Rパート
『だはははははは』
電話をもらって大爆笑している木下の精神力は、完全にバグってる。ここまで来ると、お客様にも配達員の名と顔を知られており、お前って奴は……って顔をされます。
『そうかそうか。いやぁ、覚えてねぇなぁ』
「木下さん……あのね、新人の森橋くんが今日独り立ちなんですよ。しっかりしてくださいよ」
『すまんすまん、今日は奥さんと一緒に出掛けてるからよ~。実、頼むぜ~』
……誤配、誤還付、誤転送。
交通事故や書留・荷物の紛失という重罪はともかく、こーいう軽微なミスの罪ってのを積み重ねる奴は決まっていて、この班では木下が該当している。
このおっさんがこの態度でこのミスをしても、首を切られないのには、それ以外の価値が高いという事だ。ここらへんは勤務年数とかもあるよ。
「まったく、あの人は……」
実も相変わらずってお顔。
この手の誤配の対応には
「明日にして、木下にやらせろよ」
今日担当者がいないなら、改めて、本人にやらせるってパターンがあるが。
「そうもいきませんよ、矢木さん。このお客様にとっては大した問題になりませんが、我々の信頼には関わります。解決は難しいですが、後日、本人が対応しやすいよう”調査”はします……というかね」
本人の記憶だけで回答するってのは、お客様が納得してくれる事は難しいです。迅速な対応っていうか、横着な対応になるので、落ち着きましょう。作者、この業務がクソ苦手なので、ど丁寧にいきます。
……それと優しい実さんが、ピキピキしているのが。
「普通ね、新人さんの誤配対応をするのがいいんですよ!!なんで、木下さんの誤配対応で説明なされるんですか!?こーいう話を!」
「そ、そりゃあ。……お客様には悪い話、新人のミスの謝罪は、ハッキリ言って、簡単なんだよ」
これはどの会社を務めても分かるかと思いますが、どんなに経歴が凄い新卒を雇っても、中途採用をしても、所詮はこの会社では新人です。
そして、お客様はその新人の経歴とか知らないし、顔も知らないし、……正直、長い事勤めてると、普通にお客様に顔を覚えられてますよ。これが結構大きくて、誤配してもその……”いつもの方じゃないですしね”で、新人の場合は納得してくれますし。しっかりと説教してます。
問題は、いつもの奴がいつものように誤配をして謝罪したりする展開です。
こーいう人材はもう、現場のこっちでもどーにもならんのよ。説教が効かないんです。木下はそのタイプであり、そーいう配達員がいる地域の人は、察して、ちゃんと隣の家にお届けしたり、開封せずに郵便ポストに返してくれます。いや、ホントにすみません。
木下が班内でこれでも許されているのは、この弱点を抱えて、なんですが。全地域を網羅していること(誤配してるのはともかく)と、他の奴等より頑丈かつ勤務や給与に不満がなく、配達する馬力、早い内務作業と……正直、持ってる才能と勤務に言わせた努力と成果を備えており、これもまた人に必要な資格を有するのです。
配達現場もとい、物流業界で、
元F1レーサーとか、元フルマラソンランナーとか、IQ200とかのとんでもねぇ経歴よりも
【勤務に不満なく働く人材ならいいよ。給与については改善をしてみる】
ってのが、現場も人事達の実情です。
土日の働きや、夜間帯までの配達になる都合、勤務に不満ある方は扱い辛いです。予定だったり、休暇とかは……配慮されると思います。たぶん。
「木下さんの誤配、森橋くんの地域じゃないですか」
「そうだな。そりゃあな」
この職場の大先輩が、この職場の新人に……危うく、自分のミスの尻拭いをさせるということ。
これはこの仕事に限った事ではないですが、他人の尻を拭く。という上司だったらやりそうな仕事の逆に、後輩が先輩の尻を拭くこともチョクチョクあります。特に誤配関係では多いです。
そこで喧嘩腰にはならず、ひとまず、お客様には謝罪をしましょう。誰しもできる仕事で間違えがあるってのは、そのミスだって誰しもできる事なんです。
「………新人に誤配対応や調査をさせるのは申し訳ないですね」
「まぁ、でも。いい機会だから森橋くんに話せ。翌日になりゃあ、電話の来ない誤配はいくらでもある」
「確かに」
そんなわけで休憩時間が終了し、森橋や山口も食事を終えて戻って来る。
戻ってきて早々にミーティングを開くのは、その班の組織構造によりますが。緊急事態の際には、よくやります。交通事故とかの案件。まぁ、誤配や不着申告でミーティングなんかする事はないはずですよ。
「えーっ、木下さんの郵便物が届かない。もといね、”不着申告”が来ました」
「はぁ」
「”不着申告”って言うのは、”お客様に郵便物がお届けされていない”。お客様からの問い合わせになります。で、木下さんは今日休みなので、今から矢木さんが電話をしてくれます」
