6.街の入り口にて
どうやら昨日とは、また違う異世界にたどり着いた様だ。
とはいえ、前回のことも踏まえ今回も目印を残しておく。
何事も保険が必要である。
まあ今さらだが。
で、建物目指して歩くこと三十分、特にイベントがある訳もなく街に着いた。
魔物が出なけりゃ、盗賊に襲われている商人や貴族もなく、問題なく着いたのだ。
まあ主人公体質でないのだから仕方あるまい。
▽
街の入り口には、石で出来ている結構大きな門があり、門番が立っている。
ちなみにこの門番、棍棒を持った三十半ばくらいのオッサンだ。
見た感じ普通の人のようで安心する。
前回は、原住民族みたいな感じだったからな。
俺にとって早くもトラウマになっている。
お面と杖の組み合わせはイケナイのだよ。
もしかしたら入る際にお金を取られるのか? と不安に思い、人を待ち合わせる風を装って様子を見ることにした。
何といってもこの世界の金など持っていないからね。
まあ最悪、またあそこで寝て違う世界に行けるように願うばかりである。
ただ、異世界によっては命の危険があるので出来ればこの世界で生きていきたい。
紫の空と原住民に追いかけられるのはもうイヤなのである。
うむ。どうやら今回の異世界は、前回よりもましだったようである。
幸い五分も経たずに住民らしき人が門に入って、そのまま奥に行った。
とりあえず、「場所間違えたかな~」と一人芝居をしつつ門の中に入る。
怪しさいっぱいだが、仕方あるまい。
怪しさいっぱいの俺だったが、止められず普通に通ることが出来た。
とはいえ、これからどうしたもんだろう? と頭を悩ますことになった。
金なし、宿なし、知り合いも当然なし。
ある意味ダメダメな三拍子が揃った状態である。
とりあえず、ギルドというか働く場所でも探さないといけないかなと考えていると、憲兵らしき人に呼び止められた。
やはり傍から見ても怪しい人物だったか。
門番の方もそりゃ気付くわな。
「すまない、少しいいか? 先ほど門番から見たことのない格好をした者が入ってきたから気にしてくれと言われたんだ」
だいぶオブラートに包まれている。
特に危険人物と判断されていないようで何よりだ。
それよりも生活魔法の翻訳が使えて何よりだ。
最悪、違う世界だったので機能しないかと思ったが、そうではなく安心した。
……調味料の魔法を使ってみれば良かったと今ごろ思ったが後の祭りである。
「すみません、やっぱりこの街以外の者が無断で入ってはいけないんでしょうか?」
「いや、そんな事はないさ。ただ入る時に周りを見て、困っていたそうだから門番が覚えていたのさ」
「そうですか……」
まあ実際、俺もこれからどうしていいかわからないのだ。
さっきも言った通り、金もないし、これからどう動いていいかもわからない。
とはいえ、基準がわからないので誰に聞いていいかもわからんし。
なら、この憲兵さんを信じて話してみようか。
何か雰囲気や話し方といい、見た感じも良さそうな人だ。
もしこれで騙されたのなら、自分に人の見る目がなかったんだから仕方ないのだ。
その時は諦めるさ。
『死のうは一定、しのび草には何をしよぞ。一定、語りおこすよの』
信長さんの好きな小唄でござる。
誰しも死ぬ。なら何かしようぜ。うまくすりゃ誰かの話のネタになるからさ。
あれ? 微妙に選択を間違えたでござるよ。お濃どの助けてくりゃれ。
▽
当然、誰も助けてくれずに話は進む。
まあでも、始めの句はあってそうである。
ここで逃げても仕方ないので素直に話すことにした。
「信じて貰えるかわからないですけど、私はここと違う世界、異世界と呼ばれる所から来たのです」
「う~ん……異世界?」
門番のオッサンが困った顔をしている。
わかるぜ! オッサンよ。
俺も道端でそんな事言われたら同じ反応をする自信がある。
「はい」
「う~ん、聞いたことないな」
そりゃそうだろう。
一介の門番が知る訳もない。
云わば、交番に勤めているお巡りさんに「異世界から来て困ってます」と言っても困惑するばかりだろう。
お願いすべき所はNASAだ。
宇宙人認定されるかもしれんが。
「すまないが、隊長を呼んでくるから少し待っていてくれないか?」
「はい、わかりました」
やはり自分の理解の範疇を超えたらしく上の人に丸投げされたようだ。
残念ながら俺の人を見る目はイマイチらしい。
所詮、俺の眼力はその程度である。
まあ反対の立場なら同じことをやっているので人の批判など出来ないが。
で、五分もせず隊長が到着した。
「すまん、待たせたか?」
「いえ」
「聞いたところ異世界からやって来たとか。それはこっから遠いのか?」
「多分遠いと思います」
とりあえず、俺の家からパワースポットまで遠かった。
更に異世界ときたもんだ。
かなり遠いに違いない。
更には一晩寝ないと着かないし。
次回も同じ世界とは限らない。
「そうか。大変だったな」
「まあ、大変と言えば……。……超大変でした」
紫色の異界にも行って仮面の原住民に追われたり、芋虫と戦ったり超大変だった。
この歳で『超』を使うのもいかがなものかと思うが、『超』とか『すげー』という単語とかしか思いあたらない。
ちなみに『すごく』は使わない。それ以上の気分だから。
で、俺の『超』が心底大変だったと隊長にも伝わったんだろう。
「そ、そうか。『超』大変だったんだな。で、今日の休む先は見つかったのかな?」
「いいえ。異世界から来たので、こっちの貨幣を持っていないので野宿でもと考えているんですよ」
「なら、領主さまの所に泊まってみないか?」
「領主さまにですか?」
「ああ。ここの領主さまは遠くから来た旅人の話を聞くことが好きでな。まだ泊まる所なんてないんだろう? 美味い飯も出るし、良かったら取り次ぐぞ」
いきなり話がぶっ飛んだぁあああ!!
どこから領主さまが出てきた?
おい! おい! おい! ……でも、まぁいっか。
美味しいご飯も出るし♪
上手くすれば居候出来るかもしれん。
異世界でニート!
悪くない。
「そうですね。お願いできますか? ただあまりこちらの礼儀作法に疎いのが心配ですが……」
「ああ、そこらへんは問題ないさ。俺がお前と話してみて、大丈夫と判断したからな。話した感じ相手に不快にさせる態度もなかったし、言葉遣いもそこいらの貴族よりまともだ。安心していいぞ」
「そうか! ならすまんが、少し荷物を見ても大丈夫か?」
「はい」
やられたー!!
どこまで甘ちゃんだったんだ、俺。
もともと奴は荷物を調べるのが目的で、あわよくば取って……。
「見たところ危ない道具も入っていなそうだし、持ってて構わないぞ」
あれ? れれれ? もう終わり?
ここでテンプレ的な何かが起きるんでないの?
「はあ……、ありがとうございます」
あっさりと返され、気の抜けた返事しか出来なかった俺は普通だと思う。
いや、没収されたかった訳じゃないよ。
たださ、異世界の道具だから色々聞くと思うじゃん、普通はさ。
「これから領主さまの屋敷に向かうから、ここで少し待っていてくれるか? 何、ほんの数分だ」
「わかりました」
そして、ほんの十分ほど待たされたのち領主の館に行くことになった。
何かやる事が早いな、この世界。
で、実は暇なのか? 領主さまよ。
ままよ、ままよで歩く異世界、俺の明日はどっちだ!