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ようこそ幻想都市塔京へ   作者: 竜馬光司
10/43

第2話 その2

「海崎くん。待って!」

「んあっ?」

その日の、退屈な授業が終わった帰り道。勝太郎を呼び止めたのはミスフォルラだった。

「ハァハァ、やっと追いついた」

「何で、そんな息切らしてるんだ?」

「ハァ、だって海崎くん。いつの間にか、ハァ、いなくなってるんだもの……」

ミスフォルラは一度息を整えてから続ける。

「それで、気づいたらもう外にいたから、慌てて追いかけてきたの」

「それは悪かった。じゃあな」

そう言って歩き出す勝太郎。

「あっ、待ってよ」

ミスフォルラは勝太郎の隣を歩く。

「話したいことがあるの」

「俺はない」

「そんなこと言わないで。助けてくれたお礼が言いたいんだ」

「歩きながら言えばいいじゃないか?」

「で、でも、そのバルイールさんと、メルヒェンにもお礼を言いたいし……」

「俺が代わりに伝えておくよ」

「直接伝えたいの!」

「う〜ん」

このまま話しても埒があかなくなった勝太郎は突然走り出した。

「あっ、待ってよ!」

ミスフォルラの制止も聞かず、勝太郎はどんどん速度を上げる。

「逃がさないからね」

追いかけるミスフォルラは、走りながらゴムバンドを取り出した。

「もう、撒いたかな? 何!」

しばらく走って、後ろを振り向くと、長い黒髪を後ろで纏めたミスフォルラが追いかけて来た。

「待ちなさーい!」

「くそ、何なんだよ。あいつは!」

勝太郎は全力疾走で駅に向かうと、素早く改札を抜け、ちょうどホームに入ってきた電車に飛び乗る。

後ろを向いて辺りを見回しても、ミスフォルラの姿は影も形もなかった。

「ふぃー。なんとか撒いたか」

勝太郎は盛大に息を吐いて、電車の振動に身をまかせるのだった。


「海崎くん」

それは改札を抜けた時だった。

「う、嘘だ。何でいるんだ?」

「ふふん。私の足の速さを舐めていたわね。同じ電車に乗っていたのよ!」

胸を張るミスフォルラと対象的に勝太郎はガックリとうなだれるしかなかった。

二人は並んで勝太郎の住む雑居ビルに到着する。

「ここが、海崎くんのお家?」

「そうだ」

「何階に住んでるの?」

「三階」

「ふーん。下の階は何かのお店?」

「ん? いや二階は客を通す応接間だ」

「えっ!」

「何、驚いてんだよ」

「だって海崎くん。雑居ビルの三階だけ借りてるんじゃ?」

そこで、勝太郎はミスフォルラが誤解をしていることに気づいた。

「違うよ。この雑居ビル自体が俺の住処(しろ)だ」

「そ、そうなんだ」

勝太郎は「ついて来い」と言ってミスフォルラを二階に案内する。

「ただいまーとっ」

「お帰りなさいマスター」

「おっ、ショータローおかえり」

出迎えたのは、コーヒーを載せたトレーを持つメルヒェンと、それを受け取るバルイールだった。

「こ、こんにちは」

「こんにちはミスフォルラ」

「おっ、ミスティこんにちは……てっ、ブフッ!」

バルイールはコーヒーを盛大に吹いた。

「汚ねえよ。バルイール」

「ごめんごめん。何でここにミスティがいるの? もしかして……二人付き合ってるの?」

メルヒェンから受け取ったタオルで床を拭きながらバルイールが尋ねてくる。

その顔はなぜか泣きそうだ。

「そ、そんな私。海崎くんとは付き合ってませんよ!」

「バルイール。ぶっ飛ばすぞ」

「よかったー。ごめんごめん。許して、ね?」

「ミスフォルラ。今日は何の御用ですか?」

話が進まないので、メルヒェンが先を促す。

「はい。その、この前のお礼を言いたくて海崎くんにここに案内してもらったんです」

「違えよ。尾行してたんだろうが」

「そ、そういう言い方はやめてよ。私が悪いことしたみたいじゃない!」

顔を赤くして、両手を振りながらアタフタするミスフォルラ。

「俺に気づかれず、後つけてきたじゃないか」

「それは、パパに色々教えてもらったから」

「へえ〜。彼に気付かれずに後をつけたの? 凄いじゃんミスティ。探索者に向いてるかもよ」

「ほ、本当ですか!」

「うん。ショータローはかなりの凄腕だからね」

「じゃあ……私もなれるかな」

「ん? 何か言った?」

「い、いえ。何でも、ないです」

「そう。まあ座りなよ。ミスティ」

「ありがとうございます」

バルイールはミスフォルラを自分の隣に座らせる。

「ムフフフ」

「どうしたんですか?」

「ううん。気にしないで、ムフフフ」

隣の美少女から仄かに香るいい匂いにバルイールは頬を緩ませていた。


「むぐむぐ。美味し〜い。このクッキー。ね?」

ミスフォルラが持ってきたお土産のお菓子をぱくつきながら、バルイールが感想を言う。

「はい。とても美味しいです」

「んー、そうだな美味いな。紅茶」

メルヒェンは両手でゆっくりと味わい、勝太郎は用意された紅茶でクッキーを流し込んでいた。

