§ 第二十二章:反逆の芽と猜疑の眼 2 §
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ハーヴィス達が今後の進退を考えている頃、旧ローヴァス領の治安の悪化は日々進行していた。ローヴァス領の末端分から徐々に侵食していくように反乱の芽は育っていく。
旧ローヴァス領某所。各地の反乱の代表たちが集まる。彼らは一人の若者の召集を受け、集まった。既に連携している者たちや、反乱を起こしている最中の者。そして、まだ反乱を起こすことなく、これから起こす予定の者たちなど、様々な境遇の者たちが集まっていた。
彼らは境遇、民族、立場は違えども、反エルベリアを掲げた同志であった。そんな彼らは一様に渋い顔をしていた。
「とりあえず……反エルベリア連合……ということで、我々が一堂に会したな」
一人の中年の男が立ち上がりそう言った。その言葉に渋い顔をしながらも彼らは頷いた。
” 反エルベリア連合 ”
先のモンターニャ地方においての国司軍が村を壊滅させた事件。この一件が各地の不満分子を活性化させ、小さな反旗の炎が灯った。その炎を消そうと躍起になった国司、役人達は火消しの為に軍を動員した。それにより、小さな村々は壊滅し、その村々に残ったわずかな物資すらも彼らは奪い取っていった。名目上は物資を取ることで反乱分子の力を削減するためだと言っているが、実際はその物資は彼らの懐に収まっていた。それが更に彼らの怒りの火に油を注ぐこととなった。
ハーヴィス達が国の防衛の為に奔走していたが、エルベリアの国司、役人達の横暴があまりにも酷く。全てを加速させた。そして、悪い噂は瞬く間に各地に飛び火し、小さな反旗の炎は徐々に勢いを増していった。そして、三か月経った時には各地で反乱が起きた。そして反乱と国司軍は壮絶な潰しあいを経て、泥沼の様相を呈してきた。その結果、反乱分子達は横のつながりを強化するため、各地に親書、文などを送り、今日ここに各地の反乱分子の代表が集まったのだった。
「……一堂に会した? 俺たちは今戦争の真っただ中なんだ。早いところ話を進めてくれないか? 今にも俺たちは全滅しそうなんだ。早く援軍を送ってほしいものだな」
「…………」
集まった者たちは静かに目線を落とした。援軍を出してほしいというが、正直各地の反乱分子達は自分たちの各拠点を守るだけで精一杯だった。とても他国に援軍を送る余裕などはない。
「……援軍のことは今は考えないでほしい。我々は今ここに会したばかりだ。横の連携も取れていない状態で烏合の援軍を出しても状況は変わらんよ」
立ち上がった男は不満を垂れる彼らに諭すように伝える。彼は何か言いたそうにはしていたが、取りあえずは黙った。それを確認した男は自己紹介を始めた。
「まず、私の自己紹介を始めさせてもらおう。私は北部領域の地方民族エクタシオン。名はファビオン=ロペスだ。以後お見知りおきを……」
彼の自己紹介を皮切りに他の者たちも挨拶を始めた。中には戦闘中で現場指揮を執る大将の代役で来ている者もいた。一通り自己紹介が終わった。しかし、相変わらず空気が重い。ファビオンは何故ここまで空気が重いのか分かっていた。
” この中で手紙を送った一番頼りにしている勢力が来なかったことに起因していた ”
各地で反乱を起こしている彼らの中で、唯一軍を有し、そして援軍を送ることができる上に、かつてローヴァス帝国の軍師を務めたマサムネがいないことだった。彼らからの返答では” もうしばらく待ってほしい ”と打診があり、未だ快い返事を貰っていない。
(やはり、ここにマサムネがいないことが彼らを渋い顔にさせる……)
ファビオンは悔しさを顔ににじませる。マサムネの後ろにはエルベリアのパラディンハーヴィスが控えている。この男は今この旧ローヴァス帝国の領地を治める国主でもある。そして、この国をめちゃくちゃにした” 張本人 ”でもある。彼が、本国から国司や役人を派遣し、我々を蹂躙しているのだ。
「……さて、今の我々の現状だが、正直芳しくない。その中で、我々は必死にマサムネ殿に親書を送った。だが、彼らは未だに動くことはない。我々の現状打破には彼ら、マサムネ殿のお力が必要である」