「おい」
まぁ、電話は良い…。
すぐに電話をしろって場合もありますが、ハッキリ言います。
「すぐにお客様に”回答と解決”を伝えないでくださいね」
「え?そうなんですか?」
「”不着申告”なんだ。……とりあえず、周辺の調査や担当に聞いてからだ。何も分からないのに、YESは言うな。ハッキリと今から調査すると言え」
コールセンターの方も担当などに調査させてから折り返しお電話しますと、お伝えしているそうですが。すぐに解決しろって納得しねぇお客様も多いです。今は大分減ったんですが、昔は結構多かったです。
「問い合わせに対しては、まず、こちらで十分な調査をした後、回答をしますで……時間を稼ぐのは有効です。特に”不着申告”に限ってね」
「森橋くん。まず、なんでお客様が”不着申告”なんて出すと思う?」
「?そりゃあ、お客様が受け取ってないからですよね。山口さん」
「そうだな。だけど、配達原簿を見れば、そいつ以外にも住んでいる奴がいるってのは結構あるだろ。というか、それが普通」
「”調査”ってのは、1つ1つの可能性から潰していかねぇとな。すげー地道」
「色んな可能性があります。図解も用意しましょう」
実は、コールセンターが書いてくれた”不着申告の用紙”を改めて、森橋くんに見せる。見ればだいたい分かるし、相手の住所や電話番号、どんな郵便物とかも載っている。
最初に確認したいことは
「”連絡相手”を確認しましょう。”受取人”か、”差出人”か。どちらからの連絡か、把握するだけでも違います」
「そうなんですか?」
「”不着申告”ってあり得ねぇーことだろって、連絡してくる事が多いけど、あり得ねぇオチも多いんだよ。もちろん、こっちの誤配の可能性もある。ただ、それも答えの1つに過ぎないんだよ」
配達員の立場からすると。
”不着申告”のご連絡をして欲しいのは、”差出人”です。
それはどうしてか。
「”差出人”からの連絡だと、”差出日”、”郵便物の種類”、”郵便物の特徴”、”郵便物の住所”をかなり正確に教えてくれるんだ。受取人からの”不着申告”は、困るんだよ」
受取人からの”不着申告”は、正直、配達員は信用していません。
頻繁にあるケースとしては、”差出日の勘違い”や”住所の間違えによる転送・返還”、”友達が受け取っているのに自分は受け取ってない”など、……受取人が知っている情報ってのは、自分の都合に合わせた情報な事が多いです。
現在は”追跡郵便物”が浸透したことで、”差出日の勘違い”や”住所の間違え”なども把握しやすくなったのですが。昔は大事な荷物を当たり前のように、”通常郵便物”で送られてました。都内から都内の範囲だと、翌日配達で、”追跡郵便物”と変わらない日数で到着しており、県外でも2日、3日で到着してました。送料が大分違いますし、届かないというリスクなんて目を瞑っていたと思います。
「これは”受取人”からですね。この場合、差出人側の”手違い”などもあり得ます」
荷物が届かないという話で間抜けな事を言いますが、そもそも”発送していない”というオチもあります。差出人からのご連絡の場合、そのようなオチはないと思いますので、可能性を除外しましょう。
「こいつの発送先は千葉か。……ま、”差出日”が合ってたら到着してるのは間違えないだろう」
都内からの話。関東圏内なら今でも3日あれば届くかと……土曜や日曜、祝日など、出された日にもよりますが、1週間過ぎても届かないとなったら、まぁ、アレです。おかしいって感じます。
「”郵便物の特徴”は……箱物で中身が玩具グッズか。ゆうパケット(追跡郵便)、で3月28日、12時33分に木下バカが配達完了の入力ねぇ」
「あ。まだ、森橋くんは対応しないので、今の内に言います」
「はい?」
「このような郵便物のトラブルの最中。電話なんかで、補償なんて話をしないでくださいね」
そうだった、お客様に言っちゃいけない事がある。
”不着申告”にしろ、”誤配”にしろ。”責任をとる”とか、”補償をします”とか。一人の配達員が言っちゃいけません。そーいう補償はありませんって、怒っているお客様にも伝えましょう。補償関係になると、担当一人とお客一人で決められません。
ここは課長以上の話になってしまうんですが。
配達員から直接、受取人に対しての補償は、やっちゃいけません。(その方が早い場合は多いんだけど)
言葉だけだと、ややこしいのですが。
差出人が、受取人に補填ができるかどうか、その有無を聞き。それがOKだった場合、差出側が受取人に補填をし、郵便局側が差出側に補填・謝罪をするという形になってます。(言葉あってるかな?)
