7.顔合わせ
隊長に連れられて領主さまの館に向かうことになった俺。
領主宅まで五分ほどの道程だけど、少しでもチョンボを減らす為に領主さまのととなりを聞いてみる。
事前の情報収集は大事なのだ。
就職活動で企業に電話する時にも、言うことを事前に書いておくのだ。
そうすれば失敗するリスクは減るのだ。
多少棒読みになってしまうが。
で、話は戻る。
隊長に話を聞いたところ何でも領主さまの年齢は二十代後半とのことである。
すでに結婚しているとのことだ。
ちなみに五歳の女の子と二歳の男の子がいるそうである。
羨ましいこと風の如し。
何となく意味がありそうな言葉である。
信玄公が好きだったのもわかる。(何が?)
俺の気分が乱高下しているのと関係なく五分ほどで屋敷に着いた。
もっとゆっくり歩いて欲しかったよ、隊長さん。
忙しいのはわかるが、こっちも色々事情というものが・が・が。
俺の事情はともかく、着いた領主さまの館は昔、通っていた小学校の二階建て校舎のような建物である。
通っていた校舎にはお化けの噂やらすきま風が入るなどナカナカ味わい深い校舎だったが、ここもそうなのであろうか?
出来るならあって欲しいものだ。
領主宅ですきま風。
なかなか風情があってよろしいと思うのだが、いかがだろうか?
で、そのいかんは別として隊長とお別れの時間である。
「わざわざ送って頂いてありがとうございます」
「気にするな。これも仕事の一環だ」
隊長と涙の別れである。
無論、ちょっと前に会ったばかりなので涙など流さないが。
ただ色々お世話をして貰って感謝はしているのだ。
『ありがとう隊長よ、また会おう!』(心の声)
口には出せないが、心の中で上から目線で言ってみる。
とりあえず敬礼をしたら胡乱な目で見られた。
どうやら敬礼は万国共通のものではないようだ。
ここは異世界だが。
と、つい変な行動をとってしまったが、これを機に改めねばなるまいて。
下手な行動は原住民で分かっていた筈なのに、これが若さ故の……言わせねーよ。
ちなみにそうそう若くない。年でもないが。
で、隊長と別れ際に紹介された執事さんを見る。
年配のセバスチャンでもなく、イケメンでもなく、当然男装の麗人執事でもない。
何かニコニコしているオッサンがそこに居た。
いっそ執事だから羊の執事だったら面白かった……ってか、ここまで獣人もエルフもドワーフも見ていない。
……って、まさかのなんちゃって異世界か?
俺はニコニコ顔の執事を見ながら絶望に染まった。
まあ実際はそこまで染まってないけど。
原住民に襲われなければある程度のことは許容できる範囲なのだ。
▽
こっちの異世界に疑問(亜人と呼ばれる人がいないかもしれないという可能性)を持ちながらもニコニコ執事に連れられて館に入る。
残念ながらすきま風は入らなそうである。
まあ領主さまの館だから当たり前なのかもしれんが。
--失望という名の不幸とは立て続けに起こるものだ--byケンイチ
俺は、メイドさんに会ってがっかりした。
てっきり若くてかわいい人、いや美人でも良かったのだが・が・が。
実際には家政婦さんが隣で見ていたのだろうか?
俺も嫌いな番組ではなかったが。
このタイミングでの出現はタブーでありんすよ。
あぁ……日本のメイド喫茶とは違うのだよ。
俺は、あれを作った人の業と罪を知ることになる。
ここに来て力が抜けつつも極力、顔に出さないようにしている。
もう足元はフラフラでグダグダだが。
こんな状態で領主さまに……。
で、まさかのこのタイミングで会うのが俺クオリティー。
「やあ、君が異世界という所から来たという旅人かい?」
しかも結構フレンドリーである。
ただし、イケメンではない。
人の好さそうな薄毛な領主さんである。
何か会った瞬間に『領主さま』から気やすい『領主さん』に俺の中で変換されたよ。
ローマ字変換と同じくらい簡単な変換である。
ちなみに領主さんの薄毛は遺伝なのかストレスによるものなのか、俺にはわからない。
とはいえ髪に気を取られていて、返事をしないといかん。
「はい。地球というところから来たマツシロ ケンイチと言います」
「そうか。君のことはこの街の隊長であるフールから聞かせてもらったよ。私の名はムランドという。宜しく頼む」
「こちらこそ、宜しくお願いします。で、私は違う所から来たので、こちらの常識には疎いのですが、領主さまのことをムランド様とお呼びして宜しいのでしょうか?」
「ああ、何ならムドでもいいぞ」
「いえ、ムランド様で」
「ふむ、そうか。ムドでも良かったのにな」
いや、会ってそうそう親しげにムドなんて呼べないから。
というか、この世界ではいきなりムドと呼ぶ方が正しいのか?
