おまけエピソード サリアとクロエの休日
「サリア、起きて。もうお昼」
私はクロエの声が聞こえて、眠い目をこすりながら何とか起き上がった。クロエは私の寝ているベットの端で腰掛けていた。
「クロエ〜〜」
私は寝ぼけた声でクロエの名前を呼ぶと、クロエに抱きついた。クロエは私に抱きしめられてむず痒そうにしながらも、大人しくされるがままになっていた。
私はクロエの胸の膨らみに顔を埋めると「すーっ」と言いながら彼女の匂いを吸った。
彼女からはフローラルな香りが漂っていて、抱き枕にしたら一生抱きしめられる質感があった。
……一生抱きしめたい。
しばらくして、クロエが「ご飯できたって呼んでた」と言うので私はしぶしぶクロエを離した。
ベットから出ると、クロエと一緒に下の階に向かった。
私たちは今、宿屋にとまっている。私はしばらく野宿だったせいでろくに眠れなかった体を休めるために、昨日から爆睡していたのだ。
私たちはご飯を食べ終えると、宿屋のおばちゃんに礼を言ってから、今日の目的であるクロエの杖探しに出かけた。
クロエは元魔王なので、杖などなくても全然大丈夫なのだが、バレないようにするためのカモフラージュとして買おうという話になったのだ。
私たちは町を散策しながら武器屋に向かった。
「サリアちゃん! また鬼ごっこで遊んで」
「おや? クロエさんじゃないか。この前は荷物運んでくれて助かったよ」
「サリア姉さん! 読み聞かせしてほしいな」
「クロエちゃんは本当に綺麗ねぇ〜」
「サリア! 今度お花の冠作ろう!」
「クロエちゃんは働き屋さんだね。うちの孫も見習ってほしいものだよ」
道中でたくさんの人に声をかけられた。
……私、なんだか子供に好かれるんだけど、この身長と胸のせいなのかな、な?
一方のクロエは、おばあちゃん世代からの人気がすさまじい。どうやら、お姉さんっぽくて落ち着いた雰囲気と困った人に手を差し伸べているのが評判らしい。
歳はそんなに離れてないと思うんだけどね。どうしてこんなにも容姿に差があるのだろうか。
私はそんな哲学的なことを考えながら歩いてると、気づけば武器屋の前まで来ていた。
「それじゃあ、入ろっか」
「うん」
私たちは武器屋の中に入った。
「いらっしゃい!」
元気の良いお兄さんが私たちに挨拶してくれた。
「うちは武器以外にもいろんなもの取り揃えているから是非見てってくれ」
そこには、剣や斧、ブーメランまでたくさんの種類の武器の他に、首輪や壺などよく分からないものまで、本当にいろんなものが取り揃えられていた。
「おぉー! いろいろあるね」
クロエは杖を見てくると言って杖のコーナーに行ったので、しばらくぶらぶらと見て回ることにした。
しばらく歩いていると、私はある一つのものに目が留まった。
そこには小型のツルハシがあった。
「このツルハシ、小型で持ち運び便利だし使いやすそう。採掘とかで使えるかも!」
私は解析や解体を専門にしているが、採掘も心得があり、過去に金を探そうとはまっていた時期があった。
私は他にもいろんな工具を集めていて、工具自体は魔法で収納できるため私の工具の数は実に数百を超えるだろう。……買ってから一度も使ってないやつもあるけど、
私はしばらく眺めていたが、今日の目的はクロエの杖探しであることを思い出し、しぶしぶ諦めることにした。
今は懐に少し余裕はあるが、さすがに杖とツルハシ両方を買うまでの余裕はない。
そんなこんなでクロエのいる杖コーナーまで行くと、熱心に眺めているクロエがいた。
「決まりそう?」
私が聞くと彼女は私の方をチラリと見た後、首を横に振りながら
「杖《《は》》いいのが、ない」
と言った。
「別にカモフラージュ用だから気にしなくてもいいけど」
私が言うと彼女は少し考えた後に言った。
「杖持つと邪魔になる。……それに、作ってくれた人にも申し訳ない」
この子ええ子すぎる、と私は思った。今の言葉を聞いたら作っている人は泣くだろう。武器のことを思ってここまで考えるなんて、
「まぁ、なくても大丈夫だしね。じゃあ、買うのやめる?」
クロエは頷いた。
「うん、そうする」
そして再び私の顔を見て、クロエは言った。
「サリア、何か欲しいのあるんじゃない?」
「えっ!?」
私はさっきまで見ていた小型のツルハシを思い出した。
「もしかして、見てた?」
「見てない。サリアの顔に書いてある」
「えっ! ほんと?」
私は自分の顔をペタペタと触りながらそんなにも表情に出ていたのかと自分でも驚いていた。
「だから」
クロエは言葉を続けた。
「杖の分のお金で、買っていいよ?」
この子は天使だ……私は泣きそうになった。
多分クロエは私が何か欲しいものがあるのに気づいて、杖をやめてそっちを買おうと言ってくれたのだ。
「う、うん! ありがとうクロエ!」
私は泣きながら言った。
◇
私たちが武器屋を出ると、空は夕焼けに染まっていて太陽はゆっくりと姿を消そうとしていた。
「クロエ、今日はありがとうね!」
私はクロエに感謝しながら帰っていた。
あの後、泣きながら武器屋のお兄さんに小型のツルハシを買いに行った時は、お兄さんは私を見てドン引きしていた。
「今度、何かお願いがあったら聞いてあげる!」
私がそう言うと、クロエは目を輝かせながら
「ほんと? 何でも?」
と食い気味に言った。
「まぁ、叶えられる範囲でなら……そういえば」
私はさっきの武器屋でのやりとりで気になったことを言った。
「『杖《《は》》いいのがない』って言ってたけど、杖以外にもしかして欲しいものがあった?」
私が聞くと、クロエはビクッとなった。これは当たりだなと思いながらさらに追求することにした。
「もし、あるなら私のへそくり使ってあげるからさ。何か言ってみて?」
すると、彼女は恥ずかしそうにしながら
「いらない」
と言うので、余計に気になってしまった。
「じゃあ、何かだけでも」
そう言って頼み込むと彼女は小声で
「首輪」
と言った。
「首輪? あの犬とかの首につけるあの首輪?」
私が聞くと彼女はこくりと頷いた。私は動物でも飼いたいのかな? などと考えながら宿屋に向かった。
おまけエピソードを読んでいただきありがとうございます。
始めは戦いばかりだったので、日常のほのぼのとした2人の様子を書いてみました。
また、章の間などにどんどん入れていくつもりなので、何か案があればどんどんください。全部は無理ですけど、採用できるものは採用していきたいと思います!
これからもサリアとクロエの旅を見守っていただけると嬉しいです。
次回新章「迷宮とドワーフ」です




