【第六話 ~沖弓~】2
鈴木先輩と出会い、「リリー」についての話を聞いた翌日、沖弓はメディア研究会で倉木と加瀬に話をした。
先輩が渡してくれた資料の内容。特に、過去「ランク3」の設定規則を用いていた団体の生徒が事故に遭っていることと、その因果関係について、話した。
「その話が本当だとすると、いよいよ『リリー』っていうのは、呪いとか魔法みたいなそういう非現実的な代物ということになる」
倉木が言う。
加瀬は改めて「リリー」のマニュアルページを閲覧していた。
「うーん、当たり前だけど、やっぱりそんな仕様があることについてはどこにも言及されてない。僕は、やっぱり偶然じゃないかと思うな」
「そうでしょ。ただ、確かめてみないと分からないじゃない。ちゃんと、自分たちの目で」そう言って、沖弓はスマートフォンを取り出す。「昨日、『リリー』でうちのコミュニティを作った。ランクはもちろん『3』。さあ、あんたたちも参加して。ルールももう設定済みだから」
倉木と加瀬がギョッとした目で沖弓を見る。
「おいおい、まじでやるのかよ」倉木がたじろぐ。
「なにあんた、怖いの?」沖弓は言う。
「設定規則は何にしたの?」加瀬が質問した。
「簡単よ」沖弓が規則を読み上げた。
「メンバーの話を、無視しないできちんと聞くこと」
それを聞いた二人は、ぽかんとしている。
「なんだか、子供くさいな」倉木が鼻を鳴らした。
「これでいいの。普段活動している分にはこれに『抵触』することはないだろうけど、破ろうと思えば簡単に破れる。そういうルールがよかったの。だって、自分たちで確かめるにはルールを破らなきゃいけない」
沖弓が話している間、二人とも「リリーコミュニティ」への登録作業が完了した。
「さて、早速やりましょう」沖弓が二人に指示する。「時折、わたしに話しかけてもらえる? 研究会の活動内容に関わることでもいいし、もっとくだらない、世間話でもいい。わたしを交えて、会話をしようとしてちょうだい。でも、もちろんわたしはそれを『無視』する。今日一日、わたしとあなたたちはいっさい会話をせずに、それぞれ帰宅する。わかった?」
倉木が微妙に唇をひん曲げている。
「倉木、何か言いたそうね」
「なあ沖弓」
「会長」
「――会長。この役目は、どう考えても会長がやるべきではない。もし本当に、何か事故にあったら、研究会を誰が仕切る? 誰が主導する? リーダーはこういう時は引っ込んどくべきだろう」
同感だね、と加瀬も倉木に同意する。「会長はしっかりと動向を見て、どう動くかを考えることに注力した方がいいね。倉木か僕が引き受けることにしよう」
沖弓は二人を交互に見た。
「何言ってんのよ。オタクがカッコつけて。言い出しっぺはわたしなんだから、出しゃばらなくていいの。これは、二人には関係がないんだから――」
「それは聞き捨てならん」倉木が遮る。「俺たちを関係のない部外者みたいに扱うつもりなら、最初からやるな」
「そうだよ」加瀬が言う。「それじゃあいよいよ、研究会として集まって活動している意味がなくなっちゃうしね」
全く。
高校生活から仕切り直しを心に決めて、「キラキラ」したものを求めているが、思い通りにいかないことが多すぎる。研究会の会長は私だ。大人しく指示に従ってくれ、オタクども。
「どうせなら僕ら二人で実行してみようか」加瀬が提案する。
「そうだな」倉木がニヤリとする。「沖弓――いや、会長。今から俺も加瀬も、徹底的に会長を無視してやる。悪口でもなんでも言え。一種の我慢比べだな」
そう言って、二人とも何事もなかったかのように作業に入ってしまった。
「ちょっと、あんたたち――」
反応はない。
「バカじゃないの? ちょっと、返事してよ」
二人は黙々とパソコンに向かっている。
全くなんだと言うのだ。やめてくれ。
やめてよ。
こういうのには、慣れている。
中学校の頃は、毎日だいたいこんな感じだった。
仲の良いと思っていたグループの女の子たちが、いつの間にか共和国から帝国になって、私を無視した。体制が変わったことなど、知らされていなかった。
無視された。理由はわからない。理由などなかったのかもしれない。暇つぶしなだけだったのかもしれない。とにかくその子たちは私とは口をきかなくなった。口をきかなくなったくせに、授業中には卑猥な文面の手紙が私の机に回ってきた。
私は秀逸なプロパガンダで迫害された民族のようだった。
こういうのには、慣れている。
慣れているはずだった。
〈言った通りになっちゃった〉ピンク色のワンピースが笑う。〈桃、二人ともまるで桃がいないみたいにしてる。無視してる。桃、かわいそう〉
何だって?
わかってない。何を言っている? 違う、そうではない。
私は無視されていない。全く。
「黙ってなさいよあんたは」沖弓が絞り出すような声で言う。
倉木と加瀬は少し気になったようだが、無視を続ける。
オタクのくせに。
根暗のくせに。
駱駝のくせに。
豚のくせに。
「ありがとう」
沖弓は唇を噛んだ。




