表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第3章 臆病者に助言はいらない
34/572

失敗、引きずったら終わり

 何度か見たこの光景、そして何度も感じた臨場感。


 観客としてだけど、私はまたこの場でライブを見ることになるのだ。


 ステージ上に照明が下り、演奏が始まる。

 最初の演者は男性4人組バンドで、恐らく曲はオリジナル。

 バンドというのは幅広いもので、活動範囲が全国のものだったり、市内やその近辺だけのものもある。

 このバンドがどこまでやっているのかは分からないけど、もし市内だけでやっているというのならかなり勿体ないくらい上手い。

 明るいサウンドで奏でられるギターは力強く、バンド全体にまとまりがあって聴いてて気持ちが良い。

 ドラムも早いBPMで難しいフレーズを軽快にスティックで捌いている。


 誰かのドラムを見ていると夏音と比べてしまうけど、今の夏音だと演奏している彼には到底及ばない。

 あの時と違って夏音のドラムはただ叩くだけのものになってしまっているからだ。

 私が組みたいのは今の夏音じゃなくてあの時の夏音、だから何としてでも取り戻して最高のバンドを作り上げたい、そしてあんな風にライブをしていきたい。


 見ている人がどう感じるかが大事なだけに、ライブというものを完成させるのは簡単なことではない。

 ここで演奏する人たちは色々なものを背負ってステージに立っている。

 ライブハウスでバイトしていた私からしたは、そのことの大切さが痛いほどに感じられた。

 演奏が上手くできなくて悔しい想いをしていたバンドも少なくなかったし、私自身もバンドを組めてすらいなかったことが凄く悔しかった。

 

「今日は来てくれてありがとう! まだまだライブは続くからみんな盛り上がっていこー!!」


 最初のバンドの演奏が終わって再び会場内にBGMが流れだし、ステージ上でスタッフが転換作業を始めた。


「さっきのバンド、ギターの音がしっかりしてた。みんな楽しそう」


 横で大津さんが呟いたけど、やっぱりライブ経験者ともなればそういうところがわかっているんだろうな。

 私に関してはライブは経験したことないけど。


「私もあんな風になれるかな」

「それは音琶の努力次第。音琶がどこまで目指してるのかにもよる」

「......」


 私の努力次第ね......、この前夏音の前でギター弾いたけど、結局感想を聞けないままでいる。


『いつでもやってやるよ、お前のギターなら』


 夏音からこんなことを言われて凄い嬉しかったのを今でも覚えている。

 だからずっとそう思われるように毎日欠かさず練習しているけど、私が目指していることを夏音は肯定してくれるだろうか。

 そんなこと思っている内に準備が整い、鈴乃先輩達のバンドの番になった。このバンド、新歓のときにも出てたよね。


 やってる曲はオリジナルだと思うんだけど、正直言ってさっきのと比べたらまとまりが無くて、全体の演奏も遥かに劣っている。

 あくまで新歓の段階での話だから、もしかしたら良くなってるかもしれないしまだ始まってないのに決めつけるのはよくないかな。

 

