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宇宙世紀5050年チュートリアル1

あ、投稿したお話して消せないんだw

まいいや、イメージ固まったんで改稿。

おそらく、アニメで言うところの一話Bパートかな…異世界?なんだっけ?

そこは体に当たるそよ風が気持ちよく、上から降り注ぐ直接日光を直視しても目が痛まず、空気は吸っているだけで何時間も無限に走れる気がしそうな環境が整う場所。どこまでも続く草の上には人害な生き物など一匹もいない。人類が住むためにあらゆる障害を排除した空間だ。

そこに、今年で18を迎える17歳、制服姿で浅葱色(あさぎいろ)の髪をした少年と、先日16歳を迎えた、私服であろうオレンジ色のパーカーに半ズボン姿で浅葱色(あさぎいろ)の長い髪を後ろで一つに結って後ろに垂れているオレンジ色のパーカーの帽子に上手に収め、下は短パンの少女が白いテーブルを前に、二人で一つの椅子に少女が前で後ろの背もたれにキツそうな感じで少年が座り、二人は一つの教科書を読んでいる。

少年はその教科書を使って授業を受けていたので教科書の内容は知っている。ただ、少女は授業を受けていないので読み終えるのを待つ。

「読んだか?」

「ううん、まだ」

暇になり少年も教科書を読む。内容は歴史学。


惑星地球化計画(テラフォーミングプロジェクト)

五千年前、人類は地球だけに住んでいたという。増える一方の人口を軽減するために地球に近い惑星を居住地にしてその数を増やしていったのだという。それが宇宙世紀の始まり。

それは、途方もなく大変な話だと思う。現在で言えば気温が500℃近い金星の温度を下げたり、金属水素とガスの集まりだけの、外殻という地面と呼べる場所がない死の星である土星の環境を人類が住みやすい環境に整えて住むということだ。

しかし、既に人類はマイナス40℃の火星や土星と同じガスの集まりで外殻が無かった木星を居住地として住み始め約1500年が経つという。つまり、その気になれば気体の集まりである土星でも居住地にできるということだ。


教科書のページにはわかりやすい写真と解説が載っている。

「にいちゃん、これホント?」

「ああ」

「人類ってすごいね!にいちゃん!もしこれがホントだったら人類はここまで追い込まれてないのにね!あはは!」

「………」

少女は大げさに笑う。それに少年は言葉が出ない。

「確か一番最後のほうだよね?あ、ほらこれ」

少女は教科書の開いてあるページを読み終えたのかページを勝手にめくり始める。目的のページにたどり着くとさらに笑い声が大きくなる。

少年はあと一年授業を受ける必要があるのでその教科書の最後に書かれたページを知らない。授業より先に読んでしまっていいのか分からないが少女が笑うので仕方なく読む。


これで、人類が宇宙に住み始めて5000年という時が経つが、今までテレビや人たちの間で考えられた予想で起こるだろうと言われていた戦争や政治争いは実際起きず各国は宇宙開発だけに力を入れて、レアメタル以上の鉱石で作られる最先端の技術や宇宙の真実に近づいていったのだ。これは人類がここまで早く進歩するのに欠かせない大きな要素の一つだ。

そして、人類は宇宙世紀5000年を迎えて初めての地球外生命体との接触に成功しようとしている。彼らはどこからやってきたのか分からないが我々にとって友好的な生命体であればいいと思う。いや、きっとそうであろう。なぜならこの5000年という時間は彼らと会話するために準備された時間なのだから。

ーーーこの教科書は宇宙世紀5000年を記念して作られました。


「こんなことかいちゃってさ!ほんと愉快だね!はは!私も同じ人類だけどこれ書いてる人てホントに人類?」

「ノヴァン、この人は知らなかったんだ、地球外生命体がまさかの危険生命体だなんて」

「そうだね!でもさ、それを憶測で書くのってさ才能あるよね!マジ平和ボケしてるよ!あはは!」

「それは…」

少年は口ごもる。言葉が出ない。できればこの教科書の筆者を擁護してあげたかった。この教科書は宇宙世紀5000年に作られている。少年や少女がまだ生まれていない時代だがこれが最新の教科書だ。

ピーーーーーーー。上から音が鳴る。

[授業の時間は終了します、次は実技の訓練です。アルファ、ノヴァン以下の二名は次の仮想訓練場へ急いでください。]

それを聞いて、少女の笑い声も消える。少女は椅子から降りて少年の手を引く。

「あー笑った。じゃ、いこっか、にいちゃん」

「…お前大丈夫か?俺たちが選ばれたことまだ気にしてるのか?それとも…怖いのか?」

「何言ってんの?にいちゃん?怖いとかいうのは全然ないよ、私はね本気になれる戦場を見つけただけだよ、にいちゃんは怖いの?大丈夫だよ、勝ち続ければ死ぬことはないし」

「…そうか」

そう言って、少年はテーブルのリモコンを手に取る。そのリモコンについているダイヤルを回し仮想空間を何もないただ白いだけの空間に戻す。座っていた椅子の後ろにボタン式の自動ドアがある。

「あーでもさ、この戦争に使われる人間がにいちゃんと私ていうのは、そもそも危険生命体に近づかなかったら平和に暮らしていたんだよね?なら…」

自動ドアが空く。ドアの向こうは廊下だ。少女がまだ笑い気味に言葉を続ける。

「あの教科書の5000年ていう時間は危険生命体と話すために準備された時間じゃなくて、私たちをその危険生命体と戦わせて殺す、殺されるのを作った時間なんだよ?にいちゃんわかっー」

「私語は慎め!実技の場所はこっちだ。早くしろ!」

「ひっ!」

突然大声をかけられる。どうやらドアの向こうに見張りをしていた人間がいたようだ。少女はオレンジ色のパーカーの後ろに垂れていた帽子を頭にかぶり怒鳴った人から顔を隠しながら少年の背に隠れる。

