第28話 黒髪の少女
お昼時になったら、サテライトの調整をしていたレミー(未利)がご飯をもってどこかへと歩いて行くようだった。メリルさんが後ろをくっついてく。
廊下で、それを見かけた姫ちゃんが声をかける。
本当はできるだけ接しない方がいいけど、かといって何かしら気になる行動をとっているのに、無視するというのも色々と不自然だ。普通の人間の反応として。
「あれ? どこに行くの?」
「外にいるネコウに餌を与えに行くんです」
「ネコウ?」
ムラネコの事だろうか。そういえば、最近見てないな。
未利になついているようだけど、いつも一緒にいるわけじゃないから。
レミーはこちらを一瞥して視線を戻す。
「ついてきますか?」
レミーがもつ品物を見る。エサやりという割には、おしゃれなお皿に綺麗にご飯がもりつけられていた。
それほど気になるというわけでもないけど、あの状態の彼女の行動が珍しいという事もあって、餌やりを見学する事になった。
ボア研究所の玄関口に出る。
ご飯を持った彼女は、周囲を見回して、植え込みの近くにそれを置く。
そして、見張りの男性に声をかける。
「お疲れ様です」
「おう、レミーちゃんか。いつもいつも飽きないね」
「いつもじゃありません。ただの気まぐれです」
「そうかいそうかい」
たんぱくな反応ながらもどこかむっとした回答。
人格が変わっても、変に意地っ張りな所はまったく変わらないみたいだ。
どうでもいいかもしれないけど、彼女はよく年上の人に好かれてるよね。
ヴィンセントさんやアスウェルとか、セルスティーさんもちょっと気にかけてるみたいだし。
そんな彼女、レミーは何を考えているのかわからない表情(僕がいえる事じゃないけど)で男性を見つめる。
「例の子、今日もいるんですか?」
「ああ、いるよ。ほら、あそこに」
男性が指さす方向を見つめる。
すると、植え込みに半身を隠しながら、じっとこちらを見つめる少女がいた。
黒髪の、眼つきが悪い少女だ。
歳は僕達より少し下っぽい。それとも小柄なのかな。
あれは、何だろうね。
こちらの方をじっと見て、窺っているようだけど、なぜだろう。
見張りの男がその姿を確認して、首をひねる。
「あの子、最近よく来るよね。ひょとしてレミーちゃんの友達かな」
「違います」
「えっと? でも、こっちを見てる気が……」
「あの子はたまにこの研究所を遠巻きにみてるので、私がそれを知っているだけの間柄です」
うん、それはもうほぼ他人だね。
彼女の言葉を鵜呑みにすれば、だけど。
ちょっと疑うが、チャットでは何も知らせてなかったから、本当に赤の他人なのだろう。報告連絡相談の重要性は、これまでの事で身に染みてるはずなので、ここで意地を張る人間ではないと思う。
黒髪の少女がその場から動かないのをみて、レミーは満足したようだ。
「用事はすみました。いきましょう」
その行動は、まったくためらいがなかった。
さっと身をひろがしてスタスタ。
さっさと建物の奥に引っ込んでしまう。
そんな彼女を見て、姫ちゃんが驚く。
「え? ネコウはいいの?」
「大丈夫です。そのうち食べると思うので」
ああ、ネコウってあの子の事か。
わかりにくいなぁ。
ここらへんって治安が良いって話だったけど、まるっきりそういう子供がいないわけでもないんだよね。
孤児なのかな。
素直にあげればいいのに。
うーん、でもそしたら逆に向こうの方が逃げちゃうのかな。
そんな光景を脳裏に思い浮かべれば、確かに納得。
うん、それ猫だよね。
ネコウに例える気持ちがちょっとわかった。




