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『 Legend of the wars  』   作者: 桐生清一
聖エルベリア教皇国軍所属編
55/100

§第十二章 高貴なる我らの血潮よ永遠なれ 4 §

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆4◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「それでは皆さん。これでよろしいかな? 」


ベルナルド総大将の言葉とともに、全員は大声を上げて、賛同した。その内容は大幅に偏ったものであった。当初言われていた通り、本陣に兵士10万人を配置し、街道沿いに7万人の兵士、残りの4本の道筋についてはギルト、ハーヴィス、セリスタの兵士陣となっていた。


「……とうとう来てしまいましたな」


マーチスはため息混じりにハーヴィスの報告を聞いていた。あまりに散々な軍議であったため、ハーヴィスとギルトの二人だけで行ってきた。それ以上来たとしても、セリスタの面々の説明に対して罵倒されるだけだった。


「さて、あちらの軍議も終わりましたし、こちらはこちらで軍議をします」


ハーヴィスの声に合わせて、一同は頷いた。軍議と言っても、ハーヴィス達はキャンプを建てることも許されず、建物のない中で行われた。その分、周りを警戒出来るという利点もあったのだが、そもそも貴族院の者たちがハーヴィス達に興味を持つかどうかすら怪しかった。


「さて、皆さんまず最初に謝罪からさせていただきたいと思います」


ハーヴィスは座ったみんなの前で立ち上がり、頭を下げた。その姿に皆は驚く。


「お、おい、どうしたんだよ」


皆の思いを代表してエスラーは答えた。それに対して、ハーヴィスは簡潔に答えた。


「この戦い、負ける為に、私達は出陣したからです」


「 !!! 」


一同は驚きを隠せなかった。ギルトは事前に聞いていたため、目をつぶって何かを考えていた。


「何か、あるんだね。それはどういうことだい? 」


ハインツはハーヴィスが言う事だから何かあるかもしれないと察してくれたようだ。まだ分からずに思考が停止している者たちに変わってハーヴィスに尋ねる。


「うん、実は、今回の戦いは、教皇様直々に負けるように言われている」

「ま、まじか……」


全員信じられないような表情をした。同じ勢力同士で仲間割れなどと聞いているだけでも醜い話だった。ハーヴィスは全員を見渡して、改めて、教皇サイドと貴族院サイドは仲が良くない事を伝えた。これを機に貴族院を潰す予定だと伝えた。すると皆は意外とすんなりと、ハーヴィスの言うことを受け入れた。


「まぁ、あれじゃ潰されるよな」

「仕方ないでしょ」

「ハーヴィス殿の苦悩を見れば、どれだけ酷い者達かよくわかる。全て任せよう」


口々に、貴族院に対して思ったことを述べていく。皆の意見は一致したようだ。ハーヴィスは一同を改めて見回した後、これから行う軍議は全て内密に行うことを約束させた。そして本題に入る。


「それでは、我々、エルベリア正規軍とセリスタ正規軍による軍議を行います」


ハーヴィスは皆と同じく腰をかけると、話を始めた。


「今回の攻撃場所はローヴァス領内の五本峯街道となります。ここは、その名のとおり五本道があります。本来は他の四本を無視して、本街道を一直線と言うのが定石なのですが……それは出来ません。なので、相手の策略を全て、逆手に取る方法を行きます」


「ほほぅ!! 」


全員は驚きの表情を見せた。という事は、相手の策略が全て分かっているのだろうか。と皆は一様に思っていた。


「今回は自分が考えた策略を全て逆手に取る方法で行きます。正直相手の策はわかりません」


ハーヴィスがそう言うと周りは驚きを隠せなかった。そんなことでいいのか? と言いたげな表情だった。


「まずは私の考えていた策をお聞きください。まず一つ目、エスラーが行く道です。ここは両サイド崖の一本道になっています。なので、中央に進むまでに、土民軍から威嚇攻撃が来ると思われます」


エスラーは頷く。皆はハーヴィスの言うことを聞き逃さないように聞き耳を立てた。


「そして、道の中央に来た時に、前後の道を爆破崩落されると予想されます。そこからしばらく警戒しつつ待機してください。その後、合図を送りますので、補修機材を使って橋を作り、本陣への道を作って、包囲に参加してください」