「どうやってマサムネ殿を我々の元へと馳せ参じさせるのだ? 」
一人の男が手を挙げて質問をする。それに対して彼は一言言った。
「今ここにいる反エルベリア連合をまとめ、彼ら国司軍と戦争を起こすのだ。そして、それに勝利をしたら、マサムネ殿は心変わりをして我らに必ず付いてくれるだろう」
ファビオンの言葉に周りの者たちは若干表情を緩める。勝てる算段があると踏んだのだろう。しかし、疑問に思うことがある。それはマサムネの背後にいるハーヴィスの存在だ。
「しかし、エルベリア側にはかのハーヴィスがいる。そちらはどうするのだ? 」
「そう、ですな。そこはマサムネ殿がうまくやってくれるだろう。例えハーヴィスと言えども、フエルテの兵士全員と戦えまいて。マサムネ殿からは快い返事が来ると確信している」
ファビオンはそう言う。普通に冷静な者たちが話を聞くと希望的観測が多く、確信が持てる内容ではなかった。しかし、他の反エルベリア連合の者たちもファビオンと同じく必死だった。彼らの脳内では希望的観測が確信へと変わっていた。
「それに、マサムネ殿がうまくハーヴィスを説得してくれるかもしれん。奴は大罪者だが、ローヴァス帝国を滅ぼした手腕を発揮してもらえると助かる」
ファビオンがそう言うと、周りから「オオ~」というどよめきが聞こえた。希望的観測はさらに肥大化していく。そして彼らはエルベリアに勝った時の話を始め出した。
「それでは、ハーヴィスが仲間になったとして、エルベリアに勝ったとしよう。そうしたらハーヴィスはどうするのだ? 」
一人の男の疑問から場は更にざわめき出す。エルベリアは目の前の巨大な障害でもあるが、ハーヴィスもエルベリアと同じく障害にもなりえるのだった。ファビオンはあご髭を軽く触りながらニヤリと笑う。
「ハーヴィスはこの旧ローヴァス領の国主としてここに赴任してきた。しかし、奴の統治はあまりにも無茶苦茶過ぎた。後々いくらでも奴を裁く時は来よう……」
その言葉で皆はホッとした表情をして安心した表情になる。そしてファビオンは更に言葉を付け加えた。
「ハーヴィスは利用するだけ利用するさ。戦争後は……そうだな……」
” 我らの結束の証として死んでもらおうか ”
そう言うと、ファビオンと他の反エルベリア連合の面々は一様にニヤリとほくそ笑んだのだった。
反エルベリア連合が極秘裏に会談をしている時、エルベリアではちょっとした騒動になっていた。それはハーヴィスがパラディン兼、旧ローヴァス帝国領国主として赴いて、しばらくしてのこと。教会側の司祭と大司教達がハーヴィスの空席となった提案権に対してオズワルド筆頭執務官を代理に立てたことだった。この件は提案されたことは誰にも知らせることはなく、決定してから周りに周知させた。それが下の兵士や事務官には納得が行く内容ではなく反発が起きていたのだった。当然ギルト達からも疑問の声が相次いだ。しかし、彼らは取り合うことがなかった。
「……さて、どうしたものか……」
ギルトは困惑するばかり。ローヴァス帝国との戦いにおいて、ハーヴィスの残した功績は大きい。国主になったところまでは良かった。だが、それ以降はハーヴィスをないがしろにした行為を彼らは行っている。初めは分からなかったが、その行為が段々とエスカレートしていくに連れ、ギルトも彼らの目論見が分かってきた。
” 彼らはハーヴィスの功績を認めて国主にしたのではなく、ただの厄介払いとして彼をかの地へ左遷していた ”
と言うことだ。今となってはハーヴィスが何故自ら望んで旧ローヴァス領に行ったのか不明である。もしかするとアリアやギルト一家が旧ローヴァス領に行っていたとしたら状況が変わっていたかもしれない。
「……今更じゃな。それにしても、ハーヴィス殿はこれからどう動くのじゃろうか」
ギルトは空を見上げる。ハーヴィスの底知れぬ深謀はギルトが思っているよりも深かったはず。今のような軽はずみな状況に陥るとは考えたくなかった。
「これからハーヴィスはどう動くんじゃろうか……」
