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短編21

だいぶ時間は遡り、第2章20話直後のお話です。

 


 結婚からの両想いという些かおかしな順番にはなったものの、メアリは晴れてアディと結ばれた。

 胸に溢れる幸福感。眠る直前まで考えるのはアディの事で、起きて直ぐに考えるのも彼の事。

 幸せで胸がいっぱいどころではない、胸から幸せが溢れかねないほどだ。まさに脳内も視界に映る世界もすべてお花畑状態。


 そうして目を覚ましたメアリは幸福感と浮かれっぷりを隠しもせず、アルバート家中に自分達の事を話して回っていた。


「私、アディと結婚したの!」

「実はアディは私のことが昔から好きだったのよ!」

「それでね、私も彼のことを愛していたの!」


 両親や兄達にはもちろん、通りすがりのメイドや給仕達にも。果てにはアルバート家で飼っている犬にも。

 とにかく誰かに伝えたくて堪らないのだ。出来るならば屋敷の屋根に昇って大声で知らせたり、気球に垂れ幕をつけて飛ばしたいところだが、さすがに母から結婚相手をばらさないよう緘口令を敷かれているので屋敷内に留めておく。――後にアディはこの時のメアリの話を聞き「奥方様の遊び心で命拾いをした」と語っている――


 だがそんなメアリの浮かれお花畑状態も、パルフェットとの約束を思い出すことで落ち着いた。

 なんとか聞き出した国内で有名なケーキ。それを買って帰らねばならなかったのだ。

 そうして、自分を置いていくのかと訴えるアディを残してメアリはエレシアナ大学へと戻っていった。


 アルバート家中に撒かれていたメアリの浮かれた花も、当人が居なくなれば落ち着きを取り戻す。…………わけがない。




「アディ、戻って来たのか。メアリの見送りご苦労様」


 そうパトリックに声を掛けられ、アルバート家に戻ってきたアディは何とも言えない表情を浮かべた。

 なにせ出迎えてくれたパトリックはこれでもかと楽し気な表情をしているのだ。口では「大変だったな」と労いの言葉を告げてくるが、その声にも爽やかに微笑む顔にも好奇心が隠しきれていない。おまけに肩を組んで逃がすまいとしてくる。

 仮に彼との付き合いが短い者であればこの爽やかな笑顔に騙されていただろう。なんて優しく気さくな方だ、とパトリックを見直すはずである。


「……俺はその笑顔には騙されませんからね」

「何の話か分からないな。俺はただアディを昼食に誘い出して、昨夜なにがあったのか根掘り葉掘り聞き出したいだけだ」

「爽やか笑顔が効かないからって本音をぶちまけないでください」


 じっとりとアディが睨みつける。

 だがパトリックはどれだけ睨まれても臆することなく、それどころか「人聞きの悪いことを」とアディを咎めた。


「俺は人助けのつもりなんだけどな」

「人助け?」

「考えてみろ、今この屋敷に残ったところで、あちこちから呼び出されて根掘り葉掘り聞きだされるだけだ。それに比べたら俺一人に聞きだされる方がマシだろう」


 どのみち根掘り葉掘り聞き出されるにしても、屋敷中か一人だけかでは大きな違いだ。

 そうパトリックが話せば、アディが「それは……」と呟き、


 次の瞬間、自らの肩を掴むパトリックの手を強く握った。


「確かにパトリック様の仰る通りです。さぁ食事に行きましょう。出来るだけアルバート家から離れた店に!」

「ちなみにアリシアもだいぶ浮かれていたが、なんとか落ち着かせて庭師に戻しておいた。……俺としては戻るのが庭師なのは微妙なところだが、あの落ち着きようを見るにむやみやたらと言い触らしたりはしないだろう」