「おう、分かった」


エスラーは頷いた。手を出すと、彼によく懐いた鳩が鳴いている。準備は万端のようだ。次はハインツ。


「さて、ハインツは、四本ある道の一つ、川が見える道をお願いします。私が示したとおり、川に合わせて四つの堰をお願いします。排水に関してですが、手前に鍾乳洞があるので、その洞窟に全て水が流れるようにお願いします。ある程度来たら、敵が水攻めをしてくるので、うまく鍾乳洞に水が流れるように誘導させてください。その後、貯水です」


地図を広げて、ハインツにポイントとなる部分を指示、うまく鍾乳洞に水が誘導できるように分かりやすく伝える。


「堰が出来たら、エスラーと同じく、時を同じくして包囲に参加してください。ちゃんと相手に水攻めの準備が出来ているように脅迫をしてください」


「了解!! 」


「次は、森ですね。こちらはマーチス、ギルトさんでお願い致します」


二人は頷いた。


「こちらも、土民からの攻撃があると思います。まずは、茂みを揺さぶり、敵がいると思わせて、攻撃させます。そして、近づいてきたら、一気に森を焼き払うという方法で来ると思われます。なので、炎が上がったら、大げさに退却してください」


「ほぅ……」


ギルトは眉を潜めた。


「何故ワシが逃げる軍に行くのだ? 」


その一言で、場が凍りつく。しかし、ハーヴィスは真剣な顔をしつつ答えた。


「この戦いに置いて一番必要なのは” 混乱 ”なのです。その混乱を起こすのに一番必要なのは、周りに一番影響力のあるギルト殿しかいません」

「……フム」


ギルトは一言そう言われると、取り敢えずは納得した。


「マーチス殿は、ギルト殿のサポートをお願いします。まだギルト殿は傷が癒えていないので、出来るだけ仲間を逃せるように殿(しんがり)をお願い致します」


「承知した!! 」


ハーヴィスは主な人員に指示を出した。そして、最後は聖なる山の登山口である。


「さて、最後の聖なる山の登山口ですが、こちらは私と、隊長殿で、五千人の兵士で向かいます。そして、土民軍との交渉をして、一気にローヴァス本陣を逆落としします」


ハーヴィスがそう言うと、周りはざわざわしてきた。


「ちょっと待て、今俺たちは土民軍と敵同士だぞ? どうやって説得するんだ? 」

「……正直材料はあまりありませんが……貴族院の軍と我々の軍が違うことをあちらに認識してもらう努力をします」


ハーヴィスの今回自信なさげなコメントに一同は曇った表情を見せる。ハーヴィスも少し思案顔だ。


「まずは、自分たちの持ち場を仕事してください。例え敵の本陣を潰せなくても、包囲して何とか潰せるように対策はしてます。特に、相手は逃げ惑う兵士とはいえ、掃討戦で少なからず疲労します」


ハーヴィスは思案顔の皆を見回しながら話し続ける。


「それともう一つ、本街道は、落石よけ用のスノコが設置してあるのですが、そこに事前に石を設置して、街道を通る際に石で埋めて本体を撃退すると思われます。なので、足場の問題から、ローヴァス帝国は馬で動くことができず、徒歩となります。ここが、救いになります」


「そういうことか、なら、奴らとの正面衝突も考えながら行動していくしかないのだな」


ギルトの言葉にハーヴィスは答える。


「ええ、そうなりますね。なので、水攻めと包囲、交渉で、全てを自分たちに引き寄せたいと思います。計略成立の条件は、” 天地人 ”ですから、できるだけ、その条件を満たすための努力をしたいと思います。皆さん、協力のほど、宜しくお願い致します」


一通り話した後、最後にハーヴィスは一言付け加えた。


「今回は、絶対に土民に手を出さないでください。彼らを攻撃することは貴重な仲間を失うこととなります」


その言葉に皆は頷いた。


 各自、持ち場を把握し、作戦を実行するための準備を開始した。補修機材に関しては、ハーヴィスが事前準備しておいたため問題はない。食料はセリスタに工面してもらった。貴族院はそれすらも渡す気はなかったのだ。


「それにしても、貴族院は我々を人として扱う気がないようですな……」

「そうだな、味方としても、敵としてもかなり厄介だ」


マーチスとエスラーは二人腕を組んで話をしていた。ハインツは、セリスタの兵士隊長達を集めて、堰の効率の良い作り方について議論をしている。ギルトと老人軍の隊長は二人話をしていた。


「ギルト殿、お久しぶりで……」

「おお、隊長殿、お機嫌はいかがかな? 」


隊長は少し済まなそうな顔をしつつ、体調は万全だと伝える。そして、ギルトに今まで、息子の手紙を出せなかったことを謝罪した。ギルトは軽く左右に首を振り、制した。そして、反対に感謝の意を述べる。