声の主はこの施設で時々見かける軍服の人だ。かなり偉い地位の人だということは知っている。

確かにおしゃべりが過ぎたのかもしれない。二人は口にチャックをして案内をする怖い人についていく。


現在、地球は平和だ。危険生命体が地球に来るのはあと5年先らしい。

火星はこの危険生命体に侵食され星の表面が地球と木星からでは観測できずにいる。さらに、人類が住む最大級の星である木星では太陽系の果てから来たといわれている謎の精神体に攻撃を受けていると言われている。否。攻撃を受けているというのは間違いなのかもしれない。

実際に危険生命体は人類が息を吸って生きるために必要な酸素を結合したオゾンに弱く、惑星地表には来ず惑星をまるごと囲うのだという。

木星は最大級の惑星面積を誇るので囲われる前に集まる危険生命体の殲滅ができるのだという。

このオゾンが効果的というのは木星が半分覆われ、火星が全て覆われた時だった。なので、火星は対策前に襲われ危険生命体の拠点となっていて地球と木星からの支援は難しいという。

もともと火星は地球から木星までの中継ステーションで機能しており人口は少なく地球より小さい。火星人口は5億人程度それが危険生命体に侵略を許した。

地球は住みやすいがロマンがない。それに地球の資源は法律によって搾取禁止とされている。ただ生きるためだけに住むという人には良い。60億人が地球人口だ。

その点、木星にはまだまだ資源が余りあるらしく千年前からゴールドラッシュ状態となっている。なので、木星移住者は後を絶たない。現在の木星人口は150億人と言われている。


少年と少女は物心つく前から孤児で孤児院で幼少時代を過ごしてから五年前にこの施設に無理やり連れてこられた。少女も兄と同じ年になれば連れて行かれるということが分かっていたようで、孤児院の方で少女の行方を隠していたのだという。しかし、それも二年前の大捜索で見つかりこの施設に来たのだ。

おかげで少年は五年もこの施設で過ごして、無口で無感動で人の様子ばかりを伺う人間になってしまっていた。なんでも親が偉い学者さんらしいのだが実際は知らない。少年の家族は妹である少女だけだ。ということは少年の親は死んでいるということになる。一方、少女は兄である少年には心を開くが周りを見下し怖がる性格になってしまった。

この施設は危険生命体に対抗するために作られた。どうやら優秀な人間を作るための場所らしい。同じ孤児である人もこの施設に入れられた。だけど、皆耐えられずに訓練を放棄し施設スタッフとして働かされている。どうやら、この施設からは出れないらしい。

そして、この施設で作られる優秀な人間はどこで使われるか?もちろん決まっている。危険生命体と戦うための戦闘兵器に搭乗するパイロットだ。今の時代、遠隔操作によるロボットの操作が主流となっているが危険生命体と戦うには問題があった。

危険生命体は固形ではないことだ。よくわからないが精神体というものでどんなに攻撃性の高いミサイルや光速の速さで振り下ろす物体の追衝突もすり抜けてしまう。

危険生命体は人間に反応して囲う習性がある。危険生命体が対象を囲うとその対象との電波、無線、光の一切が遮断される。なので、遠距離の光学兵器も無意味。

そして、人間は他からの援助が貰えず長時間による死の恐怖に怯えながら衰弱死していくのだという。

なので、遠隔操作ではなく直接操作で戦う事になるのだ。

危険生命体に有効な攻撃方法はオゾン兵装だった。オゾンを武装や装甲に閉じ込め危険生命体に振り当てること。危険生命体が近づいてきたらオゾンの武装を振るえばいい。そうすることで危険生命体は死の恐怖から遠ざかり逃げるか運がよければオゾンと対消滅する。危険生命体は精神体。つまり、心があるのだという。危険生命体が怖いと感じるだけで消滅してしまうこともあり、それは心が弱い個体だからなのだという。ただ心が強い個体もありそれが集まるとすごく厄介だ。現在の火星がその状態だ。火星を覆う危険生命体は個体同士繋がり切っても切れない状態にある。

未だに未知が多い敵なのだ。

(俺は怖いんだ、実戦で死ぬのが、俺が死んで妹を一人にさせることが…)

少年は自分の着ている制服の胸に縫い付けられている名札を見る。Alpha(アルファ)それが少年に与えられた名前で、少女の着ているオレンジ色のパーカの後ろにも悪戯のようにピンバッチで留められている名札がある。Novan(ノヴァン)それが少女に与えられた名前だった。


ウィィーン。暗い部屋に一人の女性が入ってくる。

「アビーか?すまん、いま電気付ける」

「いいわよ、くらくても、ていうか起きてるならメールしないでよ、もう…」

それでも電気を付ける。明るくなった部屋の中には二人の20代前半の男性と女性。女性は男性のメールを受け取り部屋にきたようだった。

「なぁアビー、今日は朝からでかいコンテナが格納庫に置かれてああったが模擬テストなのか?」

金髪で長い髪の男性のパイロット候補生が隣のアビーと呼ぶ茶色で短髪の女性パイロット候補生の作業着姿を見て聞いた。

「らしいね、最近話題になってるあれでしょ?えーと、イマニクスて言うやつ、うちに来てるのはまだ頭部だけだけどね」

「ほぅ、あれか、じゃあ起動実験テストだな、ついに五体満足でできたんだってな?最初はうちの施設に回ってきたか」

「らしいね?でも、人型なんて本当に戦えるの?まだ腕も足くっついてないんでしょ?」

いいながら、アビーは自分の右腕に付けられている時計の表面に展開されているホロダイヤルを回しニュースの欄を見せてくる。

各局のニュースでは危険生命体の考察やら対策で盛り上がっている。その中の【危険生命体に対抗する人型機動決戦兵器イマニクス】と書かれたニュースを見つける。内容は起動実験にうちの施設が選ばれたことを報道している。画像には3メートルほどの目がないサイコロのような白い六面体が映っている。

