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宴もたけなわになって、ようやくアスラン王が現れた。
そして、アリシアの客人たちに歓迎の言葉を述べる。
アリシアであれば、まず最初にやるはずであるが、ラシュタールはあくまでも最初に食事が振る舞われ、参加者の腹が満たされたのち、王が現れて、言葉を発するのが慣わしらしい。
アデルはあまり自覚がなかったが、相当酔っ払ってしまったらしい。
せっかくのアスランの歓迎の言葉もほとんど頭に入らなかった。
ふわふわとした思考でアスラン王をみる。
金色の柔らかそうな金髪が、なぜか今日見た絵の中にいた獅子を思い出させた。
(そうだわ、あの獅子はアスラン王にどこか似ているわ。)
呂律の回らない思考で、アデルはふと何か大切なことを思い出しそうになった。アスランの挨拶が終わっても、アデルはまっすぐ王を見つめたまま、その何かを思い出そうとしていた。
ふと、アスラン王と目が合った。サファイアのように美しい碧。アスラン王も、初めて謁見した時と違って、まっすぐにアデルを見つめた。王も何かをアデルの中に探しているのだろうか。二人はそのままじっと見つめ合う。お互いというより、その背景にあるはずの何かを探して。
しかし、アデルの探索は急に終わる。
「アデルーーー、酔っているのか?」
優しくて、少し掠れたユキの声が、アデルの頭から降ってきたせいだ。
アデルは振り返ってユキを見る。
湯浴みをしたのだろうか、ユキからは白い花の香りがした。
「ユキ・・・。遅かったじゃない。」
「色々あったんだ。しかし、アデル、相当飲んだな。あっちで君の同期の一人がグデングデンになって運ばれていたぞ。」
アデルはトロンとした瞳でユキの漆黒の目を見つめ、微笑んだ。
「リューがいろんなお酒を教えてくれたのよ。」
アデルが無邪気にそう言うと、忌々しそうにユキは舌打ちをした。そして何かをつぶやいた気がするが、アデルの耳には入らない。
ユキは漆黒の目を細めて、アデルの腕を掴み、酒の入った杯を遠ざける。
「だからと言って、そんなに飲むもんじゃない。
アデル、君は、馬鹿なのか。
仮にも白き翼で、ここはアリシアじゃないんだ。
万が一、何かあったらどうするんだ。」
「ああ、ルカ先生みたいなことを言うのね。もう今日はこってり絞られたの。お説教は勘弁してほしいわ。それに・・・。」
思わず「私は酔っていないわ。」と言おうとして、アデルは立ち上がったが、急に動いたせいで、一気に酔いが回ってきて、ぐらりとよろめいた。
ユキはよろめいたアデルをがっしりとした腕で抱き止めると、そのままヒョイっと抱いた。
「言わんこっちゃない。さっさと部屋に戻るぞ。」
「え・・・?なにこれ・・・・。すごく気持ち悪い。」
「許容量もわからずに飲むからだ。」
「・・・・。」
そこに、ラシュタールの高官への挨拶のために席を外していたロランが戻ってきた。聡いロランはユキに抱かれたアデルを見て、全てを察し、心配そうに見つめる。
「この酔っ払い姫様は、今日はもう仕舞いだと伝えろ。」
「わかった。アデル、お大事にね。リューも潰れているけど、あとは僕が対応するから。」
そのままアデルはユキに抱かれたまま、瞬間移動で部屋まで連れて行かれた。
飲みすぎて気持ち悪かったはずなのに、ユキの腕の中は暖かく、いい匂いがして、心地よくて、アデルはそのまま眠ってしまった。
「まあ、アデル様。どうしたのですか?」驚いたミーナの声がする。
「初めての酒に調子に乗って、飲みすぎただけだ。このまま寝かせてやってくれ。」
「承知しました。アリシアの魔導士様、あとは私がやりますので。」
そっと冷たいシーツの上に優しくおろされる感覚したが、アデルは眠すぎて目を開けることができない。
柔らかな寝息をたてるアデルを見つめながら、ユキは何かを思案していた。
「おやすみ、アデル。いい夢を。」
優しく額を撫でられた感覚を最後に、アデルは完全に眠りの世界に入っていった。




