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47.湊刑事の報告

パソコンを覗いていたのは笹倉だった?

今、大成人事部長の口から重要な証言が飛び出ようとしている。


俊作「大成さん、あんたは米本のパソコンを覗いちゃいねーってのか?」

大成が小さく頷く。

大成「オレは、笹倉さんから“柴田たちが笹倉派の存在に気づいた。その証拠に人事部の米本が人事部のデータベースに入り込んでいる。まずは米本を何とかしろ”と指示を受けただけだ」

俊作「それで、米本を襲ったってわけか」

大成「そうだよ。キミたちには先読みされていたようだがね」

俊作「米本の名を騙ったメールが会社中にばらまかれたって聞いて、笹倉派もオレらに気づいたと直感したんだよ。ホントの送り主は誰なんだ? あんたか?」

大成「いや、オレはそんなメール送っちゃいない。そもそも、オレのパソコンにはそのエクストラなんとかってソフトは入っていない」

俊作「何っ? 心当たりはないのか?」

大成「ああ。ただ、前に笹倉さんがエクストラなんとかってソフトについて誰かと話してたのをチラッと聞いたことがある。だからなんとなくそういうソフトの存在は知っていた」

米本「えっ? その相手は誰ですか?」

大成「さぁ……電話だったからなぁ……でも、話し方からいって目上の人間ではなさそうだった」

純「他の笹倉派の誰かだろうな、おそらく」

見たところ、大成はエクストラ・マジシャンの存在は詳しく知らないようだった。

俊作「ところで、あの原チャリ野郎の名前は何ていう?」

大成「い、いや、あの男は名前を名乗らなかったからわからないんだ」

純「名乗らない……失敗時に正体がばれる可能性も想定してたってことか。その辺は周到だな」

俊作「報酬だが、あんたと原チャリ野郎以外に誰が受け取る予定かはわかるか?」

大成「……すまん、わからん。なんせ、オレはただ柴田くんの処遇と米本を黙らせるのを手伝わされただけなんだ。詳細は一切聞かされてなくて……」

俊作「……そうか。わかった」

大成「…柴田くん、オレはどうしたらいい?」

大成が、救いを求めるような目つきで俊作を見上げた。

それを横で見ていた米本は、何とも言えない、切なさと哀れさが入り混じったような気持ちに苛まれた。

俊作「…あ?」

大成「オレは、自分の不注意から面倒なことに巻き込まれ、その挙句自分の部下まで手にかけようと……。もう、自分が惨めで惨めで……」

土下座のような体勢でうなだれる大成は、既に半べそだった。若干の悔しさも垣間見える。

俊作は、しばらく黙って、そんな大成を上から見下ろしていた。歳のせいか、少しだけ頭頂部から後頭部にかけて髪が薄くなっていた。

俊作「……それは、あんた自身がよく考えて決めるんだな。冷たい言い方かもしれんがな」

大成「……」

俊作「でもよ、あんまり自分自身を追い込む必要はねぇと思うぜ。あんたが根っからのワルじゃねーってのは話しててわかった」

大成「……」

俊作「ただな、どのみち警察には行ってもらうぞ」

大成「…わかった。罪は償う」

俊作「それだけじゃねぇ。あんたは今、自分の知ってることをオレらに話した。つまり、表面部分にすぎないかもしんねーけど笹倉派の秘密を漏らしたことになる。そうなると、今度は大成さん自身も襲われる危険性が出てくることになる。警察に行くのはあんたの安全を確保する意味合いも含まれてるんだ」

