第57話 知らない方が良かったこと
救いがあるのは、読み取れる内容が全部ではなかったという点だろう。
目を通せるのは、ほんの一部分。
能力の完全発現にはまだ何か条件があるのか、読めない所があった。
本の中身は、けっこうな部分が、虫食い状態だ。
けれどそれでも、分かってしまう。
そこにつづられた、失敗の文字が、最悪の結末の内容が、膨大だという事に。
世の中には、知らない方が良かったという事もある。
真実が必ずしも、人のためになるわけじゃない。
協会の玄関口で立ち尽くしていると、皆の声がした。
「啓区? どうしたの?」
「啓区ちゃま?」
「啓区さん、こんな朝早くから一体何があったんです?」
遅れて、姫ちゃん達がやってきたようだ。
でもどう説明すれば良いんだろう。
僕達が経験しているこの時間はやっぱりすでに唯一じゃなくなってて、何度も繰り返されたループの中にあるという事。
数えきれないほどの挫折と悲劇の中にあるという事。
そして、時を戻したとたとしても、すでにこの時点で、助けられない人間がいるという事。
ぜんぜん、間に合ってなんかいなかった。
これからどれだけ、頑張ったって、もう決して間に合わない。
「……っ」
どうやって伝えれば、いい?
何も言わないで、説明できるの?
「啓区、どうしたの? 何かあったのなら、相談して。問題があったなら、みんなで考えよう。力をあわせないと」
だめなんだ。
もう、どうにもならない事があるんだ。
これからどれだけ頑張っても、努力しても、確定してしまった事実は変えられない。
あの時とは違う。
心域の中で、運命に抗った時とは。
今まで、全力を出して抗ってきたつもりだった。
精いっぱいできる事を探して、頑張ってきたつもりだった。
でも、足りなかった。
その裏ですでに、取り返しのつかない事が起きていた。
どう考えても予見できない場所で、予見できない方法で悲劇が起きてきた。
僕達が、過去のそれを覆すのは不可能だ。
これからも、それが起きないと言い切れるのか?
頑張った先に、そういった悲劇と挫折がないと、言い切れるのか?
「啓区ちゃま、なんだか心がどんよりしちゃってるの、それは良くないってなあ思うの」
どうにかして、口を開く。
不安がらせちゃいけない。
なんとかして、打開策を見つけないと。
「ごめん。でも、大丈夫だから。だから、この後、話が……」
なんとかして、うまく説明を……。
「えっ、啓区!?」
気が付いたら、その場から逃げ出していた。
こんな事初めてだ。
なんか未利みたいだと思った。
不思議だった。だって。
僕自身、どうしてそうしたのかわからないのだから。




