12.リサイクルショップ・ロッキー
行動を開始したばかりの俊作と純が向かった先とは…?
俊作と純は、一旦板橋に引き返していた。
純の言う“会わせたい人物”を俊作に紹介するためである。
純の愛車・日産ウィングロードは明治通りを北上する。
俊作「なぁ純、“オレに会わせたい人物”ってどんな人なんだ?」
運転席の純は、タバコを吸うために窓を少しだけ開けた。
純「探偵をやる上で必要不可欠な人物だ」
俊作「情報屋か何かか?」
純「うん…まぁそんなとこだな。でも実はお前もよく知ってるヤツだぞ」
俊作「オレも知ってるヤツ? 誰なんだ?」
純「ふふふ…会えばわかるよ」
純は、タバコをくわえながらニヤリと笑った。
当然、俊作はそれが誰か気になって仕方がなかった。
そんな俊作の気持ちを無視するかのように、車は板橋区内へと入っていく。
やがて、車は東武東上線・大山駅から北へ少し離れた所で停まった。
ここは俊作や純が住んでいる所から程近い。
純「着いたぞ。ここだ」
言われるままに車を降りる俊作。
目の前には、よく見るコンビニエンスストアぐらいの大きさがあるリサイクルショップがあった。
“リサイクル&バラエティーグッズ ロッキー”
看板にはそう書いてあった。
木製だが、1920〜30年代のアメリカを思わせるお洒落なデザインだ。
俊作「ロッキー……?」
俊作は思い当たる節があった。
まさか、と思いつつ純の後を追って店内に入る俊作。
店内もまた、古きよきアメリカンテイストがふんだんに盛り込まれた作りになっている。
型落ちしたパソコンや古着などが丁寧に並べられた商品棚を通り抜けると、奥にカウンターが見えた。
カウンターには、最新型のレジとノートパソコンが置かれている。レジの脇には“お会計はこちら”と書かれたプレートが立てられていた。
しかし、今はそこに誰もいない。
純「まったく、無用心だなあいつは」
純は、カウンターの隅に設置されているインターホンを押した。
レジを離れているスタッフを呼び出すのに使う、アレだ。
程なくして、レジの後ろにあるスタッフ専用出入口から一人の男が出てきた。
赤を基調としたチェックのネルシャツ、ブラックジーンズに身を包んだその男の背丈はさほど高くない。170センチ前後だろうか。
ダークブラウンに染まった髪は、つむじからごく自然な流れを作り、程よい長さでとどまっている。
また、顔は童顔なのだが肌が小麦色に焼けている。
俊作「あ……お前、ロッキーじゃんか!」
ロッキーと呼ばれたその男は、「よっ!」と軽快に挨拶した。
この、ロッキーと呼ばれた男の名前は黒木創。俊作や純とは中学・高校時代の友人である。
“ロッキー”と呼ばれているのは、単に苗字が“黒木”だったからであり、決して某大ヒット映画に由来するものではない。
純「驚いた?」
俊作「かなり」
創「久しぶりだなぁ、俊作」
俊作「2年ぶりぐらいか?」
創「そうだな。それぐらい会ってなかったかもな」
俊作「しかし驚いたな。ここ、お前の店か?」
創「ほぉ、まだ何も説明してねーのによくわかったな」
俊作「だって、店の名前が“ロッキー”だぜ? ベタすぎるだろうよ」
創「はっはっはっ! それもそうだな!」
3人は大きな声で笑った。
黒木創は、十代の頃から雑貨を集めるのが好きだった。生活に必要なものから遊び心いっぱいの一風変わった玩具、リサイクル品などありとあらゆる雑貨を収集していた。
その趣味がこうじて、自分の店を持とうと考えるようになったのは大学4年生の時。大学で知り合った雑貨好きの友人と協力して大学卒業後もアルバイトをしながら開業資金を貯め、1年半ほど前にようやくこの店をオープンさせた。
開店に伴ってアルバイトを2人雇い、計4人でのスタートとなった。
看板にも書いてあるように、雑貨全般とリサイクル品を取り扱っている。