「隊長よ、お主、絶妙なタイミングで手紙を渡してくれた。今まで渡せなかったのは、その時期ではなかった。ということじゃ。お主のおかげで、ワシはハーヴィスと言うかけがえのない人物に生きて、また会えた」


「ギルト殿……」


「ワシはもう昔のワシではない。未だにハーヴィスの考えることがわからぬ時はあるが、もう、ハーヴィスの言うことを無視はせぬ。無視した結果、ワシは常に後悔をしていた」


二人の老軍人はその話の後、過去の戦役についての話や、思い出話に花を咲かせていた。

 そんな中、ハーヴィスだけは、ずっと思案顔で物思いにふけっていた。どんなに考えても、パズルのピースがひとつ足りない。愚かなる者たちの渓谷。その言葉に何か答えがあるのではないかとは思っているのだが……


「誰か、土民に関わる人物と話ができればいいのだけれども……」


ハーヴィスにとって彼らの情報は限りなく少ない。土民を仲間に入れないことには、三つの条件は一つも見当たらないのだ。


「ハーヴィス、そう言えば、言い忘れていたことがあるのだが、マサムネという軍師を知っているか? 」

「え? マサムネ? ラスコー将軍ならわかっていますけど……」


ギルトは思い出したように、ハーヴィスに話しかけた。しかし、ハーヴィスはマサムネの存在を知らなかった。そんなハーヴィスに、ギルトは苦笑いを隠せなかった。この話を本人が聞いたら癇癪(かんしゃく)を起こすどころではないだろう。


「まぁ、ローヴァスに頭のいい軍師殿がいるということはわかってはいます。マサムネ殿があちらの軍師殿ですか」

「うむ、実は、彼とラスコー殿はとても仲がいい。と言うより、信頼し合っている。本陣を取った後、ラスコー殿との交渉の材料に使えるとワシは思っておる」


「!! ありがとうございます。これは、使えますね」


ハーヴィスの顔が少し晴れた。ギルトは自分の情報が役に立ったことが嬉しかった。ハーヴィスは考えながらもギルトに話しかける。


「マサムネ殿が自分の考える通りだとすると、多分私が考えた通りの策で来ると思います。これがわかっただけでもかなりの収穫です」


ハーヴィスはギルトににっこりと笑いかけた。ハーヴィスは今考えている内容を煮詰めるために一人で考えたいと、その場を立ち去った。ギルトはハーヴィスの後ろ姿を見送りつつ、自分だとどう動くのだろうかと考えてみた。


「……無理じゃ、ワシには仲間を見殺しにすることなぞ……」


これから死にゆく、貴族院の同胞達を哀れんでいた。



 しばらくして、五本峯街道が見渡せる少し小高い丘に、エルベリア本陣は築かれた。見渡しがいいのだが、それは反対に相手から丸見えであるのだが、彼らは全くいに介していなかった。ギルト達は本陣とは別に丘から少し離れた場所で本陣を作った。これは丘とは違い、見つかりにくく、そして、貴族院もその場所を感知していなかった。ある意味秘密の本陣である。


「さて、本陣も出来た。後は、準備した軍をまとめて、出陣を待つだけか……」


ギルトは腕を組み、上を見上げた。小高い丘には立派なエルベリア貴族院の本陣が見える。無駄に装飾を施した、いかにも” 私はここにます ”と自己主張しているかのような、とても直視できないような建物であった。


「フムッ、この悪趣味な本陣は焼き払うに限るわい……」


物騒な事を考えながら、エルベリア本陣を見つめているギルトに、慌てたハインツが報告に来た。


「ギ、ギルト将軍!! 大変です!! ハーヴィスが!! 」

「なんじゃなんじゃ? ハーヴィスがどうした? 」


ギルトはハインツの方を見やる。すると、ハインツの後方から、マーチスとエスラーが男たちをふん縛って連れてきており、その前には、負傷した男の子を担ぐハーヴィス。涙目になりながらも、負傷した男の子を心配そうに見つめる少女が歩いてきた。そして、ギルトの前に来ると、ハーヴィスは困った顔をしつつ、頭をかきながらギルトに言った。


「あの、土民の子供たちを連れてきちゃいました……」


「な、なんじゃとおおおお!!! 」


ギルトは驚きのあまり、秘密の陣の中で大きな声を出してしまった。……いかにも” 私はここにます ”と自己主張しているかのような、そんな大きな声だった。



以降 5



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