「なんでうちなのかねぇ?俺知ってるぜ?これって二人で乗るんだろ?」

「そうなの?あんな白い小さい箱みたいなのにかい?…ってブルーあんた私と乗ろうとしてんじゃないのだろうね?」

「えぇー?ダメかい?俺はアビーと乗りたいんだがなぁ…」

「あんた、下心見え見えなんだよ…」

ドン!突然ブルーがアビーの背後の壁をど突き自分の顔をアビーに近づかせる。

「俺は本気だ。アビー結婚しようぜ?あれに一緒に乗れさえすれば後はトンズラこいて木星に逃げればさ…」

「ば、バカじゃないの!?ブルーあんた自分が何言ってるのか!?んっ……」

怒鳴るアビーの口をブルーが自分の口で塞ぐ。

約10秒ぐらいのキスをしてブルーがアビーから顔を離し椅子に掛けてあった施設の制服を手に取る。

「今の俺はこの施設で一番のお気に入りだ。あの機体に乗れるのはもしかしたら俺かもしれない」

「そ、そうなの?」

「だからだ、もし乗れたらこんな施設からはとっとと逃げて木星で稼いで普通に暮らすんだ。あの機体、イマニクスは何年も前に開発が止まっている機体だ。俺が調べた感じだと燃料で動いてはいないから木星までの星間飛行なら楽勝だ。後はアビーが乗る手段だが…」

「ま、まって!」

アビーがブルーの肩に手をかける。その手は若干震えていたようにブルーは感じた。

「そりゃ、あたしも逃げたいよ!木星に行ければ行くよ!でも私はあの辛い訓練を投げたんだよ!そんな弱い人間に逃げるなんてあたしは耐えられないよ!」

アビーの言葉はブルーの心にも響いた。ブルーも同じ訓練をしてきた人間を見てきた。中には死んでしまうものもいた。それでもブルーは頑張って耐えてこの施設のエースの座にいる。部下だっている。

「アビーお前は女だ、俺に守られていればいい。地球は木星よりも小さいんだ。火星が飲まれたのを覚えてるだろ?奴らが襲ってきたら地球はひとたまりもない。だから、空が広い木星に行くんだ、逃げるチャンスがあったら逃げるんだよ。そうやって人類は増えてきただろ?5000年も増えることをやめずに生きてきたんだ。な?」

こくり。アビーは不安げに頷く。

「大丈夫だ、ちゃんとアビーが乗る手段もちゃんとある。そのイマニクスてやつは二人一組で乗るみたいなんだ。一人が戦闘操縦し、もう一人が敵の行動パターンを情報解析する。つまり、メインパイロットとサブの頭がいい奴が乗るんだそうだ。」

アビーは呆然とする。まだ、実験段階で武装や実装兵器のことなど極秘情報のはずだ。どこからしいれたのだろう?

「十時間前、訓練から帰ってきたあとに実験パイロット要請が来ていた、回答はあと一時間。」

「つまり…?」

「俺が指名してみる。呼ばれたらアリーナに来てくれ、そこが実験テスト場だ」

そう言ってブルーは着た制服の胸ポケットに自分の名前が書かれた地球防衛のエースの証である星型の印章を身に付けた。


授業の時間を終えたアルファとノヴァンの二人が案内されたのは格納庫だった。

おかしい。アナウンスで案内されたのは仮想訓練所だったはずだ。格納庫には危険生命体と戦うために量産されている兵器や戦闘機が並んでいる。この光景を見るたびに危険生命体と本気で戦争をしているということに気づかされる。ネットやニュースの映像で流れているが危険生命体の体は幽霊のような感じだ。半透明で不明慮。精神体と呼ばれている。

「ロボットあんまり大きくないね…」

隣のノヴァンが制服の裾を引きながら感想を漏らす。そういえばノヴァンがここに来るのは初めてだった。

ノヴァンは極度の人見知りなので兄であるアルファ以外の人と話すのは慣れていない。いや話にならない。なので、授業も実技もアルファがいないとしゃべらないのだ。これは、この施設の方でも仕方なく受け入れられている。

その点を除けばノヴァンはアルファよりも優れている。シミュレーション戦闘で戦う戦闘成績はかなり秀でており、あと一年でパイロット候補生も夢ではないという。まぁ、それには兄から離れる訓練が始まるのだろう。なのでこうして話していられるのもあと少しなのかもしれない。

二人はその格納庫から機体操縦演習が行われるアリーナが見渡される部屋に案内される。どうやら機体には乗らないらしい。

「パイロット候補生のアルファです、入ります」

「…パイロット…ノヴァン……す…す」

部屋の中には技術者が何人かいたので反射でノヴァンは挨拶し、それに釣られてノヴァンも小さく呟く。二人の声を聞いて案内をしてくれた軍服の人は次の指示を出す。

「これから、実技訓練をするが今日は新型兵器の下見だ、質問があったらこのマイクに話しかけろ」

指を向けられた方向にマイクがあった。おそらく、相手はかなり上層部の人間だ。おそらく新型兵器の開発に携わっているんじゃないかと思う。

「ねーにいちゃん、もしかしてイマニクスてやつじゃない?ニュースでうちの施設で実験テストするってやってたよね?」

「そうだったのか?」

「もーうといなぁ」

ノヴァンが被っていたパーカーの帽子を脱ぎ頭が顕になる。表情が緊張の顔からいつもの笑い顔になる。やはりノヴァンにはいつでもこんな調子でいてほしいとアルファは思う。

アルファの最近は自己鍛錬に没頭している。パイロット候補生の自分がもう17で18になるとパイロットとして戦場に出撃することを恐れているのだろう。強くならなければ生き残れない。そんな時代があと5年も立たずに来るのだ。