俊作「へぇ〜、お前もたいしたモンだなぁ」
開店までの経緯を創から聞き、俊作は心底感心していた。
創「なんだよ、ちょっと上から目線じゃねーか」
俊作「そんなことねーよ! ホントにすげぇと思ったんだよ」
創「あっそ」
俊作と創は互いにニヤニヤしている。明らかに冗談まじりに会話している証拠だ。
純「だけど、それから一悶着あったんだよな」
ツッコミを入れるようなニュアンスで、純が話題を続行させた。
やれやれ、というような顔をする創。
俊作「何があったんだ?」
創「……店を開いて半年が過ぎた辺りだったかな、レジの金が帳簿と合わないことが多くなったんだ。まぁ、よくある話だけどな」
俊作「確かにありがちな話だな。店の誰かが盗ったんか?」
創「オレもそう思って、純に相談したんだ。ちょうどその時探偵事務所を開いたばかりだったらしくて、たまたまウチの店の前でビラ配ってたからさ」
純「そうそう。オレもまさか最初の依頼人がロッキーだとは思わなかったよ」
創「なぁ!」
純と創は再び笑った。
俊作「……で、結局犯人は誰だったんだ?」
創「それが、一緒に店を開いたヤツだったんだよ!」
俊作「マ、マジか!」
創「もう驚いたし、何よりショックだったよね」
純「あれにはオレも驚いた。まさか、夢を叶えるために頑張ってきた仲間が店の金を盗むとはな」
俊作「そうだよな。でも、何で店の金に手をつけたんだ?」
創「女だよ。キャバクラの女にのめり込んじまったんだ」
俊作「うわぁ〜」
純「またその女がすっげーキレイでな。ありゃあ、ほとんどの男がほっとかねーよ」
俊作「ところが、いざ近づいてみたら男に金品貢がせるようなひでぇ女だったってことか」
創「あぁ。ハマる男も男だけどな」
俊作「女にハマるのは自由だが、てめぇの金で何とかするのが筋だよな」
創「だろ? いくら仲間でもそれは許せなかったから、すぐそいつをクビにしたよ。ただ、警察には言わなかったけどな」
俊作「ほぉ、何でだ?」
創「…御仏の慈悲ってヤツだ」
俊作「寛大だな」
創「そうだろぉ? そう思うだろぉ?」
急に創は得意げになった。
俊作「はいはい、わかったわかった」
わざと冷たく突き放す俊作。もちろん創が冗談で得意げになったのを理解しての言動である。
純「まぁ、その事件がきっかけでロッキーはウチの大事なビジネスパートナーになったわけなんだけどな」
俊作「ビジネスパートナー?」
純「あぁ。オレが仕事で変装しなきゃいけない時に、ロッキーから変装するための道具を借りたり、いろんな情報を提供してもらったりするんだ」
創「店開く金を集めるためにバイトしてただろ? その時にいろんな人と知り合ってさ。今でもよくしてもらってんだ。だからいろんな情報を教えてもらえるんだよね。まぁ、その代わり純にはたまに店を手伝ってもらってんだけどな」
俊作「お前ら、オレの知らない所でそんな関係になりやがって」
創「へへ〜、羨ましいだろ?」
俊作「別に」
純「出た、微妙にタイムリーじゃない流行語!」
俊作「うるせーよ!」
そしてまた大きな声で笑う一同。
創「ところで、俊作は今日仕事休みだっけ?」
俊作「いや、今仕事中だ」
創「あれ? お前営業マンじゃなかったの?」
俊作「それなら昨日付けでクビになった」
創「は!? 何があったんだ?」
目を丸くして驚く創。
俊作は、解雇までの経緯を、純にしたのと同じように説明した。
創「……お前がそんなヤツだったとは」
俊作「セクハラなんてするわけねーだろがッ! 真面目に聞けよ!」
創「いや、すまん。場を和ませようと思ってな」
俊作「そんなのいらん!」
創「だけど、変な話だな。聞く限りじゃ俊作は何も悪くないじゃん」
俊作「そうなんだよ。だから純と真相の解明に乗り出してんだ。探偵としてな」
