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俺の彼女は幻かもしれない  作者: Melon
第1・5章 目覚め・現実

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説得準備

 俺は家に帰ると、即座に自室へ向かった。

 そして、あぐらをかき、腕を組みながらこれからのことを考えることにした。


 七瀬の両親さえ説得できれば、両親がそう言うなら、ということで、全員をまとめて説得できる。

 逆に、七瀬の両親を説得できなければ、今回の計画は破綻してしまう。


 今回の説得で一番問題なのは、説得力だ。

 ただの中学生が考えを話したところで、説得力など皆無に近い。

 そのため、説得するには大人を頼らざるを得ない。


「藤波先生は七瀬の両親次第、坂月先生は......」


 坂月先生のオドオドした姿が、頭によぎる。

 説得は一番簡単そうだが、一番頼りなさそうである。


 そうなると、俺の両親に頼るしかない。


「......よし」


 俺は立ち上がり、自室を出てリビングに向かった。

 リビングに向かうと、母さんが食事の準備をしていた。


「あ、正道。家に帰って挨拶もしないで部屋に向かうから、心配したのよ」


「あ、ごめん......」


「......やっぱり、七瀬ちゃんが心配で......?」


「......知ってるんだ」


「坂月先生から連絡があったのよ。唯一の友達が倒れたから、貴方が落ち込まないようにケアしてくれって......」


「唯一の友達......」


 俺と七瀬は、友達というには程遠い仲だ。

 俺が一方的に好意を向けているだけで、七瀬から話しかけられることなど滅多にない。


「でも、良かったわね。命に別状は無いらしいじゃない」


「......実は、七瀬のことで相談があって......」


「......どうしたの? お見舞いの品を買いたいの? 正道は明日学校だから、代わり私が買ってくるわよ」


「いや、お見舞いの品のことじゃなくて......。実は......」


 俺は、七瀬の現状を伝えた。

 七瀬が、自分のことを正道だと思い込んでいることを。

 そして、俺のことを七瀬だと思い込んでいることを。


 話を聞き、母さんは頭を抱えた。


「......もしかして、正道まで何か......」


「ち、違う! 本当だって! ほら、俺がこんな嘘ついたこと、今までないだろ!?」


 母さんは頭を抱えつつ、必死に考える。


「確かに、人を不快にさせるような嘘は一回もついたことが無いけど......。でも、そんな物語みたいなこと......」


「だったら、明日七瀬と会ってくれよ! 七瀬を見れば、本当だって分かるから!」


 母さんは顔をしかめながら、また考え始めた。


「......私は、倒れた友人を、嘘のネタにするような息子に育てた覚えはないわ......」


「そ、そんな......!」


 母さんが俺の言うことを信じなかった。

 これでは、母さんを頼れない。


 落ち込んだ俺を見て、母さんは慌てる。


「ち、違うわよ! 倒れた友人を、嘘のネタにするような息子に育てた覚えはないって、貴方が嘘つきになったことを悲しんだ訳じゃないわよ! 嘘つきに育てた覚えがないからこそ、嘘を付いてないだろうなって思ったのよ!」


 落ち込む俺に、母さんは早口でそう言った。


「じゃ、じゃあ......!」


「嘘みたいな話だけど、信じるわ......。......それで、七瀬ちゃんのために何かしてあげたいの? でも、医者でも専門家でもない私たちに、できることなんて......」


「......俺は、七瀬に安心して過ごしてもらいたい。そのために、考えがある......」


「考え......?」


「俺は、今日から七瀬として生きる......!」


 母さんは言葉の意味を理解できなかったのか、それとも、やはり自分の息子までおかしくなってしまったと思ったのか、また頭を抱えた。


「......あ、でも、七瀬ちゃんは、正道を七瀬だと思い込んでるのよね......? ......まさか!」


 母さんは俺の考えに気が付いたのか、目を見開いて俺を見つめた。


「正道、七瀬ちゃんを騙す気!?」


 その母さんの質問に、俺は頷いた。


「でも、なんでそんなこと......」


「七瀬を診断した藤波先生と話したんだ。今の七瀬に事実を伝えたら、七瀬は耐えられないんじゃないかって......。......限界まで自分を追い込んだ末に、自分を否定されたら......」


 落ち込んだ俺を、母さんはじっと見つめる。


「だから、正道が七瀬のフリをして、精神が回復するまで嘘を付き続けるってことよね? 私も、その意見には賛成したいけど......。でも、七瀬ちゃんのご両親はどうなの? それに、正道が七瀬のフリをするって言っても、できるの......?」


 七瀬の両親のこともそうだが、俺の演技の技術も不安視しているようだ。

 俺は無言でリビングを出て、自室へ向かった。


「ちょ、ちょっと!」


 母さんは俺のことを呼び止めるが、無視して自室に入る。

 そして、押し入れを勢いよく開ける。

 押し入れに積まれている小汚い本やDVDを、全力で持ち上げ、リビングへと運ぶ。


「正道、急にどうしたの......? って、それは......?」


 俺が持っている本とDVDの山を、母は不思議そうに見つめる。

 筋肉の限界が訪れた俺は、リビングに本とDVDをばら撒いてしまう。


「あ、ちょっと......! ......って、これって!」


 床に散らばった本の一冊を、母さんが拾い上げた。


「演劇の基礎......。それにこっちは、この前テレビでやってた劇団のDVD......!」


「今まで貰ったお小遣い......。半分以上、この中古本と中古のDVDに使ったんだ......。演劇の練習のために......」


 今まで、役者になりたいことを両親に言ってこなかった。

 馬鹿なことを言わずに勉強しろ。

 そう、否定されることを恐れて。


 だから、今までずっと、バレないように練習した。

 実力を見せつけて、納得してもらうために。

 貴重な学生時代を捧げるほど、全力で練習したんだと感じてもらうために。


「......正道。あなた、本気なのね?」


 俺は無言で頷いた。

 母さんは俺の顔をじっくりと見つめ、大きくため息をついた。


「......分かったわ。協力してあげる」


「本当!? ありがとう! 母さん!」


「......で、正道の考えは?」


「明日の夜、七瀬の両親がお見舞いに来るそうなんだ。だから、待ち構えて説得する」


「......分かったわ。......正道の七瀬ちゃんへを考える気持ち、きっと七瀬ちゃんのご両親にも伝わるわ」


 母さんにそう言われ、少しだけ自信が付いた。

 俺は絶対に、七瀬の両親を説得して見せる。

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