「私、あれ乗りたいなー絶対強いよ、兄ちゃんもでしょ?」

「そうだな、強い機体に乗れれば生存確率はあがるからな」

「もうそればっかり、少しはかっこいいからとか楽しそうだからとか男の子っぽい意見ないの?そんなんじゃ心が死ぬよ?」

「そうだなぁ…ニュースとかでみた情報からだとあの白い六面体はコックピットなんじゃないかな?、腕や足はもともと別組で作られていたから、きっと分離して無線か有線で遠隔操作できそうだし、それに人型は驚いた。これまで人型の機体は二本足で立つのが困難とされていたことから開発はずっと諦めていたそうだけど、問題は機体重量の分散。安定して立つためには両足に同じくらいの重量が均等でなければいけないんだ。それが可能にするには高い処理能力と負荷を分散する機構が必要だ。戦闘に特化するならやっぱり戦闘機が一番だろうね、人型は支援向きな気が…」

しまった。つい語りすぎてしまった。こういうのはクセになる前に治したい自分の性格の一つだ。

「うん、その目だよ、にいちゃんはそうじゃなきゃね、孤児院にいた頃覚えてる?ロボットのアニメ見たじゃん。あんな感じで戦えばいいんだよ、体も心もさー」

そういうものでいいのか?。ノヴァンは危険生命体と戦うことをゲーム感覚で捉えている気がする。いつか直してあげたい性格の一つだ。

「あ、あれじゃない?イマニクス」

言われ、窓越しにアリーナの格納庫エリアのシャッターが開き白い六面体が現れる。イマニクス。危険生命体と戦うために作られた決戦兵器だ。開発自体は10年も前に凍結されたと聞いたが、開発は極秘で計画は進んでいたようでこうして実験テストが始められている。

しかし、変なデザインだ。白い六面体。サイコロのような機体だ。あれが頭部でコックピットなのだそうだ。よくよく見ると極細の黒い線が四角形の面を菱形にくり抜く感じでついてあるがあれはなんだろうか?ニュースなどでよく見る画像にはあんなのはなかったはずだが。

「あれ頭部だよね?腕とか足は?」

『残念だがそれはまだなんだ、明日にはそちらに到着する予定だよ』

どこかのスピーカーから声が聞こえる。どうやらこの人物が質問に答える相手らしい。

「自分はアルファと言います…」

『あーそんなに身構えんでもいいよ、さっきの君の一人語り聞かせてもらったよ、噂で聞いていたが本当に好きなんだね、君の意見がぜひ聞きたくてこの場に招待したのさ。僕はこのイマニクスの開発者の一人だとでも言っておこうかな、ははは』

一人語り…。スピーカーから聞こえる声はとてもおどけて笑っている声だ。その声は高くて野太い。

「私、ノヴァンね。これ、にいちゃんのくせなんだ、ていっても普段は冷たいけど」

ノヴァンが自己紹介をした。それもとても崩れた態度で話している。

「ノヴァンお前平気なのか?」

「ん?だって顔わかんないし、目見ないし、いんじゃない?」

『いいよいいよ、ところで本題に入るがいいかい?』

いいのか。それでもアルファは自分だけでもしっかりしようと決めて話を聞く。

『あの機体、イマニクスはね二人一組の機体でさっき起動実験のパイロットも決まったんだよ。いや違うか、まだ決めてる途中かな』

「というと?」

『操縦者に問題ありかな?乗りこなせるどうかのテストさ、君の言うとおりイマニクスはあの白い箱がコックピットさ、さらにあの状態だけでも、そう!コックピットだけでも危険生命体との戦闘が可能だ!』

「そうなの?とてもそんな風には見えないけどなぁ」

確かに。ノヴァンの意見にアルファも同意だ。

『まぁ、外見より性能だからね、動かせたならその意味もわかるよ』

「あれ?誰か乗るみたいだよ?男女二人?」

イマニクスに乗り込むパイロットだろうか?女?女性の正式パイロットはこの施設にはいないはずだが…。白い六面体に男女二人が近づいていく。

『それとイマニクスは二人で乗るんだ、片方が敵の行動を予測して指方向性エネルギー攻撃のマイクロウェーブをターゲットに撃ち危険生命体の動きを止める、奴らは光線や電波をすり抜けているわけではなく遮断してるわけで。つまりは受け止めて無力化しているということだ。無力化している間は危険生命体の動きは止まる。そこをもう片方が超速で振るうオゾン兵器で切り出す。近接武器寄りになるんだけど二等辺三角錐の形状で縦、横、斜めでの切断が可能な武器でね…』

「えーー!なにそれ超乗りたい!私後者ね!にいちゃんは前者!」

ノヴァンが配役を勝手に決めている。しかし、二人共まだパイロット候補生でパイロットではない。それに、自分が支援役というのはカッコ悪い。

そんな話をしていると白い六面体に変化が現れる。少し浮いたのだ。

『あの白いフレームはね、重力に反発して離れる反重力の性質を持ってるんだ、万有引力に近いかな。反発する力加減はコックピットからの操作で変更できるんだが最初は自動設定で地面から約一メートルだね』

そして、さきほどから不思議に思っていた黒い線がどんどん太くなっていきそれに伴い白い六面体の八つ全ての角が浮いて離れていく。白い六面体の角が八つの四面体の正三角錐になり、その中央に八つの黒い三角形と六つの白い四角形が面の十四面体があった。そこで初めて黒い線が白い六面体の内部装甲の色だと気付く。

あの黒い装甲ががコックピットの入口らしい。黒い装甲が真横に開くのが見える。イマニクスに乗るパイロットの二人は黒い三角形の装甲の中へと入ってく。金髪の男性と茶髪の女性だ。金髪の男性は見覚えがある。というか有名だろう。この施設のエースパイロットだ。名前はブルーノ。この起動実験テストに選ばれるのにも頷ける。

