第29話 連絡不能
とりあえず、セルスティーさんの手伝いをして、計測器を各地に置いた。
トラブルはなく、一応順調だ。
誰かから襲撃を受けるなんて事もなかったし、事件や事故に巻き込まれることもない。
やれる事はやれるだけ終えて、聖堂教に帰ってきた。
敵地に帰るって言うのも、変な感じだけど。
すると、建物の前でばったりイフィールさんに出会った。
ウーガナやラルドと共に、町を散歩していたようだ。
あいかわらずあの二人は喧嘩してるようだけど。
殴り合いになるほどの仲の悪さではないらしい。
チャットの報告でもなんだかんだ行動を共にしているようだったし。
でも、聖堂教の近くにいて大丈夫なんだろうか。
イフィールさんはすぐ動けないし、ウーガナは海賊だし。
声をかけようかどうか迷っていた姫ちゃんは、何も言わずに見送った。
「セルスティーさん達、何してたんだろう」
「ただの散歩とかー? でも、それだったら、聖堂教会の近くには近づかないだろうしねー」
この近くで、何か用事でもあったのかな?
三人の姿は遠くなっていき、そのままどこかへ歩き去っていく。
後で、チャットで連絡してもらえばいいだろう。
そんなイフィールの姿をみて、姫ちゃんが小さく言葉を発する。
「イフィールさん、なんだか楽しそうだったな」
「そうなの? なあには悲しそうに見えるの」
けれど、なあちゃんの感想は違ったようだ。
姫乃やエアロが不思議そうな顔になる。
「え? なあちゃんにはそう見えるの?」
「表情が見えたのは少しだけだったけど、私にも笑っているように見えましたよ」
いつもはほんわか天然してるなあちゃんだけど、本質を見抜く力は誰よりも強い。
なあちゃんが言うなら、イフィールさんの心情はそうなのかもしれない。
他の二人は気が付いているのかな。
遠くから見ただけじゃ分からなかった。
姫ちゃんは心配そうな表情で、イフィールさん達が消えていった方に視線をむけた。
「落ち着いた頃を見計らって話してみるしかないね。何か問題があったなら、聞いておかなくちゃ」
「そうだよねー」
「何もなければ良いんですが」
僕達はそう言いながら、聖堂協会の中に入っていく。
建物の中は、あいからず普通の司教さんやお手伝いさんがいきかっていて、何か起きそうな気配はない。
セインさんが言うにはいつもよりちょっとだけ各所がバタバタしてるらしいけど、そこまでの細かい違いは僕達に分からなかった。
その夜、イフィールさんと連絡をとろうとしたが、できなかった。
チャットシステムは問題なく動いているので、向こうが何らかの理由で文字を入力できないでいるのだろう。
「何かあったんでしょうかね」
日記を確認していたエアロや、調合の勉強をしていた姫乃が手をとめて、僕の手元……チャット画面をのぞき込んでいる。
なあちゃんは、健康的にすやすや眠っていた。
姫乃が悩みながら一言。
「明日の朝、もう一度連絡をとってみよう」
とりあえず、保留にすることにして、今日の日程を終える。
ただ忙しいだけとか、用事があるだけならいいのだが。
嫌な予感がしたが、僕達は直接確かめる事ができない。
宿屋の場所を教えてもらってはいるが、そこを訪ねるのは、最低でも明日にした方が良いだろう。