ふとハーヴィスがエルベリアに対して反旗を翻すのではないかと思ってしまう。それは彼の今までの功績に対してのエルベリアの対応があまりにも雑すぎるからだった。そして、ローヴァス帝国という最強の敵を撃破した今、ハーヴィス自身が彼らにとって一番の敵であるからだ。
「マサムネ殿とハーヴィスこの二人のタッグはある意味最強かもしれない……」
しかし、それを恐れる勢力が今ハーヴィスの周りを荒らしている。エルベリアの三頭政治を取り仕切ってきた教会勢力だ。
この三頭政治は教皇に決定権があり一番力があるのだが、その代り提案権がない。それはエルベリア教皇国において、教皇の独裁を防ぐ目的があった。かつての勢力は教皇、大司教、司祭達がいる教会勢力、そして、教皇オスカーを即位させるときに暗躍したとされる貴族院の三勢力だった。ハーヴィスは教皇の依頼により貴族院を消滅させた。こうして三頭政治の一角は崩れ、エルベリアの政治体制に変化が訪れた。
一角が崩れたことにより、教皇は力を増大させる。それを恐れた教会側はハーヴィスを三頭政治の一角に据えることができないだろうかとオスカーに提案。そしてそれが受理され、ハーヴィスは法騎士パラディンとして三頭政治の一角になったのだった。
ハーヴィスのパラディン就任は教会側、教皇側二つの思惑が絡んだ結果のモノであり、ハーヴィスは彼らの調整役であった。
「ハーヴィスも常々自分は調整役だと言っていたな。それが嫌になったんじゃろうか……」
確かに強権を持つ両勢力に板挟みになるハーヴィスの心労は計り知れないだろう。特に新参者であり、エルベリア国民でもないハーヴィス。彼が一人であの勢力と渡りあった。それだけでも賞賛に値する。
「オズワルド殿も頑張っているようじゃが……やはり役者としての格が違うようじゃな」
ギルトはため息をついた。正直オズワルドの代役として自分が出ても同じ結果になるだろう。あの席はハーヴィス以外に御せる者がいないのだ。
まもなくエルベリアは派遣された国司、守護職からの報告を受ける時期だ。報告とは言うが、実際はどれだけ搾り取れたかを大司教に報告するだけのものでしかない。そして、ハーヴィスの統治に対しての批判をさせて、そのままハーヴィスを失脚させようとしているのだろう。エルベリア教皇国の横柄な態度にハーヴィスがどう出るのか。ギルトは気が気でなかった。
「願わくば、ワシらと矛を交えるようなことだけはしたくないものじゃ……」
ハーヴィスの考えることが最後まで分からなかったギルト。今後の未来が予測できぬまま、希望論だけを呟いた。
次の日、ハーヴィスは執務室でシウダー・デ・フエルテができうる限りの施策を練っていた。マサムネは一日考えさせてほしいという。これからはマサムネがこの国を取り仕切る。その為にこの判断をゆだねた。全ては帰ってくるラスコーの為に……
「ハーヴィス……よろしいですか? 」
ドアのノック音とともに、マサムネの控えめな声が聞こえてきた。ハーヴィスは入室を促した。すると、目の下にクマをこさえたマサムネが現れる。察するに彼女はろくに眠ることができなかったのだろう。ハーヴィスも寝る時間がなかったが、マサムネの悩みとは次元が違っていた。しばらくの沈黙ののち、マサムネは口を開いた。
「やっと……やっと決めたよ。僕は……後悔しない……」
そう言うと、マサムネは決意の瞳を見せ、ハーヴィスに自分の考えを伝えた。始めは驚きの表情でマサムネを見つめるハーヴィス。しかし、マサムネの決意を聞き、覚悟を決めた。
「……マサムネ……君の決意は分かった」
ハーヴィスはそう言うと、席を立ち、マサムネに執務室に座るように勧めた。若干緊張しながらもハーヴィスのいた席に座る。
(……ハーヴィスの温もりがある……僕はどうしたらいいのか、結局……)
そう思うが、迷いを断ち切る。そして、ハーヴィスを見つめる。頷くハーヴィス。
「これからは、僕がこの国を取り仕切る。ハーヴィス……これからは国主ではなく、僕の補佐としてこの国を支えてほしい」
「御意のままに」
二人はそう言うと、早速シウダー・デ・フエルテの住民たちに声明を発表したのだった。それにより――
” 彼の地において、大規模な戦乱が幕を開けたのだった ”
以降3




