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Sパート

ブロロロロロロ


「あと1コマです!」

「おーっし!頑張れ!」


……今、どうやって指導されたいか。新人に訊きたい事ではある。ちゃんと教えない職場はホントに嫌だったから(訊かなかった自分も悪いが)、丁寧になる。こーいう職場を引けたら、ある意味ラッキーであると言っておく。大人は教えない。なぜなら、教えたのに間違えやがったら、教えた奴のせいになるからだ。

指導料金は結構高いもんだ。会社もちゃんと出してくれる。

森橋くん、初めての独り立ち。その終わり。


ガコォッ


「終わりましたーー!!」


最後の郵便物まで配達完了……と言いたいところが、


「分からないところはあったか?」

「はい!結構ありました!!配ってません!」


分からなかったから配るな。これはホントに鉄則にして欲しい。色んな誤配パターンがある中で、もっとも誤配を防げる手段であるからだ。

最後の1コマを配り切って終わりというわけではない。後から合流してきた山口が、今度は森橋くんの前を走って、分からない郵便物を教えてあげる。

そーいうのは大抵、表札を出してない家だったり、飛び地にあるところだったりする。分かりにくいのが悪いと開き直って結構だ。


『だはははははは、家族に確認をとらないで不着申告を出すんじゃねぇよ!』

「お前は普段から誤配してるんだから!!テメェは100回確認してから配達しろ!!」


”不着申告”が解決すると、ホッとして強い口調になっている。


◇       ◇


初日の出来なんざ、


「期待はしていませんから」

「は、はい」

「のんびりやりなさい。後ろは必ず、フォローする」


森橋くん。残業30分ってところ。

それは局の中の班にもよるからなぁ。


「新人なら定時上がりが基本だが、明日からすりゃあいいよ」

「す、すんません」

「謝るのは誤配が起きてからでいい」


郵便配達は……マラソン感覚かな?シャトルランをずーーっとやっている感じだろうか。

独り立ちは云々ともかく。


「何もかもできてねぇ、覚えてねぇんだ。逆に俺達みたいに仕事されたら困るっつーの」


先輩達の遠い背中を見る必要はないと思う。案外、近いけれどな。

1日8時間を週5日こなす。そりゃあ、大変だけれど。昨日よりは良くなるってのが、新人のいいところであり、若いことの良い事。

ここしか仕事をしていないから分からない事だが、新人はできなくて、当たり前だろ?


「はぁ~……」


……でも、30分か。明日はもっと良くなるかも。


森橋くん。

前を向いて帰宅をするのであった。

独り立ち、お疲れ様。



◇          ◇


「おはようございます」


次の日からの森橋くんは……早かった。

さすがに内務作業では山口達に大きく後れをとるが、


ブロロロロロロ


郵便配達の速度は上がったのだ。


「12時……昨日より、大分早い。もうメタリアコートまで来ちゃった」


緊張も抜けたことと、道順とポストの位置を頭だけじゃなく、身体で覚え始めたってのが大きい。

郵便配達はちゃんとルートを組むため、家の位置をちゃんと理解し始めると、普通に早くなる。

まずは地道に”反復”していくこと。

郵便配達に限らず、”迷う”って状況になると、仕事の出来が大きくなります。また、忙しくも単調な仕事であるため、”疲労”には気を付けましょう(仕事はそんなもん)。

森橋くんのレベルアップは、徐々に”迷う”という事が無くなり、自分の判断が出来ている証拠です。これはとても大事で、成長には必要です。

そして、お昼の休憩中の間。


プルルルルルル


「こちら〇〇郵便局、コールセンター、隅田川です」


その自分の判断を持ってから、やってくるのが本当で最初のお客様対応です。

最近は”追跡郵便物”が増えてきたので、このようなお問い合わせはよくあります。


「森橋く~ん。不着申告~。電話対応して」

「は、はい。……あれれ?間違えたかな?」


誰だって、郵便物の誤配はあります。


「森橋くん。通常郵便物の誤配!回収してきて!」

「わわわっ」


1日に2件の誤配を対応される事もある。

新人にとって、たぶん、初めてやらされるお客様対応だと思います。

前回、木下の誤配を例にあげました。今回はその新人+普通VERである。ぶっちゃけ、『新人なのですみません』って言葉は、先輩や上司の言い訳です。自分自身がやる場合は、それをお客様に言っちゃダメです。(初見は先輩が対応してくれるはずです)。