大成の背筋が、一瞬にして凍りついた。

俊作「心配すんな。警視庁捜査一課に知り合いの刑事がいる」

俊作は湊刑事と連絡をとり合い、現在地から一番近い駒沢警察署で合流することにした。


それから約1時間後、警視庁駒沢警察署・正面玄関。


湊「まったくよぉ、お前らは人生の先輩を容赦なくコキ使いやがるな」

駒沢署に到着した湊刑事は、開口一番俊作たちに文句をぶちまけた。

俊作「いつもすいませんね、湊さん」

湊「――で、この人がお前の言ってた…?」

湊が、申し訳なさそうにうつむいている大成に目をやった。

俊作「はい。ウチの会社の大成人事部長です。笹倉や戸川って弁護士たちに脅されて悪事に加担させられてました」

湊「戸川……」

俊作「そうです、あの戸川ですよ」

湊「うーむ……まずは何があったのかを詳しく聞こう。応接室へ移動するか」

俊作たちは応接室へ移動した。


湊「なるほど……」

大成から事情を聞いた湊は、ただそれだけつぶやくと、大きく反り返って伸びをした。

俊作「オレの身の回りで起こってることと湊さんが追ってる事件との関連性がいよいよ強まってきましたね」

湊「ああ。今の話からすると、ソフトを使ったのは笹倉である可能性が高いな。だが、これはちゃんと裏付けをとらないといけないけどな」

俊作「わかってます」

湊「明日、ちゃんと池袋の会社へ行って対策ソフトをもらってこいよ」

俊作「はい。既に作っていればの話ですけど」

湊「大成さん、あんたはしばらく留置場にいてもらう。いいね?」

大成「はい。お世話になります」

既に、大成の声は力を失っているように聞こえた。

米本「部長……」

悲しく、かつ哀れな気持ちに苛まれた米本が、思わず大成の名を呼ぶ。それも、役職名で。

大成「米本……すまない。オレは人として失格だ」

米本「そんな……」

湊「人として失格だと思うんなら、しっかり反省してもう二度と同じ過ちを犯さないことだ。たぶん、この米本くんだってあんたの復帰を待ってくれてるはずだ。そうだろ?」

湊が米本に目配せをする。

米本「はい。ボクは待ってますよ」

大成「米本……」

大成の目頭が熱くなる。

湊「おそらく、復帰後初の仕事は笹倉の処罰になるだろうよ」

大成「…え?」

湊「まぁ、あんたは不起訴になるだろうな。これまでの状況から判断して」

大成「そうですか……」

湊「おっと、泣いてるヒマはないぞ。笹倉が裁かれるのはおそらく時間の問題だろうからな。実はオレからも報告があるんだ」

俊作「報告?」

湊「エクストラ・マジシャンの販売元がわかったんだよ。被疑者の自供から購入ルートを探ってな」

俊作「マ、マジすか!? ずいぶん早いっすね!」

湊「バカヤロ、オレを誰だと思ってんだ? 名刑事・湊参二朗さんだぜ?」

純「どんな手使ったんすか?」

純の目には、若干の疑念が込められている。

湊「ちゃんと正当な手段で調べたよ! 疑ってんじゃねーよ!」

純「あーよかった。自分で名刑事とか言うもんだから、ちょっと心配しちゃいましたよ(笑)」

湊「コラ鳴海! これ以上バカにすると逮捕するぞ!(笑)」

俊作「まぁまぁ湊さん(笑) それで、販売元はどこだったんです?」

湊「株式会社 SETエスイーティーって会社だ。表向きはパソコン関連の卸売りをしている会社らしい。聞いたことあるか?」

俊作「いや……聞いたことないなぁ」

湊「略さずにいうと、“ササクラ・エレクトロニック・トレーディング”ってんだ」

俊作「ササクラ……? まさか…!」

湊「そう。笹倉の親が経営する会社なんだよ」

純「What!?」

俊作「マジかよ! まさか親子で悪事を働いてやがったとは」

湊「民間調査会社に友達がいるんだけど、そいつの話だと、SETはここ最近きわめて業績が悪く、社長自身も会社を畳むつもりでいたそうだ。それが、1年ぐらい前から急に業績がよくなったんだって。友達は裏に何かあったんじゃないかって言ってた」

俊作「不自然な業績の伸び方をしたってことですか?」

湊「そういうことだろうな」

純「…クサイな」

湊「オレは、明日朝イチでSETへ行く。黒い部分を根こそぎほじくり出してやる」

俊作「オレらも行きましょうか?」

湊「お前は池袋へ行かなきゃいけねーだろ。ここは警察に任せろ」

俊作「お願いします」

湊「それから鳴海、お前、今は柴田の会社に清掃スタッフとして仕事してんだったよな?」

純「あ、はい。そうですけど」

湊「ちょっと頼みがある」

純「頼み……?」

湊「今朝、柴田に頼まれて秋池のマンションを調べたんだ。マンションに残った下足痕から彼を連れ去った犯人の手掛かりを割り出すためにな」

俊作「あぁ、あれもう何らかの痕跡が出てきたんですか?」

湊「ああ。特に秋池の部屋近くを徹底的に調べたところ、5人ほど、普段あのマンションに出入りしていない、真新しい人間の足跡が検出された。大きさからして全員男だろう」

俊作「5人……純が見た人数と同じだ」

湊「え? 鳴海、お前犯行当時に現場にいたのか?」

純「はい。秋池がさらわれるのを食い止めようとしました。でも、いきなり後ろから何者かに頭を殴られて気絶させられちまったんすよ」

湊「どんなヤツだったか覚えてるか?」

純「いや……よく覚えてないっすね」

俊作「…それ、たぶんオレが階段ですれ違った男じゃないか?」

湊「どんなヤツだ?」

俊作「雨でもないのに上下レインスーツ着てて、野球帽を被ってて、サングラスかけてて、口元をバンダナか何かで隠してて……見るからに怪しいヤツでしたよ。体格はだいたいオレと同じ感じでした」