「そうだミスティ! 改めて自己紹介させてよ」

「はい。もちろんです」

じゃあ最初はアタシね。と言いながらバルイールは立ち上がる。

「オホン。アタシはドワーフのバルイール。こう見えても腕力はショータローより強いんだ。あ、アタシの事は呼び捨てでいいからね」

「はい、よろしくお願いします。バルイールさ……バルイール」

「そうだこれ見てよ。ムン!」

そう言ってバルイールは力こぶを作る。

「凄い!」

「フフフ。触ってもいいんだよ」

「いいんですか? じゃあ、失礼します」

「どうぞどうぞ」

ミスフォルラはバルイールの力こぶに触れる。

「どう?」

「は、はい。とっても、その、固いです」

「アタシも、ミスティに触ってもらって……とっても気持ちいい」

バルイールの顔が最大限にニヤける。

「あの色魔を止めろ。メルヒェン」

「はい。二人共失礼します」

「うわ〜んメルヒェン。もうちょっと、ショータロー、もうちょっとだけだからー」

「もう、アウトだ」

このままではヤバイ展開なりそうなので、勝太郎はメルヒェンに止めさせるのだった。


「次はショータローの番だぞ」

「めんどくせぇー」

「そういうこと言わない。さっさと自己紹介すするの」

「……分かったよ」

勝太郎は座ったまま名乗る。

「海崎勝太郎。このパーティのリーダーだ」

そう言って黙りこくる。

「ショータロー、それで終わり?」

「ああ、これで終わりだ」

「まだ、言ってないことあるでしょ」

「何だよ?」

勝太郎は本当に何のことか分からなくて、首をかしげる。

「ミ・ド・ル・ネーム」

「言うか、馬鹿!」

「えー、何でよー。ミスティに教えてあげてもいいじゃない。どうせ学校でも名乗ってないんでしょう?」

「…………」

図星だったので勝太郎は黙ってしまう。

「ミスティも聞きたい? ミドルネーム」

「えっと、教えてくれるなら聞きたいです」

「だってさ。ショータロー」

「…………」

勝太郎は黙ったままだ。

それを見てバルイールはミスフォルラにコソコソと耳打ちした。

「ミスティがお願いしてあげたら言ってくれるかもよ?」

「私がですか?」

「うんうん」

「じゃ、じゃあ海崎くん。ミドルネーム教えて。お願い!」

勝太郎はミスフォルラの顔を見ると、ため息をついた。

「……分かった。笑うなよ」

「? 笑わないよ」

「……俺のミドルネームはルミニス。海崎・ルミニス・勝太郎だよ!」

そう言ってそっぽを向いた勝太郎の顔は、赤くなっていた。

「……いい」

「なんか言ったか?」

「いい名前だね。私好きだよ!」

そう言われた勝太郎の顔が、ルビーの瞳に負けないくらいにさらに赤くなる。

「う、うるせえよ。でも、あ、ありがとな」

それだけ言って喉が渇いたのか、勝太郎はカップの中の紅茶を一気に飲み干す。

「ゴホゴホ、ゴホゴホ」

そしてむせるのだった。


「次はメルヒェンだね」

「分かりました。マム」

そう言ってメルヒェンがスッと立ち上がる。

「私はメルヒェン。起動してから一年になります。よろしくお願いします」

「起動して一年?」

「ああ、彼女はアンドロイドなんだ」

「えっ! そうなんですか?」

「そうだよ。やっぱりみんな驚くんだよね」

「だって私、こんな可愛いアンドロイド見たことないよ」

「有難うございます」

「そうそう。可愛いよ〜メルヒェン」

バルイールはそう言いながらメルヒェンに抱きつく。

「はいマム。有難うございます」

メルヒェンはお礼を言いながら、バルイールを押しのける。

「メルヒェンひどいよー」

「マム?」

「ああ、アタシの事ね。因みにショータローはマスターって呼ばれてる」

「私にとってマスターはマスターだからです。マムにはマムと呼ぶように言われました」

「フフフ。誰だって一度はマムって呼ばれたくない?」

「……ははは、そうですね」

「そうだ。メルヒェンはミスティのことなんて呼びたいの?」

「はいマム。一つ候補があります」

「言っても大丈夫でしょうか?」

「うん。大丈夫だよ」

メルヒェンはミスフォルラに確認を取る。

「では……姉さま」

「えっと? 姉さま」

「はい。姉さまと呼びたいです。駄目でしょうか?」

隣に座ったメルヒェンは、上目遣いでミスフォルラを見つめる。

「……駄目ですか?」

それがトドメの一言だった。

「……ううん。それでOKだよ」

ミスフォルラにそれを否定する選択肢はなかった。

「ありがとうございます。姉さま。改めてよろしくお願いします」

立ち上がり、深くお辞儀をするメルヒェン。

「うん。こちらこそよろしくね」

「いいなー姉さまだって。メルヒェン、アタシの事も姉さまって呼んで!」

「嫌です」

「ガーン」

キッパリと否定されたバルイールはしばらく立ち直ることはなかった。

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