13 霧散
ローランド卿の動きが止まった。シアーズは貫かれる寸前だった。バッと飛びのいた。
ローランド卿の全身から、銀色の霧のようなものが滲み出ていた。吸い込まれるように、一点を目指している。銀色の行く道を辿った。骨だ。人の、頭蓋骨がある。銀色の霧は、それに吸い込まれていく。シアーズはローランド卿の固まったままの右手を見た。鱗が・・・薄れていく。ふいに、カタカタという音が聞こえた。頭蓋骨が、小刻みに震えている。骨が岩に触れる音だった。
「うっ・・・。」
その場にいた誰もが恐怖を感じた。銀色の霧と共に骨に、岩場にあるわずかな土が吸い寄せられ、くっついていく。少し湿気を帯びた土は、骨にまるで腐りかけの肉のように張り付き始めた。頭蓋骨だけではない。人型に並んでいた骨―腕や、肋骨―にもついている。まるで、そう、蘇っているかのような。
ローランド卿の体が傾いた。銀色の霧はもうない。シアーズは駆け寄って受け止めた。顔にも、どこにも鱗の痕は無い。返り血だけがついていた。さっきまでが嘘のようだ。一体何が・・・。
「ア・・・ル・・・。」
聞きなれぬ女の声に、はっと振り返った。初めて、こんなに恐怖を感じた。怖くて、動けない。視線の糸に絡め取られたようだ。
化け物が、いた。骨には肉が張り付いている。しかし、土自体この場には少ないので、色の悪い肉がまばらにくっついている。右目の空洞には小さな肉片があり、左目は空っぽだ。骨はつながっていて、立っている。いや、立っていると言っていいのだろうか。起き上がっている上半身を支える下半身は、足ではなかった。蛇のような骨格。
「セイレーン・・・。」
シルヴィアが呟いた。
化け物は、手を使って、ズルズルと這って来た。動けない!力が、入らない。化け物は目の前にいた。ほとんど骨の露出している腕を伸ばしてきた。シアーズは思わず、ローランド卿を抱きしめた。
「キャプテン!」
クルーが叫ぶが、しゃがみこんだまま動けない。その時、抱えていたローランド卿が目を覚ました。そして、その目が化け物を捕えた。だが、見えているのか?彼は、無表情のまま、自分の方に伸ばされる手を見たままだ。シアーズは、足に力を込めた。動ける!
ローランド卿を引きずるような形で逃げた。反動で、ドサリと倒れこむ。
「おい、ウィル!大丈夫か!?」
返事がない。ローランド卿を見た。ぼうっとした目でシアーズを見つめ返している。
「そいつは、人形だ。」
天井から声がした。
「何だと!」
シアーズはいらついた声で返した。
「人の心を失い、魔力すら手放した・・・。何も残っていない。ただの抜け殻さ。・・・いいざまだな、ウェンよ。これが貴様の守った者のなれの果てか。」
シアーズは息を飲んだ。何でこいつばっかり―!ローランド卿は相変わらず、シアーズを見ている。何も感じられない。こいつの目は、どんな時ももっと輝いていた。
「ウィル!」
力強い声で呼んだ。だが、返ってきたのは。