湊「それで、どんな靴を履いてた?」

俊作「靴…ですか? さぁ…そこまでは見てないっすけど…」

湊「そうか…。いや実はな、検出された5人の下足痕のうち4人はスニーカーやブーツといった、カジュアルな感じの靴だったんだけど、残りの1人はどうもビジネスシューズっぽいんだ」

俊作「ビジネスシューズ……」

湊「オレ思うんだけど、秋池の拉致に笹倉派の誰かが関わってんじゃねーか?」

これまでの流れからして、その可能性はある。

俊作「確かに」

湊「そこで鳴海にお願いだ。お前の会社にいる男性社員の下足痕を集めてほしいんだ。掃除をやるふりしてな」

純「いや…集めるって、男全員ですか?」

ちょっと待ってくれといった表情で純が尋ねる。

湊「当然だ。誰が笹倉派なのかわかんねーんだからよ」

純「Oh,no!!!」

湊「文句言うな。こういう地道な捜査が事件の解決に繋がっていくんだ」

俊作「せめてだいたいの目星でもついてりゃいいんだけどな。そうだ、大成さん、あんたの他に誰が笹倉派の一員なのかわかるか?」

大成「すまないが、さっきも言ったようにオレは詳細を聞かされてないからわからないんだよ」

俊作「そうか……やっぱ、地道にやってくしかなさそうだな」

純「そうみたいだな」

湊「そういうことだ。2人とも頼んだぞ」


大成を署の留置場に残し、俊作たちは帰途につく。

もしかしたらまだ笹倉派が米本を襲う危険性があるかもしれないということで、まずは米本を自宅まで送ることにした。

道中、俊作と純は「明日は朝が早いから少々面倒だ」などといった話をしていたが、米本は黙ったままだった。やはり大成が気がかりなのだろうか。

俊作「米本、お前さっきから黙ったままだな。やっぱり、大成さんが気がかりなのか?」

純「それなら心配ないだろうよ。湊さんもそう言ってたし」

米本「…いや、それもそうなんだが……」

俊作「何だよ? 他に心配ごとでもあるのかよ?」

米本「心配ごとってわけじゃなくてさ、今日、人事部のデータベースにアクセスした時、笹倉派の一員らしき人物を見つけたんだよ」

俊作「ホントか?」

米本「可能性の話だけどな。しかもその時は部長に見つかりそうだったからデータをよく確認してないんだ」

純「一応確かめてみよう。どこの誰だ?」

米本「広報部広報一課の新田課長代理。笹倉さんとのつき合いは長いらしい」

広報部広報一課は、外部に対し自社製品を宣伝していくのが主な業務である。

純「なるほど、広報部だな。よし、明日話を聞いてみるか」

俊作「純、大丈夫か? 結構やることあるぞ。下足痕も採取しなきゃいけないし」

純「心配すんなって。こっちは人海戦術が使えるんだ。そもそも下足痕の採取なんてオレ1人じゃ無理だろうよ」

人海戦術――つまり清掃スタッフ兼情報屋のことである。

俊作「そうか、じゃあ頼んだ」

米本「しかし鳴海さん、どうやって新田さんに近づくんだ?」

純「その新田さんは喫煙者か?」

米本「確か喫煙者だったと思う」

純「そうか。じゃあ近づくのは容易いな」

米本「あぁ、そういや鳴海さんも喫煙者だったっけ」

純「そういうこと。任せといてよ」

俊作「しかし、広報部の人間となると、もしかしたら写真の扱いに慣れた人間がいるかもしんねーな」

純「そうだな。資料作りの時に写真を使うこともあるだろうしな」

米本「もしかしたら、捏造されたあの“証拠写真”を撮った犯人がわかるかもしれんってことか?」

俊作「ああ。だけど、まずは新田課長代理が今回の事件に関与してるかどうかを確かめてからだ」

純「わかってるさ。オレがうまいこと聞き出してやる」

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