「最初の謝罪は”通常郵便物”の方が良いんだがな……追跡とはついてねぇ」

「だははははは、俺が謝ってやろうか?さねと山口が今いねぇし、(実は休み、山口は夜勤)」


お客様によっては、早せぇって事で上司や先輩がやらされます。

この不甲斐ない感じを実感して、日々成長してください。

同時に案件が来た時は、一人で悩まず。特にただの誤配回収の場合。


「木下さん、ちょっくら行ってきてくれ。俺が森橋の面倒を見るからよ」

「ごめんなさい、木下さん」

「気にすんな気にすんな。この俺は40年以上も配達やって、40年以上も誤配してんだ。レベルが違ぇんだよ。だはははははは!」


周りの人に回収を頼みましょう。この時、現地にいる配達員に連絡を入れたりの回収ですかね。お客様によっては、急がなくても良いと言いますが。担当者はすぐに回収するように。こっちに非があることで、またトラブルを発生させたくはないです。

一般の方には一般の対応をすれば、概ね問題ありません。

誤配回収はお宅に訪問し、頭を下げて、謝罪し、郵便物を回収すれば大丈夫です。注意点として、開封されたOR文字が書かれた郵便物です。これについては、こっちに非があるとはいえ、面倒ですけど正当なお客様に直接の謝罪が好まれます(大体、許されますが)。


「う~~ん、昨日、北砂流町1丁目19-7の大倉さんのゆうパケットは届けたと思うんですけど」

「届いてねぇって言ってんだ」


配達時刻は、12時46分。

届けばいいお客様には関係ないですが、”不着申告”においては、配達時刻はかなり重要で……基本的にルート通りに回るよう言われまくるのは


「この時間帯、普段はどの辺に走ってる?」


昔はGPS機能がないので、配達員がどこで何してたかが分かりません。

そのため、滅茶苦茶オレ流って感じの配達をされる新人さんは、まぁ結構なことですが、誤配をしてると探す箇所がまったく読めないです。


「一軒家の並び地帯だ」

「えっと……今日よりは大分遅くて。でも、19街区にはいたと思います!」

「……ホントか?まぁいい」


とりあえず、やるべき事を矢木から指示される。これも前回言っているが


「”時間を稼げ”。大倉さんに電話して、まずは現地調査をさせてくださいって。すぐに弁償するとか補償するとか言うな。……その上で、大倉さんに誰か家族が受け取ってないか。昨日の木下さんみたいな事例もあるからな。落ち着いて電話しろ」


補償問題になりゃあ、時間がいる。


プルルルルルル


『もしもし』

「私、〇〇郵便局の、森橋と申します。こちら大倉様のお電話でお間違いないでしょうか?」

『そうです』

「今、大倉さんの追跡郵便の不着申告の件でお電話したんですけど。昨日、12時40分頃に私、森橋が配達したと思うんですけど」

『でもないんですよ』

「そ、そうですか。とりあえず、こちらも”現地調査”などの確認をしてみますので。お時間を頂いても宜しいでしょうか」

『いいですよ』

「でしたら、ご家族の方にももう一度、確認してもらっていいですか?夕方か夜にもう一報を入れますので」

『はいはい』

「ありがとうございます。それでは一旦、失礼します」


ガチャッ


「時間もらえましたー」

「……じゃ、現地調査と行くか。正直、俺が付き従う事はねぇけど。山口とさねがいねぇんじゃな。言っておくが、俺はミスに厳しいからな。終わったら覚悟しとけよ」

「は、はい……」


新人が誤配するのは常で、……どの仕事においても、


”ミスって自分がしっかりする!”