 再びBGMが小さくなり、それと同時に会場全体が暗くなっていく。

 音が完全に消え、演奏が始まる。


 ドラムロールから始まり、ギターとベースがそれに続く。

 出だしは順調と言ったところだろう、一ヶ月前にも同じ曲をやってたけど悪かったところがだいぶ改善されている、このまま順調に進めば何とか形になりそう。


 鈴乃先輩のリードギターは普通に上手い、メンバーは今残ってる2年生だけで組んだらしく、定期的にライブハウスでライブすることを目標としているらしい。


 それはそうとして......。


 バンド、というか全ての曲において最も大事と言っても過言ではないサビの部分で、現在進行形で音が盛大にズレている。


 誰がどう聞いてもミスをしているとわかってしまうほどで、メンバー全員の顔から焦りが出ている。

 特に鈴乃先輩は手の動きが速くなってしまっていてバランスが保てていない。

 ギャラリーがざわつき出し、周りを見渡してみるとみんな微妙な顔をしている。

 ミスに気づき思わずステージから目を逸らしている人もいる、部長なんだけど。


 これ、鈴乃先輩の言ってた部員それぞれの点数とかどうなるんだろう。

 ライブとかの参加率が高ければ点数つくみたいだけど、バンド全体の完成度が低いと減点とか言ってたような......。


 1曲目を何とか終え、MCに入った。

 ギタボの先輩はさっきのミスを気にしていないように振る舞いながら、焦っていることを感じさせないMCをしていた。

 この人はあまり引きずらないタイプなのかな、そのおかげでギャラリーも何とか盛り上げようと励ましの言葉を投げかけたりしている。

 鈴乃先輩は今にも死にそうになってるけど。


 自分から後輩を誘ったのにミスをしてしまって申し訳ない気持ちになっているのはわかるけど、ライブ中にそれを気にするのは良くない。

 落ち込むのは終わってからするものだよ......。


 2曲目はさっきみたいな大きなミスはないけど、鈴乃先輩だけが切り替えできてなくてギターの音に迫力が無くなっている。

 あの人メンタル弱いんだな......、それでも副部長になったってことは誰にも負けないくらいの努力をしていたんだよね。

 でもやっぱり、ライブ中にミスを引きずるのは駄目だよ、楽しんで演奏しないと意味ないよ......。


「あいつ何やってんだよ......」


 後ろで部長が呆れたように呟いた。

 これに関しては演奏の完成度以前にライブに対する姿勢が問われるんじゃないかな、点数の事を気にしてるんだろうけど、ライブに大事なのはそれじゃないはずだ。

 このサークルの人たちが部員に点数をつけていることが全ての発端だと思うし、それのせいで鈴乃先輩が上手く楽しめてないのは言われなくてもわかる。

 でも、他の3人はそれを見越しての上で1曲目の反省を活かして何とかバンドの形を造り上げようとしている。

 流石にそれには上手いこと合わせる必要がある、だから落ち込まないで頑張って。


 いつの間にか私は人混みを通り抜けて最前列まで来てしまっていた。

 目の前には鈴乃先輩がいる、もうすっかり元気を無くしていて、ただ指を動かすだけの演奏になってしまっている。

 このままじゃ駄目だ、別に私がするべきことじゃないかもしれないけど、何とかしないと。


「鈴乃先輩!!」


 思わず叫んでいた。

 演奏の音で私の声なんて聞こえてないとは思うけど、鈴乃先輩を励まそうと私なりに考えた結果だ。

 鈴乃先輩は弾きながらも私に気づいたらしく、はっとしたような表情をして再びギターに視線を移す。

 そうしている間にも2曲目が終わり、再びMCに入る。


 どうやら次で最後の曲らしい、MCの間鈴乃先輩はずっと私のことを見ていた。

 流石にライブ中に会話はできないから、アイコンタクトで頑張って伝える。

 私の思ってることわかってくれるかな?


 最後の曲が鈴乃先輩のリードでスタートする。

 その間、私は鈴乃先輩しか見ていなかった。

 まるで二ヶ月前の夏音のドラムを見ている時のように。


 さっきまでの2曲と違って、この曲はギターの難易度が高そうだ。

 それでも鈴乃先輩は何とか一つの曲の一部になろうと必死で指を動かしていて、全て改善できたとは言えないけど最低限の演奏が成り立ってはいた。

 エフェクターを上手く使いこなし、ソロパートの複雑なフレーズも弾けていた。


 バンド全体のまとまりはまだまだだけど、技術に関しては申し分ない。

 全ての曲を終え、ステージを降りるときのメンバーは不満そうな表情をしていて、とてもやり切れたとは思えていない感じだった。

 私がこれから組むバンドも、最初はこんな風に失敗してしまうのかな、落ち込んでる鈴乃先輩を見ながらそんなことを考えてしまう私がいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