に戻す機能の事だ。
「おっ、ベビーイーグルじゃん。中々渋いチョイスだね。ミスティ」
「ベビーイーグル?」
「この銃の通称だよ。えっと……この銃見て」
バルイールがパラパラとファイルをめくりあるページを開いてミスフォルラに見せる。
「デザートイーグル。拳銃の中で最大口径の弾丸を撃てる銃なんだ」
その銃はジェリコを一回り大きくしたような外観だった。
「ジェリコはこれの赤ちゃんみたいでしょ? だからベビーイーグル」
「なるほど、ベビーイーグル……」
「デザートイーグルの50AE弾は、AK47の七・六二ミリと同じ貫通力なんだよ。これにすれば?」
「そんな銃、私には扱えませんよ!」
「大丈夫。ちゃんとした姿勢で撃てば、意外となんとかなるよ。私は片手で撃てるもん」
バルイールが片手でデザートイーグルを連射している姿を想像する。
(確かによく似合いそう)
ミスフォルラはそう思うのだった。
「お前さんは、グリップを握りつぶすほどの馬鹿力があるからだろうが! ちょっと黙ってろ!」
「……はーい」
クニェツに窘められて、バルイールは小さくなる。
「どうするミスフォルラ。ジェリコでいいのかい?」
「はい。これでお願いします」
「よし決まりだ。セブ、奥にジェリコのサンプルあっただろ。持ってきてくれ」
「畏マリマシタ」
カウンターの奥に消えたセブは程なくして一丁の銃を持ってくる。
「ドウゾ」
「おお、ありがとう」
クニェツは銃口を自分に向けて、ミスフォルラに手渡す。
「これがジェリコだ。握ってみな」
「ありがとうございます」
ミスフォルラは言われるまま、グリップを握る。
そしてデコッキングレバーやハンマー、そしてトリガーの感触を確かめていく。
「ちょっと握ったままにしてくれ」
クニェツは顔を近づけミスフォルラの銃を握る右手をまじまじと観察する。
「あの、クニェツさん。何してるんですか?」
あまりにも熱心に見つめられるので、ミスフォルラは恥ずかしくなってクニェツに尋ねた。
「おっと、集中してて気付かなかった。何も言わないで若い娘の手をじっと見てたら唯の変態だわな」
すまんすまんと謝りながら、クニェツは一度離れる。
その間も彼の両眼は、じっとミスフォルラの手を見つめていた。
「今、あんたの手と銃のグリップを見ているんだ。そいつは長く使うことになるはずだ。少しでもストレスなく使ってもらいたい。だからあんたの手にピッタリと馴染むように加工しようと思ってな。ちょっと観察してたんだ」
「あ、なるほど」
「ちょっと失礼するぞ」
観察していたクニェツが次に取り出したのはスマホだ。
「写真を撮らせてもらっていいかな? それを見て、グリップを調整するから」
「はい。どうぞ」
ミスフォルラに了承を得て、クニェツは写真を撮る。
「よし、これで終わりだ。もう手を離していいぞ」
ミスフォルラは銃をクニェツに返した。
「じゃあ今から製作するから。ちょっと時間をくれ」
「どれ位でできますか?」
「そうだな。一週間か長くても十日といったところかな」
「分かりました。ここに取りに来ればいいですか?」
「出来上がったら、連絡するよ」
「はい、待ってます。よろしくお願いします」
ミスフォルラとバルイールはボウビーチを後にする。
「じゃあ、改めて訓練所に行くよ」
「はい」
二人は当初の目的地だった訓練所に向かうのだった。




