第2話 その3
「あの、皆さんにお願いがあるんです!」
突然ミスフォルラはそう切り出した。
「何々? お姉さんになんでも言ってみな」
「何でしょう姉さま」
「…………」
興味を示すバルイールとメルヒェン。それに比べて勝太郎は興味なさそうだった。
「えっと、いきなりで驚かれるでしょうけど、私をみなさんの一員に加えて下さい!」
「そ、それは……また突然だね」
それを聞いて流石にバルイールも言い淀む。
「だ、駄目ですか?」
「いや、駄目じゃないと思うけど……」
「いきなり何言ってんだ。無理に決まってるだろ」
そう答えたのは勝太郎だ。
「お前、探索者という仕事がどんな物か分かってるのか?」
「分かってる。ダンジョンを探索して塔の頂上を目指す。でしょう?」
「…………」
無言で「それで終わりか?」と問う勝太郎。
「そ、それと、そのダンジョンの中にいる障害になるモンスターと戦ったりする」
「それだけじゃない。中には同じ人間が襲いかかってくる時もあるんだ。お前、また襲われた時撃てるのか?」
ミスフォルラは自分を誘拐した存在を思い出して身体を震わせる。
「撃てる! 少しは訓練……」
「ふざけるな!」
勝太郎はテーブルを叩きつけて立ち上がる。
「ちょっと知識があるからって、探索者になれると思ってるのか? 」
「なれるもん!」
ミスフォルラも負けじと立ち上がった。
「私はパパと約束したの。探索者になるって。その為に色々塔のこと教えてもらってたの! なのに……なのにあんな事になっちゃって……」
ミスフォルラの両眼にジワリと涙が浮かぶ。
「おい、泣くなよ」
「泣いてない! ううん泣いてる暇ないの! お願い。頼めるのは海崎くん達しか頼む人いないの!」
「ショータローどうするの?」
「マスター」
二人に見つめられて、勝太郎は後頭部をガシガシと掻いた。
「……分かった」
「えっ、じゃあ!」
「早とちりするな! とりあえずお前の実力を見てみるだけだ。探索者の技術を教えるかはそれを見てからだ」
「うん。それでいいよ。ありがとう海崎くん!」
「喜ぶな。今日はもう遅いから、明日の朝から始めるぞ。学校も休みだしな。それでいいな」
「うん」
「じゃあ、ミスティ。うちに泊まって行きなよ」
そう提案するバルイール。
「何!」
それを聞いて驚いたのは勝太郎だ。
「いいじゃんショータロー。部屋がひとつ空いてるんだから」
「マスター。私からもお願いします」
「二人でこっち見るなよ……本人が大丈夫なら泊まっていけばいいさ」
「本当! ありがとうショータロー。ミスティは大丈夫?」
「はい。私も今はホテルで一人ですから。問題ないです。むしろここに泊まれるのなら、とっても嬉しいです!」
「じゃあ、アタシ部屋の用意してくるね」
「私も、皆さんの夕食を用意します」
バルイールとメルヒェンは、とても嬉しそうに準備に取り掛かる。
応接間に残されたのは勝太郎とミスフォルラの二人だけになった。
「あの海崎くん。なんか無理やり押しかけたみたいでごめんね」
「……謝るなよ」
それ以降黙った二人の間に、気まずい空気が漂う。
「ミスティ! ちょっと来て、部屋案内するから」
「はい。今行きます」
バルイールに呼ばれてミスティは慌しく応接間を出ていく。
「はぁー。全く、面倒くせえな」
そう言って勝太郎はソファに横になるのだった。
その夜。四人はメルヒェンの作った料理に舌鼓をうちながら、色々なことを話して大いに盛り上がった。
そんな中、勝太郎は早めに食べ終わると、「寝る。明日は彼女の面倒見てやれよ」と言ってさっさと部屋に戻ってしまう。
気にしなくてもいいよ。とバルイールに言われたが、ミスフォルラは心に針が刺さったような痛みを感じていた。
夕食後、シャワーを浴びたミスフォルラはバルイールの部屋にいた。
風呂上がりの二人はベッドに腰掛けている。
今の彼女の格好は、バルイールから借りたTシャツを着ている。
ちょっと胸のあたりがきつかったが、そこは触れない事にした。
「うん、ショータローの事知りたいの?」
「はい。私と同い年なのに、パーティのリーダーもやっていて、それにこのビルだって」
