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prologue

※本作は『降魔戦線』シリーズ(https://ncode.syosetu.com/s8577g/)の6作目です。


※前作『悪滅我編』からの直接的な続編となっております。前作までの内容を踏まえた描写が多数あることをご了承ください。


※本作にはグロテスク及び性的表現が含まれます。


※また宗教的なニュアンスを想起する語句がありますが、本作はいかなる宗教および団体とも関係はありません。


※本作はオリジナル原稿から極端に過激な表現をカットあるいは変更してR-15用に仕上げた【ライト版】です。



『 事件記録──情報制限レベルA

  事件コード:【お】二三四四


  概要:妖種による一般人の襲撃および殺害。


  一般への開示内容:熊害(当該獣は駆除済)。被害者全員死亡。


  被害者:荒萩あらはぎ氏(都内在住)一家四人。

   ○父親──鎮興しげおき 47歳 死亡

   ○母親──辰保たつほ 42歳 死亡

   ○長女──のぞみ 16歳 消息不明

   ○長男──あきら 9歳 【削除】死亡


  加害妖種:目撃証言から《鬼》と推測。消息不明。

   ○備考 ── 証言者【削除】。


  捜査状況  ── 追跡捜査継続中

  主任捜査官 ── 第一区支部闘者 顕醒   』



     Side ???


 真っ暗闇の只中だった。

わずかな風の流れとモーター音から、空調の掛かった室内であると判る。


「おや。みなさま、お揃いで」

 その漆黒の世界に銀の艶髪を揺らめかせて、白皙の青年が姿を現した。

 天風鳴夜あまつかぜなるやである。

そしてもうひとり、闇よりもなお黒い、長身の人物が付き添っていた。痩身を包むコートとブーツ、革手袋、鍔広帽、ペストマスクじみた覆面に隠されて一片の素肌も見えない。


「ご苦労様。そちらの御仁が、件の方?」


 鳴夜なるやの真正面で、スポットライトの光が闇を切り裂き、椅子に掛けたスーツ姿の女を露わにする。眼鏡の奥の眼差しは怜悧そうでいて、強い意思と知性をも感じさせる。


「ええ。お探しするのに、少し骨を折りました」


 黒づくめの人物を手で示して、鳴夜は応える。


「お久しぶりね、ラハ=ラト。来てくれて嬉しいわ」


 暗闇の一角からゴシック風のドレスを着た幼女が現れ、来訪者にお辞儀をしてみせた。

 互いに知古であったらしく、招待者も静かに頷いた。


「これで揃ったか、《室長》?」

「あーあ、この快適な地下生活が終わっちゃうんだ」


 またべつの場所から、落ち着いた女と若々しい男の声が続けざまに上がり、それぞれの容姿が照らし出される。

 女はラバースーツのような戦闘服、男の方はだぼついたTシャツにスウェットズボンという対照的な出で立ちだ。


「ええ。待たせたわね、みんな」


 《室長》と呼ばれた女が、手のなかで小さなリモコンを繰る。

 闇のなかに四角い光が灯った。壁付けのモニターである。画面に映るのは、暗い洞窟の内部のようだ。

 その最奥に、人影があった。

壁に埋められた四肢。剥き出しの胴体には、幾本もの電極やケーブルが突き刺さっている。

 影は死したように動かない。ただその下半身の一点だけが、電流を通されているかのようにビクリビクリと震え、背を反らせている。

それは誰がどう見ても、女の形をしていた。


「やはり実行されますか」


 モニターを眺めながら、鳴夜はどこか寂しげな声で告げた。


「さわらぬ神に祟りなし、とも申しましょうに」

「けっして神ではないわ。アレも……彼も」


 ふふ、と《室長》はほくそ笑む。


「鬼……と呼ばれてはいてもね」


 その言葉は、画面の向こうの異形を如実に表すものだった。

 磔にされた巨影の額からは、鋭く長い角が、まるで天を呪うように屹立していた。


「それでは、始めましょう。《鬼盡計画きじんけいかく》の最終プロセスを──」


 闇のなかに《室長》の号令が走った。


「──そして、あなたたちの宿敵、衆の鬼……顕醒けんせいへの復讐を」


     *


 香音かのねは目を覚ました。真っ白い小部屋のなかに、己が身ひとつ。

 たしか、夫がつかう薬剤を買いに出ていて、その途中で──襲われた。


「おはよう──」


 部屋のなかに声が響いた。スピーカーなのだろうが、どこから聞こえてくるのかがようとして知れない。


「──衆の元《闘者》で、現在は妖種ようしゅ藐都ばくとイルマの妻、藐都ばくと香音かのねさん」

「そういうあなたはどちら様? 旦那のファンかしら」


 香音は立ち上がり、鷹揚に返した。


「いいえ。私はあなたに訊きたいことがあって、ここへお連れしたの」

「内容と見返りによるわね」


 情報は貴重品だ。ときに巨万の富や人命にすら関わる。取扱業者でなくとも、容易く話す気はないと意思表明しておくに越したことはない──とくに相手の正体が判らないうちは。


「報酬はそうね…………快楽、でいかがかしら?」


 うぞうぞ……と、壁といい床といい、室内のあらゆる場所から、生々しいピンク色の触手が生えた。その光景と、足に触れるぎっとりとしたぬめり(、、、)に香音は一瞬驚くも、それ以上の動揺は見せず「ふぅ」と諦観じみた溜息を吐いた。


「さすが、もと色妖相手のエキスパートね。でも、いつまでそうやって澄ましていられるかしら」


 触手にまみれた壁の一角がふたつに割れ、何体もの異様なシルエットが部屋のなかへと流れ込んできた。

 頭がいくつも生えたもの、髪の毛で立つ生首のようなもの、脚が蜘蛛に似たもの、掃除機のような口吻のもの、巨大なアメーバのようなもの、ヒトのようでいてよく見れば違うもの、明らかにヒトでは無いもの────妖種の群れだ。


「教えていただくわ。顕醒のことを」

「顕醒──?」


 怪訝そうに眉根を顰めた香音へと、まず触手が殺到した。


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