「昼は俺が奢ります! いえ、ぜひとも奢らせてください!」


 さぁ行きましょう! とアディがパトリックを引きつれて、まるで逃げるように……、否、実際に逃げるためにアルバート家を後にした。

 大袈裟と言うなかれ。なにせ屋敷には目を爛々と輝かせた者達がアディを捕まえて聞き出そうと待ち構えていたのだ。

 誰もが「逃げられた」と残念そうにし、さりとて他でもないパトリックを制して自分の好奇心を優先するわけにもいかず、残念そうに各々仕事へと戻っていった。



 ◆◆◆



『出来るだけアルバート家から距離のある、花が飛んでこない店が良い』というアディの切実な希望を元に選ばれた一軒の店。

 落ち着いた雰囲気と昼時を少しずらした時間だけあり程よく空いており、軽やかな音楽が他のテーブルの会話を適度に遮ってくれる。

 話が不便なほど煩くなく、さりとて周囲に聞かれるほど静かでもない。腰を据えて話すには適した店だ。


「なるほど、そんなことがあったのか」


 とは、食後の紅茶を飲みながらのパトリックの言葉。

 昨夜なにがあったのかを根掘り葉掘り聞き出し満足そうである。「良い話を聞いた」と頷き落ち着いた様子を取り繕っているものの、爽やかな笑顔は好奇心が満たされたとキラッキラに輝いている。普段の麗しい王子を演じる時の輝きではなく、満ち足りた人間の輝きである。

 対してアディはこれでもかと顔を赤くさせつつ、「ご満足いただけたようで何よりです」と唸るように返した。己を落ち着かせるために紅茶を一口飲むが、味などするわけがない。


「それでメアリがあれほど浮かれていたんだな」

「……これでもかと浮かれていましたね。ま、まぁ、でも、お嬢が喜んでくれているのは俺としても嬉しいんですが」


 ポツリと呟き、アディがふいと顔を背けた。

 その顔はいまだ赤い。……が、口元は緩んでおり、自覚して手で隠すが表情が緩んでいるのが隠しきれていない。

 そんなアディの反応を見てパトリックが一瞬驚いたように目を丸くさせ、だが次第に目を細めて笑った。楽しそうな笑み。それでいて友人の幸せを喜ぶ表情である。


「そうだよな、メアリが大々的に惚気たけどアディだって惚気たいよな」

「そりゃぁそうですよ。俺がどれだけ長くお嬢を想っていたかご存知でしょう? それほど想っていたのが実ったんですから、俺だって浮かれて惚気たいですよ。なのにお嬢がとんでもない爆発力の惚気方をしてくれて」

「まぁそう言うなって。せっかくだ、とことんまで付き合ってやるよ」


 楽し気な笑みを浮かべて、パトリックがティーカップを軽く掲げる。

 酒の入ったグラスならもっと様になっただろうが今はまだ昼、ゆえのティーカップである。その仕草が面白く、アディもまた苦笑を浮かべ、自らのティーカップを軽く掲げた。



 どれだけ昔からメアリを想っていたか、その想いが実った今がどれだけ幸せか。昨夜のメアリの愛らしさ、瞳を輝かせて話す今朝のメアリの愛おしさ。言い触らされて困りはしたが、メアリが浮かれていることは嬉しいのだ。ーーまだアルバート家に戻るのは気が引けるがーー

 語ると決めたアディの話は長く、これでもかと惚気た。パトリックが思わず「これが覚悟を決めた男の惚気……」と呟くほどである。紅茶を何杯おかわりしたか。


 だがそんな惚気も終わり、語り終えたアディが深く息を吐いた。


「……というわけで、今の俺はとても幸せということです」

「とことんまで付き合うと言い出したのは俺だが、本当にとことんまで付き合わせてくれたな」

「あー、スッキリした。お付き合い頂きありがとうございました」


 晴れ晴れとした表情でアディが礼を告げる。

 それに対してパトリックが肩を竦めて「どういたしまして」と返した。


「……本当にありがとうございます」

「そんなに念を押して言わなくても伝わってるさ。それにあれだけメアリが言い触らして回ったら惚気場所が無くなるのも仕方ない」

「いえ、それだけじゃなく、俺とお嬢の結婚についてもです。パトリック様がいなければ叶いませんでしたから」


 メアリの突拍子もない発言からあっという間に結婚に漕ぎつけ、そして互いの気持ちを確認しあって結ばれた。

 その立役者は間違いなくパトリックだ。そうアディが話せば、パトリックが嬉しそうに笑った。


「かなり力技でしたけどね」

「君達二人には力技ぐらいがちょうど良いだろう。それに、俺が行動に出られたのはアリシアのおかげだ」

「アリシアちゃんの?」

「アリシアに出会う前は俺はメアリと結婚するつもりだった。もちろん俺はメアリに対して恋愛感情は無いし、彼女も同じだと分かってた。でもそれが互いと家の為だと思っていたし、メアリとアディが一緒に居られるならそれで良いんだろうと考えてたんだ」