長々となるので、また話を書きますが。要約すると。
「十分な調査ができていないのに、そーいう補償の話はできないのです」
まずは”調査”や”確認”をさせてくれと、受取側にしっかりと伝えましょう。それとお客様にもお願いしますが、”調査”をさせずに補償をしろって連呼をされている場合。こちらは絶対に無視します。なぜかというと、”転売”・”補填”が目的でやっている方というのは、実際にいます。
受け取っているのに、受け取っていないと叫んでくる奴は、実際にいます。
その場合というか、そーいうお客様の場合は、こちらも色んな対策を講じて対応し。場合によっては、警察に動いてもらっています。1,2回ならともかく、5,6回もやってたら、ホントに対策してます。
「木下さんが憶えてれば、ポストに入れたか、手渡しをしたか。……大分、違うんだがな」
「そこは差出人に聞きたいですね。どーいうサイズの玩具グッズなのか」
”不着申告”の大半は、役所関係を除けば、9割方はなんかの商品です。
それが小さかろうが定形封筒に入るのは十分に考えられ、それが定形外のサイズだとすれば、ポストに入らない可能性も出てきます。手渡しなのか、不在票を入れて、保管されているか。
今回はゆうパケットなので把握できる情報が多い。
現在は各配達員にGPS端末を所持していますので、その情報を元に調査ができますが。昔は……
ビーーーーッ
「あ~~、めんどくせぇ。その日の追跡情報の印刷」
「それは現在とそう変わらないでしょ」
”追跡郵便物”の連番をチェックしながら、場所を絞っていきます。PCでチョイチョイと操作すると、その日にどーいう入力をしていたかって情報を印刷できるんです。とはいえ、住所がまったく分からないので、”書留”や”ゆうパック”といった、配達証付きの”追跡郵便物”を手掛かりに追いかけます。(作者はこーやってるんですが、めんどくせぇなって人が多いです)。
時間は掛かるし、場所を正確に絞れないので。GPSは助かってます。
実際、GPSを付けてから、解決できない”不着申告”は結構減りました。
本人がいないと、この作業が凄いダルイんですが……。
”不着申告”となっている追跡番号。その前後の位置を見るに……。
「……そんなに間がねぇな。前後共に1分前に完了入力をいれてる」
「その前後の郵便物の住所が分かれば、場所は絞れそうですね。結構」
”不着申告”による誤配の場合。住所そのものを間違えて、同性の家に郵便物を入れているケースが多い。これがどうして起きるかはまた後でにさせてもらうとして……
「??」
「????」
お客様の問い合わせと、自分達で調べた結果には矛盾もあり得る。
お客様に電話する時は会社の方が良いと思います。配達の仕事で外にいるケースが多く、外で客対応するのはしんどいんで。折り返しが来たら、課長にぶん投げます。
「もしもし、私、〇〇郵便局の矢木と申します。こちら〇〇さんのお電話で宜しいですか?」
矢木が落ち着いてられるのも、調査の結果が出たからだ。
これってホントに珍しい事だ。調査して、結局分からないって回答が、”不着申告”では多い。
とりあえず、時間を稼ぎたかったのも、これで
「不着申告の件で今、お電話したんですけど」
『ごめんなさい!娘が受け取ってました!すみません!!』
「ああ、いえいえ。こっちも配ってたのが、誤配をよくする配達員だったんで。ご心配をかけて申し訳ないです」
結局、”有りました”ってオチになってくれれば、こっちとしては贅沢言わない。今回は端折ったが、近隣調査とかすっげー面倒なのである。




