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白いツバサ 連なる世界(第九幕if)  作者: 仲仁へび
第7章 3巡目

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第58話 怖いこと



 中央領に来てから四日目の朝。

 しかしそれは、初めてではない朝だ。


 僕はどうしてか、あてもなく、町の中をうろうろしてしまう。

 こんな事してる場合じゃないのに。


 様々な問題へのタイムリミットがせまっている。


 でも、気力がわかなかった。


 姫ちゃん達とかかわらずに過ごしていた頃。

 元の世界で、未来がないと思いながら一日一日を過ごしていた頃。


 ただ気が向くまま何かをして、ただその時々思った行動をとっていた。


 あの頃の自分とやってることは同じだけど、違う。

 こんなじゃなかった。


「……」


 こんなに、おかしな気分になるのは、初めてだ。


 自分の手を見つめて、やっとその感情の正体に気が付く。


「ああ、僕は怖いんだ」


 未来が怖い。

 失う事が怖い。

 傷つくのが怖い。

 報われない事が怖い。

 取り返しがつかなくなることが怖い。


「みんな、こんな感情とどうやってつきあってるんだろう」


 持て余すその感情が、普通に人間に常に備わっているものだとしたら驚きだ。


 こんなものと一緒に付き合っていけているなんて、想像もできない。


 そこに、彼女がやってきた。


 いつのまに僕、移動したんだろう。

 気が付いたら、墓地の前でぼんやりと立っていたようだ。

 なんでここを選んだんだろう。


 赤い髪の少女。

 この物語の主人公である彼女は、心配そうな瞳を向けている。


「啓区。何かあったんでしょ? 私達に相談して」

「姫ちゃん」

「何か良くない事があったんだよね。だったら、なおさら、みんなで考えなくちゃ」


 僕は首を振る。

 そうじゃない。

 もう終わってしまった事なんだ。


 彼女が傷つくと分かっていても、僕は口を開いていた。


「アレイス邸での事、覚えてる?」

「え。うん」


 彼女はいきなり思いもよらない話をされて面食らったようだ。

 それでも、しっかりとこちらの話に耳を傾けてくれる。


「そこに、彼女がいたんだ」

「彼女?」

「僕達が助けるべきだった、子が」

「べきだった……それって」


 姫ちゃんはしっかりしてるから、そこまで言えば何を言いたいか分かるのだろう。

 悲しそうな表情になった。


「助けられなかった。みたいなんだ。もう、とりかえしがつかない」

「……名前、聞いても良い?」

「それは、わからない。でも、ホムンクルスっていえば大体察しつくかな」

「うん、つい先日調べたんだよね。エアロの事と、古戸さんの事とか。まさか……」


 アレイス邸には、隠し部屋があったらしい。

 そこに、複製の彼女はいた。

 彼女は、僕達に気付かれずに、助け出されることなく、命を終えた。闇の中で死んだ。


 最後の力を振り絞って、自らの命を魔石にして、本物に渡して。


「うそ……」


 姫ちゃんはやっぱり悲しんだ。

 なんでこんな事言ってしまったんだろう。

 そんな悲しい顔をさせたいわけじゃなかったのに。


 けれど、彼女はまっすぐにこちらを向いて前を見る。


「でも、だったら。なおさら、私達はできる事をしないと。今起こってる色々な事を片付けてみんなと一緒に元の世界にかえるために」

「できないんだ」

「え?」

「見つからないんだ。どこにも道が。あんなにも悲劇はたくさんあったのに、正解にいたる情報だけかけてて、どうすれば解決できるのかわからない。失われる事しか考えられない。できたとしても、それは成功じゃないかもしれない。とりかえしのつかない犠牲が出ているかもしれない。もう二度と取り戻せない犠牲が。僕はそれが……」

「なら、なおさらだよ」



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