『さて、イマニクスを動かせるかなぁー僕は失敗すると思うねぇー』

「なんでですか?」

アルファはマイクの向こうの人物の決めつけに疑問を持つ。まるで、失敗が前提のように聞こえたからだ。

『あれは、僕らの常識では動いていないし作られていもいない、ていうか、僕も開発には携わってるんだけど全然仕組みがわからなくてね、機体の設計とかはあのコックピットから指示されているんだ』

「うん?それおかしくない?それって機械が人間に指示出してるてこと?」

白い三角が黒い三角形の装甲に戻っていき元の白い六面体になる。コックピットが密閉される。ついに起動実験が始まる。

『そうなるね、10年前に凍結した計画をもう一回調査してみたら機械の画面にそんなのが表示してるんだ。おかげで腕と足を作るのに5年もかかったよ、それと失敗する理由は二人では無理ということだ、あれは全方位の警戒をするために周囲の景色すべてが頭に映りこんでくる、人間の脳波と同調して映像を見せるようだ。人間の目は前にしか付いていない、うさぎや馬なら右と左を広く見渡せるのだろうが人間には無理なんだ。そんな慣れない視点で飛行なんてしたら右も左もわからず墜落する。危険生命体と戦うのは夢の夢だ。まぁ特別な訓練でもすれば………え…!?』

そんな白い六面体は飛んでいた。それもかなり早い速度だ。アリーナは密閉されてるので高度が制限されているがそれでも際限なく自由に飛んでいた。

「飛んでるみたいですよ、ブルーノさんはこの施設のエースでオールレンジ兵器を扱う戦闘機を主力にしてますからね」

『す、すごい!これで危険生命体と戦えるぞ!はははっ!君すまんね!私はいまイマニクスの腕と足部分と一緒にいるんだ!これで接合実験も始められる!今からそちらに運ぶ手配をするから切るね!君の意見を聞くいらないようだ、すまない!』

ぶつん!

スピーカーから乱暴に切れる音が聞こえる。

「なんか拍子抜けだね、もしかしてそんなすごいもんじゃないかも、見た目もダサいし、あとはまだ見てない顔と腕、足によるけど」

と、ノヴァンはつまらなさそうに言い、オレンジ色のパーカーの帽子をかぶり直す。

「そんなことないさ、いままでの機体とは全然違う機構をしてるし、あれが危険生命体に有効だとしたら人類の希望になるだろ?俺やノヴァンが戦わずに…死なずに済むかもしれないだろ?」

「…ふーん」

「………」

ノヴァンとの会話が途切れる。アルファは、まだアリーナーを縦横無尽に飛び回る白い六面体を見る。

周りの上官や研究員等は機体の起動実験が成功し喜び、打ち上げの予定などの準備をしていた。

「つまんないね、みんな…」

ノヴァンが一人つぶやく。その時、白い六面体の黒い線が太くなり八つの角が分離した。


飛び回る白い六面体、イマニクスの中で二人の男女は叫ぶ。

「ちょっと!ブルー!もういんじゃないー!私気持ち悪くなってきたよ!」

「こいつはすげぇ!戦闘機の比じゃない制空制御!ゼロからマックスの加速時間が短すぎるぜ!しかし、どいう原理で動いてんだ?燃料じゃねんなら機構か!?大昔に有るとされた円盤型の未確認飛行物体(UFO)の万有引力による飛行!それに近いな、こりゃ!」

「どうでもいいよ!飛べるのが分かったんならもう降りよう!視界がぐるぐるして吐きそうだ!」

しかし、ブルーは降りるどころかコックピットに備えられている機能を知り尽くそうと調べる。

「ハンドルじゃなく脳波で運転するのはスゴイが武器は手動らしいな、このが珠がそうか?」

ブルーの座席の前に二つの珠がある。それは手の位置上ボーリングの玉のように親指だけ穴が空いている。そこにブルーは手を置いて自分の親指を指す。その後は頭に使い方が流れ込んでくる。この機体、イマニクスが武器の使用方法を教えてくれる。

「人差し指が前上、中指が前下、薬指が後ろした…」

「ブルー…なにやってんの?」

「いや、この武器とんでもないぜ、これでアリーナの天蓋も吹き飛ばせる…」

「…え……!?」

アビーがブルーのやろうとしていたことに気づいて汗がにじむ。ブルーは最初の、この実験テストでこの施設から逃げ出そうとしていた。

「ちょっと、ブルー!!」

「おりゃああ!!」


ズゥゥゥゥン。それは施設全体が揺れる音だった。

「何事だ!?」

部屋の中にいたアルファとノヴァンを案内してくれた上官が大声を出す。周りの研究員や整備員が騒ぎ出す。

「イマニクスが暴走しています!いや!アリーナの天蓋を破壊!そのまま離脱していきます!」

研究員たちが監視モニタの映像を巻き戻す。そこには、イマニクスの白い角が二つ分離し鋭利な三角形の角でアリーナの屋外を粉砕していた。

「なにぃ!?」

アルファとノヴァンはそれをいち早く察知してアリーナを見渡せる部屋から出ていた。後ろから上官の指令が飛ぶ。おそらく、あれを追えだの言ってるに違いない。

「ねぇ、にいちゃん、面白くなってきたねーでも普通の戦闘機じゃあれ倒せなくない?あんな制空制御されたらどんな攻撃も避けちゃうよ?それに、あの角…」

「ああ、あれがイマニクスの武器、遠隔操作での三角形の角と辺を使った刺突と斬撃…それだけじゃない面での防御も可能か…」

「なんか、勝てる気しないんだけど…角は八つあるよね?それに射程は無限かな?とてもじゃないけど戦闘機じゃ追いつけはするけど落とされる可能性が高いねー」

走りながらアルファとノヴァンはイマニクスの対抗策を練る。アルファは緊張の表情で、ノヴァンは怪しいほどの笑みで楽しそうにしている。

二人がアリーナ下層の格納庫に着いた時、配備されている戦闘機の出撃が始まっていた。その何機かは無人の戦闘機だ。この施設から遠隔操作でイマニクスを追う。しかし、実際に戦闘機に搭乗した方が戦闘力は高くなる。それは、生きるか死ぬかの瀬戸際の中で戦う人間の火事場の力といえよう。

