その6「出現! 《プールの怪異》!!」
GW中毎日更新続きデス!
いよいよ第8話も折り返し!ついに登場する《プールの怪異》とは!?
その6「出現! 《プールの怪異》!!」
(……さぁて、このエロガキ、どんな風に「しごいて」やろうかしら?)
水に落ちた宗春をギロリと一瞥した後、手早く髪をまとめ終えた碧衣は、凶器として使ったばかりのスイミングキャップを頭の上から被り直す。
まったく、男というヤツはいつもこうだ。ちょっと優しくしてやるだけで、こんな風にすぐ付け上がる。しかも何が腹立つかって、基本「スケベな方向」でッッ! ……え? 「それはキミがエロ……もとい色っぽいから」って、んなこと知らないわよ! ぶっ殺されたいの!?(てか、今ツッコみ入れたの誰よ!?)
(大体、「コイツごとき」がこの私にイヤラシい目を向けてくるとか、身の程知らずにも程があるって話よ!)
そんなことをしていいのは、この世でただ一人「あかりだけ」で(してくれないけど(不満))、とにかくこの不届きな「性獣」にはキツいお仕置きが必要だ。そうね、まずはバタ足で25m、ぶっ続け20本ぐらいさせてやろうかしら? フフフフ……
そんな物騒極まり無いこと(初心者ならそもそも25mでへばります)をおっかない笑顔で考えながら、プールの縁に腰掛けていた碧衣が、競泳水着のお尻を浮かせたその瞬間--!
「「「きゃああああああああ!?」」」
(--《怪異結界》!?)
村上三姉妹の悲鳴が響くと同時に、この地下空間全体が《結界》に包み込まれたのを感じて、碧衣はハッ!?と息を飲む! そして意識を瞬時に切り替えると、叫びの聞こえた方向を見た!
三姉妹は現在「自主練」として、全7レーンあるコースの内、碧衣と宗春が使っている右端のレーン(@初心者用)とは反対側の左側3レーンを使っていたが、悲鳴がしたのは更に25m先の向かい側、つまり今碧衣がいるのとは対角線側の方向だ。
そしてそこで碧衣が見たのは--!
「な、何ッ!? 何が起こってるの!?」
「プールの、中に……誰か、がっ……!?」
「イヤッ! 離してっ、離してぇぇぇ!!」
口々に混乱の悲鳴を上げながら、まるで溺れているかのように肩から上を水面に出してもがく、村上三姉妹の姿であった!
だが、そこは「学園の人魚姫」と呼ばれる彼女たちだ。間違ってもこんなプールで、しかも三人同時に溺れたりするわけがない。となれば、悲鳴の内容から見てもこれは間違い無く--《怪異事件》ッ!
「あ、碧衣さん! もしかしてッ!?」
緊張した声で問いかけてきた宗春に、碧衣は素早く命令する。
「とにかく、さっさと上がりなさい! 正体が分からない以上、プールにいるのは危険よ!」
「はっ、はい!」
弾かれたように動く宗春から視線を外し、再び三姉妹の姿を見据える碧衣。とにかくまずは行ってみるしか無い。この場には自分しかおらず、他の二人の救援もすぐには見込めない以上、私の手で何とかするしか--!
と、素早く覚悟を決めたところで、しかし碧衣は「重大な事実」に気付いて愕然とする!
(しまった! 「蝶ネクタイ」が無い!)
普段は常に携帯している変身アイテムの「蝶ネクタイ」だが、今どこにあるかというと、ポーチに入れた状態で女子更衣室のロッカーに入れてある。さすがにプールの中にまでは持ち込めないので仕方が無いが(濡れるし)、まさかこんなことになるだなんて--!
とにかくアレが無いと変身できない。碧衣はチッ!と舌打ちすると、ダッシュでこの場を離れようとしたが--
「オオっと。ぷーるさいどハ走ッちゃ駄目ダゼ~ェ!」
ビシュウウウウウウッッッ!!!
突然、プールの中から低い声がしたかと思うと、走り出そうとした碧衣のまさに「目の前の空間」を、「何か」が勢いよく貫いていく!