って事で解決はします。というか、それしかねぇだろって事です。実際そうです。そこの確率をどうやって下げて、どのような傾向があるかを求めるかが、データなり経験になるわけです。

矢木の覚悟をしろってのは、経験に基づいての対処と思ってください。


「そうか、まだお前は書留やってねぇもんな」


大口を叩いた矢木ではあるが、実際に配達していると思われる荷物がどこに行っちゃったかを予測しなきゃいけない。GPSってホントに便利だなって。


「まぁいい。いいか、まず俺達は、家族の誰かが受け取っているなんて考えるな。自分が誤配した前提で予想しろ。不着はそこから」


どんな郵便物だったか。ただのアクセサリーが入った茶色の箱物らしい。こーいう形状も大事で、”特徴的”だと覚えているもんだ。

若い人なら2、3日前の事でも覚えていられるが、おっさんになるとそうもいかない。今日の事でも覚えていない事もある。


「うーん、うーん」


やらかした本人というのは、正直、覚えがない事が多い。これは後に紹介する大問題でも良くある。

書留のような時間の記録を表せるモノが少ないと、昔は追いかけるのが大変だが


「森橋。……お前、ホントにこの時刻に、19街区にいたのか?」

「は、はい!たぶん!」


追跡郵便の不着においては、”配達時刻”の記録がかなり大事になる。

矢木はこの”不着申告”もとい、”誤配という名の不着”について、大まかな予測をしていた。それを踏まえて、


「昨日、13時10分ぐらいだよな?お前、帰局したの!」

「はい!そうです!そんな感じです!」

「で、20街区まで配達したんだっけか?」

「はい!」


この矢木の確認は”間違っていない”。このお話は、正直言うと、”地図”と”道順”をしっかりお伝えしないと読者には分かり辛いだろう。

昨日の森橋くんは、午前中に、”20街区”まで配達をしたのだ。


「……19街区って午後から配達してねぇか?」

「……え?」


区分口の並びの通りに、道順が出来ているわけじゃない。数字通りに配達をするわけじゃない。

追跡郵便物の”配達時刻”が12時46分。

そして、”19街区”への配達が午後になっている。例えば、その郵便物だけを配達したというのなら、説明はつくが……そーいう配達はするんじゃないと、山口に耳にタコができるくらいには言われ、自分自身もそう守っていた。


「あ!!今日、ペースが良かったから、滝野マンションまで行けたノリで話しちゃった!(19街区より先のマンション)」


新人はちゃんと配達ルートを守って配達してくれって口酸っぱく言われる1つに、不着申告の予想が立たない事にある。教えられたルートをちゃんと守っていれば、予想はしやすい。なお、GPSがあれば意味がないことだ。


「じゃ、じゃあ俺!どこに誤配したんだ!?うわぁっ!全然覚えてない!!」

「落ち着け。慌てても思い出せん。こーいう時は”傾向”があるんだよ」


”通常郵便物”と”追跡郵便物”の違いはかなり大きく、到着の有無だけでなく、誤配先の予想もしやすい。


「端末で受入入力をする都合、”大区分”の業務がされているに違いない。それと午前中の配達だった……って踏まえれば、73区の区分口の左側の可能性が高ぇ。基本、左から右に流れるように、道順はできてっから」