この施設の指揮官が決めた出撃する搭乗者リストのボードを見る。アルファの名前があった。いそいで更衣室に入り込む。そこにノヴァンもついてきた。

「ノヴァン、お前は遠隔操作だ」

「えー私も実機に乗りたい!乗せてよ!私一番強いよーねーねー」

「ダメだ、お前はあと二年我慢するんだな」

アルファは制服を着る間も惜しんでその上から戦闘服のスーツを着る。

「ねーねーねー」

「ノヴァン黙れ」

制服の胸ポケットから棒つきの飴玉を取り出す。メロン味だった。それをノヴァンにわたして更衣室を出る。

「ちょっとにいちゃん!メロン味は一番マズイ味じゃん!最悪!」

そんなの知るか。もしかしたら宇宙に飛び出すかも知れない。その覚悟を胸に潜め量産された戦闘機の搭乗口へ走る。

「にーちゃんだってあと二ヶ月でしょ!ずるい!ずるい!私より二ヶ月早いじゃん!」

バリンと飴玉が砕ける音がする。飴は舐めるものだと何回教えても歯で砕くのだ。そんな妹のノヴァンの駄々を聞いてアルファは後ろに手を振る。そして、はしごを伝って戦闘機に乗り込む。電源をONにし起動する。

「アルファ、出撃準備完了です。」

画面の左端にホログラフィックで専属のオペレーターの顔が映る。とても無表情な人形の顔。

『アルファパイロット候補生出撃準備完了、今任務目的はイマニクスの暴走による二次災害の防止です』

「二次災害の防止?暴走のくい止めでは何のですか?」

『いえ、ブルーノ部隊長からの通信によれば火星を覆う危険生命体との腕試し(チュートリアル)だそうです、それに重要責任者である指揮官、博士の合意によりイマニクスの監視をお願いします』

そうなのか。この施設のアリーナの天蓋を吹き飛ばしておきながらその処遇はどうかと思ったが、おそらくこの施設の指揮官よりさらに上からの息がかかったのだろう。あの起動実験の時に話した技術者…開発者といったか。その人物がオペレーターの口から出た博士だろう。

そこまで考えてアルファの体に強力なGがかかる。並大抵の人間では意識を手放し気絶するほどだ。しかしそれも一瞬。戦闘機は音速を一定に保つとだいぶ楽になる。しかし、飛ぶのは上。地球の外だ。

『空間座標の光子ワープを行ってください。申請コード0000463。月の方向4時の方角』

言われ、アルファは月がある場所へ戦闘機の鼻を向ける。超光出力所(タキオンエリア)と呼ばれる機関がある月基地に光子を受信し出力してくれるのを、右手にあるホロダイヤルで入力し申請する。個体情報と申請コード番号を記載する。

「了解。月基地への光子ワープ申請、出力位置固定完了」

ビッ…。アルファの乗っている戦闘機が超光速因子化(タキオニクス)に変化する。戦闘機の装甲も中のアルファ自身も一瞬だけ光に包まれる。光の中の戦闘機は周りからの存在を確認できない。いや観測さえできない。

戦闘機の質量を光粒子の情報量(データ)に変換して、超光出力所(タキオンエリア)と呼ばれる無重力の場所へと一瞬にして送られる技術。極超音速を超える極超光速という物理学で言う音速のマッハ数では表せない100KTL(キロタキオンリーグ)という速さで空間ワープするタキオンテクノロジーを使った技術だ。

重力がある場所で速度を出しながら高度を出すととてつもないGと手間がかかる。なので、無重力に近い月からの出発なのだ。

そして、月基地の光出力所を抜けて月基地の転移門を抜けて直進する白い点を確認する。あれが、監視対象のイマニクスだ。後は自動操縦で最短距離をコンピュータが計算しイマニクスに追随させる。そのほうが早いし楽だ。周りの500機を越す戦闘機も運転に切り替えている。

「ふ…ぅ」

アルファはヘルメットを脱いで楽になる。備え付けの非常食などを確認する作業に勤しむ。

実際、アルファがこの光子ワープを使うのは今回が初めてだった。施設の授業で習ったことをただ実行しただけ。特に難しい操作もなく困難なくできた。そういえば、ノヴァンが光子ワープの授業を受けるのはあと5ヶ月だったか。授業を教える先生役は自分なのでどう教えるかをそろそろ考えなくてはならない。

(いや、違うな。)

あと二ヶ月でアルファはパイロットだ。上からの指令があれば戦場にだって出るかもしれない。施設内にいられるのであればノヴァンの面倒を見てやれるが…。

アルファは考えながらストロー式のミネラルウォーターを手に取る。

「今回の腕試し(チュートリアル)はやはりおかしい…」

そう言って、アルファは眼前にホロボードを展開し今後起こりうる展開を書いていった。


アルファの戦闘機が光に包まれ消えるのを見てノヴァンはパーカーの帽子をかぶり一人つぶやく。

「あーあ、行っちゃったよーどうしようかなーていうか勝てなさそうだし…応援ヤーメタ。部屋戻ってゲームしよ、そろそろ今週のKILL数稼いどかないと…」

ガリガリ…。アルファから渡された棒つきのメロン味の飴を歯で砕く。メロン味は嫌いだ。飴の中で一番甘い気がして酸味が全くなく舌や喉が死んだように感じる。それでも食べながら私室がある区画へ歩く。

「やべっ、出遅れたよ!」

どかっ。

ノヴァンが更衣室の前を通り過ぎるところで戦闘機に乗り込もうとしていたパイロットと肩がぶつかった。パイロットは戦闘服姿でのけぞったりはしたがノヴァンが一方的に吹き飛ばされる。

