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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第3章 臆病者に助言はいらない
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顔向け、気まずい

 ***

 

 まさかライブする場所がここだったなんて......。

 それを知ったのは数時間前のことで、ライブの告知はずっと前から聞いてたけど肝心の場所を聞いてなかった。

 というより先輩達はどこでやるかなんて事前に一言も言ってなかったから私だけの責任ではない、とは思う。

 


 数時間前


 部長に正門前まで車で迎えに来てもらい、車は目的地に向かって動き出す。

 部長の車は4人乗りだったから、助手席に高島さんと、私の隣の席にもう一人乗っている。

 隣に座っているのは、常時アコギを持っている大津光(おおつひかり)さんだ。

 クラスが同じだから顔はよく合わせているけど、あまり話したことはない。

 でも彼女が中学の時から弾き語りをやっていた、ということは知っている。


「そういえば、ライブハウスってどこのですか?」


 ふと助手席に座っている高島さんが部長に問いかけていた。

 市内のライブハウスなら全部どこにあるか知っているけど、部長の車の方向からすると嫌な予感がする。


「言ってなかったな、XYLO BOXってとこだ」


 ああやっぱり、鈴乃先輩はあんないい所でライブするんだ。

 結羽歌も最近あそこでバイトを始めることになって、今日はスタッフとして色々仕事をしながら鈴乃先輩のバンドを見ることになるみたいだし......、大学前から送迎の車を出してるから交通網には特に困ることはないんだよね。


 いやいや、そんなことより私はどうしたらいいのか。

 昔バイトしていた所にまた足を踏み入れるなんて気まずいってもんじゃない。

 辞めるときはスタッフの人たちに止められ、中にはしつこく尋問してくる人も居た。

 それでも自分の意思を曲げずに辞めてしまい、あれ以来誰とも連絡を取っていない。

 今誰が残っているのかわからないけど、オーナーはチラシに書いてあった連絡先からして変わってないのは確実だ。

 ライブハウスに行ったらスタッフに挨拶するのが基本中の基本なのに、どうしよう......。


「ついたぞ、分かってるとは思うけどスタッフに挨拶しろよ、俺はこれから夏音と武流迎えに行くから」

「はい!」


 部長はそう言って大学の方向へ戻っていった。

 高島さんが元気に返事してたけど、私は今それどころではない、これからスタッフやオーナーに挨拶しなければならないんだ、まずは深呼吸して......、


「音琶さん、何してるの? 早く行くわよ」

「え!? ちょっとまだ心の準備が......、わっ!!」


 立ち尽くしていた私を見て高島さんが私の手を引き、あっという間に会場内に足を踏み入れてしまった。

 中は既に沢山の人がいて、今日のライブを心待ちにしている。

 写真で見たとおりあの頃とあまり変わってなくて懐かしい気持ちになる。

 オーナーの姿は見えない、裏にいるのかな。


「私さ......」


 すると隣で、今まで一度も口を開いてなかった大津さんが呟きだした。


「ここでライブしたことあるんだ」

「え?」

「ここで弾き語りしたことある」

「そ、そうなんだ......、へえ......」


 寡黙なイメージがあり、どこか不思議なオーラを放ってるからどう接すればいいのか難しいけど、ここで弾き語りライブをしたということは、上手いんだろうな。


「隣町の駅前で弾き語りしてたら、動画撮られててここのオーナーから連絡が来た」


 弾き語りをしていたらそういうのってよくあることなのかな、凄い繋がり。

 私がバイトしてた頃はこんな話なかったから、辞めた後のことだよねきっと。


「大津さんって、中学の時から弾き語りしてたんだよね? 確か」

「そう、うちの学校はバイト禁止だったから、人の集まりそうな所で弾き語りして自分のお小遣い稼いでた」


 そもそも中学生でバイトって......、いくら法律が変わって中学生からバイトできるようになったからとはいえ、大津さんはそこまでしてお金が欲しかったのかな。

 私みたいに複雑な家庭事情があるのかもしれないから何も文句は言えないけど。


「あと、あなたは今掟破りをした」


 大津さんが右の人差し指で私を指しながら訴えた。


「え? どこで?」

「私のこと、大津さんって呼んだ。掟では名前で呼ばなきゃいけない」

「ああ......」


 この条例に引っかかるのも何回目だろうか、先輩とかだったら名前の次に「先輩」をつけるから言いやすいけど、同じ学年の人だとどうもなあ......。

 夏音とか結羽歌ならともかく、そこまで話し込んでない人に向かってだとどうも上手くいかない。


「ええと、光さん......、でいい?」

「駄目、光じゃなきゃ駄目」

「そう......」


 やりづらい、掟だから仕方ないのかもしれないけど、それとはまた別に大津さんの性格が私には合わなくてやりづらい。


「まあいい、時間がかかっても。でも近いうちには音琶も私を名前で呼ぶように」

「はあ......」


 名前で呼ぶことに抵抗を感じるのは誰もが通る道だと思うけど、大津さんは躊躇いってものがないのかな。

 私が夏音を名前で呼べたのにはまた別の理由があるからだってのに。

 

