第6話 巨大スーパーは補給基地である
私は、この店を知っている。
母に連れられて、もう何度も来ているからだ。
家から少し離れた場所にある、かなり大きなスーパー。
入口には自動で開く扉があり、中へ入ると野菜、肉、魚、パン、牛乳、お菓子、おむつ、洗剤まで、ありとあらゆる物資が並んでいる。
ここは店ではない。
巨大補給基地である。
「ひーちゃん、今日はいっぱい買うよ」
母が言った。
ひよりだ。
そして、いっぱい買う。
つまり、大規模補給作戦である。
母は私をベビーカートに乗せた。
正面に小さなハンドルのようなものがついている、車型のカートである。
最初はただの移動用座席かと思っていたが、違う。
これは指揮車両である。
私はハンドルを握った。
「あっ」
出発を承認する。
「はいはい、出発しまーす」
母がカートを押し始めた。
*
まず向かうのは野菜売り場である。
ここは緑が多い。
葉っぱ、丸いもの、長いもの、赤いもの、黄色いもの。
種類は豊富だが、全体的に味の信用度は低い。
少なくとも、バナナほどの安定感はない。
母はキャベツを手に取り、重さを確かめている。
まただ。
母はこの店に来ると、よく野菜を持ち上げ、眺め、別の野菜と比べる。
どうやら彼女は、野菜同士の優劣を見抜く能力を持っているらしい。
私はキャベツを見た。
どれも同じに見える。
だが母は真剣である。
巨大補給基地において、実務担当官の目は鋭い。
「今日はこれにしようかな」
母はキャベツを袋に入れた。
採用である。
不採用になったキャベツたちは棚に戻された。
厳しい世界だ。
野菜にも選考がある。
*
次に、果物売り場へ進んだ。
私はすぐに気づいた。
バナナである。
黄色い。
房になっている。
輝いている。
補給基地の中でも、特に重要な戦略物資である。
「あっ、バナナ見つけたね」
母が言った。
当然だ。
この店のバナナ配置は把握している。
入口から右に進み、野菜の島を抜けた先。
何度も来ている私は、すでに主要物資の位置を記憶している。
母はバナナを一房手に取った。
私はじっと見た。
房の大きさ、色、曲がり具合。
悪くない。
ただし、もっと大きい房が奥にある。
「あー」
私は奥を指差した。
「こっち?」
母が別の房を取る。
そうだ。
それである。
母は値段を見て、少しだけ迷った。
迷うな。
父のアイス予算を削れば解決する。
「じゃあ今日はこっちにしようね」
母は少し大きなバナナをカゴに入れた。
よし。
今日の母は話がわかる。
*
続いて、魚売り場である。
ここは少し危険だ。
水族館で見た魚たちとは違い、ここの魚は動かない。
しかも切られている。
水の民との外交を経験した私としては、いろいろ考えるところがある。
「お魚だよ」
母が言った。
知っている。
ただし、状態がだいぶ違う。
私は透明なパックに入った魚を見た。
静かである。
あまりにも静かである。
水族館の魚たちは統制の取れた集団行動を見せていたが、ここでは完全に沈黙している。
何があったのかは聞かないでおこう。
幼児にも、踏み込んではならない領域がある。
牛肉売り場を素通りし、牛乳の棚へ向かうころ、空気が一気に冷たくなった。
冷蔵区域である。
私はここをあまり信用していない。
母は平然と牛乳やヨーグルトを取っているが、私は知っている。
ここに長くいると足が冷える。
足が冷えると機嫌が悪くなる。
つまり、冷蔵区域は治安リスクが高い。
「ひーちゃん、寒い?」
ひよりだ。
だが、寒い。
私は足を軽く動かした。
母はすぐに気づき、カートを進めた。
有能である。
母はこの店の通路をよく知っている。
どこで曲がり、何を取り、どの棚を飛ばすべきか判断が早い。
何度も来ているだけあって、補給基地での作戦行動に無駄がない。
*
だが、最大の危険地帯はその先にあった。
お菓子売り場である。
色が多い。
音が多い。
袋が光っている。
棚の高さも絶妙だ。
私の視界に入りやすい位置に、明らかに子どもを狙った商品が並んでいる。
これは罠である。
幼児の判断力を奪い、保護者の財布に攻撃を仕掛ける商業兵器である。
私は棚を見た。
小さな袋。
丸い絵。
動物の顔。
強い。
かなり強い。
「あー」
私は手を伸ばした。
「今日は赤ちゃんせんべいあるから、これは買わないよ」
母が即座に言った。
早い。
防御が早すぎる。
私が要求する前に、すでに却下された。
母はこの売り場での攻防に慣れている。
何度も来ているうちに、私の視線、手の角度、声の出始めから要求内容を読めるようになっているらしい。
強敵である。
だが、母は完全に冷たいわけではない。
「こっちの赤ちゃん用のおやつは買っておこうね」
母は別の棚から、見慣れた袋をカゴに入れた。
妥協案。
悪くない。
政治とは、完全勝利だけではない。
通る要求と通らない要求を見極め、得られるものを確実に得ることが大切である。
*
最後にレジへ向かった。
ここは、補給基地の出口であり、審査場である。
カゴに入れた物資は、すべてここで一度別のカゴに移される。
店員が一つずつ機械に通すたび、ピッ、ピッ、と音が鳴る。
あの音によって、物資の通行許可が下りているのだろう。
私はカートからその様子を見守った。
キャベツ。
牛乳。
ヨーグルト。
肉。
赤ちゃん用おやつ。
そして、バナナ。
通れ。
無事に通れ。
ピッ。
バナナが通過した。
よし。
戦略物資の確保に成功である。
「ひーちゃん、バナナ買えたね」
母が言った。
ひよりだ。
だが今は、バナナが優先である。
会計が終わると、母は袋詰め台で物資を袋に入れ始めた。
重いものを下へ、潰れやすいものを上へ。
冷たいものはまとめ、バナナは守る。
母の手際は見事だった。
何度も来ているだけではない。
母は、この巨大補給基地を使いこなしている。
*
帰り道、私はベビーカーの中でバナナの入った袋を見つめていた。
今日は大規模作戦だった。
野菜の選考。
バナナの確保。
魚売り場の沈黙。
冷蔵区域からの撤退。
お菓子売り場での交渉。
レジ審査の突破。
学ぶことは多い。
「ひーちゃん、帰ったらお昼にしようね」
母が言った。
ひよりだ。
だが、今日の母の働きは認めざるを得ない。
私は小さく手を上げた。
「あっ」
意味としては、「補給作戦は成功である」である。