純「そこで、オレと探偵をやる上で心強い味方であるロッキーの店に俊作を連れてきたっちゅうわけよ」
創「なるほど、それは正解だ」
純「実際結構助かってるしな」
創「実際お前はオレを頼りすぎだけどな(笑)」
純「実際言うほど頼ってねーけどなぁ?」
創「ウソつけ! 週に何回ここへ通ってんだよ!」
純「知るか! そんなのいちいち覚えてねぇ!」
俊作「実際どっちだっていいだろ。ビジネスにギブアンドテイクは必要なんだから」
純「……そうか」
創「……そうだよな」
2人とも言い争いをやめた。
もっとも、これも冗談半分なのだが。
創「まぁ…俊作よ、何かあったらここへ来い。ところで純、今はどこまで真相の解明ができてんだ?」
純「どこまで…って、まだ何もわかってないよ。今日から調査を始めたんだから」
創「あぁ、そうか。いや、オレもできる限りの協力をしようと思ってな。誰の情報が欲しい?」
俊作「さっき話した、オレの元上司・笹倉と後輩の羽村佐知絵って女だ」
創「写真か何かあるか?」
俊作「これだ。ちょっと見にくいけどな」
俊作は、ポケットから笹倉と佐知絵の写真を取り出し、創に見せた。
写真といっても、月に1回配られる社内報に掲載されている写真をスキャナで取り込み、パソコンでL版に拡大・画質処理を施した後にプリンタで出力したものである。
創「ほぉ…この子が羽村佐知絵。なかなかカワイイじゃん」
俊作「鼻の下をのばすのは写真だけにしとけ」
創「わかってるよ。この女、男に媚びを売りそうなツラをしてやがる。そんなのはオレのタイプじゃねぇ」
俊作「え? そうだったっけ?」
創「あれ? お前知らなかったの?」
俊作「うん、知らなかった」
創「……まぁいいや。ところで、もう1枚のほうに写ってんのが笹なんとかってヤツか?」
俊作「笹倉な」
創「ふーん……器の小さそうな野郎だな」
写真を眺めながら、創がボソッと呟いた。
純「じゃあロッキー、情報提供頼んだぞ」
創「わかった。お前らはこれからどうするんだ?」
純「オレは俊作の会社に潜入してみる」
創「どうして純が俊作の会社に?」
純「調査対象は俊作の元上司と同僚だぞ? ツラがわれてる上に探偵未経験の人間を潜り込ませるほど間抜けな話はねぇ」
創「あ、なるほど。で、俊作はどうするんだ?」
俊作「オレはそれ以外の所から情報をかき集めてくる」
創「聞きこみか。それなら早急に変装グッズがいるな。ちょっと待ってろ」
一旦、創は奥の部屋に引っ込んだ。
ゴトゴトと部屋を引っ掻き回す音が聞こえてくる。
やがて、大きなサンドバッグ型のカバンを抱えた創が戻って来た。
創「待たせたな。お前の変装グッズがこの中に入ってる。とりあえずこれで一通りの仕事はできると思う。また何か必要になった時は言ってくれ」
俊作は、創から変装グッズを受け取った。
俊作「サンキュー、ロッキー」
それからしばらく雑談をし、俊作と純は“リサイクル&バラエティー ロッキー”を出た。
俊作「ロッキーのヤツめ、一人前になりやがったな」
車に乗り込むやいなや、俊作がそう言った。
純「ははは、ビックリしたみたいだな」
俊作「あぁ、すげぇ驚いた」
車が走りだした。
純「さて、これからの行動を確認しよう。オレはお前の会社に潜り込む」
俊作「オレは周りから情報を集める」
純「よし。どんな細かいことでもいいから、とにかく有力だと思った情報はすぐに控えるんだ。お互いに報告しあうことも忘れずにな」
俊作「わかった。オレの同期に会うのも忘れるなよ」
純「OK! ついでに笹倉って野郎の動向も探ってきてやるよ」
俊作「“ついで”かよ。それもメインの業務だろうが」
純「わりぃ。お前と同期の女に会うのがメインだと思ってた」
俊作「……やれやれ」
心強い味方だぜ、ロッキーこと黒木創!