ノヴァンは肩を抑えうずくまる。パイロットはイラついた態度でそれを見下ろす。

「おい!邪魔なんだよ!うろつくだけなら子供は部屋に帰ってろよ!」

「…すい…せん…すいま…ん…す……ませ…ん…」

「ちっ!急がないとっ!」

ぶつかったパイロットは戦闘機の搭乗口へ走り去っていく。それをノヴァンは睨みつける。

(殺してやる、いつか殺してやる、体の形が、死因が、そいつが誰なのか分からなくなるような殺し方をしてやる…)

ギリギリ…。戦闘機がまた一機飛んでいく。それを睨みながら飴を微塵もなく歯ですり潰す。

(0000598…)

すると、空の彼方から一機こちらに戻ってくる戦闘機が見えた。

「え……?」

それはとても早くてあまり形が分からないがやたら金メッキが施されている戦闘機だった。それがこの施設の格納庫に着陸する。

「なんか悪趣味な機体…もしかして…」

興味が勝りそれをノヴァンは追った。


ほとんどの機体が出撃し静かになった格納庫に長い金属の尾が付いていて先端が金メッキ、翼が白く、中央に黒く小さい珠が白い装甲に埋め込まれ、ブースターの役割をしている後部も金メッキといった色合いの戦闘機が着陸してきた。

着陸した金メッキの戦闘機の黒い珠の部分がドアの様に開いて中から頭部が金属のヘルメットで覆われた白衣姿の男性が出てくる。それをこの施設にいた最高位の地位にいる指揮官と警備の人が出迎える。

「お疲れ様です、アルノロイド博士」

「いやはや、流石は僕の開発したイマニクス!オーストラリアからロシアまで10分でついちゃったよ!速い!重力(G)の負荷も全然無かったね!乗り心地最高!さらに、腕試しするとか言って火星に飛んでいったって?いいねぇ!これで実践データも手に入る!」

「しかし、アリーナの修理費がですね…」

「そんなのこっちで払うさ!それより君、僕は英雄になるかな?僕のイマニクスが危険生命体を殲滅するかもしれないよ?今日で!たった一日で!あは!あははは!」

その様子を見て指揮官は呆れる。なんて、間抜けた人間だと。顔がメットで覆われて素性は分からないが明らかに言動が狂っている。実際戦うのはパイロットだ。パイロットに命令を下す指揮官は上に立つものとしての礼儀をわきまえているがこの男はパイロットも含めて機体を自分の(おもちゃ)として扱ってるようだというのが第一印象だ。

「ねーそれなに?」

博士と指揮官、さらに警護の何人かがそちらを向く。

「もしかして、あの白い箱型ロボットの腕とか足?戦闘機になってるんだね?すごーい」

オレンジのパーカーの帽子を被った浅葱色の髪を隠した少女だった。飴がなくなった棒をピコピコと上下し笑っている。だが顔には汗が伝っていた。それを見て警護の人間が銃を下ろす。

「子供…?」

「私服だぞ…」

「いや、こいつはアルファの妹のノヴァンだな、パイロット候補生だお前より操縦うまいぞ、昨日俺死んだからな…」

警護の人間が小さな声で情報交換という名目の世間話を始める。

「なんの用だ、ノヴァン候補生、お前は遠隔…」

「まぁ、まってよ、待ってよ、ほら足が震えてるじゃないか、この子、あれだろ?アルファ君の妹のノヴァンちゃんだろ?話は聞いてるよ」

指揮官の言葉を遮りアルノロイド博士がノヴァンを歓迎する。ノヴァンは確かに足が震えていた。

「そ、そうだよ私はその…博士さんに用があんの…」

「………」

指揮官や警護の人間は黙る。博士は興味を持つ者がいた事に喜んでいるようで話し始める。メットの奥の顔はさぞ嬉しそうな表情だろう。

「この戦闘機の話だったね?確かにこれはイマニクスの体さ!僕が造った!既にあったんではなく僕が造ったんだ!速さは平均5000マッハは出るかな。試してないけど、でもここまで飛んでくる時のコックピット環境は素晴らしく快適だったよ!普通はよって吐くんだろ?そんなのナイナイ!燃料は電気エネルギーだがイマニクスと合体すれば電気を補給できるし万有引力で動くから永久機関!それに…!」

博士が語る。それにノヴァンは一旦ストップと片手を出す。

「じゃあ乗せてよ、私も殺したい、危険な奴ら」


およそ4000マッハは出てるか。白い六面体のイマニクスを追随する戦闘機の中でアルファはスピードメ-ターに目を通す。この戦闘機の限界は7000マッハ。イマニクスはもっと出るだろう。あと10分もすれば火星が見えてくる。目的地に近づくにつれ速度は運転可能の50マッハまで下がる。つまり、この速度は一方通行用の速度だ。

現在の地球と火星の距離は約2000万キロ。火星は2年毎に地球に近づいてくる。特に影響はないが今は危険生命体の巣と化している火星が近づいて来るのはやはり怖い。

その時だった。赤い色が見えた。火星?違う。火星は危険生命体に覆われ色が見えないはずだ。それに赤くもない。ならあれは…。

「…危険生命体?」

ビーーー。機内にアラート音が鳴る。敵に遭遇した時の警告アラートだ。画面右端にオペレーターからの通信がくる。

『危険生命体確認。今任務は監視。各機イマニクスのー』

「了解。監視を続行する」

イマニクスの白い角が四つ分離し燃料を噴射する動作もみせずに別個で動く。そして、宇宙空間を揺らめく危険生命体を通りざまに四つの白い三角形を交互にぶつけ、危険生命体はあっけなく消滅した。

これだけなのか…。危険生命体との戦闘が初めてのアルファには分からないが人類の脅威である敵は3秒ほどで散った。

標的を消した白い六面体に戻るイマニクスは火星へ進む。どこか急いでいるように見える。すると、青や緑が向こうにちらほら見え始める。ネットやニュースの画像では白い半透明なものだったはずの危険生命体は色鮮やかな色をしていたのだ。

