14 割れた泉
「誰・・・。」
かすれ気味の、弱々しい声だった。嘘だろ・・・。
「冗談はやめろ!」
怒鳴って、頬を張った。ローランド卿はよろめいた。だが、何も感じていない証拠に、切れた唇をぬぐおうともしない。不思議そうな目で、シアーズを見つめる。唇から、細い血の筋が流れた。
「何で殴る?何もしてないのに。」
小さな声が響く。シアーズは、心臓を握られているかのような痛みを覚えた。
「いっそ・・・。」
ローランド卿の従卒がふらふらと進み出た。
「いっそ、殺して差し上げて下さい・・・。」
涙ながらに呟いた。シアーズは思わず怒鳴った。
「何を言ってる!」
「閣下は、お心のあられた時はいつも、悲しみの中におられた!どんな時もいつも傷つき、涙しか・・・!この上お心を失くされて、どうしろと仰るのです!いっそ、殺して差し上げて下さい!」
シアーズは噛みつくように言った。
「馬鹿言え!死んじまったら元も子もねえんだぞ!」
「では貴方は、閣下が残りの一生を、物のように過ごせばよいと!そう仰るのですか!」
「そんなこと言ってねえだろ!もしかしたら―。」
そう、もしかしたら。これだけ広い世界だ、一つくらい方法があるかもしれない。
「そんな奇跡みたいなこと、現実に起きるわけないでしょう・・・!」
このネガティブ思考。ウィルの教育の賜物か?
「今までだって、奇跡は起きてきた!だから、『奇跡』っていう馬鹿みたいな言葉があるんだ!この世に奇跡が起きないのなら、最初っからそんな言葉はない!」
従卒は黙った。だが、下を向いてしまった。ローランド卿はこのやり取りを、ただ、見つめていた。何の反応もしない。シアーズは涙が伝うのを感じた。
奇跡は、起きるかもしれない。だが、何か行動しなければならない。でも一体どうしろと―。
化け物がこちらを見ている。目はないが、見えるのだろうか?シアーズは光の泉に歩み寄った。そして、剣を大きく振りかざした。
「こんなもの―!」
泉に突き立てた。水があるような感じはしなかった。だが、底にガツンと当たった。
「うぉわっ!」
シアーズは吹っ飛んだ。一瞬、目も眩むような光が、泉から溢れた。全員、目をばちばちと、何度も瞬きをした。ローランド卿を除いて。
「何だ・・・?」
光でよく見えないが、泉の表面が割れている。大きな亀裂が入り、そこから何か溢れてきた。あれは、水?
ゴオッという音と共に、それは押し寄せてきた。渦を巻く銀色の水がシアーズ達を飛び越え、ローランド卿へ向かって行った。
「閣下!」
胸に直撃した。だが、水は吸い込まれていく。どのくらいの量だろう。世界中の海の水を集めたより、多いのではないか。ローランド卿が薄目を開けた。
「ウィル!」




