【第六話 ~沖弓~】3
梅雨が明けた。
季節は本格的な夏。七月だ。
セミの鳴き声が日に日に勢力を増していき、エアコンの設定温度も毎週下がっていく。七月の上旬に前期の期末テストがあり、それをなんとか切り抜けて、もうすぐ夏休みがやってくる。
沖弓は、思っていたほど夏休みを楽しみに迎えることができなかった。
それは定期テストの点数が赤点ギリギリで、この調子では指定校推薦は難しいのではないかと言う焦りのせいでもなければ、「リリー」の設定規則の不可解な事件を実際にメディア研究会が実証しようとしたものの、倉木と加瀬にはなんの危険も降りかかっておらず、少しもどかしいような、でもほっとしたような、ふわふわした気持ちを抱えているからでもない。
高校一年生の前期を振り返ってみて、沖弓は結論づけた。
私は「キラキラ」していない。煌めいていない。
何かが足りないような気がするものの、でも何が足りないのか、よくわからない。
でも、それは今や些細な事柄になっていたことも事実だった。
百点とは言えないけど、悪くない。
「キラキラ」には遠いが、全く光がないわけでもない。
梅雨は明けたのである。
ピンク色のワンピースの女の子は、そばにいる。
彼女は消えることはなかった。だが、語りかけてくることは少なくなった。
その女の子は、ミナと言う。年齢は十歳。いつもピンクのワンピースを着ているのは、彼女がお母さんに買ってもらった、一番のお気に入りの服だからだ。
彼女は気づけば、沖弓のそばにいた。いつも一緒に遊んでいた。
しかし、他の子供たちには、彼女のことが見えなかった。
彼女が「存在しない」のだと知ったのは、中学生に入る少し前だった。
病院での検査の結果、解離性障害の症状があり、ミナという女の子は「イマジナリー・フレンド」なのだと言われた。
つまり、幻覚である。
そう言われても、沖弓は信じられなかった。
彼女はそこにいる。いつも一緒に遊んでくれて、一番自分のことをわかってくれる親友だった。おかしいのは、周りの子供たちであり、大人たちだ。
厳しい現実に直面するたび、沖弓はミナと話した。
沖弓にはミナが必要だった。
必要だったのに、沖弓は心も身体も大人になるにつれ、彼女の存在の不可解さに嫌でも気がつく。
こんなに遅くまで、うちにいていいの?
冬なのに、どうしてそんな薄いワンピース一枚なの?
ミナどうして歳をとらないの?
その女の子は、ミナと言う。年齢は十歳。いつもピンクのワンピースを着ているのは、彼女がお母さんに買ってもらった、一番のお気に入りの服だからだ。
そういう「設定」にしたのは、沖弓自身だった。
彼女は部屋の隅に座っている。壁にもたれて、足をだらんと投げ出して、目を泣き腫らしている。
〈桃、ひどいよ。わたしには、桃しかいないんだよ――〉
沖弓は、彼女を抱きしめてあげたかった。
ごめんね。もう大丈夫だよと言ってあげたかった。
親友だったんだもの。
でも、彼女とは生きていけない。沖弓は彼女を「無視」した。
夏休みは長い。あの薄汚い部室棟にでも行こうか。
電話が鳴った。
探偵サークルの、鈴木先輩からだ。
完結まで、あと少しとなります。