「あれ? 音琶じゃない?」


 その時、後ろで名前を呼ばれたから振り返ると、カウンター越しにオーナーが立っていた。

 オーナーも全然変わってなくて、嬉しい気持ちはあるものの何て返せば良いか言葉が出てこない。


「やっぱり音琶だ、何年ぶり?」


 あの時と同じ明るい口調で話しかけてきて、改めてこの人の優しさに心が動かされる。

 私もこんな感じの人になれたら、なんて何度思ったことだろうか。


「多分、2年ぶり、位かな......」

「懐かしいなぁ、元気してた?」

「はい......、洋美さんも元気でしたか?」

「そりゃあもうね、毎日楽しいよ」

「そうなんですね......」


 駄目だ、気まずさがあってか会話が上手く続かない。

 オーナーはこんなにも嬉しそうにしているのに、それに応えられないなんて......。

 辞めたことに関しては気にしてなさそうだから安心したけど、どんな顔していいのかわからない。


「音琶は確か今年で19だよね、てことは大学生?」

「はい、鳴成通ってます」

「やっぱり。あそこの軽音部の人たちいるからそうかなーなんて思ったんだけど......、勉強大変だったでしょ」

「大変でした、バイトもしてましたし。あっ!!」


 無意識にバイトなんて言葉を出してしまった。うっかりにもほどがあるよ......。


「もしかして辞めたことまだ気にしてる? 大丈夫だよ、あの時は私ももうちょっとフォローできたと思うし、早く気づくべきだと思ってたんだよ。だから気にしないで、それに気が向いたらでいいから戻ってきて欲しいって思ってるんだよ。流石にそれは厳しいかもしれないけどね」


 本当にオーナーはいい人だな......、私の思い過ごしだったのもあるけど。


「すみません......」

「謝ることないよ! むしろ久しぶりに会えて嬉しいよ、色々話聞かせてほしいな」


 そのとき、カウンターの手前からスタッフが出てきてオーナーに照明の確認をしてきた。


「音琶ごめん、またあとで。打ち上げあるから是非とも参加してね」


 そう言い残し、彼女は照明器具が置かれてる所に行ってしまった。


「知り合いなの?」


 横から私とオーナーの会話を聞いてた大津さんが話しかけてきた。


「うん、そうなんだ」

「なんか優しい人、ライブハウスのバイトって厳しい人ばかりのイメージだけど」

「普段は凄い優しいけど怒ったら怖いし、しっかりしてる人だから細かいことには結構厳しいよ、オーナーは」

「そう」


 すると大津さんは前の方へ無言で歩いて行った。私も続くとそこに部員が集まっていた。


「ここにする」


 大津さんが立ち止まり、自分の立つ場所を決めたのか突然呟き出した。

 それから大津さんとはお互いの好きなバンドとか曲の話をしながら、開場を待った。


 暫く話し込んでいると、後ろから私を呼ぶ声が聞こえ、振り返ると夏音だった。


「あ、久しぶり!」


 1週間以上会ってなかったのだ、嬉しくて思わず声が大きくなっていた。


「お前俺より早く来てたんだな」

「まあそんなところ。夏音と湯川が最後だったみたいだから、私は二人の一つ前に部長に送ってもらったよ」

「そうなのか、部長なんか言ってたか?」

「特に何も、ただスタッフに挨拶しろってことくらい......」


 途端にさっきのことを思い出して声が小さくなっていた。

 こんなんだから夏音に心配されるってのにな。


「まあお前が何抱えてるのかわからないけどさ、黙っていて辛くなるんだったら誰かに相談しな。それにもうライブ始まんぞ、今は忘れろよ」 


 いつもは私に対して冷たい態度をとる夏音だけど、この前のこともあるしで本気で心配しているみたいだった。


「うん、そうだよね......」


 心配してくれることが嬉しかったからか、私の頬は熱くなっている。

 なんか私、色んな人に心配ばかり掛けてる気がする。もう少し元気にならないと。


 次の瞬間、ライブハウス内に響いていたBGMが徐々に小さくなっていき、完全に音が無くなったと同時に照明が消えて、辺り一面が真っ暗になった。

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