17 別れのキス
ローランド卿は横たわっている兵達に近づいて行った。もう、誰も息は無い。一人ずつ、丁寧に体勢を整え、寝かせてやった。亡くなったシアーズの部下にも同様にしてやった。手が血に汚れたが、何とも思わなかった。皆、流れるようなその仕草に見入っている。
シアーズは見ていたが、一段落ついたと思って口を開いた。
「ウィル・・・お前は気に食わないかもしれないが、一応言っとく。お前を助けたのは、俺じゃない。お前の母上だ。魔物の心を吸い取った。魔力に完全に喰われる直前に、お前を助けたんだ。」
ローランド卿は愕然とした。俺があんなに憎んでいた者が、俺を救っただと?馬鹿馬鹿しい。そんなことをされても、何も思わない。転がっている頭蓋骨を見た。空っぽだ。涙が、溢れてきた。
何も思わないのに・・・。だがなぜだ、涙が止まらない。
骨に静かに歩み寄った。頭蓋骨を拾い上げた。血の付いたままの両手で上に高く持ち上げた。暫く空洞の目を見つめた。そして、ゆっくりと降ろすと、自分の顔を上に向けたまま、目を閉じてキスをした。硬い物が唇に触れた。切ったところに当たったのだろうか、唇に一瞬痛みを感じた。ゆっくりと目を開け、唇を離した。もう一度、骨を見つめた。そして、骨を元の場所に戻した。
服の中から、ペンダントを引っ張り出した。革紐に、古い指輪がぶら下がっている。せめて、傍に置いてやりたい。頭蓋骨にかけてやった。ペンダントは、頭蓋骨を取り囲むように地面に置かれた。
「さようなら、母上。御機嫌よう。」
別れの挨拶はそれだけで、背を向けた。部下に、戻るぞ、と告げ、洞窟を歩き出した。シアーズは黙って見ていたが、彼もクルーに合図すると、引き返した。去る前に、光の泉を見た。泉の底はひび割れ、光も何も残っていない。全てをウィルに渡したのか?アイエスは、泉は魔物の心の一部を取り込むと言った。なら、結局、あいつの中の魔物の血は、消しきれなかったのか。しかし、確かにあいつは変わった。根拠の無い自信だが、確信できる。きっともう大丈夫だ。シルヴィアの手を、しっかり握った。出口ではたと立ち止った。
「アイエス・・・?」 声の主を呼んだ。だが、応えはなかった。彼は何を思って、今まで魂だけ残ったのか。憎悪か、執念か、それとも。