だが、もうムランド様と呼ぶと言っちゃたしな。
もう本当にここらへんの解釈の仕方が困るよな。
で、隊長の名前ってフールって言うのか。
確かタロットカードでそんなカードあったな。
そうそう『愚者』ってやつだ。
ということは……巡り巡ってマッチか。
そういえば、目が二つあるところは似ていたな。
あと鼻も口も同じ一つだったし。
まあ結論、似ていなかったが。
とはいえフールさんよ、領主さんに何て言ったんだ?
むしろそっちが気になるじゃないか。
気になって仕方のない俺は、くだらない事を考えて心を平常心に戻すことにした。
が、戻らない。
そんなことで戻るはずもない。
まさかの三段活用である。
実際、隊長にフールさんから何を聞いたのか気になる。
もう、ここで深く考えても答えなど見つからないから聞いてみることにした。
「こちらに案内をして頂いた隊長の方は、私の事を何て言ってましたか?」
「ああ。フールの奴は、俺に判断出来ないし面白そうな奴だから会ってみたらと笑っていたよ」
まさかの丸投げ第二弾である。
ますます俺の人を見る目の無さに拍車がかかった。
自分で自分が心配になってきた。
よく悪い女に引っかからなかったな。
………………。
……あ、そっか。
俺を引っかけるほど彼女たちも暇じゃないんだな。
ふふふ……、涙が出てきそうだ。
ちょっと自分を傷つけたが、平常心には戻った。
とりあえず自分をフォロー。
「私的には、自分は普通だと思いますが」
「大抵、自分のことを普通と称する人は面白い人が多いんだよ」
まさかの素早い切り返し!
しかも何度か言われたことのある返しだ。
「そうですか」
「安心したまえ。私は、そういった人物を好ましく思える。反対に自分のことを面白いといっている輩は大抵つまらない人物が多い。だから君はフールに紹介されてここに居るんだよ」
まあ領主さんに紹介されたのは良い。
ただ俺は、つまらない人物でいい。
下手に勘違いされて過大評価されるのは少し困る。
ネタなんてないし。
いや地球というネタはあるが、説明に困るからな。
「ふふふ。そんな顔をしなくともよい。聞けば長旅で疲れているとのこと。食事まで少し時間があるから当家自慢の風呂に入ってくるがよい」
「お風呂ですか?」
「それとも何か? 風呂の入り方がわからんのか?」
「いえ、大丈夫だと思います。私たちの世界でも風呂を入る文化がありましたから」
「うむ、そうか。何かわからないことがあれば、案内する者を付けるから聞くとよい」
「ありがとうございます」
「では、私は残りの用事を終わらせてくるとしよう。食事を楽しみにしている」
そう言うと、領主さんは奥に立ち去った。
ただ俺は言いたいことが二つある。
一つは、言い方はひどくイケメンくさいが人の良いオッサンであること。
しかも声はイケメンボイスだ。
残念なこと、林の如し。いみふ……。
二つ目に案内してくれる人は家政婦さんっぽい人であること。
俺はここに来るまでで若いお嬢さんを二人見かけたのだ。
出来ればその子が良かった。
進展など望めないが、ちょこっと一緒にいるくらいいいじゃないか。
と、心の中で愚痴りながらも殊勝な顔でお付きになってくれたメイドさん(家政婦)に案内を請う。
向こうも胡散臭いオッサンの案内なんて面倒くさかろう。
お互いに大人なのだ。
心の葛藤など何事もなかったように風呂場に案内され、一通りの説明を受けた。
ちなみに領主さまが自慢した通り、ここの風呂はとても良いものだった。
風呂から上がった際に、少し打ち解けた(自分の一方的な解釈)メイドさんにここの風呂を褒めたところ、ここは家族と外来のお客様用だとのことだとか。
領主さんからお客様扱いされて、ちょこっと嬉しい自分がいた。
俺も何とも単純である。
ちなみにバスガウンなど用意してくれていたが、何か高級そうだったので遠慮させて頂いた。
俺にガウンなんて似合わなそうだし。