 アディがメアリを想っている事も、メアリが自分では気付いていないがアディを想っている事も、どちらも知っていた。

 それでも家のため、そして二人も一緒に居られるのだから良いだろうと考え、いずれメアリと結婚するつもりでいた。

 だがその考えが間違いだと分かった。アリシアと出会ったからだ。


 アリシア以外の女性と歩む人生なんて考えられない、彼女が他の男と結婚するなんて考えたくもない。

 そのためならダイス家の名前を捨てることも厭わない。自分には彼女だけで、彼女にも自分だけでありたい。


 これが初恋で、同時に恋という感情がどれほど強いものかを思い知った。


「それでメアリとアディは結婚するべきだと思ったんだ。アリシアと出会って初めて分かるなんて、メアリの事を鈍いと思っていたが、俺もかなり鈍かったんだろうな」


 気恥ずかしそうに話すパトリックに、アディが「そうだったんですね」と穏やかな声色で返した。

 普段のパトリックらしからぬ熱い話だが、考えてみれば彼らしい話でもある。


 そうしてしばし二人の間に沈黙が漂い……、


「な、なんかこうやって腰を据えて話すのも恥ずかしいな!」

「そうですね! 改めて考えると俺も長々と惚気すぎましたし、そろそろ店を出ましょうか!」

「あぁ、そうしよう!」


 恥ずかしさから自然と声量も増し、慌ただしく席を立つ。

 先程まで落ち着いて話していた二人の突然の退店に、店員達がいったい何の話だと不思議そうに見送った。



 店を出て、二人でアルバート家へと戻る。

 アディは仕事に戻るため、パトリックは庭師改めアリシアを回収するためである。

 庭園にいたアリシアが二人の帰宅に気付き、嬉しそうに駆け寄ってくる。その途中で何かに気付いて優雅な歩きに変えたのだが、軍手着用なので残念ながら淑やかさは感じられない。

 ここにメアリが居たなら「王女らしく振る舞いたいなら軍手を外して土汚れを落としてからにしなさい!」と厳しく叱りつけただろう。


 そんなアリシアを微笑ましく見守り、パトリックがコホンと咳払いをした。


「さっきは俺もアディに当てられて惚気過ぎた。他言無用で頼む」

「他言無用ですか?」

「あぁ、さすがにあの話を言い触らされると恥ずかしいからな」


 居心地悪そうにパトリックが話し、更に「頼むぞ」と念を押す。

 これにはアディも苦笑を浮かべ「かしこまりました」と恭しく頭を下げて返した。




 メアリ同様にアリシアも浮かれて花を咲き誇らせアルバート家の屋敷中に言い触らそうとしたのは、ここから少し先の話。

 



…END…




 


「あら、見てアディ、パルフェットさん達が集まってるわ」

「本当ですね。何か儀式めいたことをしていますね」

「恐ろしい儀式をしている可能性もあるわ。こっそり聞いて、必要なら止めましょう」


(´;ω;`)「メアリ様のカバー色校ぉ……!」

(´;∀;`)「メアリ様のアクスタァ…………!」

(´;ω;`)「エックスのビーズログコミック公式アカウントで現在開催中のキャンペーンで当たるメアリ様のカバー色稿とアクスタァ……!」


「あら、大丈夫だったわ。私のカラー色校とアクスタ当選の祈願をしてるみたい」

「……俺も映ってるんですけどねぇ」

「あら、炎をあげ始めたわ。本格的ね!」


(´;ω;`)「ビーズログコミック公式アカウントをフォローして該当ポストをリボストすることで抽選で合計100名様に当たるカバー色校とアクスタァ……!」

(´;∀;`)「詳しくはビーズログコミック公式エックスアカウントをご確認ください……!」

(´;ω;`)「炎が熱い……!!」


「さすがパルフェットさん、本格的な儀式と流れるような告知ね」

「そうですね。でもなんだか香ばしい匂いがしませんか? 食欲をそそられるような……」

「確かに、お腹が空いてくる匂いね。……これは!」


(´;ω;`)「お芋が焼けました!」

(´;∀;`)「メアリ様とアディさんもどうぞ!」

( ´;ω;` )「お芋も熱い……!!!」


「さすがパルフェットさん、祈祷だけじゃ終わらない……! 当たると良いわね、私のカバー色校とアクスタ」

「だから俺も映ってるんですって」


・・・・・・・・・・・・・


お久しぶりの更新と告知です。

ありがたいことに1/31に『アルバート家の令嬢は没落をご所望です』コミックス8巻が発売されました!

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※本日2/14(23:59)までです!!

お知らせ遅くなり申し訳ありません!!


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詳しくはビーズログコミック公式アカウントをご確認ください。

皆様どうぞよろしくお願いいたします!


ギリギリになって申し訳ありません!

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