表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/64

14.“清掃員”・鳴海純

俊作が新宿へ向かおうとする中、純は…?

新宿へ向かうため、俊作はJR神田駅にいた。


中央線のホームに立った時、純から電話がかかってきた。


純『おーう、頑張ってるか〜?』

俊作「まぁな。今さっき羽村の大学へ行ってきたよ」

純『ほう。それで何かわかったか?』

俊作「彼女のゼミの先生に会って話聞いたんだけど、あの子学生時代から友達の多いタイプだったみたいだな」

純『…まぁオレは彼女をよく知らないけど』

俊作「…そうだったな。だけど先生の前じゃ優等生で通ってたみたいだぜ」

純『優等生?』

俊作「あぁ。彼女の卒論を先生が高く評価してたよ。オレも読んでみたけど、なかなかいい内容だった」

純『何感心してんだよ』

俊作「感心なんかしてねーよ。オレはただ見たままを言っただけだ」

純『まぁいいや。他にわかったことは?』

俊作「羽村と仲のよかった人間が、新宿のキャミジミで働いてることがわかった」

純『おっ! それはNiceだ。名前は?』

俊作「江坂千里っていうそうだ。これから会いに行こうと思う」

純『わかった。だがくれぐれも警戒されんなよ。行っていきなり羽村の情報を聞き出そうなんて思うな』

俊作「あぁ。その辺は飛び込み営業と同じだな」

純『まぁそういうことだ。あくまでも自然に接するんだぞ』

俊作「わかった。ところで、お前はどうなんだ? 何かわかったか?」

純『いや、まだこれといった情報は掴んでない。だが、米本ってヤツの顔は確認した。隙を見て接近してみる』

俊作「そうか。羽村の同期の様子はどう?」

純『2人ともこれといった大きな動きはないな。おとなしく仕事してるよ』

俊作「のぶちゃん……いや、高根伸子は?」

純『“のぶちゃん”って、お前そんな親しい間柄だったの?』

俊作「そんなことはどうでもいいから早く答えろ」

純『すまんすまん。彼女は見た感じ平気そうだよ。ただ、内心はどうだかな。先輩に気遣われてる感じだったし』

俊作「…そうか」

純『たまには連絡してやれよ。お前と仲良しなんだろ? 絶対ショック受けてるって』

俊作「あぁ、わかってる…」

純『それからな、笹倉ってヤツのことだけど、ありゃお前と合わないな。妙に偉そうだもんよ』

俊作「だろ? 人の上に立つタイプじゃないよ、絶対」

純『あんな調子じゃ、すぐ平社員に降格させられそうな気がするんだけどなぁ』

俊作「うん。それはオレも疑問だ」

純『こいつも調べ甲斐がありそうだ』

俊作「しっかり頼むぞ」

純『OK! とりあえずお前はのぶちゃんにメールでもしとけ!』

俊作「お前が気安く呼ぶな!」

純『はっはっはっ! じゃあな!』


電話は切れた。


俊作は、タイミングよくホームに滑り込んできた快速電車に乗り込んだ。



純は、清掃会社“ハワイアン・クリーン株式会社”のスタッフとして株式会社マグナムコンピュータに潜入していた。


少し前に請け負った案件で、今回同様、一般企業に潜入しなければならないことがあった。

その時、創から紹介されたのがこのハワイアン・クリーンだった。


なんでも、この会社はかつて創がアルバイトをしていた所だったらしい。

企業規模としてはあまり大きくないのだが、アットホームでチームワークも抜群である。

ここの社長は創を気に入っており、創が自分の店を開いた今でも付き合いがある。そんな縁で純とも知り合ったのだ。


更に奇遇なことに、ハワイアン・クリーンは株式会社マグナムコンピュータの清掃業務を請け負っていた。

社長は純の頼みに対し、今回も快く承諾してくれた。


したがって純は、比較的簡単にマグナムコンピュータへ潜り込むことができたのである。


しかし、さすが大企業。


美女がたくさんいる。


純のテンションは少し上昇していた。


純「いけねぇ、しっかり仕事しねぇとな」


壁の拭き掃除をしながら、純は営業部の様子を注意深く観察した。


法人営業一課では、笹倉が伸子を呼びつけた。


遠くから見る限り、仕事上の軽い打ち合わせなんて雰囲気ではない。

叱責だ。


伸子の作成した資料が発端となっているようだ。笹倉がその資料をバンバン叩きながら伸子を責めている。


純も、さりげなく、あくまで掃除中を装って話し声が聞こえる位置まで移動する。


伸子が作った資料は、どうやらミーティングに使うもののようだ。

俊作解雇に伴い、法人営業一課内で担当区域や予算額(平たくいえばノルマである)の練り直しを行うのだろう。



笹倉「ふざけてんのか!」

伸子「ふざけてなんかいません!」

笹倉「ふざけてんじゃねーかよ! 何だこの内容は!」

伸子「どこがふざけているというんですか?」

笹倉「今期の売上見込みだ。どうしてこうなるんだ?」

伸子「…柴田くんがいなくなってしまったので、彼の予算額を課の人数で割って、課員それぞれの予算額に上乗せしたのでこうなりました」

笹倉「あぁ〜? 柴田だぁ〜?」

笹倉は耳に手を当て、わざとらしく大袈裟に“よく聞こえなかったからもう一度言ってくれ”と言わんばかりの態度をとった。

