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38.She lives in Daikanyama

三度「RYU-JIN」を訪れた俊作と純。羽村佐知絵の自宅住所をつきとめることができるのか?

スペイン坂のクラブ「RYU-JIN」。



到着するや否や、俊作と純は、事件前の佐知絵と黒野の様子について聞き込みを始めた。


パッと見たところ、この日の日本人客と外国人客の割合はちょうど半々ぐらいだ。


日本人客は俊作、外国人客には純がそれぞれ聞き込みにあたった。


また、当初は江坂千里に佐知絵の現住所を確認する予定だったが、ここで佐知絵をよく知る人物に出会うことができたら一緒に聞いてみることにした。


聞き込みを開始してみると、「佐知絵と黒野が一緒にいる光景はよく見かけるが、具体的に何を話しているかまではわからない」という返答が多いのに気づく。


「そりゃそうかもしれない」と思いつつも、俊作と純は粘り強く聞き込みを続けた。


やがて、このクラブで佐知絵と知り合ったというアメリカ人男性と日本人女性のカップルを、純が探し当てた。


純[いつ頃から彼女と顔見知りになったの?]

英語で話しかける純。


(※[]=大カッコは、英語で会話していることを表す)


アメリカ人男性[んー…ここ1年ぐらいかな。オレの連れが先に知り合ったんだ]

日本人女性[そうそう。前から見かける顔だったから話しかけたの。そしたら意気投合してね。あの子、外国人の顔見知りが多くてビックリしちゃった]

アメリカ人男性[ああ。オレの友達でも、前からサチエを知ってるってヤツが結構いるからな]

日本人女性[フレンドリーだよね、サチエって]

アメリカ人男性[そうだね]

純[二人は彼女とどれくらい親しいの?]

日本人女性[どれくらいかな? 何回かあの子の家で飲んだりしたよね]

アメリカ人男性[ああ。飲んだ飲んだ。サチエは酒が強くて、最後まで潰れなかったよな]

ここでも佐知絵が酒に強いという証言が出た。やはり俊作と飲んだ時に泥酔したのは芝居だったのか。

純[そんなに飲むの?]

アメリカ人男性[Oh,yes! そりゃすげーよ。いくら飲んでも変わらないんだ。サチエはサイボーグじゃないかと思ったよ]

純[へぇ……てっきりほんの数杯で酔いそうな感じだけどね、見た目]

アメリカ人[No! それはまずあり得ないよ! このクラブでサチエを知る人間なら、誰もがそう答えるはずさ]


間違いない。

泥酔したのは芝居だ。


純[なるほどな…。ところで、最近彼女の家に行ったのはいつ?]

アメリカ人男性[えーと……いつだっけ?]

日本人女性[お盆の前ぐらいだったから、2ヶ月ぐらい前じゃない?]

アメリカ人男性[おぉ、そうだった!]

わりと最近だ。

純[彼女、どの辺に住んでるの?]

アメリカ人男性[代官山の方だよ。近くに中学校があるんだ]

純[中学校ねぇ……。彼女は一人暮らし?]

アメリカ人男性[そうだよ。いいマンションに住んでるんだ]

純[マンションの名前はわかる?]

アメリカ人男性[ごめん、そこまではわかんないな。だけど、マンションの真正面にピザ屋があるからわかりやすいと思うよ。入口もオートロックになってるし]

純[中学校の近くで、なおかつピザ屋の正面にある、玄関がオートロックのマンション…ね。あと、何階の何号室に住んでるのかはわかる?]

アメリカ人男性[204号室だよ]

純[204…と。ありがとう。すまないね]

