事件の始まり
地裏ムカサが覗き込むのを避けるように、呪香ミツコが立ち上がった。
「行かなきゃ」
「どこへ行く?」
尋ねたムカサに向かい、ミツコは軽蔑するかのような視線を向けた。
「私に助けを求めている、誰かのところよ」
「この前と一緒だわ」
花屋兼カフェのマスター四緑カオリのつぶやきに、ミツコは反応しなかった。出入口に向かおうとする。カオリと明らかに話したがっていた教師の犬神ヤシャが尋ねた。
「『この前』とは、三人組と一緒という意味ですか?」
「ええ。あの三人は同時に携帯電話に着信があったことは言ったわね。突然の着信に、お互いに携帯電話の画面を見せ合って、すぐに席を立ったのよ。少し不安そうだったから、よく覚えている……でもあの時は三人同時だったから、彼女にメールしてきた相手とは違うと思うけど」
「俺は……携帯電話は職員室に忘れてきた」
犬神がすばやく言い、カオリと犬神の視線がムカサに集まった。ムカサは小さく肩をすくめてみせた。
「携帯電話なんか、持ったこともない」
「珍しい奴だな……学生の態度としては偉いのかもしれないが……」
「……あの子、大丈夫なの?」
カオリの視線が、今まさに店から出ようとしていたミツコの背を追った。
「三人のウィザードを取り込んだのと同じ相手だとしたら、まずいでしょうね。俺が追います。もし戻らなければ、先生はウィザードの組織に連絡をお願いします」
「二人で大丈夫か? 異常時の連絡なら、四緑さんに頼めばいい」
席を立ったムカサに続いて腰を上げようとした犬神に対して、今度はムカサが冷やかに言った。
「先生はここの支払いがあるでしょう。それに世間話ぐらいしておかないと、カオリさんに興味がないと思われますよ」
明らかに同様する犬神をしり目に、ムカサはミツコを追って居心地のいいカフェから飛び出した。