当然、伸子は不快な気分になった。

伸子「…はい。彼の抜けた穴を埋めるにはそれが妥当なやり方だと思いますが」

笹倉「それでこんな数字になったのか?」

伸子「はい」

笹倉「ダメだな、これじゃ」

伸子「え? どうしてですか?」

笹倉は個別予算額の項を見た。

そこにはしっかりと、個別の予算額とその内訳が記されている。

笹倉「…お前、さっき“柴田の予算額を課の人数で割って、それぞれの予算額に上乗せした”っつったな?」

伸子「はい。言いましたけど…」

笹倉「たけぇんだよ、上乗せした額が」

伸子「え? そんなはずはないですよ! 以前の資料を参照しながら作ったんですから」

笹倉「何であいつに配慮してんだよ。こんなに高く上乗せする必要はねぇの」

伸子「え……?」

笹倉「この額は、もともと柴田が自分から通常より高めにしてくれって希望したモンなんだよ」

伸子「柴田くんが……?」


伸子は資料に視線を落とした。

確かに、俊作の予算額は年齢のわりには高くなっていた。

しかし、彼が自ら望んで予算額を高くしてもらった、という話は聞いたことがない。俊作も他の営業マンと同様にノルマを煩わしく思っていたはず。伸子は少し疑問に思った。


伸子「柴田くんが、そんなことを……」

笹倉「…まったくよぉ、何であんなカスのケツ拭かなきゃいけねーんだよ。あいつの分を上乗せしたら他のメンバーに迷惑だろうが」

伸子「迷惑……?」

笹倉「あのバカは己の欲求に溺れた低俗な変態なんだぞ? そんな男の尻拭いを、誰がするんだ? あ? オレはそこが気に入らねぇんだ」

伸子「柴田くんは低俗な変態なんかじゃありません!」

さすがにこの発言は許せない。

伸子は思わず声を張り上げていた。

笹倉「あぁ!? 口答えする気かッ!! 事実ヤツはセクハラやらかしてクビになってんだろうが!」

伸子「それは何かの間違いです!」

笹倉「あれがどう転んだら間違いになるんだ! 頭おかしいんじゃねーのか!」

伸子「あたしはいたって正常です!」

笹倉「おかしいんだよ!」


その時、事態を見かねた会田がサッと仲裁に入った。


会田「まぁまぁ、仕事中ですし、言い争いはこの辺で止めませんか?」


伸子と笹倉は、お互いの顔を一瞬だけ見合わせると、気まずそうに下を向いた。


伸子「…すいません」

会田が笹倉に向き直る。

会田「課長、柴田の穴埋めはオレがやります。それでいいですか?」

伸子「え…?」

伸子はビックリして会田の顔を見た。

笹倉「む……しかし大丈夫か?」

会田「大丈夫です」

会田は笹倉の目を見据え、キッパリと言い切った。

笹倉「…そうか。お前がそんなに言うんだったら任せるよ」

会田「ありがとうございます」

会田は軽く頭を下げた。

伸子「……」

伸子は不安そうに、席へ戻る会田の後ろ姿を見ていた。


純「ほほぅ……あの会田っての、なかなかやるなぁ。自ら2人分のノルマを背負うとは。しかし、それにしても俊作はひでぇ言われようだな。オレならたぶん3ヶ月もたねぇ」

はたで伸子たちのやり取りを見ていた純は、会田の行動に感心するとともに、笹倉の態度を不快に思うのであった。


その日の夕方――。


缶コーヒーを飲もうと給湯室脇の休憩室にいた会田を、伸子が呼び止めた。


伸子「会田さん」

会田「おぉ、どうした?」

伸子「…あの、大丈夫なんですか?」

会田「ん? 何が?」

伸子「柴田くんの穴埋めをするって話ですよ。2人分も引き受けて、大変なんじゃないですか?」

会田「平気平気。なんとかなるよ」

伸子「でも……」

会田「まぁ、本来なら柴田の予算額を課の人数で等分して…ってやるべきなんだろうけど、あんな状況ならしょうがないよ」

伸子「はぁ……」

会田「とにかく、ここはオレに任せて。こっちは大丈夫だから、うん」

伸子「……はい」

それでも伸子は不安そうな顔をした。

自分ひとりのノルマを達成するだけでも大変なのに、2人分も負担するなんて無茶な話だ。法人営業一課の稼ぎ頭である会田といえど、これは相当厳しいのではないか。

会田「そんな不安そうな顔すんなよ。高根さんは自分の仕事に集中してればいいからさぁ」

休憩室奥にある自動販売機の前に立ち、百円玉を投入しながら会田は伸子を安心させようと努める。

伸子「…わかりました。でも無理しないでくださいね…」

会田「大丈夫。意外とタフな体してるんだ、オレ」

会田は取り出し口に転げ落ちてきた缶コーヒーに手を伸ばした。

会田「それに、もうちょいしたら正式なテリトリー再編のミーティングがあるだろう。そこで予算額の調整もされるはずだから、柴田の数字はちゃんと均等に再分配されるんじゃない?」

伸子「……だといいんですけど」

会田「心配いらないよ。大丈夫だって!」

言うと、会田は爽やかな笑顔を残して自分の席へと戻っていった。


伸子「……」


仕方なく、伸子も缶コーヒーを買って自分の席に戻った。



同時刻、純は羽村佐知絵の同期である秋葉梨乃に探りを入れていた。


笹倉は、精神的攻撃の標的を伸子に変えたのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