純はさらさらと手帳にペンを走らせた。

日本人女性「でも、そんなこと聞いてどうするの? あの子、何かしたの?」

日本人女性が日本語で尋ねる。

純「いやぁ、オレの友達が学生時代あの子に惚れてて、今でも忘れらんないんだって言うから…」

慌ててごまかす純。

日本人女性「あら、そうなの。でも今は諦めたほうがよさそうね」

純「何で?」

日本人女性「あの子、怖そうな人とつきあってるから。ヘタに追い回すと痛い目に遭うかも」

純「痛い目って…どんな彼氏だよ、それ」

日本人女性「うーん…よくわかんない。IT系の仕事してるらしいけど、見た感じチンピラみたいだよ」

日本人女性は不快そうに言った。友達の彼氏とはいえ、やはり黒野の立ち振舞いは見ていて気持ちのよいものではないのだろう。

日本人女性「せいぜい殺されないようにね」

純「…わかった(苦笑)。伝えとくよ。ところで、サチエちゃんの彼氏には会ったことあるの?」

日本人女性「うん。よく二人で来るから」

純「どんな様子なの? 結構ラブラブ?」

日本人女性「もうずっとベタベタくっついてるよ。どっちかっていったら、サチエのほうからくっついてる感じだね」

純「へぇ…。そんなにくっついて、いったいどんな話をしてんだろうね」

日本人女性「わかんない。いっつも内緒話みたいにヒソヒソと話してるんだもん」

純「そうか…わかった。ありがとう!」


純は日米のカップルに何度も頭を下げ、俊作のもとへ素早く駆け寄った。


純「おい、羽村佐知絵の住処がわかったぞ」

俊作「マジ? どこだ?」

純「代官山方面だ。マンションに一人暮らしをしてるらしい」

俊作「え? じゃあ……」

純「そうだ。鴨川さんの証言と一致するかもしれない」

俊作「いよいよヤツのウソがちょっとずつ明るみに出そうだな」

純「そうだな。まさかこうも早くヒットするとはな」

俊作「ああ。あとは羽村と黒野の具体的な会話内容さえわかればいいんだけど……」

純「なんか、みんな“具体的な会話内容まではわからない”って言うんだよな」

俊作「どうする? もうちょっと粘ってみるか?」

純「うむ……もうちょっとだけな。それ以上は時間の無駄だ」

俊作「せめて、また二人揃ってここに現われてくれたらなぁ……」

純「まぁ、わざわざ二人がここに来るのを待つ必要もないだろ。つき合ってんだったらどっちかの家でそういう会話をする可能性だってあるんじゃね?」

俊作「確かに。じゃあ、羽村のマンションで張り込んでみるか」

純「よし、とりあえず行ってみよう」


俊作と純は佐知絵の自宅マンションがあるという代官山方面へと急いだ。



羽村佐知絵のマンション「サンライトイエロー代官山」は、東急東横線代官山駅から北に徒歩5分ほどの位置に、魅力的なルックスを兼ね備えながら佇んでいた。


建物のほぼ全体が見える位置に車を止め、ざっと外観をなめまわすように見てみる。


マンションは地上7階建て。

谷状のため勾配が厳しい渋谷特有の地形も手伝ってうまいこと周りの風景に溶け込んではいるが、やはりこの洒落た外観だとどうしても目立ってしまいがちだ。


クラブで得た情報通り、真向かいにはピザ屋があり、2〜3軒西に行くと中学校もある。地形的に、中学校のほうがやや高い位置にある。


俊作「羽村はここの204号室にいるんだったな。部屋の位置を確認しようぜ」

純「ああ」


まず、西側にある入口のインターホンで部屋数を確認する。


このマンションは1フロアあたり8部屋ある。


つまり、1階なら101号室から108号室まであるということになる。


純「ちくしょう、まだ若いのにこーんないい所に住みやがって。よっぽど金回りがいいんだな」

俊作「妬くな妬くな。どんな寝床だろうと“住めば都”だよ」

純「そうだよなぁ……って、それ慰めてんの?」

俊作「そうだよ?」

純「そう……」


純は少しばかり次元の違いを思い知らされた気になった。

そう思うと、「早くこの女の化けの皮を剥いでやろう」という気持ちがよりいっそう強まっていく。


俊作と純はマンションの2階部分をサッと見回した。


このマンションは、上から見るとL字の形をしている。

入口から4部屋目で曲がり角に直面しており、その先は道に沿って北側に折れている。

なお、ベランダは道路側にある。


8部屋中、明かりがついているのは6部屋だ。

普通、部屋番号はマンションの入口に近いほうからつけられるものだろう。

したがって、入口側から数えて4つ目が佐知絵の部屋と考えて間違いない。


その部屋の明かりは……ついている。


おそらく、佐知絵は在宅中だ。


俊作「今日は家でまったりとしてんのかな」

純「一応、張り込んでみよう」

俊作「おう」


ここで創にもらった携帯電話型万能カメラ(高性能集音マイク機能付き)を使えば証拠集めが楽になるであろうが、後で「盗聴(もしくは盗撮)された」などと騒がれては困るのでうかつに使うことはできない。


車に戻り、俊作と純はシートを少し倒して視線をマンションに集中させた。


俊作「なんか、刑事みてーだな。張り込みなんかしちまってよ」

純「そうだな。だけど、人を調べると張り込みはつきものだぜ」

俊作「あんパンでも買ってこようか? 腹減ってねぇ?」

純「……そうだなぁ。何か食うか」

俊作「じゃあオレが買いに行ってくるよ」

純「ホント? じゃ頼むわ」

俊作「何食うんだ?」

純「あんパンとコーヒー牛乳」

俊作「それだけでいいのか?」

純「ああ」

俊作「そう。じゃ、行ってくる」

純「待て」

俊作「何だ?」

純「簡単な変装をしていけよ。関係者に出くわしたり近隣の住民に怪しまれたら調査に支障をきたす」

俊作「あ、そうか」


俊作は、長髪男性のカツラと野球帽をかぶってコンビニへ出かけた。


純は、タバコに火をつけようとした。


しかし、窓が閉まっている。


キーを回し、ほんの数センチだけ窓を開けてから、純はタバコに火をつけた。


立ち上る煙が、我先にと、わずかな窓の隙間から懸命に外の世界へ這い出ようとしている。


今日は、特にこれといった行動はとらないようだ。俊作が戻ってしばらく張り込んだら引き上げるとしよう。


そう思いながら、純がタバコの火を消そうとした時だった。


2階の、入口から4つ目の部屋――つまり2階の角部屋の明かりが消えた。


「おっ」と、純が思わず声をあげる。


佐知絵が外出するのだろうか?


すーっと息を呑み、窓の下に隠れるか隠れないかといったギリギリの高さまで頭を下げ、マンションの入口を瞬きすることなく注視する。


程なくして、全面ガラス張りのドアに人影が浮かびあがる。


純「……」


白のスニーカー(メーカーまでは確認できず)。


カーキ色のスキニーパンツに、ライトグレーのジップアップパーカー。


そして小さなバックを左腕に引っかけている。


――佐知絵だ。



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