「まあ、普通の高校生は持ってないよね」
バルイールは手をパタパタと降る。
因みに彼女の格好は上下赤のジャージである。
ミスフォルラには、運動が得意な先輩に見えていた。
「このビルは、元々ショータローのお父さんの物だったんだよ」
「海崎くんのお父さんも探索者なんですか?」
「うん。しかもかなりの凄腕。私達三人じゃ、歯が立たない程のね」
「バルイールも知り合いなんですか?」
「そう。秀俊さん、あっ彼のお父さんの名前ね。一緒にパーティ組んでたんだ。勝太郎が探索者になる前からね」
「今は別々に暮らしてるんですか?」
そう聞いた途端、バルイールの顔が曇る。
「ううん」
「す、すいません。私、聞いちゃいけないことを」
「ああ、ごめんね。その、秀俊さんは一年前、ダンジョンに潜ったきり消息不明なんだ」
「そんな……」
「でも、なんか事故にあったとかじゃなくて、どうやら前々から計画していたみたいなんだよね」
「どういう事ですか?」
「うん。いなくなってから気づいたんだけど、このビルも車も含めた全て、勝太郎に残していったんだ」
「じゃあ、海崎くんを置いて一人でダンジョンに行ってしまったという事ですか?」
「そういう事、ショータローの奴落ち込んじゃってさ。小学の時、お母さんも亡くしてるから。余計だったんじゃないかな」
バルイールは「よっ」と言って勢いよく立ち上がる。
「でも、今は立ち直って、秀俊さん探す為に、ダンジョンを探索してるの。それにアタシとメルヒェンも協力してるって訳」
「……私、邪魔になってますね」
「何言ってんの。ミスティ」
「わっ!」
バルイールが思いっきり顔を近づける。
「大丈夫。ショータローは嫌いな人間をここには連れてこないよ。それとも探索者なるの諦めちゃう?」
「あ、諦めません!」
「うん、その意気だよ。さあ明日も早いからそろそろ寝よっか!」
「はい。お休みなさい。バルイール」
「おやすみ。ミスティ」
バルイールは、ドアが閉まって姿が見えなくなるまで手を振ると、ボフンと勢いよくベッドに倒れこむ。
「さあ、アタシも寝るか。明日はミスティと一日デート、ムフフフフ」
翌日の事を考えて興奮していたバルイールだったが、目を閉じたらすぐ眠ってしまった。
彼女が眠ってからしばらくして、ドアがノックされた。
「んん? だ〜れ」
バルイールはそう言いながら時計を見る。
時刻はミスフォルラが部屋を出てから一時間も経っていなかった。
「あの、ミスフォルラです」
「ミスティ! 今開けるよ」
彼女の声を聞いて、バルイールは急いで電気をつけてドアを開けた。
「ごめんなさいバルイール。また来ちゃった」
よく見るとミスフォルラは少し涙目になっていた。
「いいから、ほら入りなよ」
「うん。ありがとう」
バルイールはミスフォルラをベッドに座らせる。
「どうしたの? なんか飲む?」
「いえ、大丈夫です。ぐすっ」
「部屋に虫でもいた?」
「いえ、違います」
ミスフォルラは目尻の涙を拭うと、ゆっくりと喋り出す。
「……一人で寝ていたら、その、この前の事件の事を思い出してしまって。眠れなくなっちゃったんです」
ミスフォルラは自分が誘拐された事、そして最愛の父が殺された事を夢に見てしまったのだ。
「すいません。すぐ戻りますね」
「いいよ。いても大丈夫。そうだ一緒に寝よう」
「えっ? いいんですか?」
「うん。アタシは問題ないよ。あ、もちろんミスティが良かったらだけど」
「えと、嫌じゃないです」
それを聞いて、バルイールは心の中でガッツポーズをした。
「じゃあ。ほら、おいでおいで」
バルイールは自分の毛布の中にミスフォルラを招き入れる。
「失礼します」
「どうぞー」
ミスフォルラはベッドに潜り込んだ。
「なんだか安心します……」
「そう良かった」
暫くしてすぐ規則正しい寝息が聞こえてきた。
「寝ちゃった。寝顔も可愛いなミスティは、よしよし」
バルイールは眠るミスフォルラの頭を撫でる。
その触り心地は格別で、ずっと触っていたかったが、我慢して眠る事にした。
「起こしちゃ悪いもんね。おやすみミスティ」
バルイールは至福の笑みを浮かべながら、眠りにつくのだった。




