16 結び目
答えたのは、シアーズだった。こいつまで知ったのか!俺にあんなにも人から忌み嫌われる、魔物の血が混ざっていることを。さらに、自分は己の部下を手にかけた。いくら自我を失っていたとはいえ、やってはならないことをした。人とは思えないことを。
涙が伝った。一歩、踏み出した。それに合わせるように、他の者達が一歩、後退した。それを見て、確信した。もうだめだ。俺は、人じゃないんだ。
洞窟の、来た方の道へ行こうとした。
「どこ行くんだ、ウィル。」
ローランド卿は、ぼそぼそと喋った。
「もう・・・ここにはいられない・・・。」
失いたくなかった、たった一つの居場所を失ってしまった。もう、誰も自分を受け入れられないだろう。人とはそういう薄情なものだ。胸に、ぽっかりと大きな穴が開いたようだ。もう、全てどうでもいい。今なら、どんなものでも許してしまえる気がする。受け入れられる気がする。これから、どこに行こうか。もう、一人ぼっちは嫌だと願ったのに。やっぱりこの世に神なんていないのかもしれない。結局一人だ。―だが、今更何だと言うんだ。元に戻っただけなのに。元々、自分に一つでも居場所があることの方がおかしかったのに。
「ここにはいられない?どっか行くあてでもあるのか?船もないのに?こんな辺境の島で、一人彷徨う気か?」
シアーズの問いに、ますます胸が締め付けられる。痛い、苦しい。こんなことならいっそ―。
「うるさい・・・!私がどうなろうと、関係ないだろう。生きようが死のうが、こんな出来損ないに所詮、価値なんかないんだ!」
「閣下・・・!」
部下の方を向いて吐き捨てるように叫んだ。
「お前達も早くどっか行け!俺のことなんてほっといてくれ!どうせ居場所なんて最初っから、どこにも無かったんだ!こんなことなら・・・あのまま魔物に喰われていた方がましだった・・・何も分からずに、狂ったまま一人で死ねば・・・いや、この世のことなんて何も知らないうちに、死んでおけばよかった・・・!」
『心があれば、いつも悲しみの中にいる』、か。シアーズはローランド卿を見つめた。ローランド卿の瞳に輝きは戻ったが、涙に潤んでいる。
「閣下!ここに・・・ここにいて下さい・・・!」
士官が、口を開いた。ローランド卿が固まった。士官は続けた。シアーズは、黙っていることにした。
「我々は無能です。何も出来なかった・・・でも、貴方がいて下さるからこそ・・・戦いの中を生きてきた。祖国に英雄として戻れたのです。貴方のためなら、我々は何も恐れない。どうか、そんなことを仰らず・・・我々の上官として・・・。」
ローランド卿は目を見開いた。聞き間違いか?
「いて・・・いいのか?」
俺はこんな、魔物でも人間でもない存在だったのに?いや、今ですら、どちらか分からないのに。
「閣下・・・。」
士官が歩み寄ってきて、差し出した手を強く握り返した。俺は、ここにいていい。許されている。それどころか、望まれている。胸の痛みを忘れた。分かる。とても、暖かい。この世のことなんて何も知らないうちに、死んでおけばよかった。でも出来なかった。一度光を知ってしまったら、知らなかった頃にはもう戻れない。だから、死にたくなかった。何が何でも、失いたくなかった。