「----ッ!?」
「安心シナ。あくまで『水』ダゼ。デモ、ソレなりには痛ェダロウけどナァ!」
思わず足を止めた碧衣に向かい、ニタニタと嗤いかける謎の声。出口に向かって進むのを諦め、ゆっくりと声の方向を振り返った碧衣の切れ長の目が、その瞬間、驚きに大きく見開かれる!
そこにいたのは、まるで「水が人の形を取った」かのような、半透明のマネキンみたいな形状の怪異だ。無個性な顔に反して上半身は見事な逆三角形型で、場所がプールなだけに余計「男性スイマー」を連想させるマッチョな体格である。
だが、それもあくまで上半身の話で、下半身に当たる部分は水の中--いや、「プールと一体化」しているように見える。いわば、プールの水面が「そこだけ隆起」して、怪異の姿を形作っているという感じだ。
ただし、「そこだけ」というのは正確では無い。怪異の上半身を生み出した箇所だけでなく、他にも三カ所、まるで巨大なダコorイカの「触腕」のような形で水が隆起し、それぞれが村上三姉妹の身体を掴んで、まぶしい太股が露わになる辺りまでグイッ!と水上に持ち上げていたのだ!
「--ッ!? 何てことしてくれてんのよッ!」
あまりに無惨なその光景に、碧衣の血が沸騰する! しかも三姉妹の身体に巻き付く「水の触腕」は、自由を奪われた少女たちを嬲るかのようにして蠢いていたのだから尚更だ!
とはいえ、《バニー戦士》にならねば怪異とは戦えない。あの子たちを助けるためにも、とにかく一刻も早く変身しなくちゃ……! と、ギリリと歯を噛みしめる碧衣であったが--
「フフ、おっかネェ、おっかネェ。アンタみてぇな美人にソンナ顔されちゃア、コチとら生キた心地ガしねェッテもんサ。まぁデモ……」
《プールの怪異》は煽るかのようにわざとらしく怖がってみせると、その無個性な顔をニヤリと歪めて、碧衣に向かって言い放つ。
「ワカッてると思うガ、ソッから一歩モ動くんジャねぇゾ? ジャなきゃ、このカワイ子チャンたちガ、オ嫁に行けナクなっちゃうゼェ~」
怪異が思わせぶりにそううそぶいた途端、三姉妹に巻き付く《水の食腕》の表面が変化し、男性の「手」のようなものがニョキニョキ生え出してくる!
「ヒッ!?」「な、何よこれッ!?」「イヤッ! 怖い、怖いよぉ!」
「アア……ソレにしてモ美味そうな人魚チャンたちダゼ。マサに『トレトレぴちぴち』、さぞや新鮮ナ《えなじー》ガ味ワえるだろうナァ~」
それまで声も出せずに震えていた姉妹が嫌悪と恐怖に青ざめる中、「水の手」たちは少女たちの怯えを更に煽るかのように、競泳水着に触れるか触れないかの所で指をワキワキ蠢かせて--!