白い六面体は八つ全ての角を分離。それを複数の危険生命体に向け射出する。危険生命体は大小さまざまあったがどれも形が霧のように漂っている。敵意がないようにも見える。

そんな危険生命体も消しゴムをかけるように白い三角形が消していく。

「圧倒的だな…」

アルファは感嘆の言葉を漏らす。やはりイマニクスは人類の希望だった。これで、人類は怯えずに済む。自分が戦場に行く必要もなくなる。その時だった。

『こちら、最左翼!敵に囲まれている!くそっ!左翼なんかに並ぶんじゃなかっ…ジジッ…』

オペレータの通信から不穏な音が聞こえる。

『左翼から敵接近、イマニクスが迎撃するので各機支援し迎撃してください』

「了解。左翼に移動を……え……」

作戦通り移動を開始しようとした時だった。アルファの戦闘機の前に白い三角形が現れた。アルファはぶつかるのを予感しエンジンの前噴射を敢行し羽を上方に折り曲げ三角形の面を滑るように間一髪かわす。

(なぜだ!?俺の周りには危険生命体はいないはずだ。手違い?いや…)

イマニクスの本体を探すアルファの眼前にオレンジと灰色が混ざった爆発が見えた。戦闘機の爆発。その爆発の中で八つの黒い三角形と六つの白い四角形が面の十四面体が不気味に回っていた。


「ブルーもういいだろ!さっさと木星に行って静かに暮らそう!」

「まだだ!このイマニクスは最強だ!危険生命体が何匹いようと敵じゃねぇ!むしろ、この機体を監視するこいつらが厄介、一機残さず落として追っ手のリスクを最小限にしてからの方が上策だろぉぉ!?」

ブルーの両指が踊りだす。それに合わせて白い三角形が戦闘機にぶつかって爆発を起こす。爆発するのは戦闘機の方で白い三角形は無傷だ。

そんなブルーの反逆に気づいた機体がいたのだろう。オペレーターから通信要請が来るがオフにする。内容はわかっているので聞く必要はない。むしろ従えば終身刑は確実だ。

ブルーの指は動くのをやめない。また一機潰していく。さらに近づいてくる危険生命体も同時に消していく。

それは、殺し合いだった。人と人の殺し合い。

「ブルー!私はこんなの望んでないよ!」

アビーが両手で自分の目を塞ぐ。それでも、イマニクスの外で起こる戦闘の景色は脳波を通じて頭に流れるので瞑ることはできない。

「アビー!お前は知らないだろう!人間が宇宙に出て5000年のあいだずっと何もなく平和だった?そんなわけないだろ!人類は争いがあったことを隠し、地球にいる人類を生まれる前から統括し遺伝子的に組み替えたんだ、戦争や喧嘩を行えない人間に!そうすることで周りがそうなり自然になっていく」

「そ、そんな…!でも、ブルーは…!」

「そうだ、俺は地球生まれの木星人。地球の遺伝子を引き継がない人類なんだ、だから、人を殺しても前向きになれる、アビー…お前は俺がエースになれたのを不思議に思わなかったのか?俺は特別なんだ、あの施設の中で唯一人を憎めたんだよ、あの施設にお前を連れていった奴らを、訓練を強要した奴らを殺したいと思ったんだ。しかし、そんな理性に従えば、俺が木星人だとバレる。だから、この時までお前にも明かさなかった、嘘をついた、でもな、お前を愛してる。あんな狂った星にいちゃダメだ…なぁアビー…」

「………うっ…」

アビーは何も言わない。泣いている声がする。できれば悲しませたくなかったが無理だったようだ。

ズゥゥゥン。イマニクスの機体が初めて揺れた。イマニクスの装甲は硬かったはずだ。

「ダメージを受けたのか?」

ブルーは話に夢中になっていて戦闘に集中していなかった。どうやら、六面体の角が抜けた黒い三角の装甲にミサイルを受けたようだ。その方向が滲んで不鮮明になる。

「黒い装甲はダメージを受けるのか…しかし誰だ?この俺に一泡吹かせた奴は?」

すると、秘匿回線の個人通信の要請がくる。こいつか…。ブルーは通信をオンにする。

『繋がった…!ブルーノ隊長ですよね?いますぐ戦闘をやめてください、その行動は反逆行為にあたります』

「アルファか…、そういえばお前あと二ヶ月でパイロットだったもんな、てか候補生まで実戦出してんのかよ、道理で数が多いわけだ…」

通信に出た相手の顔には見覚えがある。浅葱色の髪をした少年。今は戦闘服で素顔がわからないが声を聞くだけで分かる。あの施設の次期エースパイロットと謳われている才能が頭に思い浮かぶ。

「ブルーノ隊長!応答してください!今すぐ戦闘放棄を…」

「お前には光るもんがあったからなぁ!18でパイロット?最年少て言われてんじゃないか!お前は全力で潰してやるよ!」

叫び、イマニクスの八つの白い三角形の内の四つを使いアルファの戦闘機に向かわせる。それは戦闘機の鼻と腹とエンジンと両翼を狙って飛んでいく。

(落ちた…!)

ブルーは確信する。白い四角形は約100マッハの速度だ。もっと速くすることはできるが狙いがぶれる。アビーが照準の役だがそれができない精神状態のためブルーノの感覚でのみ白い四角形を動かしていた。

四方からの物体との衝突はただ前か上だけにしか進まない戦闘機には回避が無理だ。

四つの白い三角系が交差する。アルファの乗っている戦闘機が爆発の色を散らす。

ガンッ!!

はずだが、散ったのは火花だ。四つの白い三角形が全て空振り、交差する場所で目的がなくぶつかり衝撃波が宇宙空間を揺らした。

「き、きえた…だと?」

アルファとの秘匿通信から声が漏れている。それは少女の笑い声だった。



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