区分口の配置と取り出し順は異なる。

順番に抜き出せるルートになることは珍しいのだ。大抵、一方通行や変わった街区の作りに翻弄される。矢木は19街区の区分口から左側の区分口を確認しだす。

書留の配達証があれば、もっと早くて、絞りやすい……。そうそう、


「森橋。覚えておけ」

「はい!」

「”昼間に誤配する”ってのは、配達が終わる直前に多い。腹が減って、集中力も切れた頃合いだ」

「き、気を付けます!原因はそれなんですね!」


油断とか、気の緩みって結局自分やないかい!って事じゃなくて、矢木が一番言いたいことは


「交通事故を発生させやすい時間帯なんだよ。まだ誤配で良かったな」

「こ、怖いこと言わないでください!」

「それも、ど単純な追突事故や右折事故ってのがな……まぁ、気をつけろや」


そこらへんの時間帯は作者も緩んじまうが、ちゃんと普段の行動でカバーしましょう。腹減って焦ったり、イライラしたり、喫煙者ならタバコを吸いたくてたまんねぇ状況です。


「…………ここだろうな。14-7。大倉」


色々と配達原簿を見ながら、誤配しそうなところを予想する矢木。とはいえ、だ。


「俺は14-7の大倉の家に行ってくるから、森橋は19-7の周辺の一軒家を一つ一つ確認しに行け(午後の出発準備が終わったら)」

「はい!」

「会えなかったら、配達の終わりにもう1回回って、その上でお客様に謝罪と調査結果を報告するようにな」

「分かりました!俺、すぐに行きます!」


自分のミスで迷惑をかけてしまったと、慌てるが


「おおーーーい!!午後の道順組立してから出ろ!!お客様に会えねぇと意味ねぇから、急ぐ必要はねぇーぞ!森橋!戻ってこんかい!!」


◇        ◇


現地調査のやり方を一言で言うと、”かったりぃ”です。


ピンポーン


『はい』

「郵便局なんですけど、こちらのお宅に誤って、別の方(大倉さん)の郵便物が入っていませんでしたか?」


ポストを確認。インターフォンを押して、尋ねて、聞く。しかねぇ。

手順としては。


1.

不着申告をされているお宅のポスト、および宅配BOXを調査する。


間抜けな話もありまして。不着申告を出すのは、受取人ではなく、差出人のケースも多々あります。その時、まだポストに入ってますってオチはちょいちょいあります。受取人が旅行とかしてて受け取ってないとか、そんなだと思います。


2.

近隣の住宅のポストを確認。


新人に限った事じゃないですが、ポストを間違えるってのはそこそこあります。表札出してても流れ作業で入れてしまうという感じです。

鍵がかかってなかったら、サッと開けて確認しましょう。お互いに気付いてない内に解決です。


3.

不着先と同番地のお宅にはまず尋ねること。(平地の近隣調査場合)

集合住宅かつ集合ポストの場合、隣と上下のお宅にまず尋ねる事。(マンションやアパートの場合)


だいたい、この3番目まで行き着きます。

そして、大抵のご自宅は夕方を過ぎないといらっしゃらないのが多いので、18時ぐらいまでは粘りましょう。会えない事には確認がとれません。


『いや、そーいった事はないですねぇ』

「そうですか。すみません、ありがとうございます」


このような事を数件やりましょう。

面倒ですが、これで発見できることはあります。隣に配達していたというオチはあるものですし、……お客様にはご迷惑をかけて申し訳ないんですが、ちゃんとした住所に届けてもらえる事はよくある事でしょう。(通常郵便ではよく言われます。はい、すみません)


しかしながら、よくあるオチが、


「ど、どこにもなかった。……残りは、須藤さんだけかー(会えなかった)。昨日も今日も郵便配ってないから、絶対にないよ。どーしよう。大倉さんに怒られる」


”不着申告”で、ホントにどこにやったか見つからなかったオチは珍しくありません。今回のケースは、昨日の出来事ということで話しが早かったのですが、普段来る”不着申告”なんて、1週間前、2週間前。ふざけんなって時は、1か月前、2か月前……それも”書留”や”ゆうパック”の受領印関係だったりします。

3日以内だったらまだ、誤配の可能性を絞って、調査可能ですが。1週間を過ぎると正直お手上げで、誤配でゴミ箱にポイされるという可能性が高いです。(盗まれるケースもあるでしょうが)。それを言うと、信頼に関わるので、謝罪するしかこちらはできません。


”書留”や”ゆうパック”以外は、補償は基本ありません。


ですが、こちらが早い段階で調査した上で、差出人に報告すれば、多少、便宜べんぎを図って頂けることはあります(AMAZONやメルカリはお金を戻してくれると思います)。なので、届いていない時は素早く問い合わせしてください。これは郵便局じゃなくても、クロネコさんや佐川さんでも同じです。特に今は、置き配もありますので、この点はお客様の対応に掛かっています。


怒られるかどうか。それよりも、お客様に時間をとらせるのが最大の怒られポイントなので、そこんところはお客様次第です。


「そーなんですか。そりゃあ、ありがとうございます。申し訳なかったです。今後は無いようご指導しますので、大変申し訳なかったです」


一方、矢木の方は18時過ぎに、14-7の大倉さんの家に再度お伺いし、ようやく会えてお話を聞く事ができた。


「確認してみます」


答えから言うと、19-7の大倉さんの荷物はここに届いていたのだが。

今は大倉さん、持っていないという状況であった。


挿絵(By みてみん)

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