「--やめなさいッ!」
まさに一喝ッ! ビリリッ!とプール全体に響き渡る碧衣の叱責に、さしもの怪異も動きを止める。だが、続けて碧衣が口にしたのは、その場の誰もが耳を疑う、驚くべき言葉であった。
「その子たちを今すぐ解放なさい。《エナジー》が欲しいのなら、代わりに--私を好きにしたらいいわ」
「そ、そんなッ!?」「ダメッ! ダメです、碧衣様ッ!」「私たちはいいから碧衣こそ逃げてッ!」
まさかの発言にますます蒼白になる三姉妹であったが、碧衣は「大丈夫よ」とばかりに微笑んだ後、戸惑いを隠せぬ怪異に向けてキリリとした表情で言い放った。
「私は生徒会の副会長よ。あかりの隣に胸を張って居続けるためにも、私は私の責務を果たす--もう一度だけ言うわ。私が替わるから、その子たちをさっさと解放しなさい!」
「オ、おう……ソレなら文句ハ無ぇゼ」
凜としたまなざしに押されながらも、碧衣が本気なことを理解した怪異は、続けて抜け目なく問いかける。
「ダガ、欺すつもりジャねぇだろうナァ? 人質ダケ解放サセて、逃ゲルつもりナンジャねぇノかァ?」
「あなたこそ、『解放する』とか言っといて欺す気満々じゃない? だから、こうしましょう。まずは先に二人解放して。そうしたら私も信用してプールに足を浸けるから、後は『せーの』でそちらは最後の一人を放し、私は全身をプールに浸ける--それでどう?」
「……………………イイだろウ。ジャあまずは二人ダ」
しばらく悩む様子の怪異であったが、やはりこのとびきりの美少女を手に入れられるチャンスを逃すわけにはいかない。しぶしぶ怪異が久留美と佳美の拘束を解き、ボチャンと水に落ちた双子がプールから上がったのを見届けた後、碧衣もまた約束した通りに、ゆっくりとプールへ歩み寄ったが--
(--バカ春、私が時間を稼いでる間に、更衣室にあるポーチを取ってきて)
(えっ? ぼ、僕がですか??)
すれ違った瞬間、出し抜けに小声で告げられた宗春が、慌てて碧衣に問い返す(もちろん小声)。
(あんたしかいないでしょーが。ほら、これがロッカーの鍵。失敗したら後で殺すから)
(はっ、はいぃぃぃぃ……)
無茶ぶりにも程があるとはいえ、怖すぎてとても断れない! しかも当の碧衣は「以上、終了」とばかりに宗春の横を通り過ぎると、プールの縁に腰を下ろして、スラリと伸びたその両脚をチャプンと膝まで水に沈めた。
とはいえ、その両手は油断なく縁に乗せられていて、その体勢からならそのままプールの中に入るも、逆に一息でプールから上がるも、どちらも可能な状態だ。あくまで臨機応変な構えを維持して、碧衣は怪異に呼びかける。
「さぁ、私も約束を守ったわよ。じゃあ次は朋代を解放して。ただし、今の二人みたいに『プールの中で解放する』のは無しよ。朋代の身体は『プールサイドに置く』こと。それができないって言うなら、私もすぐに『水から足を上げる』から」
「…………チッ。ワカったワカった。ッタク、注文ノ多い女だゼ」
あからさまに舌打ちしつつも、怪異は特に逆らうでも無く、触腕に絡め取ったままの朋代をプールの縁近くまで運んでいく。そんな怪異の行動を見て、碧衣は心の中で密かに確信した。
(やっぱりそうね。コイツはまず間違い無く、『プールの中にいる相手』にしか力を行使できない)
元々碧衣がそう考えたわけは、怪異が「プールサイドの碧衣を捕まえようとしなかった」からだ。そして今も、碧衣がすぐにでもプールから上がれる状態では、決して手を出してこようとしない。、
三姉妹を人質にする時も、完全な宙吊りではなく「膝から下は水に浸けていた」のも、きっとそれが理由のはず。仮に朋代を解放させたとしても、すぐ取り戻されたのでは意味が無い。あえて危険を冒す以上は、せめて彼女たちだけでも無事に救出しないと--!
改めて決意を固めた碧衣は、水面を割って進む食腕がプールの縁に到着したのを見届けた上で、怪異に向かって呼びかけた。
「それじゃあ『せーの』でアンタは朋代を放し、私はプールの中に飛び込む。そしたら後は、あなたの好きにしたらいいわ」
「アア、分カッたからサッサト交換トいこうゼ。俺ハもう、早くアンタを好キにしてヤリたくッてヤリたくってウズウズしてンダカラよォ!」
(……………………このゲスめ)
下卑た怪異の煽り文句に、不快げに柳眉を逆立てる碧衣。だが、最優先事項が人質の解放である以上、ここでキレて台無しにするわけにはいかない。碧衣はどうにか気持ちを落ち着かせると、小さく呼吸を整えた後、焦れた様子の怪異に向けて合図の言葉を口にした!
「じゃあ行くわよ--せーのッ!」
果たしてどうなる碧衣!?続きはまた明日!




